03 待機
結局別動隊が合流をしたのは半時間ほどたってのことだった。
しかもその数は想定よりもかなり少なかったらしい。
どうもCBC/RUS連合も別動隊を出してこちら側の合流を封じようとしているみたいね……
「お姉様、ジュピターX-05より通信です」
「ヨシコ、またせたな」
スクリーンに映ったアドルはかなり疲れているように見えた。まぁそれも致し方ないけど。
「待機もうすぐ終わりだ。あと15分まっても友軍が到着しなかった場合は宙域D-2ーL51へ向かう。そして向こうの艦隊と合流する」
「15分以内に友軍が来たらどうするの?」
「その場合は友軍が到着しだい宙域D-2ーL51へ移動だ」
「それで全部そろうの?」
「いや、揃わない。が、これ以上は待てないな。おそらく脱落したとみるべきだろう」
脱落ねぇ……。敵にやられたか、何からの理由で連絡が取れないか……
まぁ敵の支配星系での脱落は十中八九撃破されたってことだろうけどね……
「……見捨てるってことね、了解」
「おぃおぃ、……まぁ本当に死ぬわけじゃないしな、ゲームでよかったぜ……」
アドルは私から目を逸らし、呟やいた。
「それで?移動して合流した後はどうするの?攻勢?撤退?」
「……それはまだわからない、決まったら教える」
「そう……早く撤退したいわね」
「実の所戦況はかなり悪い……こちらが把握してるだけでも5隻のジュピター、8隻の弩級戦艦、170隻の戦艦がやられている……巡洋艦以下は何隻やられているかわからん……」
それはかなり衝撃的な数字だ、ギルドの損失はそれだけで兆を超えているはず。
アドルは最後にとんでもないことを伝えて通信を切った。
こんな時に一人でいると憂鬱になるところね。ヤスコを起動していてよかったわ。彼女を見ていれば少しばかり心を落ち着かせる事ができるから。
「お姉様、あまり顔色が宜しくないですね」
「んー、味方の損失を考えるとちょっとね……」
船が撃墜されてもプレイヤーが直ちに死ぬということはない。撃墜されると同時に自動的に脱出ポットに乗り込む形になり、脱出ポットが撃墜されるとプレイヤーは死ぬと表現される。
しかし『フリーダム・ファンタジー・オンライン』のプレイヤーは一般に言われる人間ではない。
ゲームの設定上ではクローン体と言われる強化ボディに人間の記憶を封じ込めたものがプレイヤーと言われている物だ。
クローン体のスペアさえあれば前のボディが破壊された瞬間に新しいボディに記憶が転送されるようになっている。
ゲーム内の救済措置としてスペアが無い状態でボディを破壊されてもステータスが半減するものの、簡易ボディで復活出来るようになっていた。
私も3体ほどスペアのクローンボディを用意していた。
「私はこんな大規模な戦争に参加するのは実は初めてなのよね」
「そうなんですか?」
「うん、そんな時はたまたまINしてなかったりしてね」
戦局は悪いというがギルドからの撤退指示はまだ出ていない。このまま再度星系に突入すれば私も撃破されるかもしれない、その可能性を考えて顔をしかめる。
今頃、他の場所にいるという味方の艦隊はどうなっているのかしら?
みんなうまく逃げているのかしら……それとも、もう撃破されてしまったのかな……
「無事に帰りましょう!大丈夫ですよ、お姉様なら絶対やられませんから」
いつも同じようにヤスコは微笑む。彼女に改めて感謝する。心がとても落ち着く。
「そうね、この船がやられたらヤスコのボディも破壊されちゃうものね。でももしそうなっても最優先で復旧してあげるわ」
「もぅ~。私のことはどうだっていいんですよ~」
「あらそう?」
ヤスコの微笑みにつられて、私も微笑みながら言った。