10 合流
「すごいわね……数の上で劣勢で士気も低いはずなのに互角に近い戦いが出来るなんて。指揮官は一体だれなのかしら?」
スクリーンに映し出される味方艦隊の敵艦隊に対する巧みな用兵に思わず声が漏れた。
「確かに素晴らしい用兵だと思いますが……」
ヤスコは浮かない顔でスクリーンを見ながら問題点を指摘し始める。
「この用兵は長続き出来るものではありません。陽動と牽制と火力の集中砲火の3つの要素により何とか態勢を維持してますが、それでも徐々に牽制や陽動できる範囲が狭まってきてます」
「そうなの?」
「物資や弾薬は無限では無いですから……元々少数な部隊による用兵は長期戦向きではありません。このままでは遠からず撤退か壊滅かのどちらかの運命になるでしょう」
「プレイヤー(中の人)の体力も無限ではないしね……あの艦隊がいつから参戦しているか知らないけれど、大分疲労していてもおかしくないわね」
「後方の敵艦隊の相手をせず、全速でこの宙域に来たかいがありましたね」
「アドルの指示は的確だったわね……でもどうなの?私達が合流すれば勝てる見込みがあるかしら?」
「できれば『はい』と言いたい所ですが……」
「こっちも後方から敵艦隊に追われるようにしてこっちに来てるから……敵も合流すると勝つのは難しいかしらね……」
「星系が敵の手にある以上、長期戦になればなるほど不利になります。戦って勝つ場合は短期決戦しかありませんが……」
これからどのような指示があるのかしら?と、思っている所にアドルから通信が入りヤスコが繋げる。
「これから俺たちの艦隊は前方で戦っているキリトの艦隊の指揮下にはいる、以後はキリトの指示に従う……」
「キリト?あの前方の艦隊はキリトが率いてるの?」
「あぁ……」
キリトか……。ギルドの上級幹部の一人だけど私とはあまり面識がないわ。
噂では大規模戦闘には必ずと言っていいほど参戦する戦闘狂らしいけど、目の前の戦いを見る限り噂は正しそうね。
しばらくするとスクリーンに黒髪の男の姿が映し出された。
「キリトです……ギルドから合流指示を受けていると思うけど、それは中止。この宙域にいる艦隊のみで宙域を離脱してギルドに戻るよ」
その言葉を受けてアドルが発言する。
「キリト、それは願っても無い事だがいいのか?ギルドの指示は飽くまで合流が優先だぞ?」
「いいよ、なにか言われたら俺の名前出して良いから。このまま合流を目指してたらまず間違いなく全滅するよ?」
「それで離脱って言っても目の前の敵艦隊はどうする?それにこれは俺達が連れてきたも同然だが後ろからも船速の速い敵艦隊も追って来ている……」
「弩級戦艦と戦艦を軸にした部隊で遅滞行動を実施するんだ。その間に後方にジュビターを逃がしてHDPを展開するよ」
「それは……」
「遅滞行動の指揮は俺が取るから、アドルは撤退部隊の指揮を執ってね」
これは……。いくらキリトの用兵が巧みでも、残った部隊で敵艦隊を撃破できるとも思えないわ……
自分の身を挺して少しでも多くの船をギルドに帰そうというのかしら?
それともなにか起死回生の策があるの?
「大丈夫だよ。俺も皆を逃がしたらすぐに撤退するから」
そう言って微笑んだキリトの顔は決して虚勢では無く自信に満ちているようだった。