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01 ギルドからの緊急ログイン要請

「ふぅ…今日は疲れたな…」


 私は帰りの電車の中で窓から流れる街並みを眺めながらつぶやいた。

 今日は朝から会議会議の連続で気が休まる時間が無かったのだ。

 そして先ほど着信したメールを思い出したかのようにバッグに入れておいたスマホを取り出すと眉を顰める。


「ん?着信メールが17件?って全部ギルドからか…」


 それは私がプレイしてるVRMMO「フリーダム・ファンタジー・オンライン」で所属しているギルドからの緊急ログイン要請メールだった。

 最初のメールは午前中に着信している、そして最後のメールは先ほどだ、こんな頻繁にギルドからログイン要請メールが来るなんて初めての事だった、私はギルドの幹部でもなんでもないのだ。


「一体なにがあったのかしら……また抗争?それにしてはなんかひっ迫してるわね…」


 今は気にしても仕方がない、そう思い私はスマホをバッグにしまうと電車の扉に寄りかかりながら目を閉じるのだった。



 自宅に帰り着いた私は食事をしながらタブレットでギルドのホームページを開きメンバー専用掲示板を流し見するが今回のログイン要請の理由は分からなかった。

 分かったのは私のような中堅構成員だけでなく最近加入したような者達まで要請が飛んでいることだ。


 最近ギルドに加入したような者は役に立たない初心者か、初心者でない場合は他のギルドから送り込まれたスパイの可能性もあるのでこのようなログイン要請からは除外するのがセオリーのはずだった。


 ……一体なにが起こっているのか?気にはなるがその前に入浴だ。

 食事を済ませた私はタブレットを置くと浴室へと向かった。


 部屋へもどった私は一息つくと早速「フリーダム・ファンタジー・オンライン」へログインする。

 一体なにが起こっているのか?体は疲れているが幸い明日は休日だし時間を気にする必要もないだろう。










§ § §











 気が付くと大きな食堂のような場所で窓の外を見つめてる私がいた。


 ……そうか、前回はギルドでログアウトしたんだっけ……


 窓の外には徐々に小さくなっていく宇宙船がみえる。それが見えなくなるまで見つめた後、はっとしたように辺りを見回すが私以外にはこの部屋にはいない。


 ギルドホールに行けば誰かしらいるだろう、そう思い私は部屋を出た所で見知った顔に出会った。


「あ、ヨシコもログインしたんだ。なんか大変なことになってるね~」


 出会った女性はそういって笑いかけてきたので私も同様に笑いかける。


「一体何が起こってるの?私達以外にもログイン要請が来てるみたいだけど」


「あれ?知らないんだ~。戦争だってさ、少しでも戦力が欲しいみたいよ、それでかなり下まで集めてるみたい」


「戦争……ってどこと?今そんなにひっ迫して揉めてるところなかったと思うけど」


「うんとねCBC/RUS連合だって、もう半日も戦ってるみたい」


「CBC/RUS連合?原因は何なの?」


「それがね~聞いたら驚くよ~。CーS6S星系がCBC/RUS連合にとられちゃったんだって」


「えっ!?なんで?あそこはうちの重要拠点でそう簡単に落とせるわけないでしょ?」


「それもね~聞いてびっくりなんだよね~、何だと思う?」


 そう言っていたずらっ子のように笑いかける。


「まさか幹部にスパイが紛れ込んでいたとか?」


 星系を一つ短時間で落とすには方法が極めて限られる、その一つがギルド幹部を抱き込んで裏切らせることだ。

 そしてそうならないように対策もあり知っている限りうちのギルドもそうしてきたはずだけど……


「はずれ!答えはなんと税金の払い忘れだって。それで一瞬だけ未占有星系になっちゃってそこをCBC/RUS連合にとられちゃったみたい、馬鹿だよね~」


「はー!?やだ……何それ……ホントなの?」


 『フリーダム・ファンタジー・オンライン』では国家の統治が及んでないエリアがある。

 そこは通称中立地帯と呼ばれている、手順を踏めばギルドの占有地と出来るがその手順の一つがシステムへの税金の支払いだ。

 ゲームの世界的には各国家からなる銀河連合への上納金により占有を認められるということになっている。


「なんでそんなことに……、CーS6S星系を任されてる責任者は何してたの?って言うか責任者の下に副責任者もいるはずよね?」


「それがね~どうも忙しくて一~二か月ぐらいログインできなくなってたみたい。もちろんギルドも知ってて2人いる副責任者に権限渡してたんだけど、どうも2人共片方がやってくれると思ってたみたいね」


 なんて馬鹿な……


「それで戦争ね……で、戦況はどうなの?」


「それは私にもわからないな~、でもあまりよくなさそうかな?」


「そう……じゃ私はそろそろ行くわね、船の様子みてくるわ、これ以上聞くと戦意がなくなりそう」


 そういうと私は最後に微笑み背を向けた。


「え~、もう行くの~?もうちょっとゆっくりしようよ~。私はヨシコみたいに自前の戦闘艦がないからギルドの指示があるまで待機なんだよね~」


「のんびりする暇があれば私もおしゃべりしていたいけど……戦況は不利なんでしょ?あの星系を本格的に喪失するのはギルドにとってかなり痛手になるわよ?」


「そうしたらどうしようかな~大手ギルドの一角だからここに入ったのになぁ~他のギルドに移籍しようかな~」


 どのギルドに行くの?なんて聞かなくても冗談でいったのは分かる。他のギルドに移籍しても新人は信用されないのは分かっているからだ。今の立場と同じになるには何年もかかるだろうし。


 じゃぁね~と手を振る彼女を後目に船のドックへ向かう。


 すれ違う人数がドックに近づくにつれて増えてくるが全員見知らぬ顔だ、私に話しかけてくる者もいないし私も話しかける事はなくそのままドックへ向かいゲートをくぐる。


 そこは宇宙船……戦闘艦が百数隻も鎮座している、みえない分も含めれば何百あるのだろう?

 ギルドの幹部でもない私にわかるわけもないが、そのうちの一隻が私専用の船なのだ。


 『フリーダム・ファンタジー・オンライン』では効率的な育成をすれば四カ月程度でバトルシップと言われる戦艦を操縦することが出来、それがゲームを始めたばかりの初心者の一つの目標になっている。


 だが、戦艦を操縦できるのと、戦艦を保有するというのとは意味合いが大きく違う。

 戦闘艦は保有するコストが大きく個人で持っているものはそう多くなかった。


 個人で輸送艦を複数もっている者は多いが戦闘力の高い戦闘艦を持っている者はそう多くないのだ。

 ここにある戦闘艦は大半はギルドのものだが私を含めて一部の者は自前の戦闘艦を持っている。


 といっても私の持っている戦闘艦はバトルシップではない。

 バトルクルーザーと言われる巡洋戦艦タイプだ。


 バトルクルーザーにもいろいろな種類があるが私のそれは速度は戦艦より早く、攻撃力は戦艦並み、その代わり防御力は戦艦より劣るタイプだ。


 一般的には戦艦の廉価版と言われるタイプでもあるが、私は船速の遅い戦艦よりもこちらの方が気に入っていた。


 どこに停めたかと考えながら私の船に向かう、いつ見ても何隻も戦艦がならぶ姿は圧巻でこのゲームをやっていてよかったと思う瞬間でもある。


 でも、撃墜されると痛い(主に出費が……)んだよね……、最悪大破でもギルドに持ち帰らないと……


 私の船が目に入ると早速乗り込んで船体状況を確認するが整備は特に問題ないようだ、乗員さえいればいつでも発進できるようになっている。


 指令席に座ると目を瞑る、この場所は大変落ち着く……、まるで自宅のベットに横になったような感覚を覚える。


 そこへ突然の声が響いて目を開ける。


「ヨシコいるのか?すぐ出撃は可能か?」


 ドックの管理者の声だ。


「えぇ、すぐ出撃可能よ。出撃していいの?」


「乗艦してるのはヨシコだけか?他に乗員はいるのか?」


「私一人よ……別にいいでしょ?これは私の船なんだし」


「一人じゃ100%のスペックを発揮できないんだけどな、まぁお前の船だ、お前がいいならそれでいい」


「一人でいいわ。それで出撃していいの?」


「ちょっと待て。……よし、いいぞ」


「じゃ出撃するわよ」


 船体のロックが解除されると共に機械が船を押し出すように移動し始める。

 ふと窓を見るとこれから船に乗り込む乗員だろうか?それとも整備員だろうか?人が複数見えた。


 ゲームとはいえ彼らは何を思って船にのり、そして戦場に向かうのだろう……


 ドックのハッチが開き、宇宙の輝きが目に見える、そしてギルドからある程度離れた位置で船を止めるとHDハイパードライブと呼ばれる超光速航法への準備を始める。


 HDハイパードライブが使える戦闘艦は通常は戦艦以上で、だからこそ初心者の最初の目標の一つが戦艦の操縦が出来る事になるのだが巡洋戦艦の種類の内、通称指揮官機と呼ばれるタイプは戦艦同様にHDハイパードライブが可能になっている。


 私はHDハイパードライブの移動先座標にCーS6S星系近辺を指定すると指令席に深く腰掛けたまま目を閉じた。

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