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勇者ですが逃亡生活を送ってます  作者: 猫ぱんてぃ
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勇者です

よろしくお願いします。


 どうも、勇者です。

 勇者として選ばれて、魔王ぶっ倒して世界救ったら、王国に命を狙われ始めました。

 訳が分かりません。

 只今、猛吹雪の中洞窟で夜を過ごしています。

 とても寒いです。

 現場からは以上です。



「貝になりたい」


 白い息混じりに、そう呟く。

 俺の名前はハルト。勇者である。

 孤児院で育った俺は、一人で生きていくために子供の頃から傭兵として生活費を稼いできた。

 多種多様な魔法こそ使えないが、自身の身体能力強化に関しては他の追随を許さなかった俺は、力技で苦難を乗り越えられた。

 

 王家に力を認めてもらい、公式な勇者として選ばれ聖剣も授かった。

 猛威を振るっていた魔王も討伐し、完璧に出世に成功したと喜んだ。


 そんな救世主として崇められてもいいはずの俺は、今では賞金首として多額の賞金をかけられている。

 

 おかげで今現在、逃亡の身だ。


「寒さでとうとう気をやられたか」


 そう言ったのは、俺の唯一の仲間。

 なんだかんで付き合いの長い、相棒みたいな存在。

 

 エレーネ。

 それが彼女の名だ。


 腰まで流れる金髪に、気の強そうな鋭い瞳。豊満な身体を黒いドレスで包んだその姿は、女神かと疑ってしまうほど妖艶で美しい。


 ただその美しさに騙されてはならない。彼女の正体は竜である。

 旅の途中、襲って来たので戦闘不能にさせたら、仲間になりたそうにこちらを見ていたのでパーティに入れてあげた。

 決して、人になった姿が美女だったからではない。


 彼女は竜人族と呼ばれる種族で、その中でも頂点に値する竜人だ。

 竜姫と、そう呼ばれていた気がする。

 その美しさと竜である時の威厳は、正しく竜姫と呼ぶに相応しい。

 彼女が竜であるとは誰も思わないだろう。綺麗な薔薇にはトゲがある、どころの話ではない。

 

「我をそのように見るな馬鹿者、貞操の危機を感じるぞ」


 こいつはこんな事を言ったりする。

 いつか本当に襲ってやろうか。

 襲ったところで、竜化されて踏み潰されそうだが。


「なあ、エレーネ。お前魔法使えるんだから、火ぐらい起こしてくれよ。寒くて凍死しそうなんだけど」

「人を便利な暖炉みたいに扱うな。お主こそ、勇者ならば火くらい起せるだろう」

「俺にそんな飛び道具みたいなものが使えたらとっくに使ってるよ」


 火を出そうにも、残念ながら俺は炎とか、水とかを出せるような魔法は使えないタイプの勇者だ。

 単純な身体能力強化だけで、今まで乗り切ってきた。

 王家より授かった聖剣と、身体能力強化を合わせたゴリ押しで魔王も倒した。

 戦略なんて必要無い。


「魔王を倒したら終わりって思ってたのに、まさか国に裏切られるとはな」


 王城に帰ってすぐ、王家直属の騎士たちに囲まれ、刃を向けられた。

 その目は、明らかに人を見る目ではなかった。

 幸い、その場から逃げる成功したが、それから暫くは人間不信に陥った。

 魔王を倒した俺からすれば、騎士と言えど何人でも相手する事が出来る。しかしあれほど明確な殺意を向けられたのは初めてだった。

 だから逃げてしまったのだ。


「お主が力を持っているが故に、それをコントロール出来ない事を恐れたのだろうな。ハルトほど敵対すれば厄介な相手など他にはおらぬ」

 「勝手な話だなあ。俺を倒すためだけに、異世界人の召喚を行ってるとも聞いたぞ」


 異世界。

 この世界に無いものがあり、あるものが無い世界。

 その世界からは、この世界へ度々召喚されており、その殆どが恐ろしく強いらしい。

 最初から、俺ではなくそいつらに勇者をやらせればよかっただろうに。


「それほど、お主の力が異常なのだ。我をあそこまで圧倒出来るのはハルトくらいのものだろう」


 買い被りすぎだ。

 俺はそこまで大したものではない。

 所詮、役者として選ばれただけの勇者。

 代わりなんていくらでもいる。

 異世界から片っ端に召喚すれば、勇者の大量生産だって出来るだろう。


「今日はもう遅いし、なんだか眠くなってきたから俺はもう寝るよ。おやすみエレーネ…」

「いや、だめだろう。どう考えても今寝たらだめなやつだろう。この寒さで寝たら確実に死ぬぞ?それを望むなら止めはせんが」

「エレーネ、俺はもう疲れたよ」

「遺言を残すな!あ、こら。何を勝手に我の膝を枕代わりに使っている、起きろ!」


 そうして、俺とエレーネの洞窟での一夜は過ぎていった。




 一夜明け、俺とエレーネは洞窟を後にする。

 もう吹雪は止んだようで、過ごしやすい天候となっている。

 目的地が定められていない旅ではあるが、一箇所に留まるわけにもいかない。食料も底を尽きそうなので、早いとこ人の住む地域へ行きたいたい。

 

 洞窟を出て直ぐ、エレーネが何かを見つけたように指差す。

 

「ハルト、あれを見よ」

「ん。あれは…オークか」


 オーク。

 頭部が豚になっている人型の魔物だ。

 オークの特徴として、繁殖するために人族の女性を攫うことがある。

 攫われた女性には、死ぬより残酷な結末が待っているので、戦える者は見かけたら駆除するように呼びかけられている。

 そして、オークの肉は美味である事が有名だ。食堂では、揚げ料理や焼き料理など様々な料理に用いられていて、需要があるのだ。

 オーク自体はとても嫌われているのだが。


「丁度いいな、こいつを昼食にしよう」

「そうだな。我も丁度、腹が減っていた」


 まさか自分が完全に食材として見られているなんて思わないのだろう。

 オークはのそのそと正面からこちらに向かってくる。

 何やら興奮しているようだが、やはりオークの目から見てもエレーネは魅力的に見えるのかもしれない。

 オークの美醜感覚など知る由も無いが。

 奴の手には大きな棍棒。

 あれで殴られたらさすがに少し痛みそうだ。


 納刀していた、聖剣を抜く。

 派手な金色の装飾がされているあたり、いかにも王家の剣って感じだ。

 それでも切れ味は確かである。


 オークが棍棒を振りかぶるのを見て、オークの腹をめがけ、すかさず横に一線。

 大量の血と共に臓物が溢れ出る。

 思わず膝を地に着かせたオークの喉元を斬りつける。


「それじゃあエレーネ。後は頼む」

「うむ。分かった」


 エレーネに火の魔法を使ってもらい、血抜きを済ませたオークの肉に火を通す。

 調味料などは持ち合わせていないので、若干味気ない気はするが、腹は満たされる。

 即席の昼食を済ませ、出発の支度をする。


「エレーネ、ここ辺りなら目立たないだろうしいいんじゃないか?竜化して乗せてくれよ」


 基本、竜は人里まで来ることは無いので仮に人が乗っていたとしても、大抵の人は竜を見れば驚き、恐怖し混乱を招くだろう。

 そのためにも、あまり人目につかない所でしか彼女の竜化は使えない。


「そうだな。人族の住む町か村の近くまで飛ぶとしよう」

 

 そう言うと、エレーネの周りを光が包んでいく。女性の姿だった彼女は消え、黒い鱗に覆われた大きな竜が現れる。

 その姿からは、圧倒的強者であるが故の威厳や余裕が感じられる。

 俺は彼女が竜化した姿でも神々しく、美しいと思う。

 

『ほれ、早く乗るのだ』

「ありがとうなエレーネ」


 気にするな、と言っている彼女の背に飛び乗る。

 もう慣れてしまったせいか、彼女の背はそこらの馬より乗りやすい。

 こんな事言ったら、絶対に振り落とされるので言わないけれど。


『一応風の結界を張っておくが、落とされんようにな』

「ああ。気にせずがんがん飛ばしてくれ」


 そう言って。

 それから暫く、俺は空の旅を満喫する事となった。

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