2 密室1 目隠索
10月の始め、肌寒い夜だった。
事件の第一報は22時05分。千葉県T市の警察署に、殺人を告白する内容の電話が掛かってきた。ボイスチェンジャーを使用したような、人工的な声だった。
警察は付近を巡回中の警察官、目隠 索に無線で連絡。連絡を受けた目隠は、22時15分に不動研究所に到着した。
――それは巨大な立方体だった。一辺50m程のコンクリートの建造物。壁面には窓が無く、夜の闇に沈み、黒い箱のように見えた。箱の下部。ポツンと光が漏れている個所があった。
誘われるように、目隠は光へと向かった。そこはガラス張りのエントランスだった。
近づくと自動ドアが開いた。施錠はされていない。
ホールは小広い吹き抜けで、左右に扉、正面には扉が開いたエレベーターが見えた。
「警察です!」
声は何回か反響を繰り返し、ホールに再び静寂が戻った。
目隠は署へ報告を入れ、まずホール左右の扉を確かめた。左右の扉にはそれぞれ会議室A、会議室Bと彫られたプレートがあり、どちらの扉も施錠されていた。
続いて目隠はエレベーターに入った。操作パネルはカードキーが必要なタイプで、1階~15階までのボタンが並んでいる。試しにボタンを押してみたが反応はなかった。
悪戯の通報だったのかもしれない。
署に戻ろうとした瞬間、急に扉が閉まり、エレベーターは上昇を開始した。
無線で応援を呼んだが、電波は届かず、ノイズのみ返ってきた。
数十秒程の上昇の後、エレベータは15階で停止した。
チンと音を立て、扉が開く。
背筋が凍り付いた。
エレベーターから一直線に伸びる白い廊下、その突き当りの扉が開いており、部屋の中が真っ赤に染まっていた。
血……、だろうか……。
目隠は一歩づつ、その部屋へと向かった。
左右には、等間隔に続く金属の扉。天井から、かすかに響く空調の音。
廊下を進むにつれ、はっきりと、血の匂いを感じるようになった。
扉まで数メートル。
既に部屋の内部は半分ほど見えている。
奥行は約4m。正面の壁には机、電源が入ったままのPC。机を中心に、正面の壁から天井まで血がべったりと張り付いていた。
左右にはスチールラックが並び、棚には雑然とファイルや本が積まれていた。
そして、正面の机の横、ラックの影に、うつ伏せに倒れている人。――恐らく男性であろうと思われる足が覗いていた。
事件だ。
目隠は確信した。
ラックに潜み、刃物を構える犯人を想像し、目隠は右手に警棒を構える。
唾を飲もうとしたが、口の中はカラカラに乾いていた。
慎重に、部屋へと踏み込んてゆく。
「っ!」目隠は声にならない悲鳴を上げた。
うつ伏せに倒れている男性。
血まみれの白衣を着た男性。
その首が無かったのだ。
いや、正確には違う。
首元に立つ、一辺50cm程の立方体。
立方体からは金属の手足が生えており――、
金属の手は、老人の首を抱えていた。
時刻は22時30分。