序章(ってことになりますかね、はい。)
人は想像する生き物である。
元来、人は想像せずにはいられない生物なのであろう。人は空想し、妄想し、自分の世界観を広げてきた。
今、あなたの読んでいる小説だって、見ているアニメだって、
いや、この世の理でさえも、「人」という奇妙な生物が「想像」し、「創造」したもので、この世界は、それはそれは面白い具合に動いている。
「・・・。」
想像した世界が創造できる世界。
「・・・・・。」
それは、自分の思うがままに、私利私欲にまみれた世界となり得るのであろうか。どうなんだろうか。
「・・・・・・・。」
・・・・・。
「だぁーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
「うぉおっ?!っだよ?るっせぇなぁ!!」
「まただよ!!!なんでこうも合成実験が立て続けに失敗するんだ!!!」
「さぁ?知らね。試薬の量でも間違えたんじゃねぇの?」
「10回も連続で同じ実験操作をこっちはやってんだぞ?!!今更そんな単純ミスするわけねぇだろぉが!!!!」
「でも現に失敗してんじゃん。」
「うっ。。」
「どこかでその『単純なミス』とやらをやらかしているから、今こうやって深夜研究室に立て籠って夜通し得体のしれない液体を何度も何度も作っているんだろ?」
「何度もじゃねぇ。10回だ。」
「今そんな屁理屈聞いてんじゃねぇよ。」
「うっ。。」
連日連夜泊まり込みで研究室にコバンザメの如く張り付いてひたすらによくわからない粘性溶液の入ったフラスコをぐるぐる振ってる、冴えない男子大学生二人組の姿がそこにはあった。
「ったく、俺だって早いとこ実家に戻りたいってのに、こうやって違う実験グループの御学友様の、それはそれはくだらない合成実験の『お手伝いさん』をやってあげてるんだ。今晩のメシも奢ってもらわないと割に合わないぜ。本当によぉ?」
「今晩のメシって、お前、夜中の3時にそれを要求してくるかね?ねえ?」
そうだ。ここはこの大学においても屈指のブラック研究室として他学科にさえその名を轟かせる、そんな冴えない研究室に配属されて3ヶ月、フラスコを片手に談笑(?)する男子大学生、「小林 カズキ」は、もはや眠気がピークを越えて話す言葉一つ一つがしどろもどろになりつつあった。
「はぁ、本当に。。。原 教授からの直々に与えられた卒業課題とはいえ、研究難易度を考えても他の研究室に比べてトップだよ。俺の研究室でさえこれほど地味ぃで、ツラぁ~イ課題は見た事ぁねぇ。」
「それはどうも。」
「ほう。今のが誉め言葉と受け取れるほど、貴様の思考能力は底の底まで低下しているのか。重症だなこりゃ。」
そりゃぁ、俺だって好きでこの研究室に配属されたわけではない。『教授が俺の親戚』であるという、クッソ奇妙な条件さえ付かなければ、隣さんの希望の分析化学系の研究室に入れたんだ。就活だってまともに出来ていない。
「はぁ、液体が固体になってくれさえすればいいんだ。そうすればーーー」
次の瞬間、片手に持っていたフラスコ内のドロドロの液体が音を立ててーーー
「うぉっ!!?」
瞬時に固まった。
「お・・・おぉ・・・。」
それはもう、一瞬の出来事だった。今まで溜めた眠気が爆散的に吹っ飛ぶレベルの出来事であった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
それはもうそのはず、彼の望み通りの結末が、その小さな100 mLフラスコの中で起きたのだ。喜ぶのも無理はなかろう。
「うそだろ・・。」
「だから言ったじゃねぇか!!試薬の量なんざ、この後に及んで間違えるはずなんてあるわけなかったんだよ!!!!やっぱ俺、やればできる子じゃん♪」
「ったく、お前はそうやって直ぐに調子に乗りやがる。悪い癖だぞ。ソレ。」
実験成功とも呼べるその現象が生じたのは、時計の長針と短針が真逆を迎えた朝であった。
「いやぁ~、よかったよかった!!これでレポートの作成にも勤しめるってところだよ!!」
「あぁ~、腹減った。。てか眠い。」
「ホンマありがとうな!!晩飯(?)は駅前のファミレスで奢ってやるよ♪」
「『やるよ♪』じゃねぇよ、ったく・・・。まぁでも、これでやっとお前も地獄から解放されたからなぁ、チーズハンバーグ定食ドリンクバーセットで許してやるとするか。」
「お前、ホント遠慮ってものを知らなぇのな。」
「ほう・・・。こんな時間に他の研究室の御学友様を実験の『お手伝いさん』として呼んだ張本人がそれを言うのか。てか言えんのか・・。」
「すんません。ドリンクバーセット是非とも奢らせてください(棒)。」
ーーーーーーーーーーー
こうして、今日の研究課題を終わらせた二人は研究室を早いとこ出て、駅前のファミレスについたのはその二時間後の出来事である。
「お前、奢るとは言ったけど、ライス大盛り、ハンバーグのチーズ増し、なんてオプションをつけてOKなんて一言も言った覚えがないんだが・・・。」
「それよりもさ。」
「『それよりも』って、ったく・・・。」
彼の卒業研究の単位の救済を担った御学友は箸をやすめ、---
「どうしていきなり固まったかね?あのよくわからん液体が。」
「そんなのしらなぇよ。」
「知らないって、そんなんでレポート書けんのかよ・・・、って、聞きたかったのはそんなことじゃなくてだな・・」
「なんだよ?」
「お前、さっきの実験操作、始めから説明してみろよ?」
「あん?試薬を量って、フラスコに突っ込んで、液体を沸騰させて、それからーーー」
「それから?」
「それから・・・・。固まった?」
そう、固まった。なんの前触れもなくいきなり『カチンッ』と音を立てて。
「合成しようとしてたモノって、熱を加えると凝固する化合物だったっけ?」
「まぁ、いいじゃねぇか。考察なんて後からいくらでも屁理屈こねてそれっぽく書けばいいんだよ。」
「『屁理屈』ねぇ・・・。」
「いいんだって、欲しかったモノが出来たんだから。あとは簡単に分析してあげりゃ、それっぽい報告書の完成!ってなwww。」
「・・・。」
「大体、こんなつまらない研究、出来る!作れる!って思ってやんねぇと、こっちだって正気保ってらんねぇよ。」
「まぁ、望んで入った研究室じゃなければなおさらそうだろうよ。」
そう。
出来る!って『思って』やらないと、こっちは眠気がピークに達してんだ。そう自分の中で言い聞かせなければ心が折れてしまうに違いない。
「さてーーーー」
と、晩飯(?)を食い終えた立石 ユウスケは挨拶もなしに席を立ち、足早に去っていった。
「俺も早いとこ家に帰って寝るとするか・・・。」
そうして事件は、と、いうより、事故と呼ぶべきか、適切な言葉が見つからなかったが、奇妙な現象が起きたのはレジでの会計の時であった。
「お会計、¥1,560になります。」
「へ?」
間抜けな声が出た。もう一度表示された金額にその眼をやる。
「せんごひゃくろくじゅうえん?」
なるほど、手持ちの金額より¥300ほど満たない金銭が入った財布を取り出そうとして、彼はーーーーー
(あのバカヤロオォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!なんでライス大盛りにしたんだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!)
「お客様?」
「あ、はい。今払いますね。」
冷静を装ってはいるが、頭の中は真っ白であった。
「えっとぉ・・・。」
「どうかされましたか?」
冷や汗が止まらない。先ほど美味しそうにバーグを貪り食ってた野郎の姿が思い浮かぶ。なんだろう、俗にいう走馬燈というやつであろうか。
「今払いますんで・・・。」
財布を開いてーーーー
(なんでこんな時に限って・・・。俺はたかだか300円が足りないがために社会的に殺されるのか・・・。)
そこに表示された金額とーーーー
(あぁ、300円・・・)
同額の金額を取り出した。
「へ?」
間抜けな声が出た。あ、本日二度目か。
「はい!確かに¥1,560丁度お預かりします。レシートはご利用になられますか?」
「え?あぁ、はい。」
「ありがとうございました!」
ポカン、と口を開いたまま、出口を出たすぐそこで立ち尽くしてしまった。
(よ・・・)
安堵がこみあげてくる。
(よかったぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ(泣))
いや、本当に良かった。¥1,560財布に入ってた。助かった。社会的に殺されなくてよかった。研究室から出ることはおろか、牢屋から出られない可能性すらあったであろう。いや、そこまでは大げさか。
「あいつ、今度会ったら300円請求してやる。絶対に。」
恨みのこもった一言であった。たかだか300円で、である。誰が見ても情けない姿であった。てか心小さいな、俺。
「ああいう遠慮の知らない人間は一度痛い目見ないとわからないんだろうな。腹壊して病院にでも運ばれればいいのに。」
こいつ人間か?情のカケラもない。てか、みっともない。だから貴様はいつまでたっても彼女の一人や二人出来やしないんだ、とあの時の自分に言い聞かせてやりたい。
「さて、家帰って寝るか。つか、電車の中で寝落ちしそうだな、こりゃ・・・。」
そう独り言を呟き店を後にした。
・・・・・・・。
立石の緊急搬送の連絡が入ったのは、この30分後の出来事である。
初めて執筆しました。つたない文章ではありますが、温かい目で見守りk・・・読んでいただけると幸いです。