嘘
無事宿を確保した俺は早速火床制作に取り掛かった、
この洋館にはサンタが入って来れそうな程立派な暖炉がある。
サンタ……お前こんな所へ冬の使用頻度の高い時期に入って来るのか……無茶しやがって……
そんな暖炉を錬金術先生の力によって火床へと変えていく。
だが鍛冶を行うには火が弱い。そんな時のこの方である。
「て事で頼むフィア」
『任せなさい!』
頼られてノリノリのフィアが火力を上げる。
半分に割った魔結晶を錬金術先生の力で型を取る。
型を取るのに使うのは泥岩……つまり粘土。
ピッタリの型と少し大き目な型を作り、間に溶かしたレアメタルを流し込む。
これで魔結晶を覆うレアメタルが出来る。うるさい音しなかったね。
そんな作業を目覚めたばかりの白髪の少女が、ソファーに座りながらぼやーっと見ていた。
その赤い瞳には揺らめく炎だけが映っていた。
穂乃香? 穂乃香もずっとこの作業見てるよ?
作ってるのが自分の武器だとは思いもせず。
「…………パパとママは……どこ……?」
「……お前のパパとママはもう居ねぇよ。半年前に死んでるんだ」
隠しても仕方ないので正直に話す事にした。
元々子供の相手が得意な訳では無い。それは穂乃香にも言える。
今此処に居るのがよりにもよって他人に興味無い組の二人だ。仕方ない。
「もう居ない……?」
「ああ」
「もう会えない……?」
「ああ」
「……そっか……」
リノは再び揺らめく炎を見つめた。
「みんな……ずっと一緒って言ったのに……パパの嘘つき……」
その約束は、ゴーストになってからの物。
優しく、残酷な嘘だった。
レアメタルは現在冷まし中。冷めたらバリをノミで取り除いていく。
誰だうるさくならないって言った奴、うるさくなるじゃねぇか。
うるさくなる前に、この少女と少し話さねばならない。
俺はソファーの前に移動し、リノの隣に座った。
「ねぇ……ずっと一緒に居てくれる?」
「……ずっとは無理だな。寿命から考えて最後まで生き残るのはお前だろう。俺らが死んだ後お前はまた一人になる」
「…………そっか」
「だから、お前が一人になるその時までは一緒に居てやるよ」
「――! ……うん」
それが独り立ちと言う意味か、生涯でなのかはこいつ次第だが、必ずまた一人にはなるだろう。
俺はリノの頭を撫でた。
するとリノはモゾモゾと動き出し、俺の膝の上に座った。
なぜに膝の上。
「……えっと……」
「ああ、俺か。月島氷河だ、好きなように呼べ」
「パパ」
「却下だ」
なぜそうなる!? お前のパパとどう似てるってんだ!? あぁん!?
いや、育て親になるって意味では間違ってないけども。
好きに呼べとも言ったけども。
この歳で父親ってのはちょっと……しかも5才の。
(氷君がパパ……って事は私がママ!?)
ほら穂乃香が愉快な事になって来てるじゃねぇか。
どうすんだこれ。
「ね、ねぇ! 私は? 私は?」
(ママって呼んでママって呼んで)
「……?」
「そいつは穂乃香だ」
「ほのか」
「ママじゃない!?」
いや、お前がママって無理あるだろ。10歳しか違わないぞ。
床に手を付いて項垂れる穂乃香。そんなにママって呼ばれたかったのか。




