契約
「ゴースト?」
「ああ、こいつらは殺人事件で殺された一家だ」
俺は穂乃香に実物を見て貰った上で説明中。
襲い掛かってきたゴースト達には現在正座をさせている。
次変な事をすれば消すと伝えてある。
「それで……あの女の子は……?」
穂乃香が指さす方向には――
『……パパ、ママ、何してるの?』
『リノ、隠レテナサイ』
リノと呼ばれた5才程の少女の姿があった。
「何かあの子だけ他のゴーストと違うように見えるけど……」
「ああ、その通りだ。あの少女がこいつらを此処に留める元凶であり、こいつらが襲い掛かって来た理由だ」
「……どうゆう事?」
「他は全員死者、つまり亡霊だ。でもその子は違う。その子は霊は霊でも生霊。そしてその肉体が入ってるのが……この扉って訳だ」
ゴースト達が目を見開く。
そりゃそうだよな。あいつらしか知り得ない情報を俺が知ってるんだから。
『キサマ……何故ソレヲ知ッテイル!?』
「俺の鑑定に分からぬ過去は無い。お前らがせめて娘だけでもと隠したこと、娘が自力で外に出る事が叶わず生霊となった事、そして亡霊となったお前らと再び家族として此処で暮らしている事、全て知っている」
『知ッテイルノナラ……私達ヲ放ッテオイテヨ!』
「でもお前らも気付いてるだろ? その生活は長くは続かない。お前らは亡霊だが娘は生霊だ。生霊とは肉体が生きていてこその生霊だ……お前らの娘――もうじき死ぬぞ」
亡霊たちは食事が無くとも生きていける。だが娘の肉体はそうはいかない。
定期的に食べ物を娘の肉体に流し込んでいたようだが、そう長くは持たない。
「生かすために隠したのに、お前らとの生活をするために死ぬのを待ったら本末転倒じゃないか?」
『グ……ソウダ……リノニハ生キテ貰ワネバナラナイ…………頼ム……リノノ面倒ヲ見テ貰エナイダロウカ……私達ニハ……出来ナインダ……』
「……俺はお前らの過去を知ってるしな……良いだろう――と俺の仲間なら口にしただろうな……でも俺は他人に対し温情で動くつもりは無い。お前ら程度の不幸、世界中のどこにでも居る」
『――! キサマ!』
「話は最後まで聞け。温情で動くつもりは無いからこそ、交渉には乗ってやる」
『交渉……ダト……?』
さて、ようやく本題に入れる。
「この館を俺に寄越せ。そうすれば家賃としてお前らの娘の食費、生活費、独り立ちするまでの面倒は保証してやろう」
『…………ソノ言葉……嘘偽リ無イカ?』
「無いな。結んだ契約は例え相手が気にしてなかろうがきちんと守る。それが俺の在り方だ」
『……分カッタ……元々私達ニハモウ選択肢ガ無イ……リノヲ……頼ム』
「契約成立だ……任された」
こうして少女リノの生霊は元の肉体へと戻し、目を覚まさせた。
ゴースト達は役目は終わったとばかりに成仏して行った。
元々未練が娘に対してしか残って無かったのだろう。
俺は目覚めたばかりでやせ細ったリノに食事をさせた後、もし何かあった際にすぐ手元に呼び寄せられるように奴隷の契約を結んだ。独り立ちする頃に解除すればいいだろう。
リノに契約を結ばせる際、
(子供相手にも容赦ない氷君……素敵)
と謎な事を穂乃香に思われた。
色々と解せぬ。




