寂寥感
「ねぇ、お兄ちゃん……お風呂での話、足りてない部分あるよね……? お兄ちゃんは淡々と話してたけど、実際はもっと大変だったんでしょ……?」
10日分の話を全て事細かに話した訳では無い。
レベルングに出た。レベルが20に上がって、千里眼を取得して日坂を見つけた。それと同時にレッサーデーモンが現れて、倒したはいいが爆発されて全身に怪我を負った。
大体こんな感じに説明している。
盗賊を殺した、HPがギリギリで死にかけたなどは言ってない。
ラミウムもそれは知らせるべきではないと何も言わないでくれた。
それに俺がどうすればいいか悩んでいた事も伝えていない。
水奈と穂乃香、フィサリスが聞いたのは、悪い点だけ切り取られた英雄章みたいな物だっただろう。
現にフィサリスには「10日でレベル28!? 無茶苦茶だね~」と言われ、フィサリスの中での王子様化がより拍車掛かってしまった。
どうすればいいんだコレ。どうしたらいいんだコレ。
「お兄ちゃんが私たちを奴隷にしたのも、きっと私のせいでしょ……? 私お兄ちゃんに負担掛けてばっかりだね……」
「負担だとは思ってねぇよ。兄として妹の面倒を見るのは当然だろ? 俺が何回お前に弁当を持って行ったと思ってる」
「あ~あれね。穂乃香と合わせる目的もあったけど、何回かは素で忘れてたんだよね」
うん、知ってる。
水奈のお間抜けさん。
「やっぱりクラスメイトが心配か?」
「それは…………うん、そうだね。クーデターが起こるって事も心配だし、回復役の私が居なくなった事も、私を頼りにしてくれてた子たちも心配」
「回復は近衛騎士団から回復術を扱える奴が、同行する事になったから大丈夫だ。お前を頼りにしてた女子たちも、それぞれこの世界での過ごし方を確立して安定して来ている。ぶっちゃけるともう、安定してなかったのはお前だけだ」
「そうなの? …………そっか。じゃあ、少しは安心かな」
水奈と、少しだが神奈もクラスメイトの心配をしている。
穂乃香? あいつはマジで興味ないから。
ただ、水奈はクラスメイトの心配をすると、俺の負担になるというジレンマにあっている。
律儀な奴。気にしなくていいのに。
手を繋いでいた水奈が眠った。
俺もそろそろ寝………………
「夜這いに来たのか穂乃香」
「……うん……えへへ……」
えへへじゃねぇよお前。
………………
「なぁ穂乃香。俺がもし、ラミウムもフィサリスも好きになったとしたらどうする?」
「なぁに氷君。私と水奈じゃ満足できないの?」
まさか。お前だけでも十分なのにそこに水奈が加わったんだ。満足過ぎる。
これで満足出来ないのは相当な欲張りだろう。
ラミウムは好きになってるのか……欲張りだなぁ俺。
「私は氷君がそれを望むならそれでも構わないけど、タダじゃ駄目かな。私を5倍は甘やかすとかなら良いよ」
「5倍もとなると、俺の全てをお前に捧げても足んねぇよ……」
「ふふふ。私だってそうやすやすと氷君を譲るつもりないもん」
(氷君が好かれちゃうのは仕方ないけど、むしろ好きにならない方がおかしいけど、だからって王女にもフィサリスにも日坂にも譲るつもりは無いもん!)
ナチュラルに日坂を挟むのは止めなさい。
譲るつもりは無い……か。お前がそう望むなら俺は…………
「それよりも氷君……私もう限界だよ……」
あー……風呂では相当我慢させたもんなぁ。
如月 穂乃香
発情度 100
既に出来上がっている。
「穂乃香。俺としては据え膳食わぬは男の恥と言うぐらいだから、お前を抱きたいとは思う。でも横で水奈が――お前それが目的か」
(水奈が寝てる横でするのも興奮するけど、水奈が起きて一緒に混ざったりしたら私的にベストかなって!)
お前初めては二人っきりでとか無いの? あ、無いの。
むしろ水奈と一緒に初めてを迎えたいのか、お前どんだけだよ。
そしてそんなお前に惚れた俺も俺だな。惚れた弱みだ。
「分かった……来い、穂乃香」
「……! うん!」
その後の結果?
まあ、アレだ。穂乃香の夢が叶った。
穂乃香の居なくなった部屋にはフィサリスが一人残っている。
穂乃香の居なくなった理由を理解し、寂寥感に包まれているフィサリスを、
俺は見ている事しか出来なかった。




