第一奴隷とパートナー
「フィサリス、ちょっといいか?」
「ん~? どうしたの~? ご主人様~」
「『サークル』『テレポート』」
フィサリスを連れて、外に出る。
外はもう日が沈み暗くなっていた。
ラミウムとは互いに意思疎通できるから、部屋で二人になる事も可能だが、
フィサリスとはそうもいかない。話す内容が内容だから二人っきりの方が良いだろう。
「なぁに? こんな所に連れ出して。お姉さんと二人っきりになりたかったの~?」
さて、なんと切り出すか。……直球に行くか。
「説明した通り、俺はお前の全てを知ってる。だから俺の自惚れでも無く、お前が俺に好意を抱いてる事を知っている」
「…………」
「その上でお前に伝えておく。俺は穂乃香と水奈が好きだ。だから――」
「――知ってるよ。ご主人様は私の事好きじゃないんしょ?
そんな事知ってる――でも、そんなの知らない。
私はご主人様を好きになの、好きになっちゃったの。
例えご主人様が私の事好きじゃなくても、私はご主人様の事好きなんだもん。
私がご主人様を好きな事に、ご主人様が私を好きかどうかは関係ない。
どれだけ時間が掛かろうが絶対に振り向かせて見せる!
今更契約破棄なんて受け付けない! 私がご主人様の第一奴隷なんだから!」
第一奴隷って……穂乃香が第二で水奈が第三なの? 奴隷になった順か。
「いつか絶対ご主人様に私の事好きって言わせてみせるんだから! 覚悟して置いてよね! …………じゃあ先に戻ってるね……『テレポート』」
……今は、そっとして置くか……
『よいしょ。えーい! 女の敵』
フィアに頬をパンチされた。感覚的には指で突かれた感じ。
そんな気がし過ぎてなんも言えない。
『氷河? 好意に対して好意で返せばいいって訳じゃ無いんだよ?』
「分かってるよ」
『ホントに? 氷河はスキルで全部見えるせいで、頭でばっかり考えてない? 感情って心で感じる物なんだよ? スキルに振り回されてない?』
……スキルで振り回されてるかどうかで言えば、振り回されてるだろうな……
感情で動いてない訳じゃ無い……が、考えて動いて事が多いのも確かだ。
心で感じる……か……
『氷河はもう少し心で動いた方が良いよ。見え過ぎるからこそ選択肢が狭まってる。見えてなかった時にしてた事が出来なくなってる。傷付いて欲しくない気持ちは分かるけど、気付かない内に傷つけてしまうのが人同士の関係だよ。氷河はその気付かないが出来なくなってるから、人間関係がより難しくなってる』
「……精霊に人としてを教わる俺って……」
『もう、茶化さないの!』
「でもそれって難しくないか? 傷付くって分かってて傷付く事するのか? 苦しんでると分かって放置するのか?」
『でも、それが本来なんだよ。氷河は優しすぎるから放って置けないし、同情しちゃうし、甘くしちゃう。でもその優しさって時には残酷な毒にもなるんだから』
毒か……俺に好意を持つ者は……元々好きだった穂乃香以外毒されてるな。
そして俺も穂乃香以外は恐らく、純粋な好意で見れてないのだろう。
じゃあ俺が穂乃香以外に向けてる好意は偽物か? 穂乃香以外が俺に向けてる好意は偽物か?
否、好意自体は本物だ。
例え不純物が混じっていようと、好意が好意である事に変わりはない。
なるほど、残酷な訳だ。
俺が悪いのか、スキルが悪いのか。
恐らく両方だ。俺の性格とスキルの相性が最悪だったんだろう。
「……なぁフィア、俺どうしたら良いと思う?」
『それは……分からないけど、でもスキルで見えている物が全てじゃ無い事を忘れないで。見えてない物の中にも大事な物があるから、たまには目を閉じて世界を見る事も必要なんじゃないかな?』
「目を閉じてるのに世界を見る。摩訶不思議」
『もう、茶化さないの!』
知ってしまった事を知らないフリするのが苦手だが、知らないフリする必要がある時もあるって事か……難しいな。
「結局答えは出まず仕舞いだが……気付けていなかった事に気付けた。フィア、ありがとな」
『べ、別に、これぐらいパートナーとして当然の事よ!』
「フィアのツンデレは良いな、和む」
『和むって何よ! 私これでも大精霊なのよ!』
俺は、叱って支えてくれるパートナーと共に洞窟へ戻った。




