天使
夕食を終えて水奈の部屋へと向かう。
夕食は穂乃香が『もう少し』と言って放さなかったため、少し遅くなった。
どうやら大変抱き心地を気に入ったらしい。
俺は抱き枕か。
さて、穂乃香の前では情けない姿を晒したが、
水奈の前では頼れる兄でなくてはならない。
無様な姿は晒さぬよう、気を引き締めて行こう。
「水奈、来たぞ」
「はい、どうぞ」
月島 水奈
寂寥感 0
相変わらずの扉前待機。
そして満面の笑み。天使が居る。
俺が来たことで寂しくなくなったのね。
ダンジョンに入ってる間はまだあるが、
それ以外での恐怖は無くなってきてるみたいだな。
ストレスが溜まらないのなら良い事だ。
恐怖が無いなら来なくていいんじゃないかって?
バカヤロウ水奈が寂しがるだろっ。
水奈の手を握って寝かせるのが俺の役目だ。
これからも毎日来る。
部屋へと入り、二人並んでベットに座る。
「水奈、今日はどうだった?」
「今日はね、レベルがついに10になったんだよ! ってお兄ちゃんには見えるんだっけ」
おう!? おぉ……そう言えば普通の鑑定もステータスだけなら見えるんだったな。
ビックリした。今日有った事全部知ってるのバレてんのかと思った。
「ついに二桁だよ! 扱いとしては半人前らしいけど」
レベル10か、俺到達したの2日目だったな。
「お兄ちゃんは変わらずレベル1のままなの?」
「……まあな」
うん。実は27。
「そっか……じゃあ何か会った時は、私がお兄ちゃんを守ってあげるね!」
水奈……お前なんて良い子なんだ。天使かよ。
しかし、水奈の中でも俺の扱いがヒロインポジションになってるのは何故なんだ。
俺ってそんなにひ弱に見える? 放っておけない?
でもそうか。
階段から落ちてボロボロだったり、男子に殴られたりしてるもんな。
心配になるか。なんかごめんな。
「お兄ちゃんは今日どうだったの? 王女様のお手伝いしてたんでしょ?」
「ああ、まあな」
確か、情報収集の手伝いをしている設定だったか?
「王女のスキル『心眼』で相手の心を見て情報を集める。俺はそれに付いて行って『鑑定』で情報を少し増やすだけだ。色んな人を見ないと行けなくて面倒だ」
「お兄ちゃんは他人にホント興味持たないもんね~。私のクラスメイト、穂乃香と美鈴以外名前覚えて無いんじゃない?」
そんな事ないよ。
キタコレ。魔剣術の子。野球部、サッカー部……うん。覚える気無かったね。
「確かにそうだな」
「もう……。お兄ちゃんと穂乃香はそういう所そっくりだよね」
「俺と穂乃香が?」
「うん。二人とも他人に興味無いでしょ? でも身内には甘いし、何かあると凄く怒るんだよ。自分の事全然気にしないくせに」
確かに……そう言われるとそうかもしれない。
穂乃香と一緒……いや、俺はあいつ程ぶっ飛んでは無いと思うが。
あいつの他人への関心の無さは筋金入りだ。
なんせ未だに自分のクラスメイトの名前覚えてないからな。
酷いと顔すら覚えてないからな。
「そんなお兄ちゃんがたくさんの人を見るなんて、相当疲れたんじゃない?」
「まあ、確かに疲れたな」
「お兄ちゃん。お疲れ様」
っ……! ……偶然だ。ああ偶然だ。
話の流れでそうなって、互いに座ってたから水奈の手が俺の頭に届く事ができただけだ。
くっそ……お疲れ様と言われて、頭を撫でられて、
泣きそうになるんじゃねぇ俺!
「お前、天使かよ」
「天使!? ……もう、お兄ちゃんのシスコン……」
(天使……天使……もうばか)
照れている水奈もまた可愛い。
俺は水奈とベットに横になり、手を繋ぐ。
「お兄ちゃん……今日は寝るまで抱きしめて貰っていい……?」
おや、水奈が珍しく大胆だ。
まあ、抱きしめるぐらい今更だろう。
「あぁ、構わねぇよ」
「ありがとう……うん。お兄ちゃんあったかい」
「子供体温のお前が言うか? それ」
「もう、こういうのは気持ちなんだよ?」
「そういうもんかね」
水奈を抱き締めながら眠るまで待つ。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「ああ、おやすみ」
水奈が眠ったのを確認し、抱き締めるのを解き――
あれ? 解けない。
水奈さん。水奈さーん。ちょっと強くホールドし過ぎじゃない?
あ、ちょっこら、頬ずりしない。
えー夜のレベリング無し? それは駄目だな。
どうにか抜け出し……あ、胸が。水奈の成長中の胸がぁああああ!
無心だ、無心だ俺、考えるな!
よーし抜け出したー……どうして眠った後に意識し始めるかな俺。
妹の体を意識し始めるあたり俺も末期だなと思いつつ、
自室へと戻り、外へ飛び出した。




