十字架
賛否両論あると思いますが、これが彼の出した答えです。
夕食の間も、穂乃香の心は幸福で溢れていた。
俺をチラチラと見ては頬を緩め、目が合うとにっこりと笑った。
普段表情の変化の乏しい穂乃香が、誰が見ても分かるぐらいご機嫌だった。
ほとんどの者が何があったかを察しただろう。
ショックを受ける男子がいれば、穂乃香を羨む女子もいた。
そんな夕食を終えて俺は今、水奈の部屋へと向かっている。
当然だ。
これは俺がこの世界に転移して来てから、毎日してる事なのだから。
1日たりとも欠かしたことは無い。
今、水奈が何思い、どんな状況であろうと、
それを知らないはずの俺は、水奈の下へ行かねばなるまい。
俺は、水奈の答えを聞かなきゃいけないんだ。
それから逃げる事など――許されるはずがない。
「水奈、来たぞ」
「はい。どうぞ」
水奈に扉を開けて貰い、部屋へと入る。
月島 水奈
恐怖度 10 寂寥感 90
水奈は俺に背を向けたまま佇んでいる。
その背中はあまりに小さくて……弱弱しく見えた。
「……ねぇ、お兄ちゃん。穂乃香と……付き合ったの?」
「……ああ」
「…………そっか」
水奈は俺へと振り向いた――笑顔を浮かべて。
「お兄ちゃん! おめでとう!」
水奈……っ
「ほんと良かったよ~。一時期は貰い相手見つからないんじゃないかって、心配したんだからね? お兄ちゃん全然仲の良い女子居ないんだもん。でも、穂乃香なら安心だね!」
水奈……止めてくれ……っ
「これでようやく私も安心できる。安心できる……できるハズだったんだけどなぁ……」
月島 水奈
喪失感 100
「お兄ちゃん……私ね、お兄ちゃんの事……好きになっちゃったんだ。自分でもおかしいって事は分かってるの……でも……止められなくてね…………お兄ちゃんと一緒に居ればいる程、思いが強くなっちゃって……お兄ちゃんについ甘えちゃったの……っ…………でも、それも今日で最後にしようと思うんだ」
水奈っ……お前……!
「お兄ちゃんお願い……偽りで良い、偽物でいいからさ……私にキスしてくれないかな……? そしたら…………そしたら私は……諦めが付くと思うの」
俺はっ! 俺は何をしてたんだ!
水奈に……水奈にこんな表情をさせるために頑張ってたのか!? こんな思いさせるために頑張ってたのか!?
違うだろ! 違うよなぁ!
俺は!
こんな事を望んだ訳じゃ無い!
「水奈っ」
「んっ」
水奈と唇を重ね合わせる。
これで満足するのか? 諦めが付くのか?
付くわけねぇだろっ! 付くんだったら! 水奈がこんなに苦しむ訳ねぇだろっ!
どんな結末を迎えようともだと? 認めるかよ……俺はこんな結末はっ!
絶対に認めねぇ!
「――!? ~~!~~!」
俺は水奈の口内へ舌を入れ込む。
水奈は、最初に抵抗したものの、徐々に抵抗を止め、最後はされるがままとなった。
月島 水奈
月島氷河 親愛度 ERROR 恋愛度 100
互いの唾液を何度も交換し、俺は水奈の唇を放す。
「――……お兄ちゃん……どうして……? こんな事されたら……もう諦め付かないよ……」
「水奈……俺は、穂乃香が好きだ…………でも好きなんだよ……お前も好きなんだよ!」
答えなんてずっと出てたんだ。好きでなければ、迷うはずもない。
どうして迷ってたか。それは穂乃香に罪悪感を感じていたからだ。
水奈が俺に依存していた。それは間違ってない。でもそれだけじゃない。
日々戦いに身を置くストレスの中、俺は頑張る理由として、水奈に――依存してたんだ。
「最低な事を言ってるのは分かってる! 間違ってる事も分かってる! でも……でも好きなんだよ……」
「お兄ちゃんは真面目だから、きっとずっと悩んでたんだね…………お兄ちゃん私ね、100%じゃない、穂乃香と半分に別れた50%でも……お兄ちゃんに好きって言われた事が、どうしようもないくらいに――嬉しいんだ」
月島 水奈
幸福度 100
あぁ、歪んでいる。
俺もこいつも歪んでいる。
そんな現状を互いに受け入れた俺らは――歪んでいる。
水奈と一緒にベットに入り、手を繋ぐ。
水奈が眠った事を確認し、手を放して頭を撫でる。
水奈は諦めようとしていた。それをさせなかったのは俺だ。
水奈の恋愛度が上がっていた。それを分かっていながら下げる努力をしなかったのは俺だ。
水奈の恋愛度が上がると分かりながら、毎回一緒にベットに入っていたのは俺だ。
俺を好きになった水奈が悪いのか? 違う。水奈の好意を増長させたのは俺だ。
だから、穂乃香への裏切りも、兄妹での禁忌も、背負うのは水奈じゃない。
その十字架は――俺が背負うんだ。
自室へと戻り、外に出る。
ハーピークイーン
Lv 46
HP 440/440
MP 390/390
ハーピークイーン……悪いな。
今の俺は――暴れるなんてものじゃ、済まなさそうだ。




