気晴らし
「俺は……何してんだろうな……」
「いや、本当に何してるんですか? お兄さん」
俺は神奈の部屋を訪れていた。
朝食後、水奈は俺と話したくない様子で、
穂乃香は一度冷静になって、顔を真っ赤にして部屋へと戻って行った。
「朝一に会ったばかりなのに、どうしてまた私に会いに来てるんですか~? 私の事好きなんですか~?」
「アホか、お前の愚痴聞きに来てやったんだろ」
「愚痴聞きにって、愚痴ってるのお兄さんじゃないですか~」
うぐっ。まったくを持ってその通りである。
「で! 実際の所どうなんですか~? お兄さんは穂乃香の事、異性として好きなんですか~?」
くっそ、こいつニヤニヤしやがってっ! 楽しそうだなおい。
俺は穂乃香の事を――
「――っ! ああ。そうだよ! 好きだよ! なんか悪いか!」
「あぁ~私も日坂先輩とくっついてイチャイチャしたい……」
君、飽きるの早すぎませんかね……いや、変につつかれるより良いけど。
「でもだとしたら、お兄さんが大変なのはこれからですね~。みんなが注目する中、大胆にキスしちゃうんですもん。男子の目がヤバかったですよ~」
(私も日坂先輩にあんな風にキスされたい……いや、シチュエーションとしては悪くないけど、やっぱり二人っきりかな~)
日坂ワールドに突入した神奈は一旦放置。
大胆にキスと言われて、恥ずかしくなってくるのも一旦放置。
放置だ、放置するんだ俺。
あの時は色んな意味でいっぱいいっぱいだったんだ。
まず、男子からの敵意はもう今更だろう。
ただ穂乃香が大暴れしたことにより、しばらくは大人しくなるはずだ。
内心燻ってもすぐには行動しないだろう。
水奈の状態はまだ分からない。今あいつの中では色んな感情が混ざり合っている。
そして俺もまた、答えが出てない……
きっとこれは互いに答えを出して、折り合いを付けなければいけないのだろう。
どんな結末を迎えようと俺と水奈は兄妹であり、家族だ。それだけは変わらない。
問題は王女の帰還。
王や王妃、城の兵士やメイドの記憶を見る限り悪い奴じゃ無さそうだが、実際に見てみるまでは分からない。
もしこいつが国絶対主義ならば、俺と対立、即ち牢行きになりかねない。
だが、そうでないとするならば……交渉は可能かもしれない。
ただこいつ……俺の苦手そうな感じがするんだよなぁ……
対立する場合、今日中に日坂を連れ出して、水奈、穂乃香、あとついでに神奈を連れ出して国外逃亡か?
短絡的過ぎるな。問題が山積みだ。
だが、この可能性も視野に入れておかなければならない。
「まあ、結果的にはヘイトを更に溜めてしまった訳ですが、穂乃香の怒りはきちんと沈めましたからね~。お兄さんにしては働いたんじゃないですか~?」
「まるで俺が普段働いてないみたいな言い草だな」
「え? ヒモニートじゃないんですか?」
テメーこの野郎。
「因みに殴られた時ってどんな感じでした~? 痛かったですか?」
「別に、そんな痛くは無かったぞ。ただイラッとしただけだ」
「でも殴り返さなかったそうですね、どうしてですか~?」
「やり返したら俺の程度がそいつと同じまで下がるだろ。無駄な事はしたくねぇんだよ」
「カッコいい事言ってるのに、お兄さんが言うと面倒くさがりなニート発言に聞こえるのは何故でしょうね~? 不思議です」
十中八九お前の先入観のせいだ。
まず俺をニートと定義するのを止めなさい。
まあ、俺が訓練にも参加してないからですよね。はい。
「あ~そう言えば――穂乃香の唇の感触、どうでした?」
「…………」
「お兄さん赤くなってますよ~。お兄さんも実は意外とウブですね~」
うるさい。年上をからかうんじゃない!
「ん~そろそろ出発の時間ですね。ここまでにしてあげます」
「……なんでそんな上からなんだよお前……」
神奈 美鈴
ストレス 75
まあ、気が晴れたなら良いけどさ。




