型
戦闘員組が帰って来たため報告会が行われている。
まだ俺が殴られた事はバレてない。
まあ、女子からバレる事は無いだろう。
穂乃香を怒らせるメリットが無いからな。
問題は男子の口から広まらないかだ。
俺の愚痴を言い合ってる時にポロリと情報を出しかねない。
それが穂乃香の耳に入ってしまったら……クラスから男子が一人消えるかもしれない。
穂乃香の場合冗談にならないのが怖い。
前の水奈の時は、俺と水奈が止めに入って相手が全員土下座した上でようやく収まったからな。
あの時も結局穂乃香が止まった理由は、穂乃香に制止を掛ける水奈が泣いてしまったからだしな。
水奈を自分のせいで泣かせてしまった穂乃香は動揺し、脆くなったから止まったんだ。
逆を言えば、あいつは上級生に土下座されたからって止まるような奴じゃない。
月島 水奈
恐怖度 20
水奈は落ち着いてきている。
今日もこれといった大怪我は誰も無く、安全に進めた様だ。
戦いにも少しだが慣れてきている。
如月 穂乃香
憤怒度 95
問題はこっちだ。
俺が殴られた事がバレるのも不味いが、
その前に既にキレている。
非戦闘員組の男子の態度が露骨過ぎんだよ。
少しは隠す努力をしろ。燃やされたいのか。
「――以上で今日の報告会を終わります」
終わった~……ホッと溜め息を下す。
他の女子たちも似た感じだ。
穂乃香は怒りが90を超えるまでは分かりにくいが、90を超えると完全に表情筋が固まり始める。
つまり俺じゃなくても分かる奴には分かる。
特に『如月穂乃香を怒らせてはならない』を聞いた事ある奴や、神奈の様にそれを実際に見ている者は気が気では無い。
神奈 美鈴
ストレス 90
また上がってしまった。
明日また下げに行くしかないな。
とりあえず今は穂乃香が先だ。
俺は穂乃香にアイコンタクトを送り、部屋へと戻る。
如月 穂乃香
憤怒度 85
視線が合っただけで10下がる。
そういう所は変わらないよね。安心する。
『氷くん、来たよ~』
「ああ、入ってくれ」
朝は許可なく入ってるのに、今は律儀に確認を取っている。
そして何故か緊張している。よく分からん。
ん? 君毎朝それやってるの?
そして毎朝緊張しながら部屋に入ってたの?
大胆なくせにウブ。お前可愛いな。
如月 穂乃香
憤怒度 45
俺の部屋に来ると落ち着くんだけどな~……
「なあ穂乃香――」
『お前なんか、表情硬くないか?』
そう言いかけて言葉を止めた。
俺は今、何をしようとした……?
俺は今、心のこもってない言葉を言いかけたんじゃないか……?
そう言えば、穂乃香の怒りが下がるから。
そう言えば、穂乃香の怒りが下がると分かってて――作業になってないか……?
「……? どうしたの氷君?」
「……いや……何でもない……」
これじゃ駄目だ……これだけは……駄目だ。
俺は心配そうに見つめる穂乃香の両頬に手を添えた。
摘まんでみる。ぷにっ。
「ひょ、氷くん!?」
ふむ。柔らかい。
えい。ぐにぐに。みょいーん。
「にゃにひゅるにょ!?」
「あ、いや、悪い。でも、ようやくほぐれたな」
穂乃香のほっぺた柔らかいな。今度またさせて貰おう。
如月 穂乃香
憤怒度 0
うん、そうだ。
俺が今穂乃香に対して、したい事をすればいい。
型に嵌るな。型に嵌ってしまえば、俺はより――感情から動けなくなってしまう。
「もう、氷君たら……でも、いいよ。氷君だから特別に、許してあげる」
(そんな笑顔反則だよぉおおお! 私の頬でよければいつでも! いやもう毎日でも!)
内心大騒ぎである。
いいの? そんな事言うと毎日やっちゃうよ?
いや、しないけどね。
毎日穂乃香のほっぺた引っ張るって意味わかんないでしょ。
でも仮にそんな俺だったとしても、受け入れちゃいそうな穂乃香の懐の深さ。
こいつホント俺の事大好きだよな。
それから穂乃香とたわいもない話をして、二人で夕食へと向かった。




