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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
346/346

パパと娘

長らくお待たせいたしました。

「――乾杯」

「……乾杯」


 今宵は三日月。雲一つない綺麗な星空の下、王城のバルコニーで酒を嗜む。

 俺の正面にはピンクのネグリジェを着たリノが座っている。

 感慨深いな……まさかリノと晩酌する日が来るとは……

 

「――! …………苦い」

「酒って言うのはそう言うもんだ……口に合わないならジュースでも良いぞ?」

「…………大丈夫」


 一応飲みやすいように、ジュースで割ったカクテルを用意したんだが……それでも甘党のリノには苦いか。

 ちびちびと飲んでは、眉間にしわを寄せ苦い顔をする。それでも飲む事は止めない様だ。

 こみあげて来る笑みを噛みしめ、グラスを傾けて喉にアルコールを流し込む。

 苦いと思った時に、苦いと表情で気持ちを伝える事が出来る……表情豊かになったものだ。

 

「パパ……これ美味しいの?」

「慣れない内はあまり美味く感じないかもな。最初の内は味を楽しむって言うより、酔いを楽しむんだ。酔いの楽しみに慣れる程飲んだ頃には、味を楽しめるようになる」

「…………酔っ払い?」

「酒は飲んでも呑まれるな。意識を飛ばすほど飲むんじゃないぞ? 水奈の飲み方は見習うな」


 水奈は少しでもアルコールが入ると酒瓶を手放さなくなり、情報ぶちまけモードから甘えモードに入るまでずっと飲み続けるからな。

 ……ストレス溜まってんのかな……溜め込むタイプだからなぁ……理由の一部には俺も含まれてたりする訳だが。

 少し甘やかしてやるか……そもそも俺が水奈を甘やかしてない時があっただろうか、いや無い。

 

「――人間は理性を持つ生き物だ。本能だけで動かず、節度を持ち、場を弁える……でも常にガッチガチで生きていたら堅苦しいだろ? 酒はその堅苦しさを緩和させるものだ。気を緩ませる、リラックスできる……酒を飲む仲って言うのは、互いに気を緩ませても話せる仲って事だ」

「つまり……パパの秘密を知るチャンス……!」


 秘密って……そんなに隠し事をしてるつもりは…………いや、リノに話せないような事は色々して来てるな。

 俺は鑑定があるから、相手の事を知っているが、相手が俺の事を全て知っている訳ではない。この辺の説明を怠るのが悪い癖だ。

 

「――まあ、俺の話は機会があればまたするさ…………今日は、お前の話をしようと思ってな」

「リノの?」

「そうだ……リノが成人し酒を飲める年になったからこそ、話しておくべき事がある」


 酒の力を借りなきゃ切り出せないとは、情けない国王だ。

 10年前……ああ、今でも鮮明に覚えている。

 

「――ちょうど10年前。俺がお前と出会ったこの日、俺はお前の父親と一つの契約を交わした……娘の食費と生活費、独り立ちをするまでの面倒を見る代わりに、屋敷を頂くと言う契約だ」

「………………」

「契約は果たした……あの屋敷は別荘として俺名義のまま取ってある……望むならお前に返そう。イエンロードにはお前と血の繋がった親族が居る……お前の父親の妹、つまりは叔母だな。会いに行ってみるのも一つだろう……向こうは驚くかもしれないが、お前の顔を見ればすぐに分かるだろう……今のリノは、お前の母親にそっくりだからな」

「…………パパ」

「…………ここからは俺の我が儘だ……契約は果たした、俺はお前を育てる義務を終え、お前は俺の養子である必要は無くなった…………その上で言う、今後も俺の娘で居て欲しい」


 始まりは家賃替わりの契約だった……子供は苦手だったから押し付ける気も満々だった。

 でもいつの間にか情が湧いて……いつの間にか娘として扱っていて……いつの間にか娘でなくなる事を怖がっていた。その為ならば建国し、国王となる事を厭わぬ程に。


「――……パパ。リノはパパとママの娘、結衣香達のお姉ちゃん」

「リノ……」

「そしてパパのお嫁さん」

「……ブレねぇなぁ……」

「……パパとずっと一緒、約束した」


 リノの記憶にも、10年前の事がしっかりと残っている。

 肉体に戻って気が付くと、両親と祖父母は居なくなっており、居たのは俺と穂乃香だけ。

 一緒に居て欲しいがリノの望みで……俺はリノが一人になるその時までは、一緒に居てやると約束したんだ。

 

「……俺達が寿命で死んだ後、お前はまた一人になる……あの時はそう言ったが、今はもう違う。ほたるは微妙だが、キュアや結衣香達……リノが寿命を迎えるその時まで、一緒に居てくれる奴がたくさん出来ただろ? 俺である必要はもう無いんじゃないか?」


 自分で言うのもなんだが、恐らく俺は早死にすると思う。

 スキルによる圧倒的な情報量は並列思考で処理してるとは言え、脳細胞の活動が一般のそれと段違いだ。

 若い内は良いだろうが老化して行く段階で、擦り切れ処理しきれず廃人になる……か、右目も潰すかだな。どちらにしろ、叡智の王はそこで死ぬ。スキルを失った俺に価値が残ってるかは微妙だな。

 

「――……? 1人になるまでは一緒。キュアや結衣香達とずっと一緒、だからパパもずっと一緒」


 ……ん? 一人になるその時までってそういう意味?

 リノ……随分とんちを効かせる様になったじゃないか。

 

「俺に生き延びろと言うのか」

「……居なくなっちゃ嫌」


 ……俺との出会いを覚えてるなら当然、俺とフィサリスに置いて行かれた時の記憶も残ってるよな……

 置いて行く時、リノには別れを告げなかった。他ですら付いて行くと言って聞かなかったんだ、幼いリノがそれを聞き分けてくれるとは思わなかった。一緒に居る事に固執していたからこそな。

 

「……あの時はすまなかった。人を殺すだけの生活に……お前達を連れて行く事は出来なかったんだ」

「ずっと一緒に居る約束、面倒を見る契約。パパ契約違反」

「い、違反はしてないぞ? その後帰って来てからはずっと一緒に居たし、面倒も今まで見てきただろう?」

「ううん、半年の契約違反。代わりにこれからもずっと一緒にいて面倒見て?」


 面倒見てって…………強かになったな……誰に似たんだ、全く。

 此処で頷くとずっと一緒の内容を、生涯の伴侶としての言質に置き換えられかねないので、酒を飲んで濁す。

 一緒に居るのはこれまで通りで、面倒を見るのもこれまで通りだな。

 リノが成人した。だが、何かが変わった訳では無く、俺はリノの父親であり続け、リノは俺の娘であり続ける。

 結果として再確認をしただけになったが……こうして話が出来て良かったと思う。

 ……ふと思い出し、リノの頬をつついてみる。

 

「――あむっ」

「咥えるんかい」


 昔の様に小刻みに噛む様な事は無かったが、代わりに良い笑顔で微笑まれた。

 綺麗な笑みを浮かべるようになったな。100点だ、俺の指咥えて無きゃな。

 

「こら吸うな。つまみが欲しいなら柿やるから」

「ん。あーん」


 リノが口を開いたまま待機している。

 食わせろってか。変わってんだか変わってないんだか……

 ったく仕方ねぇな。

 

「ほれ」

「あむ」


 フォークに刺した柿をリノの口に入れる。

 ご機嫌だな。機嫌が良いのは俺もか。

 リノが幸せに笑ってると、俺まで幸せな気持ちになる。

 単純に見てて飽きないんだろうな。

 

「グラスが空いてるな……ジュースにするか? カクテルにするか?」

「…………カクテル」


 苦いけど酒には付き合いたいか。顔は渋そうだけどな。

 駄目だ、笑いが堪えきれない。

 

「別にジュースでも良いんだぞ? 酒の席って言っても翌朝から仕事がある場合、アルコールを控えるなんてよくある事だ」

「む……大丈夫!」

「ほう……ならもう少し付き合って貰おうか」


 その後もちびちびと飲んでは顔を歪めていたリノだったが、酔いが回って来てからは普通に飲める様になった。

 飲める様にはなったんだが、酔いの回ったリノは、昔を思い出したからか俺の膝の上に座った。リノ……俺が酒飲めないんだけど……

 

「ぱぱ、だっこ」

「抱っこって……リノはあの頃より大きくなったからな、抱っこの仕方が変わって来るぞ」

「りの、おうじょだからだいじょうぶ」


 確かに姫だが……俺は王子じゃ無くて国王だぞ?

 俺に寄り掛かるリノは、まぶたが落ち始めている。完全に寝てしまう前にベットに運んだ方が良いか。

 

「はぁ……今回だけな」

「ん……ぱぱだいすき」

「はいはい」


 リノの腕が俺の首に回される、俺はリノの太腿裏と背中に腕を通して抱き上げる。

 軽いな……昔も軽かったが今も軽い。

 

「ベットに着くまでは起きててくれよ?」

「ん……ぱぱもいっしょにねる?」

「俺は片付けしてから自室で寝るよ。もう一緒に寝る歳でもないだろう?」

「ぶー……」


 妹や弟が出来てからお姉ちゃんになり、リノは我慢を身につけた。我が儘をあまり言わなくなった。

 だからか、酔ったリノと話すと昔に戻った気分になるな。

 

「……今度はフィサリスも交えて3人で飲むか」

「ほたるも」

「ほたるは飲むと暴走するからどうだろうなぁ――」











「――――リノ、決めたのか……?」

「……うん。パパ、私行くね?」

「――っ! そうか……お前が決めたのなら止めはしない…………俺はただ、お前がいつ帰って来ても大丈夫なように、準備をしておくだけだ」

「ありがとうパパ……行ってきます――」




「――――それでお兄ちゃん。なんで私達は集められたの?」


 俺は水奈と穂乃香、フィサリスとアイリス、そしてケレスの5人を召喚術で呼び出した。

 

「あの……何故僕も呼ばれたのでしょうか……?」

「つうかなんで俺様の部屋なんだぁ?」

「グライブさん! お話の邪魔しちゃダメですよ~!」


 そこもちゃんと説明するんだから、静かにしてなさい。

 

「リノがな……――リバイアサンのテイムに向かった。これより王城地下に大洞窟を作り上げる……全員力を貸せ、タイムリミットはリノが帰って来るまでだ」

「大洞窟?」

「だから土魔法使いと錬金術使いが集められたんだね」

「後からマリンを呼び湖作りもするが、先に洞窟を作る必要がある。入口はこの部屋だ、一般人が間違って入り込んで来ないからな」


 この部屋に訪れるのは卯月団長と華火ちゃんだけだ。使用人は近寄らない。

 

「リバイアサンはベヒモスと違い気性が荒い、住処は作るが存在を知るのは幹部だけで良い。グライブ、お前ここの門番な」

「リバイアサンとは戦っていいのかぁ?」

「良い訳ねぇだろ。洞窟が崩れたら上にある王城まで崩れるんだぞ、戦いたいなら日坂の所に行け」

「また駄目なのかぁ!? ベヒモスも駄目だったじゃねぇか!」

「あんな巨体が暴れてみろ! 国土荒らされ放題だろうが! 少しは考えろ!」


 この戦闘狂め……少しは落ち着けってんだ。

 

「大体今回テイム予定のリバイアサンは、お前の期待してる程強くないぞ。まだ赤ん坊に近いからな」

「ご主人様、デスラインに居た奴じゃないの?」

「デスラインに居た奴だぞ」


 フィサリスの時が止まった。

 言いたい事は分かる、だが事実だ。

 

「赤ん坊っ!? でも、だって、レベル90超えてたよね!?」

「リバイアサンの本来の住処は海だ。でもデスラインにあったのは、大きかったとは言え湖だっただろ? デスラインに居る赤ん坊は、成体に海から追い出されたから仕方なく湖を住処にしたんだ」

「海にはそれ以上に強いリバイアサンがいるの……」


 居るな、人間族領の南と魔人族領の北の間の海に。

 チート級でもない限り渡る事が出来ない理由の一つだな。

 

「お兄ちゃん、リノちゃんは1人で大丈夫なの……?」

「リノ王女は1人で向かわれたんですか!?」

「「大丈夫じゃないかな」」


 水奈の質問に穂乃香とアイリスが口をそろえて答えた。

 最近のリノの訓練相手、君たちだもんね。

 リノは最高幹部に上がってからもメキメキと強くなって行った。いやホントに。

 最高級の聖魔法、サンクチュアリを使える様になった上、魔法コントロールもフィサリス直伝の精密コントロールになり、接近戦もロータス相手に引けを取らない程だ。

 接近戦ロータスの魔法戦フィサリスだぞ、ラミが怖がり始めたからな。俺の実子説が浮上している。

 ドラゴンをテイムしたいリノの目標はグライブに勝つ事らしい。グライブレベルがうようよしている訳ないだろ、こいつは異色中の異色だ。

 現時点でのリノの戦闘力はアマリリスとそう変わらない。どこまで上がるんだろうな。

 

「センスや技術もトップレベルに近いが、あいつの真骨頂は並外れた防御力だからな。HPも多いからダメージ受けてもピンピンしてやがる。あの硬さはちょっとやそっとじゃ削り落とせねぇだろ」


 DEXは相変わらず低いからぶきっちょなんだけど……集中作業は向かないからって、集中するを止めて、感覚とセンスだけで魔法や鞭を扱うんだよな。

 そっちの方が良い結果生み出してるから何とも言えねぇ。

 狙って投げても当たらないが、感覚で投げると当たる。リノはそういうタイプだ。無我の境地だな、心の目でも付いてんのかな。

 

「――王城の非難隠し通路も兼ねて作るか。とりあえず床に穴開ける所からだな――」




 床に穴を空けて入口を作り、そこから階段を作っていく。

 間隔は7段降りて踊り場、7段降りて踊り場。四角く作っていく。

 なぜ四角いか、単純に急いで降りようとして足を滑らしたとしても、壁にぶつかってすぐ止まるようにだな。

 落ちる段数が増えれば増える程死亡率が上がる。緊急避難経路を使うって事は、急いで逃げないといけない状態と言う事だ。だが焦りで階段を踏み外し死亡しては元子も無い。

 急ぐ時こそ落ち着く必要がある。何度も曲がるのは手間かもしれないが必要な事だ。

 四角を3回作った所で王城の外へと繋がる真っ直ぐな道を作る。とりあえず出口は幻獣栖公園にしておくか。暇があればベヒモスのいる草原までつなげて置こう。

 栖公園の真下で再び階段を作り、地上に穴を空けて扉を付ける。

 ラミが近くに居るな、声を掛けておくか。

 

「ラミ、ちょっと良いか?」

『――!?!? ボス!? なんで地面からっ!?』

「王城の地下からここまでを繋いだんだ。後でマリンを借りに来るから、伝えて置いてくれ」

『……マリンなら2つ返事で飛んで行くと思うけど』


 俺もそう思うが一応な。

 

「この穴は、リノがテイムしてくるリバイアサンの住処に繋がる穴だ。間違って一般人が入り込まない様見張っててくれ」

『リバイアサンをテイムしに行ったのっ!? この間ベヒモスをテイムしたばっかりじゃない!』

「魚系のモンスターを繁殖させる必要が出てきた……海から引っ張って来るかなぁ」

『ボス、その……お疲れ様』

「……ありがとう」


 ラミに労われた所で穴へと戻る。

 最初は俺の思い付きでの行動と思われたが、リノに振り回されている結果だと同情された。

 今回は他に5人ほど巻き込んだがな。マリンを含めれば6人だ。

 一度王城の端の真下まで戻り、横穴を作る。そこから王城内を円で囲む様に下り坂を作っていく。

 此処から先は整備された道では無く、洞窟感溢れる雑な道作りを心掛ける。足元だけは整備するけどな。

 

「拘るね」

「お兄ちゃんなので」

「避難経路より絶対面倒な作りだよね~」

「さすが氷君」


 後ろが騒がしい。

 ケレスは終始俺の錬金術の精度に驚いているが、お前にも後でして貰う事だからな?

 洞窟内は穂乃香とフィサリスが光魔法を使っているため、明るく照らされている。

 基本この洞窟に来るのはリノだけで、リノも聖魔法で道を照らせる為問題はない。

 円が一周した所で王城の中心に向きを変える。

 

「此処がリバイアサン住処の入口になる」

「……と言われても、目の前に壁があるだけだから、実感が湧かないよ?」

「……そうだな、少し待ってろ」


 住処の範囲を、ぐるっと一周錬金術を使いながら回って空間の輪っかを作る。

 

「範囲を決めた、アイリスとケレスは空間に突き当たるまで、錬金術を使いながら突き進んでくれ。範囲内の壁が無くなったら次の作業に入る」


 アイリスに穂乃香が、ケレスにフィサリスが付いて、照明係を行う。

 俺は光魔法を使いながら錬金術を使って行く。俺とペアになった水奈が申し訳なさそうにしているが、使える魔法と使えない魔法とあるのだから仕方ない。この後山ほど出番あるから大丈夫だよ。

 範囲内の壁を全て天井と床に押し込んだ為、天井の低い大広間が出来上がった。

 

「さて、湖作りだ。水奈、穂乃香、フィサリス、ケレス。この範囲内に好きなように穴を掘れ」

「え? 自由で良いの?」

「形の定まった湖なんて無いだろ? どんな歪な形をしていようとも水で満たせば湖だ。好きにして良い」


 好きにとは言ったが、ケレスには目の前を照らす手段が無かったな。

 姉を呼ぶか。

 

「『サモン』」

「お呼びでしょうか国王陛下」


 ……信者ってなんで唐突に呼ばれても、平然と受け答えするんだろうな……

 

「精霊魔法でケレスの目の前を照らしてやってくれ」

「かしこまりました」


 この状況に対する質問も無しに言われた事を実行する……信者すげぇな。

 エリスが来た事により、ケレスが少しホッとしている。周りに最高幹部しか居ない上、俺以外全員女だからな。話に混ざりにくかったよなぁ……でもエリスを呼んでたら呼んでたで、エリスが照明しかする事無くて、穂乃香とフィサリスで事足りるから居心地悪かったと思うんだよ。すまんなケレス。

 水奈は穂乃香とフィサリスの3人でするから問題ないな。

 うん、エリスを呼ぶのはこのタイミングだった。

 

「月島君、私は何をするの?」

「アイリスは俺と天井作りだ。重力魔法に加えて錬金術が使えないと出来ないからな」

 

 土魔法による穴掘りは錬金術の加工に比べて粗い。

 天井を作るのに土魔法を使えば、天井が降って来る事になりかねない。

 錬金術で丁寧に行う必要がある。

 

「因みにどれぐらいの高さの予定?」

「半円を作るイメージだな」

「……かなりの大きさだね」

「鍾乳洞なイメージで頼む」

「拘るね」


 大洞窟だからな。それもリバイアサンの住まう湖だ。

 人工感満載じゃ味気ないだろう。作るからにはとことんだ。

 グランドウォールによる地面が変形していく音を聴きながら、俺とアイリスは黙々と天井を作り上げて行った。

 ケレスはエリスと相談しながら、掘り進めた穴の先に大きな二枚貝の置物や、海底遺跡らしき建物を作っていた。自由にして良いと言ったけども。

 するとそれを見て作られるフィサリス作の沈没船オブジェ、水奈作のサンゴ礁オブジェ、穂乃香作の俺の像……お前ら目的を忘れるな、穴を掘れ。

 鍾乳洞風の天井が完成する頃には、掘られた大穴の中は海底物オブジェで愉快な事になっていた。お前らここにリバイアサンが住むって理解してる?

 いや、楽しかったのなら良いけどさ。 

 

「……まあ、大空間は出来上がったから良いだろう……マリンを回収してくるか『テレポート』」


 栖公園に居るマリンの下へと移動した。

 

『お手伝い致します』


 ……まだ何も言って無いんだけど……いやラミから聞いては居るんだろうけどさ。

 ついでだからエリーザも回収してくるか。

 

「『サークル』『テレポート』」


 エリーザが居る柚奈の部屋に到着。


『わっ!?』


 そうだよね。普通目の前に人が現れたらそういう反応だよね。

 

「柚奈、少しエリーザを借りるな?」

『え!? 借りるってどういう事なのですか!?』

「ぱぱ、おしごと?」

「まあ、そんな所だ。結衣香姉が暇そうにしてるから遊んで貰うと良い」

「ゆいかねぇが? うん、そうする!」


 まあ、結衣香の訓練相手である穂乃香を、俺が借りてるせいなんだけどな。

 

「ぱぱ、おしごとがんばってね!」


 柚奈マジ天使。パパ頑張るよ。 

 

 

 

「――湖の完成に向けて、水を溜めて行く。温泉の熱水や栖公園の池の水をろ過したものを此処に集める予定ではあるが、今すぐ溜まる物じゃない。よってこれより水魔法大会を開催する」

『湖……? そもそもここは何処なのでしょうか……』

「王城の地下だ」

『王城の地下に、これほど大きな洞窟があったのですか!?』

「さっき作った」

『作った!?』


 うんうん、そういう反応だよ俺が求めてたのは。

 エリスもマリンも普通に受け止めるから、逆にビビる。

 

「エリーザちゃん、お兄ちゃんだから諦めて」


 水奈ちゃん、その説明色々と傷付く。

 

「まあ、こんだけ水魔法使いが集まればどうにか溜まるだろ。エリスは照明、ケレスとアイリスは水流によって足場が崩れそうになった場合の補強を頼む」

「「「「『メイルストローム』」」」」

『……アクアストリーム』


 落ち込むなエリーザ、レベル5使えるだけでも十分だって。

 ただ俺、水奈、穂乃香、フィサリス、マリンとレベル7使える奴が揃ってしまっただけだ。少しでも水かさを増やすには人手が欲しい。

 ……溜まってはいるが、体積が広すぎて少しずつだな。

 こりゃMPと根気の戦いになりそうだ。

 

 

 

 

 

「で、出来た……」

「綺麗……」


 水魔法で作られた透明度の高い湖、それがエリスの光魔法によって照らされて、青く光り輝いて見える……

 製作途中は水流が激しくて、渦潮しか見えなかったんだけどな。

 天井を鍾乳洞風にしたのは正解だったな。より幻想的に見える……まあ、この後リバイアサンの住処になるんだけどな。

 穴掘りに続き水溜めまで行った水奈、穂乃香、フィサリス……俺もだな。疲労がヤバい。

 マリンはリバイアサンが来る前にと湖を泳いで見ている。青い湖をマリンが泳ぐのは絵になるな。

 でももう姫君は帰って来てるんだよな……

 

「マリン、主がご帰還だ」

『……はい』


 マリンは水面から飛びあがると、俺の横に着地した。

 何故に? まあいいけど。

 

「『サモン』」

「あ、パパ――――」


 リノが青く光る湖を見て感動している。

 その事実だけで頑張ったかいがあったと思えるな。

 

「――……凄い」

「ああ、此処にいる全員で頑張ったんだ」

「……パパ、ママ、水奈、穂乃香、アイリス、エリーザ、マリン、エリス、ケレス――ありがとう」


 …………リノの満面の笑み……こりゃケレスみたいに惚れる男子が後絶たない訳だ。

 

「――リーノちゃん!!」

「あぷ――」


 穂乃香がリノを抱き締めに行った。あの穂乃香が墜落したんだぞ?

 他が墜落してない訳が無い。

 

「穂乃香、ひとまずリノを放してくれ。リバイアサンを呼ばない事には城に戻れないからな」

「本当にして来たんだね、テイム」

「ん。バッチリ」


 マリンが残念そうにしている。テイムできずに逃げ帰って来てたなら、マリンがこの湖使う事できたもんな。

 俺的にも結構ベヒモスやリバイアサンは悩みの種なんだよなぁ……主に食料的な意味で。

 

「『サモン』」


 リノが湖にリバイアサンを呼び出す。

 久しいな、そして相変わらずデカいな。厳つい見た目と綺麗な湖がミスマッチだ。

 

「キシャァァアアアア!!!」

「――――あ?」

「シャァァ…………」

「パパ、威圧しちゃダメ」


 いや、吠えられたから。

 先に威嚇して来たのはリバイアサンであると主張します。

 俺の威嚇にモンスターとしての本能が反応したエリーザが、身体を震わせていた。

 元人間であったエリーザでも本能が反応するのに、俺の真横に居ながら頬を赤く染め、嬉しそうにしているマリンって何なんだろうな。

 お前生物的本能どこに置いて来たんだよ。

 ん? 本能は正常に機能してる……? 俺によって身体が震える事に快感を……地雷だった。

 

「リノ。此処までの通路は後で説明する。一旦城に戻るぞ、他が疲れてるからな」

「パパは?」

「パパも疲れてるが、まだ魚系のモンスター確保して来なきゃいけないだろ? それが終わってから休む……ああ、リノは着いて来い」


 そう、まだ仕事は終わってない。生き物を飼うってそれだけ面倒で大変なんだよ。

 飼い主責任でリノと……遭遇率アップにラミウムを連れて行くか。言ったら本人に怒られそうだけど。あとはほたるかな……雑魚捕獲程度なら結衣香を連れて行ってみるか。

 

「ひとまず大洞窟作りはこれで終了だ。全員ご苦労だった、しっかり休んでくれ」


 客間に全員移動させて、飲み物でも飲ませるか。後はニンファーに任せよう。

 さーてもう一頑張りだ。娘の為とあっちゃ、パパは頑張るしかないな。

アフターストーリー ~10年後まで~ をこのお話をもって終了します。

その後は次世代の結衣香や煌輝達のお話になって来る……と思いますが今の所未定です。

今後の更新は長期で止まると思われます……申し訳ないです。

ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました!

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