『戦神の敗北』
『――大公様だ!』『今日勝てますように……!』
……………………
『統也様……統也様……』『願掛けしとくか――』
……………………
「……どうしたのパパ?」
「…………なあ、悠真。父さんが最近、祈りを捧げられるのってなんでだろうな」
「…………?」
「……悠真に聞いてどうするんですか、ソレ……」
書類整理が終わり自警団本部に泊まらず済んだ為、城に預かって貰っていた悠真を引き取り、自宅の屋敷へと帰り着いた。
ソファーの背もたれに体重を掛けて座る俺の膝の上、対面の状態で座る悠真に尋ねてみたが、首を傾げるだけだった。
そうだよな、やっぱりよく分からないよな。俺も分からない。
「美鈴は知ってるのか? 俺に向かって祈る人達が居る理由」
「……主に統也さんがお兄さんに一対一で勝った事が原因ですね」
あれか…………確かに俺がやたらと祈られる様になったタイミングと一致するが……――
「どうして、それが俺に祈りを捧げる理由になるんだ? ご利益はないだろ?」
「それはお兄さん効果じゃないですか? お兄さん無敗の全能王みたいに思われてましたし」
つまりは氷河のせいか。あいつが各方面で無双し過ぎたから、俺に被害が来たと。
「今、国民の中で統也さんは軍神、戦神みたいな扱いですね。信仰すればステータスが上がりやすくなったり、指揮力の上昇、戦いの勝率が上がると思われています」
「それで冒険者や兵士達からの祈りが多いのか……そんな加護ないんだが……」
「心の持ち様じゃないですか? 居るかどうか分からない神より、実際にいる凄い人に祈って、自分は勝てるんだって自信を持つ……自信を持って戦う方が、結果的には力を発揮できるんじゃないですか?」
それなら祈る人達の好きにさせておけば良いのか…………?
いや、でもステータスが上昇しやすくなるとか信じられてもなぁ…………なるとは思わないんだよなぁ……
「氷河に対する信仰は、どんな加護があると思われてるんだ?」
「お兄さんは色んな分野に手を出してますからね。スキルの成長、学力向上、金運上昇、出世昇進と様々です」
「あー…………」
「安全祈願だけは水奈の所に来ますね」
それは分かる気がする。治療のプロである水奈ちゃんは兵士達の生命線……守り神みたいに思われてるからな。
……ああ……そんな感じか。それで俺が戦神なのか……指揮力は氷河の方が高いと思うんだが。
「基本は統也さん、お兄さん、水奈の3人に対してが多いですね…………他は、数は少ないですが平和祈願に美空先輩、豪華絢爛に憧れる女性は穂乃香の所に行く人も居ますね」
美空の聖母感はなんとなく分かる。身内を傷つける奴には容赦ないけどな。
穂乃香ちゃんは……豪華絢爛と言うより、華麗奔放の方が合ってる気がする。リノちゃんも当てはまりそうだな。
「………………こうやって見ると、私には突出した物が無いと言うか……比較的平凡と言うか…………統也さんを狙う女性が減らないのは、大公夫人として認められてないからなんですかね…………」
…………やけに詳しいと思ったらそういう事か。
『――俺の妻は、未来永劫美鈴だけだ。他人が認めないじゃない、俺が認めたんだ。他人がお前を知らずとも、俺がお前の素晴らしさを知っている――お前は大公夫人として堂々としてれば良い』
「――――っ! ……ずるいです……スキル使うのも……内容も……っ」
「こっちでの方がお前は好きだろ?」
「……そうですけど…………言葉として……声で直接聴きたいです……」
…………もう一度言うのは何か恥ずかしいな。
俺と美鈴が見つめ合う……その間に俺の膝に立ち上がった悠真が入り込む。
「……パパ、ねむい……」
「……そうだな。そろそろ寝るか」
船をこぎ始めた悠真を抱っこし、悠真の部屋へと向かう。
部屋に着く頃には完全に眠ってしまった。起こさない様にゆっくりベットに寝かせる。
「……美鈴、今日は久しぶりに2人で寝るか」
「……さっきの言葉……声で聴かせてくれますか……?」
「…………分かった」
いつもは声で伝えてるけど、スキルでもう一度って頼まれるんだよな……結局2回言わされている……かなわねぇなぁ。




