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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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腐れ縁

 孤児院の子供達主催の親孝行に俺が参加しなかった事、その理由がアマリリスと一日戦っていたからと言う事は、案の上事前に聞いていたトップの幹部達には知れ渡った。

 予想通りグラジオラスは納得せず、アマリリスに言っても仕方ない文句を言いに行こうとしていた為、錬金術でガチガチに固めてやった。

 お前、もうすぐ33になるいい大人なんだから、感情だけで動こうとするな。呑み込め。

 他はおおむね穂乃香やフィサリスと同じだ、遣る瀬無いと。ほたるやラミウムは水奈と同じく泣いていた。

 ニンファーを筆頭とする信者達は申し訳なさそうにしていた。あいつらはあいつらで俺や国を思い行動していただけだ。結果としてミラを焚き付ける事になったが、悲劇を招いたのは俺とアマリリスだ。お前達は何も悪くないと伝えた。

 孤児院の卒業生には調合師団員が居る為、休日調整をした卯月団長にも話が届いており、卯月団長からグライブに伝わった。

 あの駄竜は『丸一日なんてずりぃぞ! 俺様とも戦えぇ!』と抜かしやがったので、氷漬けのオブジェにした。仮にも火竜だ、死んではいない。

 卯月団長が解凍を望む場合はエリーザを呼ぶ様に伝えた。エリーザはイクシオンやグラジオラスによって、接近戦を出来る様にこそなったが、魔法の扱いがまだ拙い。

 エリーザの扱える魔法は火と水。組み合わせる事で温水や熱湯、霧など作れる様になるとかなり便利になる。特に霧は目くらましに使え、護衛として戦いを選ぶにも、撤退を選ぶにも扱いやすい技術だ。現に俺は魔王軍を暗殺していた頃よく使って居た。

 氷漬けのオブジェはエリーザの良い魔法制御訓練となるだろう。多少ミスしても問題ない、むしろ少しなら焼いていい。

 卯月団長も『これはグライブさんの自業自得ですねー』と言っていた。嫁公認だ。エリーザ、焼いていいぞ。

 そんな事もありつつ、国王としての職務を一日全うした俺の下に、同じく仕事終わりの日坂が酒瓶持って現れた。

 

「――ほら、とりあえず飲め」

「………………」


 子供達も寝静まった夜。俺と日坂は王城のバルコニーに居た。

 差し出されたのはお猪口では無く、いつぞやの盃。

 あの時は慣れてなくてキツいとか抜かしてたくせに、今は平然と飲んでやがる。

 おっさんになったなコイツも。

 

「……今、失礼な事考えなかったか……?」

「いや、別に」

「…………まあ、いいか」


 俺も盃を傾け、喉に酒を通す。

 アルコール度数が結構高い……値段も国内でトップクラスの高級酒だ。

 大公様は持ってる財力が違いますなぁ。昔も稼いではいたが、先の事を考えて節約してたから、高い酒は買えなかったんだ。

 リッチになったもんだ、俺もこいつも…………頭をよぎったリコリスはそのまま消えてくれ。お前じゃ無い。

 

「――――孤児院で行われた親孝行……行かなかったそうだな」

「………………」

「お前は相変わらず不器用と言うか、何と言うか…………救いようがねぇな」

「…………随分とハッキリ言うじゃねぇか」

「まあな……俺、お前の事嫌いだから」

「………………ケッ」


 俺がいつも言っている事ではあるが、言い返されるのはムカつくな。

 盃に注がれる酒を飲み下す。飲むペースがいつもより早いからか、度数が高いからか……おそらく両方だな。酔いの回りを普段より早く感じた。

 しばらく飲み続けていると、日坂も酔いが回ったのか、ふざけた提案をしてきやがった。

 

「――星原と丸一日戦ってたって事は手加減してたんだろ? 本気も出せず、あいつと一日戦うなんて相当ストレスが溜まるし、消化不良だろ……――俺が相手してやろうか?」

「……あ?」

「美空や子供達の分だけじゃ無い、調整をしてくれた他の幹部達の分も含めてボコボコにしてやらないといけないからな――――本気で掛かって来いよ、月島氷河」


 あー……つまりあれだな。八つ当たりして良いって事なんだよな?

 

「――――ほざけ、未熟者。大口叩いた事後悔させてやる……『サークル』『テレポート』」


 日坂を連れて、昨日アマリリスと戦った国内最東端の未開拓地に転移した。

 俺の本気をご所望とあれば、見せてやろうじゃねぇか。

 空間収納からゴーレム分身10体を出し武器を持たせると同時に、周囲一帯の土地を浅く全て錬金術でナイフにして宙に浮かび上がらせる。

 

「『アブソリュートゼロ』」


 浮かび上がらせた全てのナイフ――に加え、ゴーレム達の装甲、武器にも固体窒素を厚くコーティングする。

 今回の氷の翼は対の二枚羽では無く、三対の六枚羽。その上で俺はミスリルの剣と、ミスリルの刀も構える。

 ゴレーム達はもれなく重力魔法で立体機動型だ。宙を舞う氷の兵士とその王が相手してやる。

 

「…………氷河期に襲われたマンモスって、こんな心境だったんだろうか……」

「お前にだけは災害扱いされたくねぇな」

「……それもそうだな」


 日坂は腰に差すオリハルコンの剣に手を掛けると、居合術を放った。

 

「――……『ウィンドブレード』」


 剣を抜き放つと同時に魔剣術を発動させやがった……っ!

 俺に勢いよくカマイタチが飛来し、氷の翼が一枚切り裂かれてしまった。

 

「この距離で全力で放っても、取れて一枚か……近づけばもう少し行けるんだろうが…………近づくに近づけねぇな…………俺の扱える魔法って風、雷、光で熱を出せない事も無いけど、極寒を耐えきれる程の物じゃないからなぁ……」

「……知るか」

「だよな……『トルネードクラッシャー』!」


 日坂がさっきよりも強めの暴風を放ってくる。

 俺はゴーレム達を日坂に襲わせながら、2枚の翼で暴風を受け止め、残りの3枚の翼から羽をまき散らし、日坂へと放つ。

 アブソリュートゼロの使える回数は限られているから、翼を作り直すタイミングも考えなければならない……2枚は防御に残して置くとすると、後2枚壊れたらかな……

 ゴーレムも壊されてもすぐ補充できるが、補充したモノは氷を纏わぬ普通のモノだ。

 翼を作り直すタイミングで同時に纏わせる必要がある――――

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 アブソリュートゼロを放てる程のMPはもう残っていない。

 残った翼は2枚……攻撃にはもう回せない。

 日坂は途中から遠距離を止めて突っ込んできた為、俺は直撃をくらって相当なダメージを負った。だが奴も身体に凍傷を起こし、体力は削れている。

 ――――次の一撃が最後だな……

 俺はミスリルの剣を両手で持ち、闇魔法を纏わせる。

 日坂も次で決めるつもりだ、オリハルコンの剣に光魔法が纏い始める。

 俺は氷の翼をはためかせ、はるか上空へ上昇すると、日坂目掛けて一気に降下した。

 

「『ダインスレイフ』!!!」「『パラディン』!!!」


 闇の剣と光の剣が……ぶつかり合った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――それで? なんでお兄ちゃんは昨日に引き続きボロボロなの? 今日は至る所に凍傷を起こしてる統也さんまで連れて」

「……………………日坂が馬鹿だから」

「おい」


 翌朝、治療を行ってくれた水奈に普通に怒られた。呆れ混じりだった。

 

「お兄ちゃんはいったい、何度私に治療させれば気が済むの?」

「…………お世話になっております」

「国家のツートップで、良い歳した子持ちのお父さんなんですから…………2人とも落ち着いて下さいよ」

「……その通りだな」


 水奈と神奈に怒られ、小さくなる国王と大公の姿があった。

 

「2人の仲良し加減にも困ったものですね~」

「「仲良くない」」

「声揃えて何言ってるの……」


 水奈に呆れられてしまった……最近お兄ちゃんの威厳が失われている気がする。

 とりあえず穂乃香、日坂に嫉妬するの止めなさい。お前はどこを目指しているの。

 

「氷君! 私とも勝負!!!」

「いや、次こそ水奈に愛想つかされかねないから勘弁してくれ」

「うぅ~~~!」

「べ、別に、愛想尽きたりはしないけど……ちょっとは心配する身にもなって欲しいと言うか…………」


 なにこの可愛い生き物。

 水奈に抱き着こうとしたところで、子供達が集まって来てしまった。

 今回リノに足止め頼んで無かったからな……まあ、幸い俺も日坂も傷は治して貰った後だ、驚かせる事は無い。

 

「パパ、何してるの?」

「パパは日坂と喧嘩して怒られてる所だ」

「喧嘩ってレベルじゃないから怒られてるんですけどね」


 うん……単体で国家落とせる戦力同士が、本気で戦うもんじゃ無いね。

 未開拓地がただの荒れ地になり果てたものね……今度綺麗にしておきます。

 

「お父さんと、悠真のパパは仲悪いの?」

「仲悪いのかって言われると微妙だが、良くはないな」


 結衣香が不思議そうに首を傾げる。可愛いなそれ。

 仲悪いとまでは言わないが、良くも無い。人間て複雑な生き物なんだよ。

 ん? 珍しく煌輝が近づいて来て――――――

 

「……どうしたんだ? 煌輝くん」

「……抱っこ」

「――――――――――」


 …………煌輝が……煌輝が、日坂に……懐いただと…………?

 

「…………氷河、お前が懐かれてない事は知ってるが…………それは人に向けて良い顔じゃないぞ……」

「――――――――――」


 …………おま、おまおまおま、お前なんか嫌いだぁあああ!!!

 膝から崩れ、床に手を付き項垂れる……煌輝に嫌われた時以上のショックだ……泣きそう。

 床に付いた手のすぐ先に小さな膝が見え、俺は正面から優しく抱き締められた。

 

「――――パパ、元気出して?」

「――……リノぉぉおおおお!!!」


 リノに抱き着いてしまった。娘に泣きつく父親は、今日一情けなかったかもしれない。

 

「ちょっとお兄ちゃんっ!? リノちゃんも嬉しそうにしてるけどっ……! そんな事したら余計に――」

「――っ!」


 時すでに遅し。煌輝から敵意が向いていた。

 で、でも……リノの善意を無下には出来ない……俺は、どうしたらええんや……

 

「…………難儀な親子ですね~……」

「……少し巻き込まれてるけどな……」

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