悪夢と正夢
居なくなったアイリスちゃんの取り乱し方は、明らかにおかしかった。
孤児院で……ご主人様に一体何が――
「――! あ、ご主……………………」
現れたご主人様はずぶ濡れで、腕に抱きかかえられた眠るアイリスちゃんは、ドレスが血塗れであった。
明らかな異常事態……でも、でもそんな事よりも、私の視線はご主人様の右目だけに集中してしまう。
ご主人様の目は……私と魔王軍の殲滅を行っていた時よりも暗く、虚ろな目をしていた――――
「――フィサリス。アイリスの身体を拭いて寝間着を着せてやれ……ドレスとアクセサリーは俺が後で綺麗な状態に戻しておく……それは子供達からの思いが詰まった物だ……血や泥で汚れていい物じゃない」
「…………ご主人様……」
「俺は少しシャワーを浴びて来る」
「待ってご主人様! そんな怪我まで……いったい何が――」
「――事情は後で話す……だから……悪いが今は1人にしてくれ――――――」
目が覚めたらそこは自室だった。
服はドレスから見覚えの無いパジャマに変わっている。ドレスはクローゼットに、アクセサリーは貰ったジュエリーボックスに、綺麗な状態のまま仕舞われていた。
このパジャマは……きっとフィサリスさんのだと思う。月島君が私の着替えまでしてくれたなら、私は自分のを着せられていたと思う。そうしなかったのは、私が羞恥する事に気を遣ってくれたから。全て見られて、知られてはいるけれど……実際に見られる上、月島君の手で身体を拭かれて、服を着させられるのは恥ずかしいから……
気を遣ってくれた上で、ドレスとアクセサリーを綺麗にしてくれて、部屋にまで運んでくれた……やっぱり優しいなぁ……っ。
「――――アイリスちゃーん……? もう起床時間だいぶ過ぎて……アイリスちゃんっ!?」
「……? どうしたのミラちゃん?」
「どうしたって……目が凄く腫れてるじゃない!」
そっか……目腫れちゃったか……
でも不味いな……子供達に見られたら、月島君が悪者になっちゃう……
「…………陛下にはたーくさん文句言わないと…………」
「待ってミラちゃん! 月島君は悪くないの……悪いのは、私と明君なの――――」
「――――……なに……それ……じゃあ陛下は……っ! なんで!? 陛下ならアマリリスを倒してくる事も出来た筈でしょっ!?」
「それが……私のせいなの…………私が、明君に居なくなって欲しい訳じゃ無いって言ったから……だから月島君は倒す事も出来ず……丸一日ボロボロになるまで戦い続けるハメになったの…………悪いのは私なの……」
「そんなっ……………………私のせい……? 私が……私の安直な考えが……陛下も、アイリスちゃんも……傷つける事態を招いたの……?」
「――っ!? 違うよ! ミラちゃんは何も悪くない――」
『――あー! 王様! なんで昨日来なかったんだよー! みんな待ってたのに!』
「「――――!」」
うそ……月島君……?
『悪かった……昨日は国外に出てて忙しかったんだ』
『ずっと…………待ってたんだよ……?』
『………………ごめんな』
『ミラ姉ちゃん怒ってたぞー!』『来てくれたお兄ちゃんお姉ちゃん達、みんな寂しそうだったよ!』
『ああ……埋め合わせは必ずしようと思う』
『それよりもまず、先にする事があるでしょ!』
子供達に連れられて、月島君が私達の下にやって来た。
「アイリスお姉ちゃんに謝って!」「そうだよー!王様、お姉ちゃん達に謝って!」
違う……違うのみんな……止めて……!
「…………アイリス、ミラ…………済まなかった――――」
「――――っはぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………」
「――アイリスちゃん? うなされたみたいだけど、大丈夫……?」
「ミラちゃん……」
夢…………あれは夢だったのか…………
着ているパジャマはやはり私の物じゃないけど、夢で見た物とは柄が違う……
凄くリアルな夢だった…………
「…………陛下にはやっぱり文句言わないと」
「待ってミラちゃん! ――!」
『――私のせい……? 私が……私の安直な考えが……陛下も、アイリスちゃんも……傷つける事態を招いたの……?』
『――謝って!』『――お姉ちゃん達に謝って!』
「――…………ミラちゃん……月島君をあまり責めないで上げて?」
……真実を、語る事は出来なかった。




