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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
336/346

怪人VS狂人

 アイリス誕生日、当日の朝。昨日までに仕事を全て片付けた俺はよく頑張ったと思う。

 今日の予定は大方フリー、仕事が入っても城に居るフィサリスやラミウムが片付けてくれるだろう。

 アイリスには伝わらない様に注意しつつ、孤児院出身の者達には全て休日を与えれる様に、各所調整もして貰った。

 日坂、ロータス、ラミウム……騎士団長のイクシオンにしても、アイリスへ親孝行と聞いて動いてやらない奴は居ない。ニンファーは内心渋っていたが、俺の指示故に従った。

 朝一で俺は国内領土の最東端、広めの空地へと移動すると、対象の人物を1人呼び出した。

 

「――ん? ここ何処? 氷河ちゃんはこんな朝っぱらから、僕に何の用?」

「一応国内だよ、最東端にある空き地だ」

「あー未開拓地…………で? 何の用? 僕、今日奏ちゃんの誕生日だから、これからお祝いに行く予定なんだけど」


 呼ばれた理由しっかり分かってるじゃねぇか……

 

「『隔離結晶』」

「…………氷河ちゃん? これ、どういうつもり?」


 結界術で、俺とアマリリスの2人を中に閉じこめる。

 

「――今日な、孤児院の子供達がアイリスの誕生日に合わせて、親孝行してやりたいって言ってるんだ……」

「ふ~ん……それで? 僕に何か関係あるの?」

「……お前、それ知ったら『アイリスちゃんは君達の母親じゃ無い。親孝行したいなら、故郷に戻って本当の両親探して来なよ』みたい事、間違いなく言うだろ」

「何言ってるの氷河ちゃん。そもそも親孝行の定義がおかしいだろう? 彼らの親の望みを叶えるなら――――要らない子として今すぐ死ぬか、氷河ちゃんを殺して敵討ちするか、のどちらかじゃないか」

「…………だからお前を行かせる訳にはいかねぇんだよ」

「う~ん、でも今回のそれは妥協できないかな。だってその親孝行に氷河ちゃん含まれてるんだろう? 僕は接触を禁じられるのに、氷河ちゃんはその中に入って良い思いするなんて、流石に僕も我慢ならないぜ?」


 そうだな、今回アイリスが母親、俺が父親とした親孝行だ。

 俺がコイツを封じてまでそれを受けに行けば、コイツは俺と敵対を選ぶ。

 だがコイツとの敵対は俺の望む所では無い。第二のリコリスなんて勘弁してくれ。

 

「――――だからお前の相手を俺がする訳だ、お前の大好きな――殺し合いをな」

「…………へぇ、氷河ちゃんが僕の相手してくれるんだ……そりゃあ氷河ちゃんと殺し合うなんて大興奮だけど……氷河ちゃんの目的は僕の体力切れだろ? 圧倒的戦闘力で倒されたら僕は満足しない、ボロボロになって動けなくなるのは氷河ちゃんによる横暴だから。けど体力が切れて動けなくなるのなら、僕に体力が無かったという、僕の落ち度になる――――けど、理解してる? それって同じ分だけ氷河ちゃんも拘束されて体力を使うし、僕は遠慮なく殺しにかかるのに対し、氷河ちゃんは倒さない様に力のセーブも行わないといけない。けど今日中に体力を削り切れなければ――――孤児院に行く事出来ないんだぜ?」


 『――村長、私達待ってるから』

 

「――……やるしかねぇよなぁ……期待されちまったらよ」

「……へぇ……父親でも無いのに、父親面を通すんだ……イライラするんだよねぇ、奏ちゃんの子供面する子供達もだけど、その父親面する氷河ちゃん。まるで氷河ちゃんと奏ちゃんが夫婦みたいじゃん、酷い冗談だぜ――」


 アマリリスがオリハルコンの大鎌を構え、俺はミスリルの大鎌を構える。

 義手完成後のガチ戦闘の相手がコイツとはな……

 そういえばコイツとは心理戦こそして来たが、戦闘をするのは初めてか……俺がずっと嫌がってたからな。

 

「さて、氷河ちゃんはその体に――――どれだけの花を咲かせるのかな?」




 アマリリスと戦闘を続けて時間は昼となった。

 孤児院では今パーティーの準備中、アイリスは下の子達と農作作業中である。

 下の子達にはあの手この手でアイリスを引き止めて貰い、パーティーは夕食時に行われる事になる。

 子供が増えたのと、俺が来れる回数の減った結果、孤児院では誕生祝いを月毎に纏めて行うようになった。日毎にすると、特に炊き出し時代から居る子達が、俺が来ない事に悲しむからな。『村長の美味しいご飯』が無い事に悲しむ奴も居たけどな。

 ミラやアイリスの職員の誕生祝いも、子供達と同じく月毎の際に纏めて行われている。

 今月の誕生祝いは既にしている為、アイリスにとって本日は自身の誕生日ではあるけど、普通の1日の筈だ。だから下の子達が引き止めても不振に思う事は無い。サプライズは上手く行くだろう……それに俺が間に合うかどうかは厳しそうだが――

 

「――分かっちゃいたが、タフだなお前」

「それに付き合う氷河ちゃんも――ねっ!!!」


 大鎌と大鎌がぶつかり合う。

 削り取るのに時間が掛かるのは予想していた為、早朝に始めたが……それからずっと戦い続けるコイツの体力よ。

 絶え間ない攻防の連続はデーモン一万体を思い出す。今回は勝利条件が条件だけに更に厄介だ。体力を消費させるには、アマリリスを積極的に動かせねばならない。それを理解しているアマリリスは、体力の節約を考慮した動きをする。

 そして戦闘に関してだが、俺はスキルの上でだが、こいつも相手の動きを先読みする戦い方をする。読み合いで負ける事こそ無いが、思考にもエネルギーを奪われる。

 精神的にも疲れるし、体力的にも疲れる。飯休憩も無いしな。

 精神、体力、空腹、脱水に加え、今後睡魔まで考えられる。完全な我慢勝負だな、こんな狂人相手だと気が滅入る。

 アマリリスは俺が孤児院に行かないのであれば、自分が行かなくとも良いし、自分が行けるのであれば、俺が行っても構わない。自分は行けず俺が行くのが許せないのである。

 俺はアマリリスには行かせず、自身は行きたい。その為勝利条件がアマリリスと共に行くを選んだが、アマリリスは体力切れで来れなかったという結果だけなのだ。

 アマリリスがボロボロにされて来れなかっただと、元より共に行く気が無かった結果になる。どちらにしろ一緒に行く気なんかサラサラ無いが、前者は殺し合いで羽目外し過ぎたアマリリスの責任となる。

 勝利条件を満たすだけなら、アマリリスは戦闘自体行わなければ、条件は満ちる。だが殺し合いに性的快感を得るアマリリスが、美空奏の次にお気に入りである俺と、それも戦った上で俺が勝利できなければ、俺が惨めな結果になると分かっていて、殺し合いをしないという選択肢は選ばない。

 俺はアマリリスが性的快感を覚えるレベルの戦闘を続ける事で、アマリリスのモチベーションを維持しつつ、致命傷や決定打を与えずにコイツの体力を削らなければならない……ハードモード過ぎるだろ。

 アマリリスの身体をギリギリ当たらない様に大鎌を振るう。

 

「――っ! 殺気を込めたまま、攻撃を当てないなんて器用な事するね氷河ちゃん。氷河ちゃんが本気だったら、僕何回殺されてたか分かったもんじゃないぜ」

「殺しはしないだけで、殺す気で戦っているぞ? 避け損ねたり、自傷に走った時は自己責任な――」


 とは言ったが、俺がこいつに与えれる攻撃は、柄での殴打、蹴り、錬金術による地面を変形させての殴打ぐらいだ。傷を与えた上での戦闘不能には出来ないからな。

 殺し合いなのに、相手を傷つける事すらできないと言う時点で条件が破綻している。

 ……やりにくいなぁ。

 

 

 

 

 

「――せーのっ!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「アイリスちゃんお誕生日おめでとう!」」」」」」」」」」」」」」」」」

「――――――へ? 今月の誕生会は既に……というかなんで卒業したみんなまで居るの……?」


 アイリスちゃんは状況について行けず、目をパチクリさせている。

 これだけ驚いて貰えたならサプライズをしたかいがある。

 

「アイリスちゃんの誕生日に親孝行をしようって話になってな。みんな休み貰って集まったんだ」

「実際に子供が出来て子育ての大変さを知ったと言うか……私達、アイリスちゃんに苦労掛けたなぁって思ってね」

「アイリスちゃん昔から大人だったから、いっぱい気を遣わせちゃってたでしょ? 今日はそれの恩返し」

「だからまあ、今日は俺達が全部やるから、アイリスちゃんは寛いでくれ」

「――――――――」


 アイリスちゃんは全体を見渡した後、目を潤ませ、ついに泣き出してしまった。


「…………っ……みんな……っ……ありがとうっ……!」

「――もう、アイリスちゃん……泣くにはまだ早いわよぅ? 私達の親孝行はまだ始まったばっかりなんだからぁ」

「でも……っ……だってっ…………みんなもう忙しい立場なのに……私の為に……っ………もう嬉しくて……っ……この溢れる気持ちをどうしたら良いのか……よく分かんないよ」

「――アイリスお姉ちゃん、泣かないでー?」


 駆け寄った子にハンカチを渡されたアイリスちゃんは、むしろ泣いてしまった。

 でもそれでもお礼を言って、笑って見せたアイリスの笑顔は、飛び切り綺麗だった。

 

「あのねー! お料理みんなで作ったんだよー!」

「食器洗いも手伝った!」

「……僕、準備しかしてない」

「ううん、良いの……っ……みんなで協力してくれたんでしょ? ――ありがとう」

「…………子供達にはお手伝いして貰ったけどぉ、成人組はそれだけじゃないわよぅ?」


 アイリスちゃんの目の前にジュエリーボックスを持って来て、中を開いて見せた。

 

「……ネックレスにブレスレット、ブローチ、髪飾りに……イヤリングじゃ無くてカフ? …………これ全部、凄く高そうなんだけど……」

「みんなで金出し合って買ったんだ。と言っても俺らの給料から出せる量じゃ、全員足してもミラの買った物程の値段には届かないけどな」

「………………ミラちゃん? ミラちゃん、貴女いったい何を買ったの……?」

「私はアイリスちゃんにドレスを買ったのよぅ? アイリスちゃんが持ってるローブと同じぃ、ピンクベージュ色の特注品よぅ?」


 アイリスちゃんが自分のお給料を孤児院の為に使っていたから、代わりに私はほとんど手付かずだったもの。爵位持ちのお給金で手付かずだったんだから、アイリスちゃんの為に300万ぐらい痛手でも無いわ。

 

「――さあ、アイリスちゃん。私の買ったドレスと、みんなで買ってくれたアクセサリーで――――ドレスアップするわよぅ。侍女組出動~」

「「「はーい」」」「行くよ、アイリスちゃん」

「……え? ちょっと――――」






 ……パーティー開始には間に合わなかったか……

 どうにか終わる前には行きたい所なんだがなぁ…………

 

「くっ……くはっ……はぁっ……はぁっ…………おいおい氷河ちゃん……はぁっ……そんな出血だらけで誕生会に参加する気かよ……はぁっ……」

「……お前は随分とお疲れだな。明日の朝までその辺で休んでたらどうだ」

「はっは……冗談! 全くやってくれるぜ……はぁっ……重力付加は感じてけど、結界内の気温まで弄って低気圧にするとか……! 自身にも影響出るって言うのに……はぁっ……頭狂ってるぜっ!」

「……そのセリフ、お前だけには言われたくないな」


 朝の戦闘開始から徐々にだが、アマリリスに対し重力魔法で重さを増やして余計なエネルギー消費を促していた。普通は疲労だと勘違いするレベルなんだがコイツ気付きやがった。

 重力付加だけじゃ足りそうにないと判断した俺は、アブソリュートゼロの氷の翼を使うカモフラージュの下、気圧を下げに掛かった。

 俺とアマリリスは今、高山の頂上でずっと戦い続けて居る様な状態だ。

 流石のアマリリスと言えど、この状態では長く持つまい。こいつは元々暗殺型の戦闘スタイルだ、不意打ちでの一撃必殺が基本……長時間の戦闘は想定していない。そもそもアマリリスの肉体事態は至って普通の公爵家令嬢だ。中の星原が鍛えはしたが限界はある。

 それでも未だ戦い続けられるのは、コイツが狂人たる所以でしかないと思う。

 

「はぁっ……氷河ちゃんってそんなに体力ある方だっけ……? はぁっ……体力はむしろ、無かったイメージなんだけど……っ」

「……穂乃香に鍛えられたからなぁ」

「はぁっ……穂乃香ちゃん……? ……あぁ、そういう事……はぁっ……! 国王と王妃なんて言っても……はぁっ……所詮、性欲に盛ったケダモノでしか無いわけだ……はぁっ……卑しいねぇっ!」

「……現在進行形で死に掛けてる自身の状態と、出血多量の俺を見て性的に興奮してるお前に言われる筋合いねぇな」


 まあ、性欲に盛ったを否定するつもりは無い。俺も穂乃香も欲多く自制が弱いからな。

 呼吸こそ乱れているが、アマリリスの興奮具合も最高潮だ。限界はまだ訪れない。

 ……こりゃ……まだまだ掛かりそうだな…………

 

 

 

 

 

「――それではアイリスちゃんに登場して貰いましょう、アイリスちゃん」


 ミラちゃんに呼ばれて私はみんなの前に姿を現す。

 着慣れないドレス……高そうなアクセサリー……このアクセサリーの総額よりドレスが高いって、ミラちゃんは一体いくら使ったの……

 一般庶民だった私にはちょっと、怖気づいてしまいそうになる。服に着られてないかなぁ……靴まで高そうなんだけど……

 

「「「「「「「「「「「綺麗~!」」」」」」」」」」」

「ほ、ほんと……? ……ありがとう」

「アイリスお姉ちゃん、お姫様みたい!」

「そうよねぇ。王族って言われても違和感ないわよねぇ」

「「「うん!」」」

「ちょ、ちょっと! ミラちゃん!?」


 王族って…………そう言えばこのドレス、私にピッタリなのって……

 

「……ねぇ、ミラちゃん。このドレスってもしかして――」

「――国王陛下に作って貰ったのよぅ。最高級素材と色は指定で、無料で貰ったら陛下からのプレゼントになっちゃうから、制作料費も含めてお支払いしたわぁ。忙しい中で作って貰う上に、陛下は世界一って言っても過言じゃ無い腕を持つから、私は相場の倍額でも払うつもりだったんだけどぉ、相場の半額で良いって言い張るから、残り半分の150万は水奈王女に押し付けてきたわぁ」


 このドレス300万したのっ!? ミラちゃんお金使い過ぎだよ!?

 す、裾とか汚してないか心配になって来た……できれば早く着替えたい。

 

「陛下には陛下でプレゼントを用意して欲しいものぅ……指輪とか、指輪とか、指輪とか」

「ミラちゃん!? なんで選択肢が指輪ばっかりなの!?」

「今回アクセサリーで指輪だけは準備出来なかったのよぅ……ねぇみんな?」


 良い笑顔してる人が多いけど、苦笑いしてる子も見えてるからね!?

 

「……陛下遅いなぁ……」

「ねー王様も来るんだよねー?」「王様にもお礼したーい!」

「お料理頑張って作ったのに……」

「…………大丈夫よ、きっと来るわぁ。今はまだ……お仕事が忙しいのよぅ」


 月島君にもこの格好見られるの……恥ずかしい……

 いや、でもどうせ後から知られてしまう訳だから……遅かれ早かれ……うぅ……

 私はちょっとアレだけど……みんなは……月島君をずっと待ちわびている。

 みんなが親孝行を月島君にもしたいと思っている、きっと月島君はそれを見たら多少強引に、後でラミウムさんやフィサリスさんに怒られる事になっても、やって来ると思う。

 今、来ないって事は……月島君は千里眼の範囲外……国外に居るのかなぁ……?

 月島君、貴方は今どこで何をしていますか……? できるだけ早く帰って来て、みんなに顔を見せてあげて下さい――――

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