権限
「――――風雅様を私に預けてまで、何をしてらっしゃるのですか……」
「……臣下のお悩み相談だ」
心眼で関係者を見て、事の顛末を知ったラミウムに呆れられた。
ほたるの悩みは自身の欲求不満と、自制心の弱さが原因だった。
故に俺と穂乃香のを見せる事でオカズを与え、穂乃香のと水奈のを見せる事でほたる本来のチキンを刺激した。
その過程で俺の息子を見せる事になったが……ラミウムには日坂救出後の風呂で、ピアニーには襲撃時の初対面で見られており、ほたるとアイリスには双頭で見られている。なんかもう今更だ。俺も向こうのを知ってる訳だから何も言わない。
行為もピアニーには見られている……まあ、それはほとんど知り合う前だったからアレだが、ほたるは身内も身内だ。俺と穂乃香も興奮していたが、ほたるが一番だった……これでしばらくオカズに困る事は無いだろう。想像では無く現実で見たからな。
クローゼットに近づいた時は目の前に結合部が合った為、視覚嗅覚聴覚の3コンボを喰らった上で、穂乃香が出した母乳を浴びたほたるは気絶した。
風雅には申し訳ないが勿体無かったため、穂乃香の母乳は俺が頂いた。
その後は穂乃香にほたるへ簡単な手解きを頼み、そこで水奈を突撃させる事で嫉妬を煽り、水奈を引き止める穂乃香がそのまま2人の世界に入るのは大方想定通りだった。本物を目の前で見せられたほたるはチキンを発揮し、リノへ手出ししにくくなったみたいだから成功だろう。手を出すなとは言わん、出していいのはリノが成人してからだ。
唯一の想定外はほたるが穂乃香に墜ちた事だな。穂乃香には、ほたるがリノを襲いそうになって悩んでると説明し、それが具体的にどういう事するのか教えてやれと伝えたんだが、まさかああなるとは思わなかった……チキンを促すつもりが、ほたるは墜されて穂乃香を受け入れてたからな。穂乃香恐るべし。
ほたるの最近のオカズはその時の事か、俺と穂乃香に挟まれて攻められる想像となった。なんかより業が深くなったな。水奈ポジションじゃないか。
「――――さて、会議を始める」
頭を切り替え、周りを見渡す。会議室に集ったのは日坂、ラミウム、ロータス、フィサリスに俺を加えた5人。王国の中心である最高幹部の中でも更に中枢……国家の軸そのものだ。
たまにアイリスを含む事もあるが、アイリスが関与するのは孤児院関係が主だからな、国政の話し合いはこのメンバーだけも多い。
暗殺部隊の長がアマリリスである事を、暗殺部隊関係者以外で知ってるのもこのメンバーだけだ。他の者はアマリリスがピアニーの上司である事を知らない。
ピアニーは等しく礼儀正しく接しているし、アマリリスも等しく他人に絡んではからかいを行う。あの2人が話していても他にはよくある一部にしか見えていない。
俺にとってのアマリリスはグライブの様な扱いで、俺にとってのピアニーはフィサリスに近い役割。大方にはそう思わせている。
これはアマリリスに対する警戒度を下げる為の処置だ。主に俺に対して良く思わない者への。
国内には当然俺の事を良く思っていない者も居る……俺へ警戒をしている者……そいつらは大概アマリリスへの警戒をしていない。俺への忠誠心が無く、雑な扱いを受けているアマリリスが自分達の妨害をする理由は無く、警戒すべきは忠誠心の高い者達だと思う訳だ。だがアマリリスは忠誠心とは関係無しに、暗殺部隊長としての業務は行っている。
そこは情報を正してやらない方が、アマリリスは動きやすい。故に暗殺部隊の情報は正しく流さない、なんならアマリリスとピアニーは、同じ暗殺術扱いだが反りが合わないと思われてるぐらいだ。実際その通りだ。けど上司と部下だから、協力する時はしている。
そしてピアニーも俺の部下となってから、暗殺業務はしていない物だと思われていたりする。ピアニーの交友関係を考えるとその方が良いので、こちらも訂正はしない。
「――グライブを俺が下し、奴隷とする事で表立って喧嘩を売って来る国は無くなった。平和が訪れたと同時に移住民や観光客が増加し、我が国の経済状態は大変豊かなものとなっている……しかし、人が増えるとはそれ即ち、悪意が増えると同意義である」
ラミウムが悲しげな目をするが、これはどうしようもない事実だ。
100人いる内の100人が良い奴というのはあるかもしれない。だが、一億人いて一億人良い奴と言う事はあり得ない。分母が増えればその分だけの様々な人が存在し、その中には当然悪意持つ者や、碌でも無い奴がいる。
村であった頃ならまだしも、国家となった今、その全てを排除する事は出来ない。『思想が碌でもない』だけで排除するのは、される側から言えば理不尽極まりないからな。思想が思想で留まってる内は罪にはならない。罪無き者を裁くことは出来ない。もちろん未遂であれ、行動に移そうとした場合はすぐさま裁きに掛けるがな。
「俺の息子――風雅は『心眼』のスキルを持って生まれた。俺は風雅に国家をより良きモノにすると誓った。目に移る悪意は少しでも少なくしたい……その為に、今後移り行く国家事情に合わせて、国家の体勢も入れ替えようと思う。具体的にまず日坂、お前達自警団は今後、司法に専念しろ」
「……取り締まり強化って事か?」
「ああ、戦闘自体は減ってくる。国外はあの戦闘狂に働かせれば十分だ、これから注意するべきは国内だ」
「そうだな……最近国内での盗みや暴力事件が増えてきている……人が増えたからって、治安悪化を許して良い訳じゃ無いな。それは妥協しちゃいけないモノだ」
盗みをしてしまえば楽だと考える奴は居る。だが捕まえられるのは、実行に移した者だけだ。人は自制をしながら生きており、自制が出来なくなった者が罪を犯す。
国となってから移住してきた者や、観光客には罪を犯す者が稀に居て、その度に捕まえてはいる。
もれなく捕まえられるという事実は有ってはいても、自分は捕まらない上手くやると考える馬鹿も居て、実際に被害を受けている者も居る。
そういうのを減らすためには国内を見回る自警団員を増やし、犯罪行動そのものをさせない意識を持たせる必要がある。ガチガチに見張られていると、過ごしにくさは感じるかもしれないが、真っ当に生きる者達が平和に暮らすためには必要な事だ。ルールを守る者達が馬鹿を見る様な事があってはならない。
「戦闘は減ってくるが、無くならない訳じゃ無い。そこでロータス、日坂が司法に専念する間、お前は戦闘方面に専念してくれ。必要とあれば自警団員にも指示を出して貰う……これからお前は騎士団長では無く、軍務総監――国家に属する全兵士のトップとなって貰う。騎士団長はイクシオンに引き継げ」
「……それはまた、責任重大な大役ですね」
「する事自体はこれまでとあまり変わらない、騎士団員達の戦闘指南も続けて貰う。敗北が許されないのもこれまで通りだ。ただ権限が増えると言う話だな」
自警団の行う司法には口を出せないが、それ以外に置いて指揮権を持つ。
場合によっては、日坂にすら指示を出す事のできる役職でもある。
新騎士団長のイクシオンの上司、自警団総司令官の日坂とは……爵位で言えば下だが、役職は同等ぐらいか。
「ラミウムにはそれに対をなす政務総監を務めて貰う。リリーやデイジーも一人前になって、今や指示を出す側だからな。基本はお前のやりたいようにやって良い」
「丸投げはお止め下さい」
「…………もちろん俺も口を出す。今後は俺も軍務より政務に力を入れて行くからな。ただこれまで俺に許可が必要だった指示も、お前が出していいと言う話だ。この国に置いてお前ほど国を思い、良くしようと思う意思が強い奴は他に居ない」
「他ならぬ国王陛下がそうではありませんか」
「俺は王だから。別枠だ」
国を思わぬ国王は国王にあらず。国を思うから国王なのだ。
権限を与えると言うのはそれだけ信頼していると言う事である。
日坂には法の、ロータスには軍の、ラミウムには政の権限を与えた。
統括は俺であるが、国家のほとんどはこの3人で成り立つ事になる。
「ご主人様~私は?」
「お前は現状維持だ。今後も俺の側近として尽くせ。お前の言葉は俺の言葉と言っても過言では無い、言動には責任が伴うと思え」
「……あれ? もしかしてかなり責任重大……?」
そうだ。お前は日坂と同等の発言力を持っている。穂乃香よりも大きい。
日坂の言葉は日坂の言葉だが、お前の言葉は俺の言葉だ。
俺の口であり、耳であり、手足であり、左目だ。
「お前は俺の一部だ。ゆめゆめ忘れるな」
「――! はーい!」
……返事。
相変わらず締まらねぇなこいつ……そして凄く嬉しそう。
しかし……穂乃香が俺の半身で、フィサリスは左眼、権限を与えた3人が俺の腕代わりだとしたら……俺自身って締めてる容積少ないんじゃね?
(氷河様はこの国の頭脳にして心臓ではありませんか)
心臓と頭か……必要な所は確保してるのね。要らない子では無かった。
でもぶっちゃけ『眼』が無いと並列思考しか残らねぇからな俺。フィサリスの重大さがよく分かる。
「全員これまでして来たこの延長線上だ、今すぐに何か大きく変わる訳じゃ無い…………だが世界がゆっくりとだが確実に移ろいゆく……ならば、俺達はそれに合わせて変わって行かなければならない。柔軟且つ正確な対応をお前達に期待する――――以上だ」
アイリスから参拝者があまりに多い為、本格的に像を移動させて貰えないかの打診が来た。俺がグライブと戦ってから更に増えたらしい。
確かに子供達が暮らすために作られた孤児院を、参拝者で圧迫するのはよろしくない……その通りだ……その通りではあるんだが……
「――……なあ、アイリス。孤児院大増築で手を打たないか……?」
「……移動はして貰えないの? 孤児院だけで言えば大き過ぎるぐらいだから、これ以上大きくなると、子供達の移動が大変になっちゃう」
「…………増築したスペースを参拝スペースとする」
「……それ普通に新しく作った方が早いんじゃない?」
「――――駄目だ」
それじゃあ駄目なんだよ……それをしてしまったら――――俺が俺を崇める教会を作った事になってしまう。
「奴らに公認の文字を与える訳にはいかない。我が国の国教は精霊教だ。現に我が国で精霊の加護、契約を得ている者は多い。あくまで、『孤児院の増築』の名の下にスペースを作らなければ、奴らは国教であると言い出しかねない…………迷惑を掛ける……でもそこを何とか頼む……っ」
「うっ…………じゃあ、今後の受け入れ増加を見越して増築したけれど、すぐに増える訳では無いので、しばらくは増築スペースに像を置き、参拝者さん達に使って貰う…………私が配慮する形なら問題ないんだよね?」
「――――っ! アイリス……!」
「そ、そんな目で見ないで貰えると…………」
聖母だ……聖母が此処に居る……! これで俺を崇める為の教会を、自らの指示で作らせる必要は無くなった……! 世界に……救いはあったぞ!!!
「――…………アイリス。お前、アマリリスの事をどう思う?」
「――――――――――――――――私を明君に貰わせるの…………?」
「違う、断じて違う。だからそんな絶望に染まった顔をするな…………あー……そうだな…………好きか嫌いかで言うと?」
「――嫌い」
即答。食い気味の即答。いや、知ってた。
「じゃあ……――――居なくなって欲しいと思うか?」
「…………自ら望んで一緒には居たくない…………――けど、居なくなって欲しい訳じゃ無い……理由は歪んでるけど、私を守ろうとしてくれた事には感謝してるし…………悲しいけど現状唯一の従兄弟だから」
「……………………そうか…………いや――――それが聞ければ十分だ」




