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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
332/346

 パープルニアとの戦争から1年が経った。

 穂乃香が2人目の子供を産んだ、元気な男の子だ。

 名前は穂乃香が付けたいと言い、穂乃香の質問に幾つか応えて、適正を持つ魔法の中でも、風魔法の適性が強い我が子の名前は風雅となった。

 風雅の誕生時には柚奈の時ほどではないが、精霊の祝福が合った為、精霊魔法も使えるのだろう。

 風雅が生まれながらにして二つのレアスキルを所持していた……『鑑定』と『心眼』だ。

 鑑定は俺のとは違い、リリーやホワイトールの皇帝が持っているステータスが見れるだけの物だ。ブルーゼムの国王に死にスキル扱いされたアレだ。

 俺や日坂の様な規格外や、アイリスの様に戦闘中のステータス変動が可能な者を相手にすると言うなら、話は別だが、そんな事は滅多に無い。

 そもそも戦闘を行わない人間からすれば、目の前の人物の名前を知ることの出来るスキルでしかないのだ。例えば目の前で話している人物がスキルに暗殺術を持っていれば、その人物が自分を殺しに来た暗殺者かもしれないと知る事が出来るが、それは暗殺者を仕向けられるほどの人物で有った場合だ。ほんの一握りである。

 戦闘では敵の強さを知る事が出来るが、それも経験を積めば自然と身に付く事だ。強い奴は佇まい、立ち振る舞いが違うからな。素人や駆け出し冒険者には良いかもしれない。そして鑑定を持っていようがいまいが、強者と遭遇すれば逃げるしかないし、逃げ切れずにやられてしまう可能性も大して変わらない。

 あったら良いなのレアスキルだ。レアスキルの中でも価値は低い。錬金術先生の方がよっぽど便利である。

 それに比べ心眼は凶悪だ。敵の思考を読めるのは交渉事や、戦闘においても大きなアドバンテージとなる。反面リスクが大きい。

 嫌でも人の汚さ……悪意を知る事になり、人間不信や人間嫌いになりやすい。

 ラミウムや心眼以上の効果を持つ俺は、一種の悟りを開いていて、物事に対しある程度の諦めを付けている。でなければやっていられないしキリがない。

 ただこの状態に成れるのは、ある程度の人生経験を積まねば無理だ。生まれたての赤子にはまず出来ない。

 風雅はきっと、長い人生で一度は必ず人に対し絶望する時が来ると思う……ただそれがある程度の人格が出来てからかどうかが問題だ。

 ラミウムは幼くして悪意蠢く貴族たちに触れて絶望していた。環境が悪かったんだ。

 俺は息子に……風雅にそうあって欲しくない……となれば俺が風雅の暮らす生活環境を良くしてやらねばならない。

 アマリリスの様な奴を、近づけてはならないと徹底しなければいけない。

 王城内環境を、国内環境をもっと良くする努力をして行こう。

 そう風雅に告げた。意味を理解してるかは微妙だが。

 心眼を持つ者同士は意思疎通が可能だ、それは赤ん坊と言えど例外では無い。

 言葉はまだ喋れないが、赤ん坊だって伝えたい思いはたくさんある。俺とラミウムはそれが理解できるため、風雅との対話が可能である。風雅がラミウムに懐きそうな予感。穂乃香待望の男の子なのに。

 穂乃香はこの一年間結衣香に戦闘の訓練を付けていた。妊婦であった為、激しい動きは出来ないが、魔法コントロールの感覚を教えるのは可能だったし、軽い運動程度に結衣香をいなしていた……実力差が圧倒的だからな。ほぼ動かずして最低限の動きで結衣香を制していた。それを受けて闘志を燃やす結衣香が、恐ろしい勢いでメキメキと強くなっている。やはりお前は穂乃香の子か。才能もリノに負けず劣らず……うちの子強いな。

 訓練を終えた後の俺に甘えて来るのも負けず劣らずだ。穂乃香とセットでやって来る。

 もちろん甘やかした、母子共に。頑張った娘を褒めるのも、妊娠中の妻に寄り添うのも父親たる俺の役目だ。

 煌輝は相変わらずだ。一部の者が気を遣い、俺の良い所や俺を称える様に煌輝に言って聞かせようとするが、俺を嫌う煌輝には逆効果だ。リノやフィサリスの口から俺の話をされるのすら嫌がるからな。こりゃグラジオラスにすら懐きそうにない。

 逆に俺を非難するような事を言い聞かせでもしたら、やっぱり悪い奴なのだと思われる。取り付く島もない。精神的にもっと大人になってから話すしかないか……子供の頃の感情って大人になっても影響するもんなんだけどな……うぐ。

 だがなだがな、なんと煌輝を俺の膝の上に座らせる機会があったんだ! 全ては天使柚奈のおかげであった。

 煌輝は柚奈に甘い……というか月島家は全体を通して柚奈に甘い。甘々である。

 そんな柚奈が結衣香と煌輝、俺と煌輝と仲良く一緒にいる事を望んだため、煌輝と結衣香はしぶしぶ柚奈を挟んで一緒に座ったり、俺の膝の上に煌輝、柚奈の順で座ったりしたのだ。家族間の不仲を解決に導いてくれるのは柚奈なのかもしれない。

 結衣香は穂乃香に懐いてないし、ライバル意識を向けているけど不仲では無いからな。互いにいがみ合っているのが結衣香と煌輝、煌輝に一方的に嫌われてるのが俺だ。

 こんな言い方をすると煌輝に問題がある様に聞こえるが、あいつはあいつの感情に素直なだけだ。あいつの言い分もよく分かる。だからフィサリスにはその事で煌輝を叱らない様に厳命している。俺への忠誠心が高いフィサリスは自分の子が、俺に敵意を向ける事を良く思っていないが、母親に愛情を求める煌輝がフィサリスに否定されてしまったら、あいつは心に傷を負う事になる。やさぐれるかもしれないし、家庭内に居場所を無くし始めるかもしれない。それだけはあってはならない。それならば俺が大人しく嫌われていよう。

 穂乃香にもそれは言い包めている。俺に対する煌輝の態度には寛大にと告げている。少々我が儘な子になってしまわないかは心配だが。俺とフィサリスの血を引くと考えると……なるだろうな、我が儘に。今でこそ俺は国王、フィサリスは側近として真面目にしているが、本来俺もフィサリスも自由奔放だ。俺に至っては未だにだが。煌輝もそうなる……綱を握る事になるであろう、ビオラちゃんに期待しよう。

 

 

 

「――グライブ。卯月団長が熱を出した、見舞いに行ってやれ」

「熱だぁ……? 知るか。んなもん行く訳ねぇだろぉ」

「……そうか…………前にも言ったが、お前の世話係を務められるのは卯月団長以外に居ない。飯の配給係は後で寄越すが、今日は身の回りのことを全て自分でするものだと思え」

「元々世話係なんて必要としてなかったんだよぉ……要らねぇ世話だぁ」

「……そうか……俺は俺で忙しいから、これで失礼する『テレポート』」


 あの女が熱出したとか俺様の知る所じゃねぇな。

 風呂場で勝手に扱かれて逝かされた時はムカついて手を出したが、それ以来は時折溜まった処理に使っただけだ。元々俺様の好みじゃねぇしな、肉体のみの関係だ。

 この一年間毎日の様に飽きずに来る上に、長々と喋られて疲れていたが……それが今日はねぇと思っただけで清々する。

 ようやくゆっくり過ごせるってもんだ。

 

「――失礼致します、食事をお持ち致しました。完食なさる頃合いにまた参ります、それでは……『テレポート』」


 空間転移で現れた女が食事を置いて去って行った。

 代の上に置くまでや、そこに歩いて近づくまでの音が一切しなかった……ありゃ暗殺を生業とする奴だな。

 戦闘力事態はまあまあだろうな……遊ぶには物足りねぇ。

 さて、腹ごしらえはしておくか――

 『――グライブさーん。はい、あーん』


「……………………」


 ……片腕でも1年続けてりゃ、慣れて食いやすかっただろうに。

 ずっと邪魔されていたせいで、食い辛いな……

 

「…………余計な事しやがってあの女ぁ――」




 飯を食い終わったと同時に、暗殺者の女は食器の回収に現れた。

 ずっと見て居やがったのか……? いや、月島の指示か。

 月島のスキルの詳細を聞いたがぶっ飛んでやがる。そんなぶっ飛んだスキル持ちながら頭が狂ってねぇのが異常だ。ある意味狂ってやがる。ありゃ相当壊れてんな。

 飯食うだけにイライラが溜まった……月島の野郎は忙しいつってたし、日坂のとこに行くか。あいつ相手なら全力で大暴れできる――――

 

「――――それで俺の所に来たのか……」

「相手しやがれぇ……日坂ぁ!」

「……そんなギラつた目で言われてもな……まあ、俺としても手加減をせずに戦える滅多に無い機会だから良いけどな。少しは剣を振っとかないと、腕が鈍りそうだ」


 テメェが剣振ると遠くの木々まで切りやがるからな。国内でやり過ぎると月島に怒られる。度が過ぎるとまた氷の翼出して来て、手も足も出せずボコボコにされるが、その氷の翼こそ周り被害出してると思うんだがなぁ。

 戦いは好きだが、蹂躙されんのは好みじゃねぇ。

 

「――肉弾戦も出来るんだろぉ? 拳でやろうぜぇ……!」

「拳でって…………グライブは竜化するんだろ?」

「良いハンデだろぉ?」

「…………そうだな」


 竜化を部分的に留めた俺様の拳と、日坂の拳がぶつかり合う。

 これでもなお俺様が押し負けるってんだから、コイツのステータスも大概ぶっ飛んでやがる。

 だが、ああ、それでこそ……! 楽しくなってきやがった!!!

 拳と拳を何度もぶつけ合う。周りに衝撃波が広がっているが、被害さえ出て無きゃセーフだ! 知ったこっちゃねぇ!!!

 右腕しか無い俺様は拳に加え、蹴りや尻尾まで使って攻撃するが、全て弾き返される。

 爽やかな顔して、如何にも無害そうな態度を取るが、俺様は知っている……こいつ戦闘中に微かに口角を上げてやがる。全力で戦える事に喜んでいやがる……! こいつも俺様と同類だ!!!

 

「――――愉しもうぜ日坂ぁぁぁああああああ!!!!!」

「…………あんまり大声出すと迷惑だから、程々にな」




 日坂には結局勝てなかったが、あいつと戦うのは何度やっても面白れぇな。

 日坂の女には『変な道に連れ込もうとするな』と言われたが、そいつのは元々だろうが。

 良いストレス発散になった。かいた汗を流すために風呂場へと来た。

 シャワーを浴びて体を――

 『――はーい。背中洗いますねー』

 

「………………」


 髪、肩、胸、腹、脚……片腕でも洗えねぇ事はねぇ。だが――

 

「…………背中だけは届く限界があんなぁ……」


 腕は身体に擦り、膝で挟み込めば洗える……だが背中の一部だけがどうしても、あと少し足りねぇ。

 

「………………ちっ、イライラすんなぁ……」




 うぅー熱いー熱いー……

 薬剤調合師が熱を出すなんて何という屈辱ー……

 お見舞いに来てくれた水奈ちゃんに、冷えたタオル乗せて貰って、解熱剤も貰ったけどー……全然下がりそうにないなー……

 回復魔法でも熱は治せないのかー……いっそ氷魔法ー! ……氷漬けは不味いかなー……

 あ、冷たーい……水奈ちゃんがタオル替えに来てくれたのかなー……――――

 

「――――――――グライブさん……?」

「……月島が替えの世話係を寄越さねぇから、こっちは不自由強いられてんだよぉ…………熱だか知らねぇがさっさと治せぇ」

「…………っ! グライブさんっ!!!」

「――っ! おい! 抱きつくなぁ! 移ったらどうするっ!」


 もう少しー……もう少しだけこうして居たい…………

 あー……グライブさんひんやりしてて気持ちいー……

 

「…………落ち着きまふ……」

「…………くそっ、聞きやしねぇ――――」






「――――おい……もれなく移ったじゃねぇかぁ……」


 翌日。俺様は身体が重く、だるいって言うのに、この女昨日が嘘みたいにピンピンしてやがる……確実に移された。

 

「まあまあ。今度は私が看病しますのでー。学生寮に居た間、真由美ちゃんに教わっていたので料理は出来るんですよー? はい、おかゆです。あーん」

「………………」

「どうですかー? 美味しいですかー?」

「…………普通ぅ」

「まあ、いつも用意されてる真由美ちゃんの料理に比べちゃうと、そうですよねー」

「……………おい、早く食わせろぉ」

「――! はーい! あーん」


 ……ちっ。嬉しそうな顔しやがって。

 こっちは移されていい迷惑だってぇのに。

 

「早く良くなって下さいねー。なんなら私に移しちゃってもいいですよー」

「……それじゃキリねぇだろぉ……」

「…………その時は、また看病して下さいね?」


 …………………………

 

「……絶対ぇ嫌だ」

「えー! 良いじゃないですかー」


 うるせぇな……熱出してる方が静かで良かったかもしれねぇな。

 

「――それではグライブさん。汗を拭きますので、服は全部脱いでくださいねー」

「――――――――」

「あ、脱がないと――――私が脱がせちゃいますよー?」

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