資金提供
不快な寄生虫駆除が可能になったので、俺は生き生きとそいつらを連行しパープルニアへと向かった。ピアニー、よくぞ決断した。
ピアニーはアーメルト子爵家当主の懐刀となった時から、表面上で言う奴こそ居なかったが、かなりの嫉妬を受けていた。
ポッと現れた、名を棄てた没落貴族の居候。そんな奴が可愛がられ、重宝されていた訳だからな。部下や親族としては面白くない訳だ。
そんな所に、ピアニーが俺に付いた事で、アーメルト子爵家は王宮からお叱りを受け、責任を取らされた。
愚かな使い方をして、優秀な人材を失ったのは王の責任だけどな。国家を裏切れば親族が責任を取らされるという、見せしめは必要だった訳だ。
アーメルト子爵家当主は、ピアニーが俺の下に着いたと聞き、俺への警戒心を上げただけだった。ピアニーの忠誠心の高さと技量の高さを理解していたからこそ、殺す事なく手元に置ける異常性を理解したのだろう。
だが他はそうも行かない。責任を取らされたのはザウル辺境伯家では無く、アーメルト子爵家だったのだ。
部下、親族共に納得が行かない者は多く、揃ってピアニーを批判し罵った。
大半はそれで済んだのだが、一部は……特にアーメルト子爵家の屋敷に住む、親族、使用人はそれで済まなかった。
憎悪の対象……苛立ちの矛先をピアニーから、妹のデイジーへと向けたのだ。
その一部の中でも大半は態度や対応が冷たくなったり、事あるごとに罵声を浴びせたりと言った程度であったが、それで済まなかったのが、当主の娘とその取り巻き達だ。
女のイジメって陰湿だな。当主にバレる事の無いタイミングに、ドレスを着たら外から見えない位置を、これでもかという程傷めつけやがった。
デイジーは強いな……そんなのを2年間受けたのにも関わらず、ピアニーを恨む事は無く、むしろずっと身を案じ、再び会える日を待ち続けて居たのだから。
今回はピアニーの屋敷に居る、デイジーに乱暴を振るった者全てをアーメルト子爵家に送り返す訳だが、俺としては矛先をデイジーに向けた者から根こそぎ送り返したいぐらいだ。
ようは俺を良く思わない奴らが、俺の居ぬ間に水奈に悪意を向け、手を出す様なものだろ? 俺に直接くってかかって来た、パープルニアやブルーゼムに居る勇者共の方がまだマシだな。
そんな奴らが手の平を返し、ピアニーの屋敷に……俺の統治する国土に居ると思うと吐き気がする。ピアニーを踏み台に俺と接触し、気に入られれば……なんてよく思えたな。ピアニー、追い出したくなったらまたいつでも言え、俺が迷わずパープルニアに投げ捨てて来る。
フィサリスと共に飛び地へと訪れ、代官を務める当主に事情を説明して返却作業を行う。
こいつなら城に入れても良いんだがな……まあ、領民を愛する心は国王として俺も理解できる。無理に引き抜きはしない。
特に俺のイライラの元だった寄生虫を排除できて、すがすがしい気分のまま、俺はフィサリスと寄り道デートをしながら、ブライトタウンの王都へと戻った。
「――グライブ、予想以上に我慢強いじゃないか」
「……月島テメェ……!」
俺はグライブを住まわせている王城地下の大部屋に訪れていた。
コイツにこんな広い部屋を与えたのは、完全に竜化させて爪を切る為。
後は一般人が立ち寄らないためだ。兵士にしろ使用人にしろグライブを怖がっている者は多い。我が国が誇る幹部を打ち破る程の実力を持ち、性格も荒々しく、見た目も厳ついからな。風貌がインテリヤクザそのものだ。ただの戦闘狂の癖に。ただ卯月団長的にはアリらしい。
「あの女をどうにかしろぉ! 質が悪すぎるだろぉっ!!!」
「どうにかと言われてもな」
質が良いか悪かで言ったら、悪いだろうよ、うん。
卯月団長はグライブに対し好意的に見て居る自覚が無く、また異性として見られている自覚も無い。
つまりグライブの身体を洗ったり、自慰の手伝いをしようとするのは完全なる善意だ。
あわよくば肉体関係に発展したら……という下心が無い。どころか性的に見られる事は無いと思っているので、押し倒されでもしたら困惑するのだろう。
下心があるならグライブとしても手を出しやすかったが、完全なる善意の為手が出しづらい。にも拘らず、ラミウムに劣らない程の胸を押し当て、股間まで洗おうとして来る。
グライブは悶々として来ている様だが、自慰は手伝わせず、押し倒しても居ない。戦闘欲には忠実の癖に、性には律儀な奴だ。
「本人が手伝いたがってんだから、手伝って貰えば良いじゃねぇか。卯月団長だって異性に興味を持つお年頃なんだよ」
「俺様の好みじゃねぇんだよぉっ!」
「胸押しあてられて喜んでる癖に。アレは中々の大きさだと思うぞ」
「テメェの女の方がデケェじゃねぇか!」
穂乃香と比べちゃあかん。水奈は決して小さくないのに、フィサリスと穂乃香に挟まれるからよく落ち込んでいる。水奈は神奈やほたるよりも大きいんだがな。
「そう言えばお前、穂乃香の胸にパンチしてたよな――――ぶん殴っていいか?」
「死に掛ける程ボコボコにしたくせに、まだ足りねぇのかぁ……」
それはそれ、これはこれ。
穂乃香の胸の感触を他の野郎が味わって良い理由にはならん。
「世話係を付けるにしても人を変えろ、チェンジだぁ!」
「簡単に言うな。お前相手に臆さず、悪感情持たず世話が出来る奴は早々居ねぇんだよ。おっさんが派遣されて来て身体洗われるより、卯月団長の方が良いんじゃないか?」
まあ、臆さない奴はいるよ。ニンファーとか。あいつは俺の指示なら確実に果たして見せるだろう。
でも俺は卯月団長を応援するって決めたからな。何よりそっちの方が断然面白い。
「――っと、そろそろ卯月団長が調合の仕事を終えて、こっちに来る頃合いだな。邪魔者は退散するとしよう」
「――! 待て……まだ話は終わってないだろぉ……?」
引き止めんなよ……野郎に袖を引かれても嬉しくない。
「話し相手なら卯月団長がしてくれるだろ。俺はあのほわほわ相手に、長時間話すのは少し疲れるけど」
「その自覚がありながら俺様の世話係にしやがったのかぁぁぁあああ!!!」
もちろんだ。むしろその自覚しかなくて、お前の世話係にしたまである。
まあ、卯月団長自身が、グライブに臆さず、敵意も無いって事も重要ではあったがな。
戦闘力は皆無だが、精神面で言えばかなり強かだと思う。鈍感とも言えるが。
「ああ、卯月団長にお前を連れて、この国の案内をして貰う様に頼んでおいたから。楽しんで来い」
「――――――――」
「デート資金はやる。案内は任せても、エスコートはキチンとするんだぞ。じゃあな『テレポート』」
「――――……月島ぁぁぁああああああ!!!!!」
資金をやったのに、地下から叫び声が聞こえた。
不自由ない額を渡したつもりなんだが……少なかったか?
卯月団長には、何故地下の大部屋に向かう足取りが軽いのか、何故グライブに街案内をするのが楽しみなのか。その辺を理解して貰う所からだな。
まだまだ時間は掛かりそうだが、焦る事は無い。ゆっくり育んで行けば良い。
卯月団長は22歳、グライブは20歳だ。グライブの方が年下という事実。
でもニンファーと同い年と言われると何となく納得できる不思議。
ミラが18……最近の若者は年齢の割にしっかりしてるなぁ。




