協力者
夕食を終え、水奈の部屋へと向かおう……と思ったんだが、
奴が、奴が俺を探している。
俺としては一秒でも早く水奈の下へ行きたいんだが、
水奈の部屋に向かうルート的に、このままだと出くわしてしまう。
まあ、仕方ないか。奴も限界だ。
むしろ6日間よく耐えたと褒めるべきだよな。
「あ、お兄さん~奇遇ですね~!」
何が奇遇だ。探してたくせに。
「いつも言ってるだろ? 俺はお前の兄じゃない」
「いつも言ってるじゃないですか。水奈のお兄さん。略して『お兄さん』ですよ~」
神奈美鈴。コイツが俺を探す理由なんて一つだ。
俺はコイツが、日坂目的で俺に近づいた事を知っている。
コイツは俺が、日坂目的で近づいた事に気付いている事を知っている。
そんな神奈が俺に対してどうなったかと言うと、
「いや~それにしても最近のお兄さん、男子からの嫌われ方が凄いですね~!」
神奈 美鈴
ストレス 95
コイツ俺の前で猫かぶるの止めやがった。
俺を探してた理由? 憂さ晴らしだよ憂さ晴らし。
クラスメイトの前じゃ猫をかぶり、水奈や穂乃香には当たれない。
じゃあどうするか、ちょうどいい標的が居る。
「ああ、まあな。つってもどうしよもねぇだろ?」
「最近穂乃香がキレそうと言うか、キレてるんでどうにかして下さい。訓練参加しないんですか~?」
「お前鑑定に何を訓練しろって言うんだ。ステータス見えるだけだぞ」
「まあ、そうですね。使えませんね~」
ぐふっ。使えないとか言うんじゃない。
鑑定士が泣いてるぞ。
「でもだったら、もう少し上手く立ち回って下さいよ~。お兄さんがヘイトを集める事で被害が及ぶのは、水奈と穂乃香なんですから」
これでも結構頑張ってるつもりなんだけどなぁ……
「あーまあ努力する」
「ホントですかー? お兄さんってやる時はやるけど、やらない時全くやらないじゃないですか~」
「当たり前だろ。どうしてやらなくていい時に頑張る。俺は休みたいんだ」
「うわ~ダメ人間の発言だ。お兄さん日坂先輩が居なくなった今、水奈に愛想つかされたらお世話係居なくなりますよ?」
「その時は穂乃香に頼む」
「ヒモだ、ヒモがいる」
うるさい。大体水奈が俺に愛想つくなんて事ある訳ないだろ。
……ないよね? 大丈夫だよね?
っていうか日坂には世話された覚えねぇよ! あいつ居ると便利だったけど!
「はぁ、どうしてこっちが残ったんでしょうね……」
「俺が残って無かったら誰が穂乃香を抑えるんだ?」
「お兄さんで良かったです!」
すがすがしい程の手の平返しである。
でも結局こいつはそうなのだ。日坂が居なくて寂しいのである。
「日坂だってスキルが優秀だったから前線に出されただけで、レベルが高いわけじゃ無いだろ? スキル使ってるとき以外は俺とそんな変わんないと思うぞ?」
あいつ実質今ニートだし。
「お兄さんと日坂先輩を一緒にしないで下さいよ! 前線で大活躍の先輩と、訓練にすら参加しないお兄さんとでは天と地の差です。太陽とすっぽんです」
「お前俺を月からすっぽんにまで下げやがったな。返せよ、天に返せよ」
「ダメです~! お兄さんはすっぽんで十分です~。亀じゃなくてトイレの方」
「そっちのすっぽんかよ!」
掃除用具じゃねぇか。
神奈 美鈴
ストレス 85
「それで? 少しは気は晴れたか?」
「……お兄さんやっぱり分かってたんですね。分かった上で相手するなんてМなんですか~?」
「アホか、俺はノーマルだ」
ノーマル……だよね? そうだよね!?
水奈はМ、「いじわる……」って言いながら実は喜んでる。可愛い。
神奈はS、反応の面白い水奈や俺を弄って楽しんでいる。俺含まれてる!?
穂乃香は両方、あいつは俺に苛められたくもあるし、俺を苛めたくもある。
あいつ俺の事大好きすぎだろ。
「ただ、お前に壊れられると水奈や穂乃香にダメージが行くからな。仕方なく、仕方なーくお兄さんが捌け口になってやろう」
「うわっ偉そー」
君ちょくちょく敬語抜けるよね。別に良いけど。
「まあ、でもいいなら使わせてもらいますね~。私も余裕ありませんし」
「別に構わないが時間ある時に頼む」
「お兄さんに時間無い時があるんですか~?」
「ある。今だって水奈が待ってる」
「あーはいはいシスコーン。私はそこそこ満足したんで、どうぞいってらっしゃ~い」
神奈にシスコン扱いされながら別れて水奈の部屋へ向かう。
ナチュラルに今後、神奈の捌け口相手をする事が決まった。
しかし、変わるものだな。
まさか、神奈との掛け合いが心地いいと思う日が来るなんてな。
俺と神奈はギブ&テイクだ。
俺は水奈と穂乃香の為にあいつを利用し、あいつはそこに日坂が加わる。
互いに遠慮はしないし、損得でしか見ていない。
だが、俺と神奈はそれでいい。
互いの大事な者が一致した。ただそれだけの協力者だ。
今はそんな事より、寂しがっている水奈の下へ行かなければ。




