気遣い
それぞれの戦果に応じた褒賞授与式……言うのは簡単だが、内容を考えるのは大変だ。
全員が全員、金が欲しいと言うのであれば楽なんだが、うちの者共はトップに近い奴ほど金では動かねぇ。
アマリリスやユリみたいな、特定の人物に固執した望みの奴も居るが、ほとんどは欲が薄い……ほとんど自身の使命として戦いに参加してやがる。
臣下としては有難いが、褒賞の与えがいが無い。だが国家として戦果を上げた者に褒美を与えない訳にはいかない。
とりあえず北の戦いに参加し、国内防衛戦にも参加してグライブの左腕を取って見せたアイリスと、リノを身を挺して守り抜き、リコリス討伐にも貢献したほたるは、侯爵に昇格させた。有無は言わせない。
穂乃香の護衛として役目を果たせなかったと、不甲斐無さを感じているセバスチャンには戦闘に参加した事への褒賞金は出した。変に爵位なんて与えると、俺はこいつの失敗に対し褒めた事になる……セバスチャンが俺に向ける忠誠心に背きたくはない。
パープルニア大将格討伐に大きく貢献したフィサリスには、魔王軍関係者の相手を自分にさせろと言われかねないので、公爵に昇格させた。本人は爵位なんてどうでも良いだろうが、褒美はやった。後は私生活で還す。
北の戦闘の総大将を務めたグラジオラスや、勇者四人を倒したロータスには、上げれる爵位が無い為、褒賞金を多めに出した。大公は日坂だけだ、その日坂にも褒賞金を多めに出した。
アマリリスは戦闘参加の褒賞金のみ。アイリスが関係しなきゃ傍観の腹積もりだったからな。それに対し俺は文句は言わないし、向こうもそれで納得している。
イクシオンは伯爵に昇格、ピアニーは爵位の代わりにアーメルト子爵家領地を与えた。ピアニーはホワイトール訪問の際やその後も働いたし、昨日も怪我人を透視で見つけて自警団本部に搬送するのに大きく貢献したからな。遠すぎる飛び地だが、好きに使え。
エリスとケレスは子爵に昇格。こいつらの戦闘力は魔法師団トップとして十分な物だ。ただまだ若い……今後の成長に期待だな。
リリーには故郷の村の土地を与え、エリーザにはホワイトールと我が国の貿易を積極的に行っていく事で了承を得た。
神奈とラミウムは夫が爵位を持っている為、本人達が持つ必要がさほどない。その上金は夫が多く貰っているという事なので、子育て応援セットを贈呈した。出産祝いの時に渡した物とはまた別物である。というかこの辺に関してくると、別に普段からも渡している気がするので、わざわざ褒賞とする必要が無かったりする。だがもう気にしない。
問題は穂乃香、水奈、リノの3人だ。王妃、王女であるこの3人には与える爵位が無ければ、金銭はほぼ俺管理だ。まあ、穂乃香も水奈も私生活で還すしかないな。
リノはホーリードラゴンのティムに向けて、今後は全て自力で召喚獣を増やしていく事になった。故に幻獣プレゼントという訳にもいかない。なのでその活動資金として多めのお小遣いを上げる事にした。王女のお小遣いとあり中々の額だ。
まあ、それだけの働きはしている、リコリスを討伐したわけだからな。世界規模の害虫を駆除したと言っても過言では無い。
ただリノよ、ベヒモスやリバイアサンをティムしようと言う、志は高くて良いと思うんだが……そんな馬鹿デカい奴ら何処で飼うんだ?
いや、百歩譲ってベヒモスは良いとしよう、陸上だからな。国内でも端の方になるが土地はある……リバイアサンが住める湖はうちにねぇぞ?
ゴウですらあの大きさで過ごしにくそうにしてるのに……マリンが作った栖公園の湖には入りきれないぞ。
そして忘れ去られるジズ……ベヒモスやリバイアサンと合わせて三頭一体なんて言われてた筈なんだが……まあ、この世界にはドラゴンが居るからな。ドラゴンには勝てないな。
頑張れジズ、負けるなジズ、良い事あるってジズ。
自警団の幹部達や戦闘に参加した兵士達は皆褒賞金を出しているが、幹部の一部が俺の作る炊き出しを食べたがった為、今回もまた炊き出しを作る事にした。
お前ら、リリー達の村で仮眠取る前に食っただろうよ。
だがまあ、良いか。今回は総力戦で上の勝利だ。みんなで祝おうじゃないか。
流石に今は住民全員集めるなんてもう無理だが、王都に居る者であれば誰でも食べれる様にした。出費は嵩むが、パープルニアから賠償金はとった。問題は無い。
毎回今回が最後だと思いながらやってんなぁ……炊き出し……今後も事あるごとにしそうだな。
もうそうなったら俺の自腹切ってでもやるか。国民によって収められた国税だ、国民の為に使おうと問題あるまい。調合薬も安定した収入源となっているし、最悪まだ手を付けてない地下鉱山がある。我が国は経済的に豊かだ、溜めこむのも大事だが、使わない事には経済は活性化しないからな。
締める所はキチンと締めさせる。明日からな。
ゴーレム分身を使って大量に作り、多くの者達に料理が行き渡り落ち着いた頃、俺の下に文句のある者がやって来た。
「――お兄さん。異世界交流を育むのは勝手ですが、それに穂乃香達を巻き込まないで下さいよ」
「…………俺だって好き好んで、あんな戦闘狂と知り合った訳じゃ無いんだけどな」
「お兄さんがリノちゃんの為に、ホーリードラゴンへ戦いに行った事は理解しました。その後に例のドラゴニュートに目を付けられたことも……でも、ならその時に戦えば良かったじゃないですか。お兄さんがそれを面倒くさがったから、今回こんな事になったんじゃないんですか」
「…………俺だって1人で戦うには厳しい相手なんだぞ?」
「でも今回圧勝してますよね? しようと思えば出来た事なんですよね?」
「……周りの被害を度外視すればな」
「それこそ国外でやって下さいよ。それなら王城が凍り付く事も無かったじゃないですか。お兄さんが目を付けられた時に戦わなかったから、みんなが傷つき――穂乃香は死に掛けたんじゃないんですか?」
「――――その通りだな」
神奈は溜め息を吐くと、真剣な顔を止めた。
「はい。『周囲は誰も責めてくれない、責めて貰いたいのに』と言う、ドМなお兄さんの為にわざわざ責めて上げたんですから、もううじうじしないで下さいね。国王なんですから」
「ドМじゃねぇし、うじうじもしてねぇだろ。罪に対し、赦されるより罰せられる方が心は楽だと言うだけの話だ」
「その思考がドМだと言っているんです。赦されたなら素直に受け取って置けばいいじゃないですか。お兄さん、そういう所面倒くさいですよね~」
「…………気遣わせて悪かったな」
「……別に。私は言いたい事言っただけなので」
情けねぇな……穂乃香に加え、神奈にまで気を遣われるとは……
いや、神奈だけじゃ無い。言わないだけで他の面々も気を遣ってくれている。申し訳ねぇ。
ただ、その気の遣い方として、神奈は俺の求めるモノを示してくれただけだ。
実際に自身が被害を受けたわけでは無い上に、神奈の性格だからこそ出来た事だ。
転移直後からそうだったが、普通は他人に対し言葉にし辛い事を、迷わず言葉にして俺に投げつける神奈の存在は、俺にとって有難い。
「そうだ神奈。日坂のスキル『意思伝達』についてなんだがな。今回連れて行った日坂の奴隷はお前以外全員男だったが……日坂の奴隷って女も居るだろ?」
「……? ――!」
「頭に直接囁く様にイケボが流されるわけだ。それを受けた奴隷の女性達は……いったい何を思うんだろうな」
「今すぐ私以外に使わない様、お願いしてきます!!!」
そう言いつつ神奈は日坂の下へ全速力で向かって行った。
声フェチの神奈が戦闘前に日坂の声を脳に聞いて、内心大喜びだったのは確認している。
感覚的には『目覚めよ……時は来た……』みたいなどこからも知れず聞こえる声な訳だが、日坂がそれをやると、よくある乙女ゲームのボイスだからな。
日坂が幹部達に『みんな、良くやってくれた……ありがとう』って伝えた時は、野郎でも一瞬ドキッとしてた奴が居たからな……異性にしたら……ファンが増えそうだな。
ただでさえ俺の合意さえあるなら好きにしろ発言で、敵が増えたって文句言われたからな。
他の奴が日坂に向ける好意は、俺が関与して良いモノでは無い為、摘み取りこそしないが……神奈に少し肩入れするぐらいはな。
まあ、日坂は神奈以外を嫁に取る気は無いけどな。神奈に教えてはやらないが。




