表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
321/346

『心』

 北の国境防衛戦は、ブライトタウン王国軍が勝利を収めた。

 戦いによる被害の後処理が多く残っていたのだが、『後は俺達がやっておくから、嬢ちゃんは先に戻って孤児院の子供達を安心させてやれ』と言われたので、私はそのご厚意に甘えて一足先に王都へと戻って来た。

 そこには、リノちゃんの召喚獣や如月さんを相手に、同等以上で戦う一人の男がいた。

 この男が何者なのかは分からない……けど、確実に一つだけ分かる事がある。

 この男は、国にとって――私にとって、敵だ――――

 

 

 

「――まぁた援軍かぁ? いったいどんだけ湧いて来るんだよ……だが、今回のはそこそこ強そうだなぁ……!」

「……貴方は一体何者ですか……?」

「あん? あんだけ派手にパフォーマンスしてやったのに見てなかったのかぁ? ドラゴンだよ、ドラゴン……そういうテメェは何者だぁ?」


 ドラゴン……? 何かの比喩? いや、人型になれるドラゴンなのかもしれない。

 この世界でならあり得ない話じゃ無い。


「……私は……ブライトタウン王国、月島氷河王の弟子――アイリス」

「月島の弟子……! 俄然楽しみになって来たなぁ! ――――っ!」

「――――――――あらら、気付かれちゃったかぁ~……取れたのは右目だけか」


 音も無く敵に接近していた明君が、敵の右目を切り裂いた。

 ……私も全然気付けなかった。

 

「全く奏ちゃんは……どうして安全地帯で大人しく出来ないかな~。僕も参戦せざる終えなくなっちゃったじゃん」


 私が来なければ参戦しなかったのかこの人は。こんなに味方に被害が出ていても。

 

「ほら、穂乃香ちゃん。いつまでそんな所で寝てるのさ、君総大将だろ?」

「……うるさい。分かってる」


 倒れていた如月さんがゆらりと立ち上がった。

 大きなダメージこそ負っていないようだけれど、明らかに疲労が蓄積して見える。

 如月さんが此処まで苦戦する相手……私も覚悟を決めないといけないかもしれない。

 

「――くっくっくっくはっはっはっはっは!!! この俺様が欠損だと? あぁあ! ああ最高だぁ! そこの女――やすやすとくたばるんじゃねぇぞ……」

「あらら、僕狙われてる感じ? ヤダなぁ~」


 明君は鎌を持っていない右手の指を伸ばすと、くねくねと触手の様にうねらせながら、敵へ襲い掛からせる。

 

「んだぁ!? 化け物の類いだったかぁ!」


 敵はそれに対し、右腕を振るって払いに掛かる。

 敵の右腕と明君の指がぶつかる――――その直前に、明君は指を元に戻した。

 

「――ん? いやいや、僕の指引き千切られたくないし? 気さえ引ければそれで良かったんだよね~」


 敵の意識が指に向いていた間に接近していた明君が、大鎌で切り付ける。

 敵は振るっていた右腕でそのまま大鎌を受け止めた。

 

「うわっ! 腕で刃物を受け止めてるのに、傷が付かないとか無茶苦茶だなぁ。君って化け物の類い?」

「テメェに言われたかねぇなぁ!」

「え~酷いなぁ。ん~……――悪くない角度だ」

「あぁ? ――――っ!」


 明君の攻撃を仕掛けた真逆の方向から、敵に向かって魔力矢が飛来した。

 敵はそれに気付き、咄嗟に左手で受け止めた。

 

「ミィムちゃんが、的が小さくなったのに味方が大きいから、狙いにくそうにしてたんだよね~」

「あの弓兵か……! 小賢しい手ばかり使いやがって……!」

「正々堂々と挑むなんて僕の主義に反するからね!」


 敵の真後ろに転移していた私は、ステータスを全てAGLに振り、跳躍して全速力で敵へと突っ込む。

 

「――まあ、それも本命では無いわけだ」


 跳躍の勢いのまま、ステータスをAGLからSTRに全て変更。

 月島君に貰った、古代竜王の牙で作られた短剣に全てを込める――!

 

「――――っ! がぁぁあああぁぁぁああああああああ!!!」


 私の身体ごと振りぬいた短剣は、敵の左腕を肩から吹き飛ばした。

 そして、左腕を失くし、右腕を明君相手に使っている敵に――拳に冷気を纏わせた穂乃香ちゃんが襲い掛かる!

 

「はぁぁぁあああああぁあああぁぁぁあぁぁああああああ!!!!!」


 穂乃香ちゃんの渾身のラッシュと、トドメの蹴りをくらった敵は勢いよく城壁に叩きつけられた――――

 

 

 

 

 

 左腕が持っていかれた……油断したと言わざる負えねぇな……

 遊び過ぎたかぁ……もう――――加減は無しだ。

 

 

 

 

 

 ――如月さんの連続攻撃で敵は相当のダメージを負ったはずだ。

 だけど油断は出来ない……敵の実力の底が見えない……まるで月島君を相手にしてるような――!

 

「…………ドラゴン……?」


 砂埃が晴れた先に見えたのは……身体を覆い尽くす鱗、背中に生えた翼、大きな尻尾……でも普通のドラゴンでは無い。

 目の前に見えるソレは――――人型をしていた。

 置き上がったばかりの敵に魔法矢が飛来した。

 

「――!? 弾いた!?」


 腕で弾かれたのではない、直撃をした――にも拘らず、身体を覆う鱗に弾かれた。

 それはつまり……ラミウムさんの魔弓術でもダメージが通らないと言う事だ。

 アレは何か不味い――っ!!!

 

「――――が、はっ…………奏、ちゃん……逃げ――」


 いつの間にか私の目の前に移動していた明君が、一瞬にして目の前に現れた敵に腹部を貫かれていた。

 私が反射的にステータスの全てをDEFに変更すると同時に、貫かれる様な強い衝撃が私を襲った――――

 

 

 

「弓兵も倒してきた……残すはテメェだけだ月島の女」


 アイリスとアマリリスが一瞬で倒された……それだけじゃ無い……少し居なくなってすぐに戻って来たが、その間にラミウムまで倒してきた様だ。

 …………コイツっ!!!

 

「――けど、もう興が覚めた……テメェじゃ俺様の相手にならねぇ」

「――!」


 反射的に後ろに跳ぶと同時に胸の前に腕をクロスさせた。

 右腕、左腕の骨の砕ける感覚、乳房に走るとてつもない激痛と、あばら付近に嫌な音が鳴り、視界が一瞬にして遠ざかった――

 

「――――~~~っ!」


 背中に何かがぶつかって激痛が走る。けれど、悲鳴すら出す事が出来ない。

 地面に転がり、嗚咽と共に口から血が噴き出る。

 まだ…………まだだ……立つんだ私……!

 氷君なら……氷君ならこの程度の怪我で諦めたりしない!

 腕を使えば激痛が走る……なら脚を使えばいい……重力魔法で体勢を起こし立ち上がる。

 私はまだ――負けてない!!!

 

「――立つかぁ……だが立って何になる。テメェじゃ俺様には勝てねぇつってんだろ」


 うるさい。そんなの関係ない!

 私は氷君に留守を任されたんだ……! 氷君の大切な人達を守り抜けず、その上で敗北なんてあってはならない!

 私は氷君の妻……この国の王妃! 月島穂乃香だ!!!

 

「――――潔くなんて文字は無い! 穢かろうが醜かろうが、最後まで意地汚く床這いつくばってでも戦い抜く! それが『月島』の心だ!!!」

「――――はっ……そうかよ……!」


 敵の背後へ転移して、後頭部に右脚で蹴りを叩き込む。

 敵にダメージは入った……だが、私の右脚もダメージを負い、蹴りを入れるだけでも口から血が漏れる。

 

「――!」

「そらぁっ!!!」


 右足を掴まれ投げ飛ばされる。

 勢いを殺し、地面にぶつからない為に、転移して左脚を軸に体勢を立て直すが、目の前にすぐ敵が現れる。


「――終わりだ」 


 敵の拳が私に向かって振りぬかれ――

 

「――――――あん? んだテメェ……まだ援軍が居やがったのか」

『…………』


 吸血鬼が振るった巨大ハンマーによって拳は弾かれた。

 ……水奈の護衛の吸血鬼…………此処に居るって事は――――!

 

「――穂乃香っ!!!」

「……どうして…………出てきたの…………水奈っ……!」

「ダメ! 喋らないで!」


 水奈が私の治療を始めようとする……駄目、それより水奈を早く逃がさないと。

 吸血鬼がドラゴンを抑えているが時間の問題だ……

 

「水奈…………今すぐ逃げて……私が、どうにかするから…………!」

「そんなボロボロで何言ってるの!!!」


 くっ……こうなれば、一旦水奈を連れて出来るだけ遠くに転移して、私だけ――

 

「――――パワーもスピードも悪くねぇがな吸血鬼ぃ……技がお粗末過ぎんだよっ!」

『――がっ……!』

「これじゃあ、最初に戦ったジジイの方がまだ強ぇ……宝の持ち腐れもいいとこだぁ」


 吸血鬼がやられた……水奈を避難させる時間もくれ無さそうだ……

 

「――エリーザちゃんっ!」

「――おい、ガキぃ……テメェなんでこのタイミングで出てきたぁ……無駄に犠牲を増やすだけだとは思わなかったのかぁ……?」

「――っ……これ以上…………これ以上穂乃香が、みんなが……私の大切な人達が! 傷付くのを黙ってなんて見て居られなかった!!!」

「それでテメェが出て来て何になるって、話をしてんだよ雑魚ぉ!!!!!」


 敵が拳を水奈に振るう――――水奈はそれを盾で受け流した。

 

「――――――あぁ?」

『グランドウォール!!』『メイルストローム!!』


 敵の足元の地面が大きく沈み、大量の水が勢い良く投下される。

 落とし穴からの水攻め……一般人なら簡単に溺死してしまうが――

 

「――おいおい……えげつねぇ事するじゃねぇかぁ……こっちは片腕無くしたばっかりだって言うのによぉ……」


 敵は翼を羽ばたき、水流に押される中強引に飛び上がって来た。

 そこへ土の大精霊が沈めた分の地を使って、尖らせて敵へ差し向けた。

 

「しゃらくせぇ!」


 押し寄せる土塊を右腕一本で全て破壊すると、敵は水奈に襲い掛かった。

 

「――――っ! ぐぅうぅううう!!!」

「おらおらおらおらぁあああ!!!」

 

 水奈は襲い来る攻撃を、氷君との訓練で得た経験と、水奈自身の持つ直感で何度かは凌いでみせたものの、限界が訪れ盾を弾き飛ばされてしまった。

 丸腰となってしまった水奈の首が掴まれ、宙に持ち上げられてしまう。

 ――――私の水奈になんて事するんだ、この駄竜!!!

 

「――大人しくしてろ女ぁ」

「――かっ……! ごふっ…………」

「…………ほ……のか……っ」

「ガキ。テメェ、今回俺様に挑んで来た奴の中でも一番弱ぇな。強ぇ奴ってのは見ただけでも何となく分かる……テメェにはそれを全く感じねぇ……そんな奴が俺様に挑むって言うのはなぁ、勇気とは呼ばねぇ――蛮勇っつうんだ……! ――はき違えんな雑魚」


 水奈の首から手が離され、水奈の身体が重力のままに落下する…………敵はそれに合わせて足を後ろに振り上げ、水奈の頭に――――

 

「――――――――っ! っがっ……!」


 ――――悲鳴は、ドラゴンから上がった。


「…………お、にい……ちゃん……」 

「…………おい、駄竜――――俺の妹に何してやがんだてめぇ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 仮に誰かが死ぬことになって逆ギレした所で、ピンチにもかかわらず何処ぞほっつき歩いている輩の自業自得って話よな(笑)
2020/02/22 20:52 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ