『弱肉強食』
『おら! おら! どうしたぁ!!!』
「くっ…………」
この竜……硬すぎる……!
炎に対し、水で相殺を試みているけど、属性の相性なんて関係ないと言わんばかりに打ち消される。
まるで炎に水が吸われているみたいに…………水が吸われている……?
………………試してみようか。
「ハァっ!」
『ぐっ!?』
水から電撃に変えて蹴りを入れたら、今までよりもダメージが入った……!
雷が弱点……? いや、まだ判断するには早い。
私はこの世界の属性の概念に囚われて、このドラゴンの弱点は水だと考えた。
でももし、そうでないならば…………
「はぁぁぁあああああああ!!」
火は――雷と変わらない。
つまり雷が弱点なのでは無く、このドラゴンは水に強かったのか。
風は――雷と変わらない。
土は――またしても変わらない。
氷は――――――攻撃を避けた……?
「……氷か」
両手両足に冷気を纏う。
ドラゴンのこちらへ対する警戒度が上がっているのが、目に見えて分かる。
『ちっ! 気付かれたか…………だが、少し遅かったなぁ。そっちのジジイはもう持たねぇぞ!』
「…………ハァ…………ハァ…………私も、年老いましたなぁ…………」
敵の攻撃を防ぎ続けていた執事が肩で息をしている。
ドラゴンは軽々と攻撃してくるが、それを受け止める執事は、一撃一撃を全力で行わねばならない。
体力の消耗度が違う……このままだと私がドラゴンを倒すより先に、執事がやられる。
「……セバスチャン、下がりなさい。後は私が戦います」
「――いえ……それは、出来ません…………妃様に何かあれば……私が陛下に叱られますからな……っ!」
『――――そうか。じゃあ叱られて来い!!!』
ドラゴンの振るった尻尾が、執事を王城の壁へと吹き飛ばす。
今までの戦闘の中で一番重い攻撃……弱点がバレた事で敵の余裕がなくなったか。
死んではいないと思うが、水奈が回復をしてくれても戦闘の復帰は不可能……私はドラゴンと一対一になった。
『さぁ……遊ぼうぜ月島の女ぁ!』
「……私、氷君以外の男お断りなんだけど」
敵の爪と私の拳がぶつかる。弱点属性を付いても相殺がやっと……ふざけた攻撃力だ。
敵は爪に交えて、尻尾も振り回してくる。これを直撃で受けるのは不味い……転移で避ける必要がある。
一対一になった事で攻撃がまともに当たらなくなってくる……このままじゃMPが先に切れてしまう……――
『――――痛っ! なんだぁ? どっからの攻撃だ!!!』
ドラゴンの頭に魔法矢が刺さっている――っ!
バカラミウム! 碌な回避手段を持たないくせに、狙われる様な真似を!
『――! そっちかぁ!!!』
ドラゴンがラミウムに向かって飛んでいく。
させるか――っ!
転移で先回りし、『グレイシャー』を放つ。
『「ファイヤーブレス」邪魔だぁ!!』
氷の弾幕は敵のブレスによって消し飛ばされ、私自身の攻撃も躱されてしまった。
ドラゴンの爪がラミウムへと迫り――――――ラミウムの姿が消えた。
あれは転移……透視の暗殺者か…………今回だけは、よくやった。
「――ラミウム様! 無茶はなさらないで下さい!」
「――――……ピアニー様…………あのドラゴンを囲むように連続の転移は可能ですか?」
「…………可能ではありますが、しかし――」
「――穂乃香様お1人では限界があります……出兵中の兵が戻るまで耐え抜かねばなりません――――我々は今、国家の底力を試されているのです!!!」
『おいおいおい……こりゃ何の冗談だぁ?』
ラミアに、グリフォンに、ケロべロス……喰らい合うだけの獣共が、仲良しこよししてやがんのか。
それに関しては別に良い。牙抜かれたと言うだけの話だ。
問題は人間、魔族と違い、完全な弱肉強食であるこの獣共が、頂点であるドラゴン《おれさま》を囲んでいやがる事だ。
『人族に飼われて思考まで人族に染まったかぁ? テメェら俺の前に立つってどういう意味か分かってんだろうなぁ……』
『…………分からない訳ないでしょ。今だって震える体を、逃げたくなる本能を、どうにか押さえつけてんのよ』
『本能に逆らってでも、俺に歯向かう義理が人族にあるってぇのかぁ?』
『……違うわ。理由なんて単純よ――――アンタなんかより! 本気でブチギレたボスの方が何百倍も怖い!!! 穂乃香に何かあってボスが我を失ったら、国家消滅なんて物じゃ済まないわよ! アンタに挑む方がまだ存命確率が高いわ!!!』
ボス……? 月島か? 俺様より月島の方が怖ぇつったのか……?
俺様より人間が怖いと……?
『くっくっくっく! はっはっはっは!!! 良いぜ獣共! テメェらに現実を教えてやる!!!』
月島が来るまでは『ドラゴン』として遊ぶつもりだったが――止めだ。
竜化を解いて、元の姿に戻る……ああ、良い反応だ。
『人体化……ドラゴニュート!? ――――っ!』
「…………遅ぇ」
ラミアの胴体に右腕を貫通させる。
俺様の動きに反応し目で追えたのは、月島の女だけみてぇだな。
やっぱ他は相手にすらならねぇか。
ラミアの胴体から腕を引き抜き、女の蹴りを左腕で受け止める。
もれなく冷気を纏ってんのが厄介だな……だが、獣共は大将が潰された事で大人しく――
『――貴様ぁぁあぁああああぁぁぁぁあああああ!!!!!』
「……あん?」
マーメイドが鬼の形相を浮かべて高圧縮水流を飛ばしてきやがる。
ラミアがやられてブチ切れたか? 陸の上なのに粋が良いじゃねぇかぁ!
「――おらぁ!」
『――――駄目よ! マリンちゃん!』
俺様が拳を振りぬく前に、マーメイドがスライムに飲み込まれ、広範囲に広がったスライム体の中に移動された。
緊急避難が可能な移動型水路か? 邪魔くせぇな――――
「『ファイヤーブレス』」
『――嘘っ!? 人型でも出来るなんて聞いてないわよ!!!』
スライムの大半を消し飛ばした。恐らく中に居たマーメイドも一緒に燃えたな。
『「ブリザードストリーム」!!!』
「まだいんのかぁ!」
月島の女とは別方向から氷魔法が飛んできた――――あれはレイスか。
動こうとした時、地面から生えてきた蔓が俺様の足に絡み付いて来やがった。
植物系がいるな……だが、この程度じゃ俺様は止まらねぇ!
蔓を引き千切ってレイスへと接近し、拳に青き炎を纏わせる。
霊体と言えど、炎のダメージは入るだろ――
「――させるかっ!」
「お前の相手は後だ女っ!」
度々転移から奇襲してきやがるが、こいつとの戦いを楽しむよりもまず、外野の排除が先だ。
蹴りに蹴りを合わせてぶつけ、脚力で強引に吹き飛ばす。大したダメージは入らずとも時間稼ぎにはなる。
レイスを始末するか。
『ダメェェええええええええ!!!』
「失せろ鳥ぃ!」
レイスの前に入り込んできたハーピーをレイスごとぶん殴る。
ここの獣は面白ぇな。ラミアが倒されて激怒するマーメイドに、レイスを庇うハーピー……本来喰らい合うだけの獣の癖に、仲間の様に本当に仲良しこよししてやがる。
だが……実力がある方の獣はこれで最後か。後は動けそうにねぇな。
「――それじゃあ、月島の女ぁ……こんどこそ――」
一対一で……そう思った矢先、土塊で出来たナイフが、俺様の上空から降って来やがった。




