如月穂乃香
穂乃香を俺の部屋に連れてきた。
「どうしたの氷君? 今日は何も無かったよ?」
如月 穂乃香
憤怒度 40
俺の下へ来ると、下がるのは相変わらず。
「なあ穂乃香――お前なんか、表情硬くないか?」
「――……そんな事ないよ。氷君の気のせいだよ」
「そうか、なら良いんだが」
如月 穂乃香
憤怒度 0
これは俺と穂乃香が中学時代にしていた掛け合いだ。
穂乃香は幼い頃から同性に嫌われやすかった。
幼稚園でのあだ名は『お人形さん』
見た目が当時から可愛い事もあったが、
穂乃香は昔、今以上に感情表現が乏しかった。
愛想が悪く、笑わず、怒らず、泣きもしない。
実は良く見れば細かく変わっているのだが、それに気付かない者からは気味悪がられていた。
そして穂乃香は、そんな現状を諦めていた。
嫌な事を嫌と言わず、諦めて従っていた穂乃香を見ていられなくて、俺は無理矢理特攻していった。
まあ、当時から喧嘩は弱かったから、負けてる事がほとんどだったけどな。
穂乃香にしてみれば最初は意味分からなかったようだ。
親同士が仲が良く、家が近い。
それだけの存在であるにも拘らず、自分の為にボロボロになっているのだから。
俺と水奈、月島兄妹は穂乃香を放っては置かなかった。
世話焼きというかお節介というか。
水奈に至っては昔から天真爛漫だったから、穂乃香の手を取っては色んな所へ連れ出していた。
穂乃香はそんな俺らと一緒に居る事で、少しずつ笑う事が増えていった。
小学生になると穂乃香に対し、澄ましてる、調子乗ってると言う女子が増えた。
それも同級生より多かったのは上級生だ。
でも穂乃香は小学生の時点で他人に興味を無くしており、俺と水奈以外どうでも良かったからな。
これっぽちも気にしていなかった。それが余計に腹立たせた。
小学生は感情に割と素直だ。穂乃香を呼び出し暴力を振るった者がいた。
そして穂乃香は――暴力振るった上級生を叩き潰した。
あいつ喧嘩強いんだよ……俺目的に将棋部に入りはしたが、あいつスポーツ万能なの。
小学生の内は男子とも体格差なく戦える……でも中学生からは難しいかもしれない。
そうだ、護身術を習おう!
って倒す方向にシフトチェンジしたのが丁度その頃。
邪魔なら全部倒せばいいじゃない。の思考に至った穂乃香を、俺と関わる事が増えた日坂と一緒にひやひやしながら見ていた。
もちろん止められる限りは止めたんだよ?
でも俺もずっと穂乃香を見てられるわけじゃないしさ?
で、中学になると穂乃香も少しは落ち着いたわけ。
でも同性に嫌われるのは相変わらずで、小学生の時とは違い陰湿な虐めを受け始めたの。
だけど陰湿なのとなると俺も気付けなくて、その上心強いから穂乃香もあまり気にしてなかったの。
そんな穂乃香を見て、俺が言ってた事がさっきの言葉。
『なあ穂乃香。お前なんか、表情硬くないか?』
否定された後は毎回表情が和らぐから、気のせいかと思ってたんだけど、
穂乃香は微かに苛立ってる事を見抜かれて、『良く見てくれてるんだ』って喜んでたらしい。
穂乃香の俺大好きは中学生にして既に健在。
んで、虐めの標的が穂乃香の傍に居て、中学生になっても変わらず天真爛漫であった水奈に変わってから、
穂乃香がブチ切れて、上級生に土下座させるなんてこともあって『如月穂乃香を怒らせてはならない』は現在、高校にまで響き渡ってたりする。
神奈が悲鳴を上げるのも納得である。
因みに土下座させられた俺の同級生は、『日坂に見放される』という称号を得ました。
まさに踏んだり蹴ったり。ざまあ。
さて、何となく分かって貰えたと思うが、
穂乃香の弱点は月島兄妹、俺と水奈だ。
俺らが害されるのを嫌い、穂乃香自身が害するなど持ってのほかだ。
故に穂乃香が怪我して水奈がいっぱいいっぱいになった時は、穂乃香も弱っていた。
俺に向けられる敵意を気にしないのは難しいだろう。
穂乃香の怒りが一番溜まるのは報告会の時だ。とするならば――
「なあ、穂乃香。今後も夕食前にこうして会えないか?」
「私は良いけど、どうして?」
そう理由なんだよな~……穂乃香が怒ってるからとは言えないし。
うーむ、ここはストレートに行くか。
「俺がそうしたいからだ……ダメか?」
「――! ううん。全然いいよ」
(つまり……氷君は私と一緒に居たいって事!? きゃー! やったー!)
内心大騒ぎである。
うん。言って俺も少し恥ずかしかったから、あまり言わないで。
怒りを忘れ、喜びで溢れた穂乃香と共に夕食へ向かった。




