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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
317/346

『磔』

 敵兵に…………クラスメイトがいた……

 事前にその事は聞いていたけれど……ロータスさんに通して貰わなければ……かつて同じ教室で学んでいた相手と、戦う……殺し合う事になっていたかもしれない……

 私達と来てくれる人がお母様だったら、彼らは容赦なく殺されていたかもしれない。

 ロータスさんは、殺さない様に倒す術に長けている……彼らが殺される事は無いと思う。

 彼らが氷河先輩を拒絶し、敵軍に属して私達との戦争を受け入れている事は理解している……分かってはいるけれど……

 ……かつての知り合いが屍になるところは、やはり見たくないと思ってしまう――

 ………………そちらに気を回している場合では無い。私達はこれからあのリッチと決着を付けるんだ。

 心を入れ替える為に大きく深呼吸を行う。左手にはリノちゃんの温もりを感じる。

 ……うん。もう大丈夫、何も怖くない。

 リノちゃんと共に謁見の間へとたどり着いた。

 

「…………誰も、居ない……?」


 人影すら見えない伽藍堂。事前情報では謁見の間に居ると聞いているが、氷河先輩達から情報を貰えるロータスさんとは離れてしまった。

 詳しく聞くことはもうできない。

 

「――! そこ」


 リノちゃんが何かを感じ取ったのか、勢いよく振り向き、虚空へと鞭を振るった。

 振るわれた鞭は見えない何かにぶつかり、弾かれてしまった。

 

『――視覚情報を消し、気配も隠していたつもりなのですが…………全く、親同様の呆れた索敵能力ですね』

「――!」「…………」


 鞭がぶつかった地点の空間が微かに歪み、半透明……徐々に色が濃くなり、氷河先輩との訓練時に見せて貰ったゴーレムと、同じ顔をしたリッチが現れた。

 ……あれから一年経った、痛みを感じる筈など無い……無い筈なのだが、私は背中に痛みに似たナニカを感じる。

 ……恐らくこれが疼きというものなのだと思う……

 ゴーレムで何度も見ていても、いざ本物を目の前にすると、訓練時に比べて身体が硬直してしまう。

 強張っているのか私は……拳を握りしめて自分を律する。

 私の前に立つリノちゃんは恐ろしく静かだ……いや、鞭を持つ手は強く握り締められてる。リノちゃんも冷静さを保とうとしている……私が取り乱す訳にはいかない。

 

『――おや、貴女……生きていたのですね。てっきり死んだものかと思いましたが…………いや、しかし理解しがたい。折角助かった命を再び捨てに来るなんて』

「……捨てに来たんじゃありません…………私は救われたこの命で――貴方を倒しに来たんです!」

『その考えが愚かだと……いえ、学べなかったから此処に居るのでしょうね……頼みの幻獣もこの場には呼べない……――イレギュラーの娘、その騎士。貴女達を葬り、その首をあの男に送り付けて上げましょう』

「…………ほざけ」

『「サイクロン」』


 リッチの放った風魔法を私は右に、リノちゃんが左に跳んで回避する。

 敵の扱う魔法は、風、氷、空間とリッチになってから取得した闇。この場で空間魔法が使えないのは向こうも同じだから、使われるのは風、氷、闇の三つ。

 私が扱えるのは火と氷。リノちゃんが聖と空間。風に強い氷と、氷に強い火、闇に強い聖と相性は良いが、火は前回、敵に利用されてしまった。

 だから今回は無理に火を使わない。風には相性が良く、氷とは相殺になる氷を使う!

 両手に持つミスリルの剣を強く握る……氷河先輩、私に力を下さい――

 

「――『アイスクラッシャー』!!!」

『――――! くっ……!』


 『――ほたる、お前の剣術は二流で、魔法も二流だ。普通の奴には勝てるが、一流の奴にはどうやっても勝てん』

 『……はい』

 『でもな、お前は剣士でも無ければ魔法使いでも無い――魔法剣士だ。固有スキル『魔剣術』を使う、魔法剣士としてのお前は……一流だ。なら、わざわざ敵の得意分野に付き合ってやる必要は無い――』

 ――……一年前の私は魔法戦で無様に負けてしまった。

 私の魔法は二流、一流には敵わない……けれど、氷河先輩は私を魔法剣士として一流と言って下さった。

 ならば私は……私は先輩に一流と呼ばれたこの技で、勝ってみせる――!

 

『白兵戦は……あまり得意ではなのですが……ね!『アイスロッド』』


 リッチの持つ杖に氷が纏い始めた。『魔棒術』……使って来る可能性も聞いていたし、魔棒術を扱うケレス君との戦闘訓練もさせて貰った。

 剣と杖を数回打ち合っただけでも分かる。ケレス君の方がずっと強い。

 リッチというアンデットの最高種故にステータスは高いのかもしれないけど、武術の馴れを感じない……そんな小手先の技に負ける訳にはいかない。

 

「――『ホーリーカッター』」


 リノちゃんが左側から回り込んで、リッチに向かって聖魔法を放つ。

 アンデッドのリッチにとって聖魔法使いは天敵だ。

 リッチからすると、リノちゃんを先に倒して置きたいのだと思うけれど、そんな事は私がさせない。

 リッチは私の右へと徐々に位置を変えて、私を壁とする事でリノちゃんからの援護をしにくくさせるつもりの様だ。

 打ち合いの中、リッチ、私、リノちゃんがついに一直線に並び、聖魔法の援護が出来なくなった。つまり――――準備は整った。

 

 

 

 リッチとなったこの体で、ここまで苦戦する事になるとは思わなかった。

 目の前の女騎士は確かに強い。けれどステータスで言えば私が勝っている。

 一撃……一撃させダメージを与えれれば、戦況は一気に変わる――っ!?

 

『――がっ……!?』


 ダメージ!? 女騎士では無い……イレギュラーの娘か!

 魔法では無く鞭を……間に味方が居ると言うのによくも――!?

 

『ぐっ……! うぅっ……!』


 あの娘正気ですかっ!? なぜ自身の騎士が戦っている中へ鞭を振るえるのです!

 味方の被弾など厭わぬと……? ――! 女騎士への被弾が無い……!?

 馬鹿な! 接近戦で立ち代わり動いていると言うのに、私だけに攻撃が当たるなんて事があり得ますか!?

 異常だ…………そしてそれは女騎士も。自身の周りに鞭が飛び跳ね、いつ当たってもおかしくないのに、なんの揺るぎも無く私に攻撃をしてくる。

 鞭が当たろうと厭わぬのか、鞭が当たらないと信じ切っているのか、どちらにしろまともでは無い。

 年齢にそぐわぬ娘の技量、女騎士の精神共に、もはや気持ち悪い。

 …………このままではじわじわと体力を削り取られてしまう。

 少し強引にでも――イレギュラーの娘を葬り去る!

 女騎士の剣を弾き、押し込んですぐ身体を翻して、娘へと狙いを変える。

 狙うは娘の心臓……一突きで終わらせる。

 振るわれる鞭が私を拘束するかのように囲い込むが、少し遅い。

 鞭が私を縛り付けたとしてもこの勢いは相殺しきれず、杖が娘の心臓を貫く。

 この空間での転移は不可能……貰った――――

 

『――――――――――馬鹿な……』


 鞭に縛り付けられた私の身体は、杖が胸に届くまであと少しにも限らず、ピタリと動かなくなった。

 なんだこの鞭は――聖属性を帯びているのか!?

 強度も尋常では無く、引き千切ろうとすれば、私の身体が壊れてしまう。

 おおよそ子供が持てるような代物では無い……ええ間違いない。この武器を持たせたのはあの男だ……!

 どこまであの男は私の邪魔を――――

 

 

 

 

 

 『――――リノ。鞭を扱うお前は、ここぞという時の決定力に欠ける。鞭自体が他の武器に比べると殺傷能力が低めだからな。だからここぞという時に使える、聖魔法を教えて置こうと思う』

 『……さんくちゅあり?』

 『あー……それは魔法を極めなきゃ無理だ。お前にはまだ早い』

 『ぶー……』

 『俺がお前に教えるのはそれの一個前……ホーリーストリームより強い技だ。強くなったお前なら使いこなせる――――』

 

「…………これで終わり――『クロスフィクション』」






 リノちゃんが放った聖なる十字架に、リッチは飲み込まれて成仏されるかの如く消えて行った……

 これで……私達の戦いは、終わったんだ……

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