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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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『勇者と騎士団長』

『2番目の柱を右に曲がって下さい』


 日坂様の案内の下、弥生伯とリノ様を連れて王宮内を進む。

 外ではフィサリスが起こした爆発音が聞こえて来る。敵兵はそちらに出払っているのか、私達と鉢合わせる事が少ない。

 でもそれは本来おかしな事だ。私達が向かっているのはリコリスが居る玉座……謁見の間だ。

 ともなれば当然国王を守るべき道のりに、敵兵が多くならなければおかしい。

 にも拘らず私達は最小限と思われる程度の相手しか遭遇していない。

 やはりこれは月島様の言っていた通り――

 

『――ロータスさん……目標の敵、勇者の4人が前方に居ます。抑えて弥生ちゃん達を先へと送って貰えますか?』

「……王命とあれば仕方ありませんね」


 私の声を聞いているであろう男にそう告げる。

 

「――止まれ侵入者!」


 前方に1人、左右に1人ずつ柱の影から姿を現す。

 情報では勇者のスキルは棒術、拳術、蹴技、暗殺術の4つ……姿を現していないのは暗殺術の勇者ですか。

 

『身を隠す暗殺者に関してはこちらで位置を伝えます。現在は前方に見えている棒使いの5歩右です』


 至れり尽くせりですね。

 

「……弥生さん……? どうして弥生さんが此処に」

「――っ!」

「――弥生伯、リノ様を連れて先へとお進みください。道は私が開きます」


 全速力で前方の敵へと接近し、右に弾き飛ばす事で隠れた暗殺者も巻き込む。

 

「ぐっ――!」「うおっ!?」

「――今です!」

「行くよリノちゃんっ!」

「待てっ!」


 リノ様の手を引いて先へと進む弥生伯。

 それを追うとする左右にいた勇者2名の前に立ち塞がる。

 

「申し訳ありませんね。貴方がたの相手は彼女達では無く……私が務めさせて頂きます」

「おい、こいつ月島の野郎が日坂先輩と一緒に現れた時に居た、早い奴じゃないか?」

「つまりコイツ月島の手下か」

「非戦闘員の弥生さんに加えて、あんな子供にまで戦わせるなんてほんと屑だな」


 私の速度について来れてない所を見るに、『早い奴』という評価は間違っていませんね。

 月島様の手下というのも、私が国家に仕える騎士団の団長であり、彼が国王であるので間違っていませんね。

 いくら強いとは言え、未だ12歳のリノ様を戦場に立たせるのは私としても心苦しい事です。

 ですが――

 

「弥生伯は非戦闘員ではありませんよ。不屈の精神と誇り高き忠誠心を備え持つ、我が国内屈指の騎士です。彼女を侮らないで頂きたい」

「はぁ? 弥生が騎士? こいつ本気で言ってんのか?」

「適当な事言って、非戦闘員を戦わせる事を正当化させようとしてんじゃねぇぞ屑!」

「彼女達の実力で非戦闘員と呼ぶなら、それに劣る貴方がたも非戦闘員ですね。今すぐここから立ち去る事をオススメします」

「――――あ? 今テメェなんつった?」


 怒った顔をしてらっしゃいますね。怒気も殺気も大して感じませんが。

 向いているとしたら敵意でしょうか。覇気に関して言えば皆無ですね。リノ様の方がまだ強い。

 

「俺らが弥生やあのガキより弱いだと? ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」

「ふざけてなどいませんよ、貴方達では彼女達に勝てません――敗北を知らない貴方達には」


 『――パープルニアに居る4人の勇者はリコリスの手引きによって、自身達より弱い敵と戦い、安全なレベリングをずっと続けている。トラップに掛かった時は俺らに助けられてるし、クーデターの時は日坂相手だったから、同じ勇者にレベルの問題で負けたんだと思っている。その後は強い名のある兵士の居ないパープルニアに居たから、レベルの上がった自分達は最強だと天狗になっている。俺や日坂以上にスキルとステータスでのゴリ押ししか出来ないから、本物の強者……お前やフィサリスには勝てねぇよ――』

 ――……睡眠を捨ててでも強くなる為に身を割いていた者達が、本物で無いとは思いませんがね。

 

「俺ら勇者は一般人とは違ぇんだよ! レベルさえ上がれば負ける事なんてねぇ……例え弥生のレベルが上がっていようが、怖がって戦闘組に参加しなかった奴に負ける訳ねぇだろ!」

「勇者が負けない? それは違う。私の知る勇者達はみんな負けてきた者達でした――戦いに敗れ、地に手を付き、拳を握りしめ、そして再び立ち上がる者達でした。何度敗北を繰り返そうとも、大切な時にもう2度と敗れない為に何度でも立ち上がる……敗北の上に立つ、彼らが『勇者』です」

「レベルが上がっても負けてんなら、それはスキルを使いこなせてねぇだけの雑魚だ! 勇者の固有スキルはそんじょそこらのモノとは格がちげぇんだよ! ――――その身に直接教えてやるよ……」

『ロータスさん、敵4名の「身体強化」と「HP自動回復」の発動を確認しました。遠慮なく叩き潰して良いそうです』


 国王から許可が出たとあれば問題ありませんね。

 私も『身体強化』を使い、本気で行きましょう。

 

「ブライトタウン王国騎士団長、ロータス――押して参ります」

「――――か、はっ!」


 ――初手で、暗殺者の腹部を貫いた。

 HPは自動で回復するけれど、欠損まで回復する訳では無い。

 これで私にとって一番厄介な相手は離脱したに等しい。

 

「――安心して下さい。我が主の名に置いて『殺し』はしません」

「てめぇぇええええ!」「やりやがったなぁっ!」「――ぶっ殺す……!」


 私に向かって残りの3人が襲い掛かって来る。

 ……クーデターの際に、マグオート団長が見てた景色はこんな感じだったのでしょうか。

 騎士団長という立場は、副団長であった頃の私が思っていたよりもずっと重い物だった。

 国家最強のツルギである騎士団長は敗北を許されず、騎士団長の敗北は国家の敗北を意味する。

 月島様や日坂様がいる為、国家最強と名乗る事の無い私は、これでも軽い方なのでしょう。

 マグオート団長は、騎士としてかなり適当な人だった……しかし、騎士団長として私よりも立派な人だ。

 私ではまだマグオート団長やミルアグナ団長と肩を並べる事など出来ない。

 けれど私も騎士団長の端くれ、国家の名を背追う者だ。最強でなくとも無様な敗北は許されない。

 国王に騎士団長として任命されたのだから――国家の名に恥じぬよう、その役目を果たさねばならない。

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