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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
311/346

生涯の悔い

 『さて、貴女にも死んで貰いましょうか』『さて、貴女にも『貴女にも死んで『死んで貰い『貰いましょう『さて、『さて、貴女にも『死んで貰いましょうか――イレギュラーの娘』

 

 

 

「…………目が覚めたか?」

「…………パパ」


 作戦会議後の夕食時、リノは訓練の疲れもあってか眠気があったので早めに寝かせていた。

 寝かせていたのだが……悪夢に魘されていたので俺はリノの眠るベットへと向かった。

 俺は目覚めて上体を起こしたリノを抱き締める。

 

「リノ……リコリスを目の前にしても、我を忘れるんじゃないぞ。自我を保ち冷静にならなければ、勝てる物も勝てなくなる……」

「…………うん」

「怒りで溢れている時こそ、思考は冷静であれ。それが出来れば、お前に負ける理由は無い」

「……ん」


 リノが俺を抱き締め返す。

 早くて明日、遅くても明後日にはリノはリコリスと戦う事になる。

 手伝う事は出来ない……俺に出来るのは、お膳立てと背中を押す事だけだ。

 止めてやれない俺は……情けない事この上ない。

 

「……失礼しまーす……って氷河先輩? 何してるんですか?」


 本日リノと一緒に寝る予定だったほたるが、眠っているであろうリノに気を遣ってそろりと部屋に入って来た。

 リノが先に寝てると思ったら俺とハグしていて、ほたるの頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。

 説明はしてやらない、後はほたるに任せるか。

 

「リノ、ほたるが来た事だし俺はもう戻るな」

「ん」


 離れようとしたらむしろしがみ付かれた……あの、リノさーん?

 

「リノ、俺は自室に……」

「パパも一緒に寝よう?」


 …………パパも一緒に?

 

「いや、リノ? パパとリノが一緒に寝る分には問題ないが……俺がほたると一緒に寝るのは色々と問題がだな」

「一緒に寝よう?」


 ………………成長しても頑固さだけは変わらねぇなコイツ。

 穂乃香に怒られないか……疚しい事をする訳でも無いし大丈夫か……果てしなくグレーだな。

 

「はぁ……穂乃香やママには秘密にしてくれよ?」

「ん、分かった」




 こ、こここここ、これは一体どういう状況なんでしょうかっ!?

 私がリノちゃんを挟んで氷河先輩と一緒のベットに! 一緒のベットに~~~っ!

 隣から伝わるリノちゃんの温もり、それに加えて視界には氷河先輩の寝顔! 聞こえる微かな吐息!

 此処が……天国なんですね……

 目が覚めてしまう、いえ! 眠れる訳が無い!

 というかどうして氷河先輩は普通に眠れているんですか!?

 そんなに魅力無いのかな私…………

 

「り、リノちゃん……?」


 先ほどからリノちゃんがもぞもぞとしている……何してるんだろう……

 あ、氷河先輩の腕を動かした……腕枕かな?

 

「……リノちゃん、眠くないの……?」

「ん、さっき寝た」


 私が来る前に寝てたのかな……って! リノちゃんはどうして私の上に登ってるの!?

 私の右側に居たリノちゃんは、私の上を転がって左側に移動した。

 そしてリノちゃんは私をグイグイと……ちょっと待ってっ!

 

「リノちゃんっ!? リノちゃん何してるの!?」

「ほたるへのご褒美」


 ご褒美って、ご褒美を貰う様な事は何もしてないと思うんだけど!?

 リノちゃんがグイグイと私を押す度に私と氷河先輩の距離が……距離がっ!

 あっ……腕枕……って違うっ! 不味い! 氷河先輩めっちゃ良い匂い!

 服やベットを嗅いだ事はあるけど、本人から直接なんて……

 

「リノちゃん! これ以上は本当に不味いって!」

「ほたる、静かにしないとパパ起きちゃう」


 いや、でも! もうこれ近いとかじゃ無くて密着しちゃうよっ!?

 氷河先輩の寝顔がすぐ目の前にある……胸の鼓動が高鳴り、息が少し荒くなってしまうのを自覚する。

 私の小さいながらも微かに膨らみのある胸が、腕枕をしている氷河先輩の脇腹に当たり潰されてしまう。

 やだこれ、すっごく恥ずかしいっ! 氷河先輩! どうか起きないでっ!!!

 私を限界まで押し合ったリノちゃんは、私を背中から抱き締めてそのまま眠ってしまった。

 え、いや、嘘だよね……!? リノちゃんこのまま寝るのっ!? 私動けないじゃん!!!

 氷河先輩の腕枕を受けながら、リノちゃんに抱き枕にされている……この上ない天国!

 けど、寝れる気がしない……否! 此処で寝てしまうのは勿体無すぎるっ!!!

 痛いぐらいに脈を打つ心臓を落ち着かせる為に深呼吸……氷河先輩の匂いがががが。

 落ち着け、落ち着くのよ私。此処は落ち着いて……落ち着けないよぉぉおおお!!!

 …………よし、開き直ろう。

 こんなの人生一回キリのラストチャンスだ。リノちゃんがお膳立てしてくれたんだ。氷河先輩に腕枕をして貰った上で密着できるなんて、この先の人生でもう二度と無い。

 ど、どこまでして良いんだろう……う、腕とか回していいのかな……それだともう完全に抱き着いちゃう格好に…………

 あ、足かな……足を絡ませて挟み込む……挟み込んだら……私の大事な所が氷河先輩の太腿に……! そ、それは駄目! いや、駄目じゃないけど!

 氷河先輩にひかれて距離を取られでもしたら……でも二度と無いチャンスだし……

 氷河先輩の寝顔綺麗……柔らかそうな唇……ハッ! そ、それは駄目! それは駄目よほたる! ……でも、ほ、ほっぺなら……ほっぺなら許される気がする……

 

「……………………………………ちゅ」


 …………しちゃった。氷河先輩のほっぺにキスしちゃた……!

 うああぁぁああああぁぁぁぁあああああああああぁああ!

 ああ、後戻りはできない! でも良いの! 弥生ほたる! 生涯に一片の悔いなし!

 私はそのままリノちゃんと氷河先輩の温もりに包まれて、眠りについた。

 

 

 

 

 

「…………頬へのキスで満足するお前の人生って何なんだ……リノが悲しむから終わりを迎えようとすんじゃねぇ」

「…………んにゃ……」


 朝方。目が覚めた俺は、自身に抱き着いて眠るほたるを確認して引き剥がした。

 本人はチキン発揮して抱き着かなかったが、眠ってから寝ぼけて抱き着いて来やがった。

 企てたリノにも困ったもんだ。

 

「……んゅー……ひょうがしぇんぱぁい…………えへ」

「幸せそうな顔しやがって……」


 眠るリノとほたるの頭を撫でた後、俺はリノの部屋を後にした。

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