難攻不落
リノのスパルタ強化訓練を始めて一年が経った。
リノは神奈と一対一で引き分けるまでに強くなった。弱冠12歳でこの戦闘力だ、ホーリードラゴンへの挑戦はそう遠くないだろう。
スパルタ指導もついに大詰めだ。即ち、決戦の日が近い。
最終調整の為、俺はリノとほたるを連れて訓練場に来ていた。
「――さあ、掛かって来い2人とも」
「……行くよ、ほたる」「うん!」
二体一の訓練を行っている。と言うのも連携強化の為だ。
実際にリコリスに挑むときも2人で相手をさせるつもりだ。あの日のリベンジの為だな。
月日が経った事でほたるの髪は伸びた。転移前からショートだった髪を今はロングに伸ばしている。リノと共に風呂に入った際などに、少しでも背中の傷を見せない様にする為だ。
ロングになったほたるは以前よりも大人っぽく見える。中身は相変わらずだが。
リノはついに水奈と同じ身長になった。『私、リノちゃんにも身長越されるのかなぁ……』と落ち込んでいた水奈を慰めたのは最近の話だ。
リノは未だ成長期だから越されてしまうだろう……だが落ち込む事は無いぞ水奈。抱き締めやすいそのサイズを俺は気に入っている。
リノとほたるの連携力だが……正直とんでもないな。
単体戦力が高いうちの奴らは、あまり連携して戦うことが無い。神奈と穂乃香ぐらいだな、他は大体個々で暴れまわっているイメージだ。
連携力トップで言えばエリスとケレスの2人だが、リノとほたるもそれに引きを取らないレベルに達している。リコリスの絶望が目に浮かぶな、ざまあみろ。
「おっと」
俺でも油断すれば一太刀浴びかねない。
本腰入れないとな――
リノとほたるとの訓練を終えた。仕上げは上々。
ギリギリの勝負は俺の好みでは無い、やるからには圧勝だ。
戦うのが俺では無いのなら尚更だ。念には念を入れて、イレギュラーなアクシデントが起きたとしても勝てる様にしておきたい。
「――リノ、本日よりお前を最高幹部に任命する」
「――!」
「氷河先輩!? 本気ですかっ!?」
最高幹部への任命。
それはリノを一人前として認めると言う事であり、同時にもう『子供』として扱わないと言う意味でもある。
元居た世界で言う飛び級みたいなものだな。
これからは大人達に混ざり、『大人』である事を要求される。
「……これは俺からの選別だ」
空間収納より白く輝く鞭を取り出す。
「1000年を生きるホーリードラゴンの皮で作った鞭だ。今のお前なら使いこなせるだろう」
「ホーリードラゴン…………パパ、殺したの?」
「いや、生かしてある。奴は『弱き者に下る気は無い』と言っていた。もしお前が召喚獣にしたいなら、ドラゴンに勝てる程、お前は強くならなきゃならない」
「……そう……分かった」
大した娘だ。贔屓目無しでそう思う。
ドラゴンより強くなるなんて、成人した奴でも早々口に出来る事じゃ無い。
いや、口にするだけなら子供でも出来るかもしれないが、リノには現実にするだけの才能と実力がある。
現段階で冒険者Aランク……10年後、こいつはどれだけ強くなってるんだろうな。
「さて、これからパープルニア攻略の作戦会議だ……ほたる、リノ、着いて来い」
リコリスの策により、ブライトタウン王国は北と南の二方向から、同時に攻撃される事になる。
俺達の目的は復讐兵撃退でもパープルニア兵鎮圧でも無く、リコリスの討伐だ。
その為にはリコリスが身を潜めるパープルニア王宮を攻める必要がある。
その為今回は戦力を三つに分ける。
北は総大将のグラジオラスを筆頭に、イクシオン、アイリス、エリス、ケレスを主力としたうちの魔族組兵士が担当する。
国内の守りは穂乃香を総大将とし、水奈、ラミウム、セバスチャン、ピアニー、召喚獣達を主力に、人間族騎士団員と、人間族自警団員の半分が担当する。
残りの俺、日坂、フィサリス、ロータス、神奈、ほたる、リノと自警団員の半分はパープルニア攻略メンバーとなる。
神奈は悠真の事もあり国内の守りでも良かったのだが、『私は自警団団長補佐なんです!』と強い本人の主張があった為こちらへの参加となった。
まあ、国内組はぶっちゃけ戦闘にはならないだろうからな。北上してくるパープルニア兵士は俺達が蹴散らしながら進むし。
そんな訳でパープルニア攻略の作戦会議には、主力の七人が集まった。
「……本当にリノちゃんを参加させるんですね……」
「俺としてはリノより、お前の参加をどうかと思うが」
「私は大丈夫です! なんでリノちゃんより私が心配されるんですか!」
心配というか……復讐心さえなければリノを参加させようとは思わないし、リノを参加させないのであればほたるも参加させようとは思わない。
神奈に限らずアイリスやエリスやケレスも、あまり戦争に参加させたくないんだけどなぁ。力ある女子供を戦場に立たせてしまうのは、俺達大人が力足らずなせいなんだろうな、きっと。
赤子を抱える母親には子育てに専念してほしいと思うだろ……悠真はもう一歳だけど。
「――さて、攻略会議を始める。俺達の目的はリコリスの討伐、及びパープルニア王宮の制圧だ。パープルニアが敗北を認めたら適当な賠償金とアーメルト子爵家領地を貰う。引き抜きが可能そうなら引き抜きもする」
「えらくピアニー子爵に配慮なさいますね」
「あいつが祖国に拘る理由はそこだけだからな。そこさえ確保できれば後はどうなろうと構わん」
栄えようが滅びようが好きにしてくれ。
但しうちにちょっかいを掛けるのならタダでは済まさねぇ。
ぶっちゃけ遠すぎる飛び地なので領地はさほど求めて無い。ただ引き抜きだけだと醜聞が良くないので領地を貰った上で、ピアニーが大切にしたい者達だけピアニーの屋敷に住まわせる。国領地としてしまえば、人事移動は可能だからな。
「ロータスとフィサリスは知ってると思うが、パープルニアの王宮は難攻不落と言われている」
「え、難攻不落を攻めるんですか?」
「ああ、落ちない訳じゃ無いからな。めんどくさいと言うだけだ」
これがまたかなーりめんどくさい仕様となっている。普通に攻めるはまず不可能だな。
「王宮は全域に広く空間転移阻害エリアとなっていて、シェルターの様に固く閉じられている。空からの侵入も不可能だ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「シェルターの門を開けるしかない。だがこの門を開けるのが面倒で、起動レバーが王城の地下に複数存在する」
「複数って言うのはほとんどがダミーって事か?」
「いや、全部本物だ。シェルターの門を開けるには全てのレバーを動かさなければならない」
レバーがある所は全てバラバラで、侵入者対策の為に通路は迷路の様に入り組んでいる。
城の兵士は熟知してるが、知らぬ者が入ればまず迷う。
その上レバーを動かせば、どこのレバーが動いたのか王宮にすぐ伝わる様になっている。
「……まるでゲームのトラップだな」
「ゲームと違うのは、動かしたレバーを敵に戻される可能性があると言う所だな」
一つを動かして、二つ目に向かっている間に、一つ目の異変を知らされた敵兵が一つ目を戻しに来る。
それを防ぐにはレバー毎に見張りを置かねばならず、人員を割かねばならない。
「レバーを全て動かさないといけないこちらは、戦力を割かざる負えない。しかし向こうは一つでもレバーを守り抜けば大丈夫な訳だ。圧倒的にこちらが不利だ」
「…………確かに厄介だな」
まあ、策が無いわけじゃ無い。やりようはいくらでもある。
作戦の煮詰めをして本日は解散となった。
明日には俺と日坂がパープルニアへと向かい、そこで人員を召喚する手筈となっている。
パープルニア軍兵士がこちらに向かってる事は既に確認済みだからな。
向こうは行軍に時間が掛かるが、こっちは俺と日坂さえ動ければ良いからな。機動力が段違いだ。一気に攻めて、ど肝を抜いてやろう。




