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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
302/346

膝枕

 『おや、こんな所に人が居るとは珍しいですね』『これは失礼。私、リッチです』『イレギュラーの娘ですか』『癪に触りますね』『愚かですね』『とても理解し難い』

 『さて、貴女にも死んで貰いましょうか――』

 

 

 

「――っ!」

「――起きたかリノ……良い目覚め、とは言えなさそうだな」

「…………パパ……」


 気絶して長い事眠っていたリノが目を覚ました。

 現在はリノの部屋で2人っきり。ほたるには席を外して貰っている。

 

「今日の訓練はどうだった?」

「……パパ容赦ない」

「はっはっは、そういう訓練だからな。ほたるはこれ以上に厳しい訓練を受けている……今後はこれ以上に容赦が無くなって行くぞ? 続けられそうか?」

「――うん」


 リノは強く頷いた。なら手を抜く訳にはいかないな。

 

「リノ。今後俺はお前に厳しい指導をして行く……今日以上に容赦なくボロボロにするかもしれないし、叱責もたくさん飛ばすかもしれない……でもそれはお前を嫌いになった訳じゃ無い。それは分かるか?」

「……うん」

「……時が経つのは早いもんだ。俺の膝上が定位置で、肩に乗ったり腹の上に乗って寝ていたリノが、結衣香や煌輝が産まれて姉になり、今は王女をしてるんだからな」


 リノは俺やフィサリスに甘えにくい立場となった。

 子供全開だったリノは、結衣香の誕生以来姉としての我慢を覚える様になった。

 お姉ちゃんとして振る舞うからこそ、妹達の前では甘えれない。

 その上今は俺が国王でフィサリスはその側近。忙しい身である為構って貰う事すら難しい、リノはそれを理解しているから、結衣香の様に不満を口に出したりはしない。

 でも、リノもまだ11歳……未成年の子供なんだ。

 

「スパルタ指導の後は必ずこうして時間を取る……だからリノ、普段我慢している『俺に甘える』をして良いぞ。後4年もすればお前も成人だ……甘えれるのは未成年の特権だ。今のうちしか出来ないぞ」

「…………飴と鞭?」

「そんな裏事情知らなくて良い。素直に受け取って置け」


 リノを頭をクシャクシャに撫でる。

 子供である内は、子供であって欲しいと思うのも、俺の考えの一つだ。

 我が儘を言わず、不満を口にしないリノの姿勢には大変助かっている。姉が我慢していなければ妹が我慢する訳無いからな。

 でもリノだって甘えたい気持ちが無いわけじゃ無い。元々事あるごとに付いて来て、1日でも離れる事を寂しがる甘えん坊だったのだ。

 訓練の間は厳しくする……ならその後に少し甘やかしてやる時間があっても良いだろう。

 

「さて、リノ。俺にして欲しい事はなんだ?」

「……じゃあ、パパ。膝枕して」


 膝枕と来たか……控えめ……なんだろうか?

 昔は肩車、おんぶやだっこが多かったが、今はリノ自身が大きくなったからな。そういった願いは少し抵抗があるか。

 国王に膝枕して貰える奴なんてリノぐらいだぞ、フィサリスでもして貰えないんだから。

 まあ、フィサリスが俺に膝枕を所望する事自体無いんだけどな。

 リノの頭を俺の太腿の上に乗せる。

 

「……硬い」

「そりゃ男の太腿だからな、ほとんど筋肉だ」


 女性特有の柔らかさは無い。男の膝枕って基本的に聞かないしな。多くは腕枕だろう。

 リノが置き心地の良いポイントを探している間、太腿と頭が擦れてむず痒くなる。

 良いポイントを見つけた様だ。リノの頭を撫でながら語り掛ける。

 

「今日は疲れて気絶したからこんな感じだが、耐えれるようになったら外で何かするって言うのでも良いぞ。前みたいに一緒に解体をしたり、料理をしたり、近場でなら出かけるのも有りだな……あ、そうだ。メアとメルに乗って一緒に乗馬が出来ないかと思っていたんだ」

「…………パパが実は楽しみたい?」

「そういう裏事情は知らなくて良い。リノ的にはどうだ?」

「デートしたい」


 デートという言い方はアレだが……まあ、2人で出かけるならそうか。

 

「ほたるも一緒に良い?」

「ほたるの予定さえ合えば良いぞ」

「……ありがと、パパ」


 お前ら2人がセットになるのはいつもの事だ。

 リノと出会ったのは俺の方が先だが、一緒に過ごした時間でいえば俺よりほたるの方が長い。俺とフィサリスが共に過ごした半年間、こいつらも共に過ごし絆を深めてたと言う事だ。

 水奈と穂乃香の深まりは……気にしない事にする。

 

 

 

 

 

 謁見を求める者達の対応を終え、本日のお仕事終了。

 空き時間は可能な限り家族サービスを行っている。普段時間取れてやれてないからな。

 煌輝にはあまり望まれてないが、めげずに絡みに行っている。父さんは諦めないぞ。

 家族の不満解消と意味合いもあるが、どちらかと言えばリノに言われた様に俺がしたいからしている。

 セラピーが欲しいんだよ。気を休めたいんだよ。異世界に来てから働いてばっかりだよ。少しは休ませろ。

 明日は幻獣栖公園に国民を集めて注意喚起を行う手筈になっている。もっと早めにしておきたかったんだが、事前に通達してないと国民達にも予定があるからな。

 全くあの屍野郎のせいで仕事が増える。醜聞改善って面倒なんだぞ。

 屍野郎によって溜まる鬱憤を晴らすため、俺は穂乃香を呼び出した。

 

「氷君お待たせ~。今日は夜の相手?」

「魅力的なお誘いだが、また今度な。今日はこれの相手をして貰おうと思ってな」


 9×9の盤上の上に40個の駒を並べる。錬金術で作れば簡単だったが、わざわざ木を削って作り上げた。

 文字も掘った上で漆を重ねている。

 

「将棋……? 氷君、相手の思考が見えちゃうから、しなくなったんじゃ無かったっけ?」

「今回俺は目を瞑って脳内だけで駒を動かす。透視はもちろん使わない。動きは言葉に出して、駒はフィアに動かして貰う……穂乃香には悪いが駒の動きを口に出して貰う」

「私は将棋盤を見れるのに、氷君は頭のイメージだけで動かすの? 氷君が不利じゃ無い?」

「良いハンデだろ?」


 鑑定は無くとも並列思考は使う事になる。思考の一つを盤上整理に使うぐらいなんて事も無い。

 

「む、じゃあ手加減無しだからね」

「ああ、勝つ気で掛かって来い。先手は譲ろう」


 右目を瞑る。起きているのに千里眼や鑑定が発動していないのは珍しく感じるな。

 聞こえるのは俺と穂乃香の呼吸音、駒を持った音と……指した音。

 

「2六歩」

「定石だな、8四歩」

『えっと……8四、と』


 フィアが「よいしょ」と言いながら駒を運んでいる。恐らく両手で抱えて動かしているのだろう。

 ヤバいそれ凄く見たい、絶対可愛いじゃん。だが目を開けたら穂乃香の思考が見えてしまう……くそぅ。

 

「どうして急に将棋しようと思ったの? 2五歩」

「転移前の事を思い出すとな、無性にやりたくなるんだよ。8五歩」

『んー……あ、押した方が早い』

「将棋したくなったら何時でも相手になるよ? 2四歩」

「次する時はチェスでも良いぞ、穂乃香はそっちの方が好きだったろ? 2四同歩」

『これ穂乃香の駒取って良いんだよねー?』

「ああ、取ってくれ」


 フィアが駒を回収し俺の駒を動かしてくれてるだろう。

 ぶっちゃけ人間サイズ化して貰った方が早いのだが、後で穂乃香視点から見たフィアの姿を見たいため、このまま頑張って貰う事にする。

 将棋とチェスの違いは大きく三つ。将棋が9×9であるのに対しチェスは8×8である事、駒の動きがチェスの方が激しい事、そして取った駒を使える将棋と違ってチェスは減ったら増え無い事だ。

 援軍が期待できる将棋に対し、チェスは消耗戦。最後まで貫き続けたポーンが強者に成る事はあるが、駒数自体は変わらない。下手に捨て駒には出来ないんだ。

 我が国の現状はチェスに近い。精鋭だが援軍……数は少なく、損害を出すのは得策ではない。打てる手段が少なくなるからこそ知恵を回さねばならない。

 

「穂乃香、お前に魔法師団員の育成を頼みたい。結衣香や煌輝達の護衛候補だ」

「私が? フィサリスじゃ無くて? 同飛車」

「接近戦も鍛えてやって欲しいだ。フィサリスは接近戦が苦手だろ? 8六歩」

「結衣香達の護衛か……うん、分かった。厳しく行くね。ん~……8六同歩」

『あ、取られちゃった』


 やっぱり厳しい指導が入る様だ……頑張れ魔法師団。

 穂乃香の指導は感覚的だが、鍛えて貰うだけでも成長の見込みは十分にある。戦闘センスが異常だからな。

 持てる手札の使い方が上手い……穂乃香は持つ手札自体が多いからとんでもないんだ。

 

「エリスとケレスは才能がある、鍛えれば鍛えた分だけ強くなるぞ。8七歩」

「む……2三歩」

「三人程お前のクラスメイトが居るが、そいつらもスキルを活かせばまだまだ伸びる。8八歩成」

『角が取れたよ~』

「むむ……同銀」

「後は元指揮官も1人魔法師団員だから、有事の際はそいつに指揮を任せて良い。3五角だ」


 ほれ、飛車を下げねば食われるぞ。

 2四にある飛車に穂乃香から取った角で攻めた所だ。

 

「むむむ……2八飛」

「魔法師団の教官……穂乃香が管轄する形になるな。5七角成」

「私が管轄するの? 2二歩成」

『あ、角!』

「王妃直轄部隊があっても良いだろう。護衛以外は私兵として扱っていいぞ。同飛車」

「兵力を扱う事なんて滅多に無いと思うけど……2三歩」

『氷河……角行取られた上に飛車まで取られそうだよ』


 そうだな、飛車の目の前に歩兵が居て、その後ろに敵の飛車が構えている。前進するのは悪手だな。ならば横に逃げよう。

 

「1二飛」

「…………2二角」

「角を捨てても飛車が欲しいか……2四歩」

「……あ! うぅ~……3一角成」

「同金」

「2二銀」

「同金」

「同歩成」

「同飛車……っと」

『ねぇ~……展開が早いよ……動かすの間に合わないんだけど……』


 俺が後の飛車と歩の間に俺側の歩を置くことによって、穂乃香が打った角を無駄にした。飛車でその歩を取ろうとすれば龍馬に取られてしまう。

 穂乃香は苦し紛れに銀を取り、俺が角を取り、穂乃香は銀を金に変える為に銀を置いた。

 置かれた銀は俺の金で取られ、穂乃香は歩で金を取り、俺は飛車で歩を取った。

 結果で言うと穂乃香は角を捨てたのに飛車を取れず、手に入ったのは金だったという状態だ。

 歩兵を置かずに角に手を出していたら飛車は取られていた……盤上で考えれば良い手だったが、持ち駒までに気が回らなかったのは惜しいな。

 穂乃香の駒回しは昔から攻撃的なんだ。追撃も程ほどにって事だな。

 

 

 

 

 

「むむむ……うぅ~……参りました……」

「おう、久しぶりに楽しめた」


 右目を開いて千里眼で国内の状況を確認する……異常は無さそうだな。

 

「さて、敗者は罰ゲームだ」

「え? 罰ゲーム!?」


 なんでちょっと嬉しそうなんだ。


「俺に膝枕せよ」

「――! はーい!」

『それ穂乃香にとってご褒美じゃん……』


 良いんだよ、別に。ご褒美でも。

 穂乃香の太腿に頭を乗せて上を見上げる。

 見えるのは大きな御山と綺麗な笑顔……やはりこの景色が絶景である。

 

「次は負けないからね」

「相変わらずの負けず嫌いだな……」


 穂乃香の頬に手を添える。すると穂乃香はすりすりと擦り付けるかのように顔を揺らす。

 愛い奴め。

 

「俺が父親になって国王になり、お前が母親になって王妃になったが、この絶景だけは全く変わらないな……この先何十年、死ぬ時まで見続けさせてくれ」

「何十年もしたら、私も皺くちゃになってると思うよ?」

「皺くちゃになったとしても、お前の笑顔が綺麗じゃ無いわけないだろ」

「――! もう、氷君ったら……」


 穂乃香が笑っている……穂乃香の目に移る俺も笑っている。

 俺の頑張る理由、俺はこの為にずっと頑張って来たんだよな。

 ああ、これからだって、この為に頑張れるさ。

 

「……やっぱり今日は一緒に寝るか」

「ホント!?」

「ああ、今日は穂乃香と2人で寝よう」

「ふふふ~負けないからね!」


 頭脳戦では何とか勝てるが……体力戦は自信無いな……

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