表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
301/346

結束

 悠真誕生から3日後。

 ロータスに許可を取って訓練場の一角を貸し切りにさせて貰った。

 此処に居るのは俺と、体力が戻ったほたる、そしてドレスでは無く戦闘服に身を包んだリノだ。

 

「あの……国王陛下、本当にするんですか……? リノちゃ……王女はまだ……」

「――未成年の11歳か? そんなの分かっている。でもなほたる……リノにもまた譲れないモノはあるんだよ」


 ほたるは以前通りに過ごしているが、短くなりすぎた髪はどうしても目についてしまう。それは時間が経てば問題ないのかもしれないが、リノはほたるの背中の傷も知っている。

 それはほたるにとっては勲章であるが、リノにとっては自身の弱さ、無力の証明だ。

 誰が悪いと言えば当然あの屍野郎な訳だが、軽率に敵国地に乗り込んだリノの判断ミスでもある。

 リコリスが攻撃して来た後もやりようはいくらかあった。ほたるが抑えている間にリコリスの死角に移動して奇襲を掛ける事も出来たし、戦闘開始直後に召喚獣達を呼び出していれば結果はまた違っていた。

 それが出来なかったのはリノの経験不足が原因と言っていい。

 リノはユリと初めて遭遇した時もファーストアタックをくらっていた……土壇場での行動が苦手な訳だ。

 戦闘モードへの切り替えが遅い事、自身の危機に対する直観力……ここを鍛えなければ、リノ自身もそうだし、周りの人間も危険に晒す事になる。

 

「リノ、これから行う訓練の終わりを決めるのは俺でなくお前だ。お前が此処までで止めたいと思えばそこで止めるし、休憩にしたいと思えば休憩にしてやる……逆を言えばまだ終わりでは無いと思う限りずっと続けてやる」

「……はい」


 この訓練は自身との戦いでもある。そこで無理だと思えばそこまでだ、そしてそれに対し俺が咎める事は無い。リノ次第では全然厳しくも無い訓練にもなる。

 自身への甘さとの戦い、どこまでリコリスを倒したいという気持ちがあるかの、覚悟を示して貰う事になる。

 ある意味叱責されるより辛い訓練だろう。リノが根を上げた所が俺は覚悟の限度と判断する訳だからな。

 俺はリノにリコリスを倒させるのは果てしなくグレーだと思っている。リッチはモンスターと言えばモンスターではあるが、元人間でもある。人殺しでは無いが感覚として近いモノはあるだろう。リノが頑なでなければ俺が今度こそトドメを刺すんだが、それではリノの憎悪の炎が消えることが無い。燻り続ける事になる。

 俺が親としてこいつにしてやれることは……――

 

「――……リノの相手は俺のゴーレムが相手をする。最初は1体、慣れてきたら数を増やすことも考える。ゴーレムは欠損してもすぐに修復できる、鞭も魔法も容赦なく叩き込んでいいぞ」


 最初に行うのは基礎戦闘力の向上。俺の形をしたゴーレムと戦わせて対人戦のノウハウを鍛える。

 それが終われば俺との実戦訓練、人相手に攻撃出来る様にする。

 そして疲労し疲れてきたであろう頃に、リッチ型のゴーレムを用意する。リノとほたるの記憶に残るリコリスの形だ。

 メインは3つ目、リッチ型ゴーレムとの戦闘だ。俺が後方から魔法を撃つ事で限りなく近い戦闘を行うし、時には2体や3体にも増やす。埋め込んだ魔結晶の魔力とは別に重力魔法でも操るので空だって飛ぶ。

 俺がリノにしてやれる事……それは下手に妥協なんかして後悔をさせない事だ。

 やるからには徹底的に、容赦なく叩き込む。

 空間収納から取り出したゴーレムに盾とショートソードを持たせる。

 

「……行くぞ」

「……うん『テレポート』」


 ゴーレムの背後に回ったリノが鞭を振るう。

 ゴーレムは盾でそれを弾き、剣をリノに向ける。リノはテレポートでそれを回避した。

 

「リノ! 空間転移に頼り過ぎるな! 身体能力での回避を覚えない限り、お前の接近戦戦闘力は上がらねぇぞ!」

「――っ!」


 俺もイエンロードに行くまでの10日間はそうだった。魔法特化故に回避は空間魔法頼りだったんだ。

 だが鞭を使った接近戦も行うなら『軽業』のアクロバットは必須だ。接近戦における空間転移での回避は詠唱が必要なため、間に合わなければ直撃をくらう。

 アクロバットが苦手なら、水奈の様に『盾術』を取得するか、イクシオンの娘エリスの様に『結界術』で防ぐかだ。

 リノは軽業を鍛えれば出来ない訳では無い。ただ空間転移が便利故に頼りがちになってしまっている……フィサリスの様に遠距離戦に特化する訳では無いのなら、そのままでは駄目だ。

 リノの振るう鞭を掻い潜ってゴーレムがリノに接近する。

 リノはバックステップで下がり、鞭をしならせゴーレムの剣を絡めとる。

 

「甘いっ!」

「――!」


 鞭を持ったリノをゴーレムが剣ごと砲丸投げの要領で投げ飛ばす。

 宙に浮かび上がったリノは、空間転移でゴーレムの背後を取る。ゴーレムはしゃがんで躱し盾でリノを弾く。

 

「『ホーリーカッター』」


 リノはノックバックで下がりながら、ホーリーカッターを飛ばす。悪くないな。

 ゴーレムは盾で魔法を捌きながら、剣を取りに行く。

 当然リノは武器を取らせないために、ゴーレムを追いつめに掛かる。

 近づくリノへゴレームが盾を投射し、リノは回避を余儀なくされる。その間にゴーレムは剣を確保した。

 剣を拾う為しゃがんだゴーレムの上空から転移で移動したリノの鞭が振るわれる。

 ゴーレムは鞭を防ぐために横に剣を構え、それに鞭を巻き付けたリノが今度は勢いよく引き上げて、ゴーレムから武器を奪う。

 

「得物を失くしても相手はまだ戦意を失ってないぞ!」


 ゴーレムがリノに向けて跳躍し接近する。

 リノは空中に居る為、空間転移で回避を図るがそれよりも早く、ゴーレムの正拳がリノの腹部を打ち抜く。

 飛ばされたリノは地面を転がる……着地になれてないな……

 

「リノちゃんっ! 氷河先輩! これはあまりにも――」

「――黙って見てろほたる。リノはまだ諦めてないぞ」


 リノは地面に手を付きゆらりと立ち上がった。

 ここまでの実践的戦闘を行って来なかったからか、疲労の色が濃いな。

 持久力の鍛え上げも必要だな。

 

「……今の段階だと、俺と戦うにはまだ早いな…………リノ、どうする? ここまでにするか? まだするか?」

「……まだ……する……」


 息も絶え絶えではあったが、確かにそう言った。

 

「良く言った……ゴーレムの次の武器は槍だ……行くぞ」

「………………はい」






「はっ……はっ……はっ……」


 2体目の槍と戦ったリノは立っているのもキツイ様で、地に膝を付いている。

 

「リノちゃん……」

「リノ、一度休憩にするか?」

「…………まだ…………いける……」


 ほう……まだ立つか。大した胆力だ。

 なら、少しバーストを掛けてみようか。

 

「ひっ!」

「――! うぁぁぁぁぁぁあぁあああああああ!」


 ゴーレムをリッチ型に作り替えたらほたるが短く悲鳴を上げ、リノが怒気を上げて吠えた。

 

「極限状態からの一歩を踏み出せ、それが不可能なら敗者を甘んじるしか無くなる。自分の限界を自分で設定しない。その判断は間違ってないぞ」


 襲い掛かるゴーレムに向けて鞭が振るわれる。鞭捌きのキレは今日一で良い。

 さあ、戦い抜いて見せろ。

 

 

 

 

 

 ゴーレムを倒したと共に気絶したリノを倒れる前に抱き上げた。

 

「……意地でも倒してみせたか、流石俺の娘だ」

「リノちゃんに厳し過ぎませんか!? あんな訓練私でもキツイですよ!」

「逆を言えばお前の訓練の方がまだ厳しい訳だ。リノがリッチを倒す気でいるなら未だ足りないさ」


 ゴーレムはホーリーブラストで腹に穴を空けた上で首を鞭で撥ねられていた。

 魔法は良いとして、鞭は先端がキチンと当たらないと痛いだけでちゃんとダメージが入らないからな。

 先端を当てれるようにする訓練と、武器の強化も必要だな。

 

「…………氷河先輩は、リノちゃんがリッチを倒す事に賛成なんですか……?」

「……お前は反対か?」

「私は…………リノちゃんに無茶をして欲しくありません。あんなに強いモンスターと、わざわざリノちゃんが戦う必要なんて……」

「……確かにな。この国には強い奴はゴロゴロいる。リノじゃ無くても勝てる奴が戦えばいいと言うのも間違ってないだろう」

「なら――」

「――だとしても、リノの譲れないモノを侵害は出来ない。他の奴じゃ駄目なんだ」


 ラミウム、ロータス、フィサリスの3人はそれぞれリコリスに煮え湯を飲まされている。

 だがそれは生前のリコリスであって、リッチリコリスでは無い。

 リッチリコリスに被害を受けたのはほたるで、それを目の前で見てるだけだったリノは、かつて何もできずに両親を亡くした事を思い出して力を欲している。

 ほたるの仇はモンスターで、ほたるは生存している。だが両親の仇は人間で、両親は死亡している。そっちに派生されるのは不味い、復讐の炎を此処で消して置かないと駄目なんだ。

 弔いは必要だ。でも復讐を果たしたとしても、残るのは空しさだけだと知っておく必要がある。

 

「……こいつに燻る炎を消せるのはお前だけだ。空いた心を埋めるのもきっとな……だから今後もリノの事をよろしく頼む」

「…………私とリノちゃんの結婚フラグですか?」

「アホの嫁にはやらん」

「酷い!」


 ほたるには……このままで居て貰わないとな。

 リノを導くのも、正すのもきっとほたるだ。

 リノの存在があったから強くなったほたると、ほたるが居なければ闇に呑み込まれかねないリノ。

 互いに相方が居なくなると成り立たなくなるとはな……強く結びついたものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ