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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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天を仰ぐ

 国民への注意喚起、戦力の増強、人材の囲い込みなどする事が多かったが、神奈の容態が急変した為、全てを一時放棄して助産師期間へと入る。

 出産予定日まではもう少しあったんだが、少し早いくらいなら問題無い。寧ろベストタイミングだ。

 早過ぎると産まれた子の機能が未発達で、体温調整、呼吸確保、点滴投与などをする必要があった。早産は子供のリスクが大きい。

 逆に出産が遅れると、大きくなった赤ん坊が神奈の子宮口から出て来れず、母子共に命の危険があった。

 タイミングには恵まれたな。なら後は俺が2人とも生かしてみせるだけだ。

 神奈の出産にあたって、助産師の俺、立会人の日坂、医師の水奈が参加している。

 国家のトップ2人が立ち会う出産なんて経験出来るのは神奈だけだな。

 水奈には外で控えてて良いと伝えたが、「美鈴の体に何かあった際、すぐ治せるように此処に居る」と頑なだった。こいつの意志の強さには恐れ入る。

 そしてその判断は間違っていなかった。

 出産は難航し、どうにか無事に終えたが、神奈の体力低下は著しく、会陰も切り込みを入れていたにも限らず、大きく破れてしまっていた。

 水奈の治療によって傷は完治、後は神奈の体力回復だな。

 産まれて来た子供は男の子、名前は悠真と名付けられた。

 神奈譲りの重力魔法と、日坂譲りの光魔法の適性が見える。将来は空駆ける聖騎士かな。

 無事に終えた事で俺もどっと疲れた。なんていうか精神的に。主な理由は人前では自重しているこいつらが、ずっと下の名で呼び合いドラマを繰り広げてたからかな。

 命に関わっていたから互いに精一杯だったし、水奈も優しく見守ってたけど、俺はもうお腹いっぱいです。鑑定でも色々知ってるのに、なんで直で見せられないといけないのか。

 

「――で、父親になった今の気分はどうだ?」

「……なんと言うか……感慨深いな」


 現在神奈は疲労で就寝中、水奈は悠真の体温管理を行っている。

 病室の外に居るのは俺と日坂の2人だ。

 

「妊娠したと聞いた時も思いはしたんだが……産まれた実際の我が子を見て、俺もついに父親になったのだと改めて思った」

「今後はもっと、父親の実感をして行く事になる。子育ての悩みとかな…………親になって両親のありがたみを知った……礼を言う手段はもう無いがな」

「…………帰る手段はやっぱり見つからないのか?」


 俺と穂乃香の間に生まれた結衣香、日坂と神奈の間に生まれた悠真。どちらも両親共に地球人であるのに子は地球を知らず、知識も常識も全てこちらの物だ。

 俺達の扱いは元異世界人。今はレベルとステータスの枠組みに組み込まれた、こちらの人間だ。

 俺達がこちらの世界の人間であるならば、その子もまたこちらの世界の人間だ。


「勇者の召喚陣は、俺たちの扱う召喚術と仕組みは変わらない。呼び出す事は可能だが、元居た所に帰すには……呼ばれた奴に自力で帰って貰うか、呼んだ奴が元居た所で呼び出すかだ」

「…………地球に召喚術を使える奴が居ないといけない訳か」

「つまりは無理だ。自力で帰るのもな。この惑星が太陽系からどれ程離れているのか……そもそも同じ宇宙に繋がってるのかすら分からない。そして仮に帰れたとしても、こちらの世界には戻って来れない」


 向こうの世界で俺達勇者は行方不明扱いではあるが、星原明と美空奏は完全な死亡者だ。

 俺達も死体が見つかってないだけで、向こうの世界では死んだ者と思っても良い。こちらの世界では生きてるけど。

 

「建国までしたんだ。今更国民達を置いて故郷に帰るなんて出来ないだろ?」

「それはそうなんだが…………孫が産まれたって……それだけでも伝えれたらな……」


 感傷に浸って天を仰ぐ日坂を横目に、もし帰れたとしたらを想像して、俺も天を仰いだ。


「………………俺は水奈の件に加えて、穂乃香だけじゃない件で、ぶん殴られそうだから帰りたくないな」






 神奈の出産を担当した俺は、国内で一番優秀な助産婦に後を引き継ぐ。峠は越えたからな、俺は国王としての職務に戻らないといけない。

 大公の息子が産まれた……祝い品は盛大にしてやるか。

 日坂の息子である悠真には時期国王の可能性が無いわけでは無い。

 例えば結衣香と結婚し、煌輝が国王になる事を断った場合、大公の血を継ぐ悠真が国王になる可能性はある。まあ、そこまでの未来はなってみなきゃ分からないけどな。

 俺の現役……引退まではかなり遠い。2代目国王は息子達では無く孫……なんて可能性もある。

 その前に亡国の可能性も無くは無いが……俺が生きてる内は大丈夫だと思いたい。

 

「――国王陛下。霧島、雨宮、嵐山の3名を連れて参りました」

「ご苦労。下がって……いや、気になるのならば残って良いぞ」

「……かしこまりました」


 料理長に勇者を3人連れて来て貰った。

 3名共に俺と関わりが多い訳では無い。なのに唐突に指名で呼び出したのだ、本人達も訳が分からずと言った感じだし、料理長も気になっている。

 

「そう固くなるな。今日はお前達3人に話があって呼んだんだ」

「は、はぁ」「お話ですか……?」


 かつて学校の先輩でしかなかったのに……距離が遠いな。まあ、今は国王だ、仕方ない。

 

「まあ、担当直入に言うとだ。お前達魔法師団になる気は無いか? つまりは幹部だな」

「えっ!?」「幹部……私達がですか?」「本当ですか!?」

「ああ。上層幹部では無いが、働き次第では昇進の可能性もある。魔法師団員には俺の娘達や、産まれた日坂の息子の護衛を任せるつもりでいる」


 俺が呼んだ勇者は3人共女子。精霊魔法の固有スキル持ちと、MP自動回復の固有スキル持ちと、無詠唱の固有スキル持ちだ。

 精霊魔法の子は風、土、光の3種の精霊と契約をしている。大精霊では無いが、3種の魔法がスキルレベル5で使えるだけでも十分強みだ。

 MP自動回復の子は闇魔法の使い手で、非戦闘員組だったが、適正の事を知って戦闘員組に移動した子だ。レベル20毎の追加スキルで、MPの節約、吸収も出来る様になったので、詠唱に疲れない限りほぼずっとダークボールやカッターを撃ち続ける事が出来る。

 無詠唱の子は適正があったのは雷魔法だけだった。1つだけなのは勿体無くも感じるが、無言無動作から瞬時に放たれる雷撃はかなり有効だ。追加スキルの『消音』を合わせれば魔法型アサシンとして活躍できる。

 魔法師団は優秀だが仕事が少ない。警備や巡回は騎士団が行っているからだ。

 魔法師団員と同等の強さを持つ騎士団員はそれぞれ部隊長格で、引き抜いて護衛をさせると隊長格の人員不足になる。なら普段は冒険者同然の魔法師団員を雇用した方が良い。

 

「ほたるちゃんと同じ様な感じですか?」

「ほたるとは少し違う。あいつはリノから指名を受けた専属護衛だ。お前達も結衣香たちから直接選ばせるが、そりが合わなかったり、気に入られなければ交代もあり得る」

「気に入られれば、専属になる事も……?」

「結衣香達が強く望めばあり得るが…………専属で護衛になるなら、接近戦もある程度出来て貰わないと困るな」


 戦場に立つ事の無い、今の結衣香たちの護衛はこいつらでも大丈夫だが、リノの様に戦闘に参加するようになれば話が変わって来る。

 今求めているのはアクシデントが起きた際に対応できるレベルでしかない。本格的戦闘を視野に入れた護衛では無いわけだ。

 ほたるはリノのレベリングにも同行している。こちらは本格的な戦闘を視野に入れた護衛だ。こちらにはいざという時に敵の攻撃を食い止める力が必要だし、自身よりも護衛対象を優先する忠誠心が必要だ。

 違いは戦闘を行う事を前提としているかしていないか。城内が基本の結衣香達が危機的状況に陥る事はほとんどない。それに対し、国外にも出る事があり、バリバリ戦闘をしてくるリノはリコリスの時のように危機的状況になる事もある。

 結衣香達が戦闘を行う様になってからも護衛を続けるのであれば、それまでにある程度の接近戦の腕と、忠誠心が出来ていないと任せられない。

 ダリアと同等の接近戦、サーシスと同等の魔法戦、我が身よりも優先して守る忠誠心……ほたるは護衛騎士として最優だろう。

 

「――接近戦かぁ……でもリノちゃんと弥生ちゃんのあの関係、羨ましいんだよね~」

「分かる。お世話係立候補して置けば良かったって思うもんね」

「……あの、国王陛下。どうして急に私達を魔法師団に入れようと思われたのですか?」


 精霊魔法の子が質問して来た。

 この子は元々戦闘組入りを拒否した5人の内の1人だった。今では普通に戦闘が行える様になっている。本人が好戦的では無いからと言って強くなれない訳じゃ無い。

 ほたるも拒否した内の1人だったしな。

 

「理由は2つある。1つは素質の問題だ」

「……固有スキルですか?」

「ああ。この世界で強くなるには才能、スキル、努力の順に必要だ。比較的スキルに恵まれた奴ほど有利だがな」


 俺と日坂はスキルが理不尽的過ぎた。

 まあ、奴隷術は持っていたところで、日坂の様なカリスマ性が無ければ意味をなさないがな。

 俺のは……強くなり過ぎた魔王を倒すために準備されたんじゃないかと思う。

 魔王は復活の度に討伐されていた。そのサイクルを魔王は利用してた訳だが……勇者を呼び出すのはこの世界の住人だが、固有スキルを与えるのはまた別のナニカだ。

 このナニカが俺に魔王を倒させる為に用意したのだと思う。

 この力を使って俺が悪道突っ切れば、今度は俺を討伐するためのスキルを持った異世界人が現れる事になるかもしれない。

 ナニカの正体はよくある話ならこの世界の神とかだが……実際の所は分からないな。

 

「理不尽的な程スキルが突出していなければ、才能が物を言う。アマリリスなんかはスキルに恵まれなかったのに、国内でトップクラスの実力者だ。才能が突出した者は全て幹部に上げた……とすれば、残る幹部候補はスキルが優秀な者だろう」


 才能が同じ程度なら後はスキルの優劣と努力だ。

 ほたるはスキルには恵まれたが才能には恵まれなかった。同じ戦闘系スキル持ち、才能もある神奈には勝てない。スキルが優秀な凡人最強はほたるが限界だと思う。

 ともなれば他に幹部を集めるにしても、やはりスキルが優秀でないと厳しいだろう。

 勇者は固有スキルと追加スキルがあるので、安定して優秀なスキルを持つ事ができる。後は努力次第だな。

 

「お前達勇者は努力次第で相当な力を有する事が出来る……もう1つの理由はそれだ。お前達に敵に回られると面倒だと判断した」

「て、敵って……」「いやいやいやいや。陛下の実力を知っていながら、敵対しようなんて愚か者いませんて」「………………! ……居るんですか……? 敵対者が……」


 精霊魔法の子は頭の回転が良い感じだな。

 ほたるは優秀だが、頭の回転はちょっとアレな子だから……こういう子が護衛に居ると良いな。

 

「少し思い返してみろ。俺の実力を正しく理解したのは何時だ?」

「えと……この地に村ができてから……?」「私はデーモン9000体近くを1人で倒したと聞いてからですね」

「そうだ。お前らが俺の実力を正しく理解したのは魔王討伐後……それまではチートスキルを手に入れただけの奴でしかなかった……クーデター直後、スキルの低かったお前達にはどうしようも無かったが……今は強くなった……同等レベルのスキルを有していれば、当時の俺には勝てると思わないか?」

「――! 抜けた男子ですか!?」

「可能性の話だ……千里眼の広さと鑑定が厄介だが、戦闘力自体はそこまで高くないと思われている可能性は十分にあるだろう。マグオート1人相手に、ロータス、フィサリスと3人で挑んで辛勝だったんだ。あの時はまだ、俺が一番弱かったからな」


 人間族領に伝わっているのは俺が魔王を倒したと言う事だけだ。魔王がどれだけの強さを持ち、俺が単体で挑んだ事などは伝わっていない。

 そう言った話はすぐに誇張されるからな。噂の中には勇者全員を率いて挑んだなんて話もある。

 抜けた男子10人の内俺の実力をきちんと理解してる可能性があるのは、俺と戦った事のある初代キタコレだけだ。

 パープルニアの勇者共は……良い感じに調子乗り始めている頃だろう。あいつらにとって俺が魔王みたいなモノだろうな。

 ……この話あり得るから怖いんだよ、他の勇者達は俺に洗脳……及び騙されているとリコリスに吹き込まれてる可能性。

 

「元々俺への反発心から出て行った奴らだからな……敵対国側に居てもおかしくは無い……それにお前達が誘われ寝返られると困る訳だ」

「寝返りませんて、陛下に敵対イコール負け確定じゃないですか」

「残った男子は常々言ってましたよ、『残る事選んで良かった』って」


 それ正しくは「味方で良かった」だろ。

 

「まあ、それで幹部に上げて貰えるんだし、抜けた男子たちには感謝だね。君たちの犠牲は忘れないよ」

「犠牲になる前提なの?」

「陛下に逆らって勝てる訳ないじゃん」

「――2人とも! えっと……国王陛下。私達3名、魔法師団のお話、謹んでお受けいたします」

「おう、精進せよ。護衛の話は日を追って説明する。専属を目指したい奴は言え、指導を入れる」

「――! 陛下直々のですか!?」

「いや、俺はリノの指導をメインにする事になる……護衛候補、及び魔法師団員の教官は穂乃香だ」

「「「――――――」」」


 かつての同級生にして現王妃直々の指導……ぶっちゃけ俺より容赦無さそう。

 まあ、子供達の護衛になる奴を育てると言えば指導してくれるだろう。

 接近戦、魔法戦共に国家最強級で才能に関して言えば随一だ。我が国の戦闘力ナンバー3、月島穂乃香。ナンバー1はステータスの暴力こと日坂だ、ムカつくが仕方ない。個々の力は俺の奴隷の方が高いが、数が向こうが圧倒的だ。

 まあ、専属護衛になりたいなら、ほたる同様スパルタ指導を耐え抜くしかないな。

 頑張れよ。

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