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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
298/346

障害

『商店街の大通りから4番目の路地に入って、2つ目の十字路を右に、そこから3つ目の十字路を左に曲がって突き当たった先に、移住民受け入れ用の空き家地帯がある。向かって北側から路地裏に入り、右に2回、左に3回曲がったら右手に見える建物だ』

『………………えと……』

『空き家地帯を探せ、そこに居ない筈の移住者が居る。お前の透視なら空き家地帯さえ辿り着けば分かるだろ』


 このブライトタウン王国には、国王陛下が用意した空き家地帯が複数箇所存在している。

 その中でも商店街に一番近い空き家地帯に、祖国の工作員は潜んでいるらしい。

 私の透視の有効範囲は視線先100m。国内全てを見通せる陛下には到底及ばないが、空間転移でカバーは出来る。

 空き家地帯に到着し、私の視界に映った人物は――

 

「――あれ、ピアニーちゃん? 氷河ちゃんが来ると思ったんだけど」


 ――私の上司だった。

 

「……こんな所で何していらっしゃるのですか、アマリリス様」

「入り込んだネズミを見つけたから、氷河ちゃんのGOサインが出たら、殺そうと思ってたんだ~」

「……捕縛の可能性は考えなかったのですか?」

「――無いね。生かしておく理由が無い」


 私は生かされたのですが……

 

「ピアニーちゃんは別だよ? 透視を持ってた事も1つではあるけど、決定的な違いは氷河ちゃんへの敵対心だ」

「工作兵は敵対心が強いと? 何故言い切れるですか?」

「ピアニーちゃんで失敗してるからさ。殺されたならまだしも、生存して敵に付いた。ピアニーちゃん自身には、氷河ちゃんに対する敵対心がそこまで無かったからさ。なら次は忠誠心に加えて、敵に従わない敵対心を持たせた兵を送るに決まっているだろう?」

「……取り込みは不可能でも捕虜には可能なのでは?」

「要らないね。情報は氷河ちゃんの視界に入った時点で抜き取られている。統也ちゃんの敷いた警戒網を突破できるほど優秀であればこそ――味方に出来ないなら殺すだけだ。厄介だからね」


 優秀だから殺す……優秀な透視持ちを死なせはしないと言われたけれど…………敵対心が強くあったら……私は殺されていたのですね……

 『パープルニアに消えて欲しくない臣下が居ないなら、俺は迷わず消している』

 ……今は……死ぬことも出来ない…………

 

「……警戒網に引っかからなかったのに……何故アマリリス様はこの場所が分かったのですか?」

「ん~……じゃあちょっと付いておいで」


 アマリリス様は壁を蹴り上がり、屋根の上まで登り上げた……公爵家令嬢なのに……辺境伯の娘ではあったけれど、暗殺者として育てられた私以上に身軽ですね。

 アマリリス様に連れて来られたのは、祖国の工作員が居る建物の上だった。

 …………本当に元同僚ですね……

 

「見てごらん。あれが氷河ちゃんの王城、あっちは統也ちゃんの自警団本部で、あっちが奏ちゃんの孤児院だ。この位置はこの国の需要な3拠点が同時に見渡せる……それに加えて商店街も見えるだろう? これはこの建物内の窓からでも、可能なんだ」

「見晴らしが良い……監視がしやすいと言う事でしょうか」

「それだけじゃないさ。此処の地点までの道のりは入り組んでいただろう? 周りは空き家の為人も寄り付かない。路地裏なんて通る人少ないしね……まるで此処に隠れてくれって言ってる様な建物じゃない?」

「アマリリス様は事前に当たりを付けていたと言う事ですか?」

「違うよ。これだけの条件が一致する建物は――国内に此処だけなんだ」

「国内に……? ――! まさかそんな……!」

「――氷河ちゃんは、わざとそうなる様に計算して家を建てたんだ……此処を悪だくみをする人間が集う一等地としてね」


 家の配置……空き家地帯にしているのも、おびき出すための罠なのですか……!

 国内に他に無いと言う事は……国内の他の建物は、此処と条件が一致しない様にすべて作られている……全て陛下の計算の上…………


「でも国内は氷河ちゃんの御膝元だから、別にこんな事しなくても、悪だくみをする人間はすぐ見つかるんだよ。じゃあ何故わざわざ作ったと思う?」

「……陛下が不在の時に、私達で対処するためでしょうか」

「惜しい。此処は人の目につかない場所だ、それは隠れる側もそうだし、暴く側もそうだろう? 氷河ちゃんはね、わざわざ対象が人目の付かない所に移動するのを、待たなくて良い様にしてくれたんだ。暗殺者である僕たちに気を遣ってくれたんだよ」


 暗殺者の仕事に気を遣う…………そんな国家元首聞いた事がない。

 暗殺者とはどんな状況でも策と技術でターゲットを殺してみせる者。お膳立てされて行う事など有り得ない。

 

「この建物について知ってるのは氷河ちゃんと僕、今知ったピアニーちゃんだけだろうね。僕以外で気付けるとしたら……奏ちゃんか穂乃香ちゃんかな……でも2人とも孤児院と城籠りっぱなしで、国内を歩き回る事は無いだろうから気付かないだろうね」


 この人は自力でその答えにたどり着いたのですか……どんな頭をしてるんでしょう。

 

「ピアニーちゃんは自分から討伐を名乗り出たんでしょ?」

「……はい」

「だよね。配下に甘々な氷河ちゃんが、こんな酷い事命令するとは思えないもん」


 陛下が甘々……けして甘いお方では無いと思いますが。

 

「氷河ちゃんなら「お前が殺す必要は無い」とか言ってそうだけど……――工作員を殺さらなくて良い訳じゃ無いからね? 氷河ちゃんは確実に殺せる自身か僕を使おうとした筈だ。それをピアニーちゃんが引き受けたのなら……――殺せなかったら僕がピアニーちゃん殺すから」

「――――っ!」

「だってそれは、僕たちに対する敵対行為だろ? 殺さないは許されない」


 『俺に忠誠心を示せ』

 ――…………そういう事ですか、陛下。

 すぅ…………ふぅ…………

 

「――大丈夫です。確実に殺してみせます」

「ふーん……じゃあ、行っておいで」


 全ては……祖国の存続の為に。

 

 

 

 かつての同僚は、この国の地図を作っていた。

 それが祖国へ渡ってしまうと、作戦を綿密に練られて不利になってしまう。

 ごめんなさい、ギルーノ……でも、パープルニアの未来は、貴方の働きにでは無く……私の働きに掛かっているのです…………

 

「……『テレポート』」


 死角へと転移し、一気にナイフを首に突き刺す――!

 

「――っ! ぐおっ!」


 直前で気付かれて、首では無く肩を切り裂いた…………っ。

 

「て、てめぇぇぇえええ! ピアニーっ! 裏寝返っただけじゃなく、俺らを殺そうとまでしやがるのか!!! この売国奴が!!!」

「――――っ! ……貴方達の進む道は破滅の道です……我が祖国の存続にはこれしかないのです……!」

「てめぇに心配なんかされたくねぇんだよ、裏切り者! 我が国を祖国などと名乗るな!」


 溢れそうになる涙をグッと堪える……泣いていても何も始まらない……!

 殺さなければならない……覚悟は、出来ている……っ!


「――――君の国王が愚かだから、その子は孤軍奮闘してるのに……その言い方は無いんじゃないの~?」

「――誰だっ! 出て来い!」


 アマリリス様の声……けれど、どこに居るのか私にも分からない……

 

「――――信用できないと周りに言われる仕事環境の中、祖国を守る為に一生懸命働いているのに、守られてる側にまで敵視されちゃったら可哀想じゃ無い……君たちが抗えば抗う程、その子の苦しみは増えて行くのに」

「守る!? 国王の命で此処に来た俺を殺す事がか! 国家に反逆してるのに守るも糞もあるか!」

「――――そうやって国家のおつむが足りてないから、彼女は報われない」

「どこに居る! 出てこい!」

「――ずっと、此処に居るじゃないか」

「「――!?」」


 私とギルーノの間にアマリリスが立っていた。

 まるで、最初からそこに居たと言わんばかりに。

 

「――てめぇは……『死神』!」

「その通り名って本採用なんだね~……――じゃあ、こういうのはどうかな」

「「――――――」」


 く、く、首が……アマリリス様の首が伸びて……!

 

「ば、ばば、化け物がっ!」

「淑女に対してそれは酷くない~? ま、伸びるのは首だけじゃないけど」


 アマリリス様の指先が全て伸びて、ギルーノの体に絡みつき拘束する。

 

「――! ~~~~~!!!」

「うわぁ……むさい男の触手プレイとかマジ需要ない……やるなら奏ちゃんか氷河ちゃんにしてよ……――さて、ピアニーちゃん。君の仕事は何だい?」


 …………お膳立てをして頂いた……私の仕事は……

 

「我が国と我が祖国の未来の為に……――障害を排除する事です」


 ごめんなさいギルーノ……かつての同志……

 リッチに唆されている貴方達に、未来は無いの……

 

「かッ――――!」

「――……墜ちる先が地獄でも……私には、生きていて欲しい人達が居るのです……――さようなら」

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