参謀
城内には会議室が2つあり、1つは円卓会議室、もう1つは国務会議室だ。
円卓会議室は最高幹部を集めて話し合う際に使われる。
国務会議室は最高幹部に加え、上位幹部全員を集めて行う会議室だ。こちらの会議ではセバスチャンを筆頭に、ミラやピアニー、ニンファーや伊藤真由美も参加する。今後はイクシオン達が名を連ねる事になる。
今回はその国務会議室に俺と日坂、ラミウム、ロータス、フィサリスとリノ……そして俺が呼び出したピアニーが参加している。
リノの参加……そしてメンバー的に浮いてるピアニーに疑問があるようだが、雰囲気を感じて誰も言葉にはしない。
リノが帰って来たので引き上げた捜索隊、夜中の突然の呼び出し、キレている俺。何も無かった訳が無いな。
「リノとほたるが、幽霊の少女の噂を確かめに行った事はみんな知ってるな? 正体はレイスでリノの召喚獣となった……その直後に現れたリッチに襲われ――ほたるがやられた」
「――! 弥生ちゃんがか!?」
「水奈によって一命は取り留めた……ただ損傷が酷く、全治するかは水奈の体力次第と言った所だ」
時間が経ち過ぎた傷は元には戻せない……だが、妊婦の水奈に無理もさせられない……
ジレンマだな……ほたるの傷を治しきれないと一生の傷として残る……水奈を無理させれば水奈だけでは無く、中の子にまで影響が出る…………あの屍解体したいな。
「襲って来たリッチだが、俺の事をイレギュラーと呼んだ……」
「っ! ……そんな……っ」
「……この世界で俺の事をイレギュラーと呼んだのはただ1人……ブルーゼムの元参謀――リコリスだ」
ラミウムは心眼で俺の心を見て、一足先に事実を知った。
……まあ、それよりも。
「落ち着け、フィサリス」
「あいつが……あいつがほたるをやったの……?」
フィサリスの殺気がまた溢れている。ピアニーがガクガクに震えてしまっている。
月島家は水奈以外、血の気が多過ぎる……俺含めだな。
フィサリスとロータスはリコリスに貶められて、牢に閉じ込められていた。怨みは当然あるだろう。ラミウムとしても良い感情など持っていない。
「リコリスは以前のクーデター時に俺が殺した……だが城へと急いで戻り、マグオートとの戦いが終わってから死体を確認しに行った時には、死体が無くなっていた……俺の失態だ」
「あの時、月島様に来て頂けなかったら私は死んでいました。月島様の罪と言うなら私も背負いましょう」
「悪いのはリコリスです! 誰がリッチになってこの世に存命しているなど、思い至りますか」
……責任云々の話をしても仕方ないのは事実だな。
「レイスの居た村は2度襲われていた。1度目はレッドリアから襲われて全滅……これも少しきな臭いが、2度目は4人の冒険者から……レイスの記憶から顔見たら、俺を嫌って出て行った戦闘系4人の勇者だった」
「なんだと……」
「2度目の時はレイス以外は全員ゾンビだった……モンスターの世界で言えば弱肉強食だから仕方ないが……ピアニー記憶に、勇者の1人がパープルニアにいた事を確認している……その時はたまたま流れついた先と思っていたが……リコリスがパープルニアの辺境に現れたとなると、話が変わって来る」
嫌なパズルはカチカチと嵌っていく……
「ピアニーの文を貰っても敵対表明を止めないパープルニア、ピアニーに持たされた国紋がブルーゼムの物であった事、パープルニアに居ると思われる4人の勇者、勇者の顔を知り有用性を理解しているリコリス…………導き出されるのは?」
「パープルニアの中枢にリコリスが入り込んでいる……か」
「――お待ち下さい! 私は王宮でリッチを見た事がありません!」
「リッチはアンデッドの王だぞ。俺の国なら召喚獣として国民が納得するが、他国の……それも王宮になんか居たら大問題だろ」
「でしたら――」「――つまり、臣下にも見せない程の中枢……相談役……いや、玉座の裏だな。国王はリコリスに良い様に操り人形として扱われてるんだろう。かつてのブルーゼム国王がそうであったように」
「……彼なら可能ですね」
王国一つ抱え込んで俺と敵対するつもりか…………なら何故前の戦争で出てこなかった……? 三万人じゃ少ないと思ったのか……? だがパープルニアの数では――――!
「『サモン』」
「ん? 氷河ちゃんが僕を呼ぶなんて珍しいね――あれ? リノちゃんにピアニーちゃん? 他は分かるけど、なんで?」
「参謀――俺に知恵を貸せ」
「……おふざけ無しのマジモードだね。何やら随分と面白い事になってるみたいだ……――状況は?」
今ある情報を掻い摘んでアマリリスに説明した。
コイツは全てを説明せずとも理解できる。
国内で俺を除くと、頭の回転が一番早いのはコイツだ……表向きが参謀たる所以だな。
「なるほど~。リッチになったクーデター主犯かぁ……氷河ちゃんにしては、豪くお粗末な失態だね」
「そうだな……レッドリアに襲われた魔族を匿ってた集落は一つじゃ無い。同年に、存在した集落全てが襲われている……これについてどう思う?」
「扇動者が居るね。今まで気付かれてなかったのに、途端になって次々と見つかるのは不自然過ぎる。時期的に考えると氷河ちゃんと統也ちゃんが200人を黙らせて来た後でしょ? レッドリアに意気消沈されたら困るから、景気付けじゃ無い? 魔族が居る村を自分達は滅ぼせるって言う」
「――! そんな理由で他の村を滅ぼしたのですか!?」
「そんな理由でも、僕ならするね。だって噂さえ流せばレッドリアは勝手に動くんだから。こっちが恨まれたりするリスクは無い。特定ができないもの」
リッチのリコリスなら匿われてる魔族を見つけるのも難しくは無いだろう。リッチは屍である癖に幽霊としても活動できる。建物のすり抜けはもちろん、姿を晦ます事だって造作もない。それに奴自体、空間魔法が使えるからな。かなりウザったい。
「レッドリアを煽ってた可能性はあるな……だが教皇が殺されるのは想定外だっただろう。レッドリアの崩壊で協力では無く、吸収に切り替えた。さて、レッドリアの残党を吸収し終えたら……次、お前ならどう動く? アマリリス」
「…………あー、それで僕が呼ばれた訳ね。うん、氷河ちゃんの懸念通りかな。僕なら――ホワイトールの皇帝を殺す」
「「「「――――!?」」」」
「…………やっぱりか」
「なんで? ホワイトールと敵対するメリット無くない? むしろ味方にしようとするんじゃ――」
「――だからだよ、フィサちゃん。ホワイトールがうちと敵対してないのは、皇帝陛下が氷河ちゃんの脅威を正しく理解してるからだ。でも、主戦力の騎士団や宮廷魔術師達はそれを知らない。皇帝に命じられたから引き下がったんだ」
「皇帝が死ねば枷が無くなる……それどころか、俺の陰謀だとでっちあげれば、帝国丸々一つが敵対国だ。前回とは比べ物にならないぞ……帝国の国民まで出てきたら大戦争だ、皇帝の弔いともなれば正義も向こうにある」
レッドリアの時は向こうから仕掛けて来たから、報復として仕返した。
だが皇帝が俺の陰謀で死んだとされれば、仕掛けたのは俺になる。
そしてでっちあげ程、リコリスが得意とする事も無い。
叡智の王なんて噂が、俺が何でも可能にしてみせる事の証明になる。そう国民に思われた時点で俺の負けだ。遠隔でも殺せる人扱いになるぞ。
「急いだ方が良いね~。皇帝、もしかしたらもう死んでるかもよ?」
「……明日の朝に向かう、面倒だが皇帝に死なれるのは俺も困る。フィサリス、準備をしておけ」
「はい」
「ピアニー、お前にも来て貰おう。お前の働き次第で、パープルニアへの対応を考える……結果を出せなきゃ慈悲の余地は無いと思え」
「――! ……はい……」
「日坂、俺の留守を頼む。自警団の守りを強化して置け、俺の不在時に中で羽目を外す奴より、外から来るトロイの木馬に警戒しろ」
「任された」
「他は通常通りだ」
さて……明日についてはこれで良いだろ。さっさと済ませて帰って来ないと、神奈の出産が迫ってる。
ピアニーの働き次第とは言ったが、対応をどうするにしても現状こちらからは動けない……少なくとも神奈の……いや、水奈の出産後にならないとな。
水奈の出産まで約三ヶ月……それから育児期間も考えると半年後以降……万全を考えると1年後だな。
「リノ。これが今回の顛末だ……一つ聞く……仇が討ちたいか」
「うん」
「…………そうか。ではリノ、神奈の出産後、お前にほたると同等のスパルタ指導を施す」
「――はい」
「――!? ちょっとご主人様本気!? リノはまだ――」
「――察してやれ、フィサリス。今回誰よりも、一番悔しかったのは……リノに決まってるだろ」
「それは………………」
フィサリスの気持ちも分かる……リノはまだ11歳だ。
でもリノがリコリスを倒すにはまだ力が足りてない。リッチになったアイツはレベル7の魔法を使いこなす。
今までの指導は甘くも無かったが、厳しくも無かった。結衣香や煌輝が生まれた事もあって、そちらに構う事も多かった。
時間を見つけて自主練していたほたるに比べると、リノの訓練回数は少ない。
それを今後は増やしていく事になる。
「会議は以上だ。明日に備えてしっかり休んでくれ。俺はほたるの容態を見て来る……『テレポート』」
私の働き次第……結果を出さなければ……祖国は……
「やー良かったね~ピアニーちゃん! チャンスは与えられたよ!」
「――っ! 良くなんか――」「――良かったんだよ」
っ……! 背中がぞくっとする……私の上司ですが、この人は苦手です……
「ほたるちゃんは、氷河ちゃんのお気に入りだよ? 仮にほたるちゃんが死んでたら――亡国待った無しだったんだぜ?」
「――――――――――」
「首皮1枚繋がったんだよ。でもホントに1枚でしかない……事態は君が思っているよりずっと深刻だ。怖気づいてる暇なんかない――頑張んなよ」
「……はい」
リッチは……リッチは何故私の祖国に住み着いたんでしょうか……! リッチさえ来なければ……こんな事には、ならなかったのに…………




