リノの心霊探検隊 前編
魔族の幹部級臣下が3人増えた。
1人は副騎士団長候補だ。
幹部は人間族が多かったからな、バランスを考えるともう少し多くても良い。
王族家は全員人間だ。王族の次に権力を持つ自警団も、トップの日坂は人間だ。補佐官の神奈も同様。副官のグラジオラスは魔族だが、対外的に見て人間主軸。
騎士団もトップのロータスは人間、副官候補のイクシオンは魔族だが、これもまた人間主軸。
使用人はトップのセバスチャンが魔人の為グレー。その下のニンファーや伊藤真由美が人間という事を考えると微妙だ。
参謀のみ魔族のアマリリスの下に人間のピアニーが付いている……アマリリスの精神は人間だが。
まあ、つまりだ。国家の幹部に魔族は居るけれど、主軸は人間じゃないかと言われる訳だ。平等と謳いつつ人間贔屓じゃないかと叩きたい訳だ。
孤児院の院長であるアイリスは魔族、副官のミラも魔族だが、孤児院の院長が幹部として扱われる国なんてうちだけだ。他国からすれば意味が分からないだろう。
そういった叩きたいだけのうるさい奴らを黙らせるためにも、エリスとケレスには実力を付けて、魔法師団の筆頭と次席に付いて頂きたい。
魔法師団は少なくても10席、多くて13席程度で考えている。少数精鋭部隊、そのトップが魔族2人であれば、うるさい奴らも少しは減るだろう。
人材を確保し、イクシオン一家の新たな屋敷への引っ越しを済ませて王宮へと戻ると、ラミウムが待ち構えていた。
……黙って他国へ出てた事に不満を言いに来たのだろう。
だが、フィサリスの密告によって、不満は説教へと変わる。
前にも言ったがな……ラミウムの前では言葉にせずとも、思ったら言ったのと同じなんだよ!
内政官……外交官も担当するラミウムはかなり多忙だ。
ラミウムにも副官が欲しい所だな……フィサリスに手伝って貰う事もあるが、フィサリスは俺の側近……俺の補佐官みたいなものだからな。
ラミウムの負担を減らせて、ラミウム不在時に代わりを務めれる奴が欲しいな……
「――聞いてますか、国王?」
「……はい」
「私の事を心配して下さるのであれば、まずは危険な行動を控えて頂けませんか? ダメージを受けないから良いと言う話では無いのです」
多忙な身と思うなら、説教に時間を取らせるなって事ですよね。
だがな……自由奔放たるのも王だ。
「開き直らないで下さいませ!」
ゴーレムの分身を操って業務を進めながら、ラミウムからのお説教をもう少し聞く事となった。
急遽氷河せんぱ……国王陛下に呼び出さたリノち……リノ様は、用事を済ませて帰って来た後、陛下に与えられた幻獣栖公園に新たな召喚獣が加わる事を発表した。
この幻獣栖公園は、リノ王女の召喚獣と触れ合える観光スポットにもなってるが、優先されているのは名前の通り、召喚獣達の『暮らし』である。
召喚獣達が暮らしやすい環境に作られていて、召喚獣達が嫌がる様な事を行うのは固く禁じられている。
現在居る召喚獣はディフェクトドラゴンのキュアちゃん、ユニコーンのメルちゃん、デイノスクスのゴウくん、ケルベロスのクーちゃん、ラミアのラミさん、グリフォンのグルウちゃん、アルラウネのキューちゃん、ヒューマノイドスライムのユリちゃん、マーメイドのマリンちゃん、そして半年前に加わったハーピーエンプレスのハピィちゃん。
そして今回、新たな仲間として加わったのはナイトメアのメアくんだ。
真っ白なメルちゃんと対照的で真っ黒なメアくん。メルちゃんに凄く対抗心を燃やされてるみたい。
メアくんも意識はしてるみたいだけど、やや控えめ……と言うか、この感じはゴウくんやくーちゃん、グルウちゃんが入って来た時と似てる……きっと氷河……国王陛下に威圧されたんだと思う。
事情を察してか、召喚獣達の纏め役であるラミさんが慰めの声を掛けてる。
あ、ハピィちゃんがメアくんに近づいてる……
『初めまして~! うちはハピィ! よろしくね~メアくん!』
『……いつもに増して元気ねハピィ』
『ふっふっふ~。実はね~! 今日ようやく卵が産まれたの!』
……時が……止まった。
卵……卵……? 卵っ!?
『――ハピィ! それどこの雄との卵なのよ!?』
『違うよ~。無精卵とか言う奴? 非常食、非常食。食べれるんだよ~? リノちゃま、良ければどう?』
「ん、ありがと」
ハピィちゃんが産んだと言う卵をリノちゃんが受けとった。
ハピィちゃんはリノちゃんの事を――あ、リノ様の事をリノちゃまと呼ぶ。
これはお子様扱いしているのではなく、リノちゃんとリノ様で呼び方に迷い、組み合わせた結果らしい。
召喚獣にまで不敬だと言う人は居ない。人とは別の枠組で生きているし、リノ様が自分の使い魔に許可している事に対して、異論を唱えるのはお門違いだから。
『今日の噂話はね~。人間族領の南の方にある廃村で、夜な夜な1人で泣きながら徘徊する少女の霊が出る~って話しだったよ!』
『あんたはホント噂話好きね……』
『うん! だって気にならない?』
ハピィちゃんは、観光客達の他国に関する噂話を盗み聞きするのが趣味らしい。
……あまり褒められた趣味では無いけど。
「……少女の霊」
「…………――」
『――お前は知っておくべき事だから話しておく。リノの本当の両親、それに祖父祖母は既に他界している。以前イエンロードで暮らしてた時の屋敷に、強盗が入って皆殺しにされたんだ。リノはその際、両親に床下の隠し扉に押し込められて、何とか生き延びたんだ。だが、リノ一人では扉を開くことが出来ず、生霊となって扉から出た。そして俺が訪れるまでの半年間、ゴーストとなった家族と一緒に暮らしてたんだ……リノの前で家族という繋がりを、無下に扱うような発言をしないのはもちろんだが…………出来れば心霊現象、幽霊の存在を怖がらないでやって欲しい――』
「――……リノちゃん……」
「……きっと独りで寂しがってる……行くよ、ほたる」
「えっ!? リノ様!? もう夕暮れで日が傾いてますよ!?」
「夜に出るんだったら、今行けば間に合う」
そうかもしれないけど……夜に会うんだったら、帰る頃には外真っ暗だよ……?
あ、リノちゃんの聖魔法使えば、明かりは確保できるのか。
「『サークル』『テレポート』」
『……リノちゃま、行っちゃったね~』
『王女の自覚あるのかしら……思い立ったら即行動の精神は、ボス譲りね』
空間転移を繰り返して、リノちゃんと共に人間族領のかなり南の地方までやって来た。
来る時はまだ夕暮れ時だったから、視界も確保出来て問題なく転移で移動できたけど、帰りは日が沈んで真っ暗になるから空間転移が使えない……メルちゃんやグルウちゃんに乗って帰る事になりそうかな。
地図は大体の位置しか覚えてないけど……たぶんこの辺って敵対国であるパープルニアの近くだと思うんだよね……ちょっと危ないな。
「リノ様、この付近は――」
「――ほたる。リノしか居ないから、いつも通りで良い」
「……リノちゃん。そうやって私を甘やかすから、国内に居る時も私が間違えちゃうんだよ?」
「リノは気にしない」
リノちゃんは気にしなくても、周りの大人達がそうでもないんだよ?
表立ってうるさく言う人は居ないけど、王族に対し馴れ馴れし過ぎる臣下は、目に余ると非難対象になっちゃうから。
特に私はリノちゃんの専属騎士、対等であってはならない。
「リノちゃん。この付近は敵対国のすぐ近くだし、日も沈んで視界も悪くなる……長居は禁物だよ」
「うん。早く見つけて連れて帰ろう」
連れて帰るの……? ……うちの国って幽霊でも受け入れそうではあるね。
悪夢の権化ナイトメア、地獄の番犬ケルベロス、大空の獣王グリフォン。
恐ろしいと言われる幻獣たちが、普通に人と暮らしてるんだもの。
ラミア、マーメイド、ハーピーなんかの獣人も居るし、幽霊が増えても今更感はある。
「ゴーストが居てもおかしくないと思える、うちの国の環境って凄いなぁ……」
「……? ――! ほたる、アレ」
リノちゃんが示す方向には、私たちの目的地であろう廃村があった。
でも……私が想像していた物と違う……月日が経って老化した古い村では無く……空爆でも受けたかのような有様の村だった。
自然災害だとは思えない……残っている建物は打ち壊された様な崩れ方をしていて、ほとんどの家が燃えて炭化している。
火属性モンスターの群れに襲われた……いや、建物に刺さっている矢は人工の物だ。
戦地となったんだろうか……でもこんな辺境にある村が……?
可能性として高いのは……盗賊。女性は連れ去られて、男性は殺されてる可能性が高い。
そう思って入った村の中、女性のゾンビが倒れていて違うのだと悟った。
「――っ……はっ……はっ……っ」
「……ほたる?」
「だ、大丈夫……私は大丈夫だよ……」
「……ん」
リノちゃんが私と手を繋いでくれた……私がリノちゃんを守る騎士なのに、なんて情けない……
リノちゃんの手の温もりを感じて少し落ち着いた。
落ち着いて考えてみると、この光景は少し変だ。
「……リノちゃん、これどう思う?」
「……ゾンビになった上で、また倒されてる。再生が不可能な程ぐちゃぐちゃに」
村の外には無かった……でも村の中には至る所に倒れているのが見える。
この村を襲ったのがゾンビ……では無く、この村の人達がゾンビになって、その上でもう一度襲われたのだと思う。
誰かがゾンビの噂を聞きつけて、退治しに来たのだろうか……だとしても、この放置の仕方は酷すぎる。
「供養しよう……『ホーリーボール』」
リノちゃんの手元から淡い光が放たれ、ゾンビの体を優しく包み込む。
ゾンビの体はゆっくりと浄化されて消えて行った。
『―――――』
「……どういたしまして」
「……リノちゃん?」
『――生霊であった事があるからか、リノは動物やモンスターだけじゃ無くて、霊体とも意思疎通が出来るんだ――』
…………もしかして霊体はまだそこに居たの……?
え、じゃあ、他の所にも倒れてる奴全部……?
「……大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ……次に行こう」
……ホラー系は得意じゃない……でもそんな事言ってられない……ホラーよりも私は、リノちゃんとの間に距離が出来てしまう事の方が怖い。
リノちゃんが再び手を繋いでくれる、手の平から温もりを感じる……うん。もう何も怖くない。
「……ゾンビって召喚獣に出来るの?」
「……出来るけど、ゾンビはモンスター。此処にいるゾンビは全てモンスターとして死んでいる……だから召喚獣には出来ない。最初からゴーストなら問題なかったけど、モンスターとして死んだ霊体は成仏を待つだけ」
動ける状態のゾンビであれば出来たのか。そしてゾンビからゴーストには成れない……もしかしたらスケルトンやマミーと呼ばれるアンデッド系のモンスターは、全部そうなのかもしれない。
「……モンスターに限らず動物は、食べる事で命を頂くか、解体して未来へと役立てる……そうじゃないなら燃やすか、燃やせないならそのまま埋める……それが命に対する礼儀。そのまま放置するのが一番の無礼」
「リノちゃん……いつの間にそんな哲学的な思想を……」
「解体の時、パパが言ってた」
あぁ……確かに氷河先輩なら言いそう。
リノちゃんは氷河先輩から思想まで引き継いでるんだなぁ……
……氷河先輩の時折見せる腹黒さまでは引き継がないで欲しいかな。
氷河先輩の腹黒さはそれがまた良い所だけど、リノちゃんには純粋で居て欲しい。
ドSな氷河様は凄く有りだけど、ドSなリノちゃんは……鞭を振るうサドなリノちゃん……いや、リノ様…………それはそれで有りじゃない?
「……ほたる?」
「な、何でもない! 大丈夫だよ」
こんな純粋な良い子に何を思ってるんだ私は! いや、純粋だからこそ……いやいやいや。
落ち着くんだ私!




