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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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落とし穴

「原因であったナイトメアは俺の娘であるリノの召喚獣となった。もう害はない、お前らの父親は助かったぞ」

「「ありがとうございます! 国王様!」」


 俺に深く頭を下げた後、2人は父親に駆け寄り、泣いて喜んだ。

 ……ちょっと不味いな、2人が信者になりかねない雰囲気だ。打破せねば。

 俺はベットに横たわるイクシオンに話しかける。


「『剣豪』、話しは出来そうか」

「……貴方は……いったい……」

「俺はブライトタウン王国、国王の月島氷河だ」

「――――――――」


 悪夢から解放され、気を取り戻した先に現れた他国の国王。

 うん。そりゃまあ混乱するよな。

 自国の大公でも意味分かんないのに、他国の国王とかもっと意味分かんないよな。

 

「氷河王……? 噂は、かねがねお伺いしております……この度は誠にありがとうございました……」

「気にするな。お前を救う……それがお前の娘と息子を、俺の臣下に加える条件だったからな」

「氷河王の……臣下に…………そう……ですか……」


 愛情込めて育て来た我が子を引き渡したくない……けれど、それを条件に助けられたのだからどうする事も出来ない……といった所だな。

 なら簡単な解決方法があるじゃないか。今は衰えたとはいえ元Aランク冒険者だぞ?

 

「イクシオン、俺の国に来て仕える気は無いか?」

「私がですか……? 今の私に……剣豪と呼ばれた時の力はありませんよ……」

「だが此処に居ても、リハビリ期間は貯金を切り崩しながら、子供達の仕送りで過ごす生活になるだろ? 俺の国に来れば子供達と同じ屋敷に住まわせる上に、リハビリ期間も給金を出すぞ」

「しかし……そこまでして頂く訳には――」

「――俺も子を持つ父親だ、お前の気持ちは理解できる。助けた事に恩義を感じるのであれば、俺に従え」

「…………承りました」


 良し、人材確保。まったくとんだ頑固親父だな。

 

「『サモン』」

「お呼びでしょうか、主様」

「引っ越しだ。ニンファーはこの屋敷の使用人と協力して荷物を纏めろ、エリスとケレスは自室の片付けだ。フィサリスとリノは纏められた荷物を空間収納に仕舞ってくれ、すぐ帰国するぞ。俺はイクシオンとまだ話があるから此処に残る、すぐに取りかかれ」

「かしこまりました」「「はい!」」「うん」「……私も?」

「お前も、だ。働かないなら穂乃香を呼ぶぞ」

「王妃まで来るのは不味いって……分かったよ」


 衰えたとはいえ元Aランクの冒険者……フィサリスはまだ臣下と確定できないイクシオンが、俺と2人になるのを嫌がった。まったく忠臣過ぎる。

 ナイトメアの一撃を素手で受け止めたのも、フィサリス的にはアウトの様だ。ラミウムに報告される事が決まった。忠臣よ、密告は止めてくれ。黙っておくのが忠臣だろう。

 引き抜きに置ける引っ越しのお手伝いはもはや恒例行事だ。ピアニー以外は全員行った。

 指揮官達は無理矢理俺が引き抜いたからな。それで祖国から本人やその家族が襲われるのは俺としても忍びない。魔族嫌悪派で無い事が絶対条件だが、望めば親族や使用人達も纏めて俺の国に引っ越させた。荷物も人も移動は空間転移で行う。道中に攻撃されては堪ったもんじゃないからな。

 そんな指揮官8人の内、4人は日坂の奴隷に移籍している。俺が怖かったそうだ……まあ、初対面でブチ切れ状態だったからな、仕方なし。

 

「……随分と急ですな」


 2人になった所でイクシオンが話しかけて来た。

 

「お忍びで来たからな。屋敷の外に出て民衆の目にさらされると、色々問題が起きる。臣下達にも話してないから、早く戻らないとそっちでも騒ぎが起きる」

「やんちゃ……いえ、随分と大胆ですな」


 アピール1、やんちゃ。

 

「さて、少し話をしよう……同じ父親として聞きたいんだが、反抗期ってどうしたら良いと思う?」

「――――は?」

「2歳になる息子が居るんだが、俺に全然懐かなくてな。娘達は懐いてくれたのに……同時期に生まれた臣下の娘の方がまだ懐いている始末だ……」

「……はっはっはっは……叡智の王、孤児の救い手、慈愛の王、魔王殺し、殺戮王、暴君、鬼教官と……色々な噂を聞きましたが……王も1人の父親、人の子ですな」


 アピール2、人の子。

 

「当たり前だ。国王とて、始まりは等しく赤ん坊だ。化け物扱いはまだ良いとしても、神聖視される様な大層な者では無い」


 アピール3、神聖視するな。

 

「忠告ですかな? ……我が子達はどうでしょう……早くも懐いているように見えますが……」

「相当お前が助かった事に嬉しかったらしいな。実力も優秀だ。親としてこれほど誇らしい事も無いだろう」

「そうですな……我が子達は立派に育ちました。あの子達の溢れる才能は私の妻の物なのですよ」


 イクシオンの妻は、あの双子の姉弟を出産すると共に他界している。

 精霊魔法の適正、回復術、結界術、錬金術も全て妻が扱っていたスキルだ。

 妻もまた、Aランク級に届き得る冒険者だった。

 

「子育ての大変さは俺も理解している。お前は男手1人であいつらを育て上げたんだ。それは称賛に……いや、尊敬に値する」

「――! 尊敬……ですか……っ……これほど光栄な事もありませんな……っ……ありがとうございます……!」


 褒められるべき事だろう。妻は死に、使用人を雇ったとは言え、男手1人だ。

 本人は純粋な剣士なのに、娘、息子たちに適性の高い魔法を選ばせた。

 冒険者として働き生活費、使用人費を稼ぎながら、伝手を辿って、子供達の指導も頼む。

 指導ももちろんタダでは無い為、その分のお金も上乗せで稼がなければならない。

 稼ぎを上げる為子育てをしながら、最短でAランクの冒険者に上り詰めたんだ。

 子供達の為に取れる時間は少ない。その短い時間の中でもあんなに思って貰える程の関係を気付いているんだ。立派な父親だ。

 

「……崇拝したくなる気持ちも、分からなくありませんね」

「……止めてくれ」

「陛下のお望みとあれば……仕方ありませんな」


 横になったままのイクシオンは、弱弱しくとだが笑った。

 まったく、10歳も年上のおっさんに崇拝されるとか勘弁してくれ。

 イクシオンはグラジオラスの3つ上で33歳。子供が生まれて妻が他界したのは18の時だ。

 未だ33歳なら、まだまだ現役として十分に働ける。

 

「まずは体力の回復、次に筋肉を付け直して、早く復帰しろ。全盛期まで力を取り戻したら、お前をうちの騎士団の副団長に任命してやる」

「そうですな……私の全盛期も、まだまだこれからです。ご期待に応えて見せましょう……!」


 奴隷契約を結んでステータスも上げて置いた。副騎士団長に就任する日も遠くないだろう。

 幹部候補3人に加え、リノの召喚獣にナイトメアまで確保できた。良い日だったな。

 

「……ナイトメアは飼われるのですか……?」


 部屋の隅、ぽつんと残された黒馬を見て、イクシオンが顔を顰めた。


「あー……良い思い出は無いだろうが、うちの娘は幻獣好きでな。うちの国にはもっと濃いのも居る。国民を襲わないように叩き込むから大丈夫だ」


 襲ったら……分かるよな?

 視線を向けるとナイトメアは耳を開いて後ろに倒し、後ろ脚を倒して床に尻を付けた。

 お座りしている犬の様だ、服従しますってか。

 リノはメルを気に入ってるし……俺の馬として借りるのも有りだな。

 リノがユニコーンに乗り、俺がナイトメアに乗って、乗馬を楽しむ……王族になったんだし、そういうのも有りじゃない?

 

『氷河の神聖視化が進むと思うけど』


 ……何という落とし穴。

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