王将
将棋ってさ……どんなに敵の駒数が多くとも、王将さえ取れれば勝てるんだよ。
「おらッ!」
「……っ!」
グラジオラスさんが跳躍から、一気に敵向かってハルバードを叩きつける。
敵はそれを回避すべく右に避けるが、その先にロータスさんが回り込んでいる。
「はっ!」
「ぐっ……!」
「――おらぁ!」
ロータスさんの連続突きを捌いていたが、グラジオラスさんの追撃は避けきれず、腹部に直撃した。
敵の騎士団長さんは恐らくロータスさんやグラジオラスさんよりも強い……けど、連携した場合あの2人の方が強い。
私はあの戦闘には混ざれない……変に混ざろうとすると2人の邪魔になってしまう。
接近戦が強い人はいるけれど、連携で強いのはあの2人だと思う。
月島君、日坂君、如月さん、明君は個人で動きたがるから。連携無しで勝てる程強いと言う事でもあるけど。
此処での勝負はもうすぐ終わりそうかな……――っ!
「『グラビディ』!」
錬金術で作り上げた大量のナイフを連続投射!
ダメージは……後ろ方はくらってるけど、前列はそうでもなさそうだ……
なんでこんなタイミングで……
「――団長! 陛下の命により、増援部隊到着致しました!」
敵戦力の増加……それも前列に居る2人は恐らく月島君の言う大将格だ。
2体1だったから有利に戦えていたのに、これは不味い……
「……グラジオラス様、ミルアグナ団長を1人で抑えれますか?」
「無茶言うな……手負いとは言え、あんな化け物クラス、凌ぐだけで精いっぱいだ」
流石に分が悪い……空間魔法で一度撤退を――
「――先ほどの攻撃は、貴女だな?」
しまっ……! 敵にも空間魔法使いが――
「――ぐっはッ……痛っ……ねぇ君、奏ちゃんに手を出そうなんて――死にたいの?」
「明君っ!?」
なんで此処に!? いや、それよりも腹部に剣が刺さって……!
「ご主人様に言われて来てみれば、まさかホワイトール帝国の騎士団が相手とは……これは面倒だな~」
「フィサリスさん……!」
「フィサちゃん、これ殺して良いよね? 僕刺されてるし」
「フィサちゃん言うな。ダメだよ、ご主人様が言ってたでしょ。『殺しはするな』って」
「ん~……つまり殺さなきゃ良いわけだね? ――植物状態になろうとも、カテゴリーでは生きてるって事だ」
明君の振るった大鎌が、敵が剣を持つ右腕を切り落とした。
「ぐぁぁぁぁああああっ!」
「おいおい、右腕一本で大騒ぎし過ぎだろ。僕だって腹に穴空いたんだぜ? でも大丈夫だよ、魔王戦後の氷河ちゃんは片目両腕を欠損、腹部と脚に穴だらけでも生きてたらしいから――人間そう簡単には死なないさ」
明君が再度大鎌を振るい、左腕を取りに掛かる……が、その攻撃は他の敵に防がれてしまった。
貴重な空間魔法使いを失いたくなかったんだと思う。
「グラ~、ご主人様から伝言。『ホワイトールは第2のレッドリアになりかねないから、鼻へし折っとけ』ってさ」
「5人でか? また無茶を言う」
「今は5人だけど、その内日坂君が来ちゃうんだよね~。私としてはようやく回って来た出番だから――」
フィサリスさんの周りに火の玉が大量に……空間を埋め尽くしそうな程大量に現れた。
「『ファイヤーボール』……此処で戦っておきたいんだよね。活躍しないとご主人様に褒めて貰えないし」
「「「「ウォーターボール!」」」」
「ぬるいコントロールだな~……ちゃんと狙ってんの? 『サンダーボール』」
フィサリスさんは敵から飛んできたウォーターボールを全てサンダーボールで打ち消し、ファイヤーボールの雨を敵に降らせた。
「ブルーゼムの精密大砲……!」
「ん? アルビナちゃんじゃーん! そっかーホワイトールの宮廷魔術師と言ったらアルビナちゃんだよね~……――なら、手加減無しで良い?」
「来やがれ……『ダークネス』」
「『サンクチュアリ』……駄目だよアルビナちゃん……レベル7の技じゃ足んないって……ほら『フレアバースト』」
「――――……っ! 『メイルストローム』!!!」
魔法大戦争が始まってる……敵の大将格の内一人は、フィサリスさんが担当してくれるみたい……
ともすれば私は……
「……私の前に立つと言う事は、貴女が私の相手をすると言う事で良いのですね」
「はい、構いませんよ」
「……舐められたものだ」
もう一人の大将格の人の前に立つ。騎士団長の人には2人で掛かって貰わないと困るし、明君は敵軍隊中央で暴れてるし、私が相手するしかない。
「貴方こそ、あまり舐めて掛からない事をオススメしますよ」
「ほう……ホワイトール帝国騎士団、副団長キーコスト」
「…………怪人月島氷河の弟子、アイリス」
役職は孤児院の院長だし、これといった2つ名も無いけど……私は月島君の弟子で、月島君に義手を使わせたんだから……師の顔に泥を塗る様な結果は残せない……!
「『テレポート』『テレポート』『テレポート』」
敵の周りを細かく転移して移動する。と同時に空間収納からナイフを取り出して宙に浮かべる。
「『テレポート』『テレポート』『テレポート』」
重力魔法で上空に上がりつつ、敵をどんどんナイフで囲んで行く。
こんなものかな……出来た、鳥籠。
鳥籠の中へと入り、短剣を構える。扱い方はきちんと教わった……大丈夫。
「驚きました……大したものです、が、貴女が中に入られては意味が無いのでは?」
「意味ならありますよ。試してみますか?『テレポート』」
敵の死角へと移動し、短剣を振り下ろす。
が、攻撃は剣によって防がれてしまった。
けど、これで終わりじゃないよ?
「一斉投射!」「――!?」
周りに浮かべたナイフが、私だけを避ける様に敵へと飛来する。
ナイフは今も敵を襲っているが、私は短剣による追撃を止めない。
ナイフを弾けば短剣が、短剣と打ち合えばナイフが敵のHPを削って行く。
短剣のみの接近戦は私の方が劣勢……だけど今は、私が優勢!
「くっ……! はっ!」
敵は飛来するナイフの軌道上に、私が居る状態で回避した。
当然ナイフは私へと向かって飛んで来る……そしてナイフは、私に当たる直前でピタッと止まり、敵へと方向を変えて飛んで行った。
「何っ!?」
「投射後の軌道変更が出来ないと思いましたか? 此処に浮かぶ全てのナイフは重力魔法で浮かべた物……即ち――全て私の制御下にあります」
月島君の様にナイフの一つ一つに意思がある様には動かせないけど、投射のタイミングをずらしたり、軌道を変える事ぐらい私にだって出来る。
ナイフを投射する、短剣で更に切り込む。ナイフでの傷で敵の動きが止まり始めた頃、錬金術で敵の足元から拘束する。
敵の全方位をナイフで囲みこむ。
「私の……勝ちですね」
「っ…………完敗、です……」
鳥籠に使ったナイフを上空に集める。
敵はまだいる筈、見つけ次第ナイフの雨を降らせれば、足止めになるは――
「…………あれ?」
周りの鳥籠として囲んでいたナイフを、上空に移動させた事によって開けた視界の先……戦闘は全て終了していた……
と言うか中断されている……? 騎士団長さんはまだ普通に戦えそうだけど……
「――アイリス、よくやった。流石俺の弟子だ」
「わわっ……! 月島君!」
きゅ、急に頭を撫でられたからびっくりした……心臓に悪い……
月島君が到着したから戦闘は終わったのかな……?
……奥に居る青ざめたお爺さんは一体……
「こ……皇帝陛下……なぜ、このような所に…………」
皇帝陛下……? 皇帝と月島君…………何だろう……凄く嫌な予感がする。
「…………何しでかして来たの?」
「俺がしでかした前提かよ。ホワイトールで教皇を殺した怪人を許すな、って運動を皇帝自ら行ってたからな……城を隔離して、兵士を全て首から下埋めて、皇帝に兵士全滅と和平を結ぶのはどちらが良いか、問うただけだ」
「いや、何してんの……」
死人は出てないかもしれないけど……怖すぎるでしょ……
「城の見張りに穂乃香を置いて来たからな。兵士は埋めたが皇帝の血族達は埋めてない……その中で戦闘力持ちが攻撃して来そうなら、攻撃して良いと穂乃香に伝えてある。今もなお血族達が怪我してるかもしれないとなると、皇帝も気が気では無いみたいだな」
うわぁ……追い打ちを更に掛けるのか……
「皆の者! 武器を収めよ! ブライトタウンに……月島殿に逆らってはならぬ!」
皇帝様が声を張り上げて、戦闘の中止を呼びかける。
ちょうどそのタイミングで神奈ちゃん達と、日坂君がこちらに合流したみたいだ。
「なんだ日坂、マグオートを凹ませて来たのか」
「いや、味方って気付かなくてな……一撃を受けたんだ」
「…………まさか、ダメージが入らんとは思わんのよなぁ…………」
「日坂先輩! くらわないとは言え、あんな危険な方法駄目ですからね!」
ラミウムさんの母国の騎士団長さんが落ち込んでる……そしてホワイトールの騎士団の人達がざわついてる……日坂君のステータスはもはや反則だからなぁ。
月島君のスキルもだけど。
「アイリス、上空のナイフ片付けて良いぞ」
「あ、うん」
しまった、これも騎士団の人達を怖がらせる一つになっていたのか……
ナイフを全て空間収納にしまう。
……明君の怪我……私のせいだし回復はしてあげるべきかな……
「調子乗らせても碌な事にならないし、俺がして来よう」
「あ、うん……ありがとう」
月島君が明君の傷口の治療をする。完治するには水奈ちゃんの力が必要だと思う。
明君が月島君に抱きつこうとして、蹴られてる……行かなくて良かったかも。
「――さて、皇帝陛下殿……話をしようか」
「つ、月島殿……話しならば先ほど致したではありませんか」
「それは、『今』の話しだろう? ……『未来』の話をしよう――」




