指揮官狩り
力を持つ者が、力を持たぬ者を守る。
決して義務とまでは言えない。が、必然的な流れでもあるだろう。
力を持つ者とはそれだけで責任が付いて回る。力があるのに戦わないのはそれだけでも罪として扱われる。
実際に処罰される訳では無い。だが、そいつが戦場に立っていれば、被害はもっと少なく済んだ、奴はどうして実力を保持しながら戦わないのだと、不満と共に良い顔をされなくなるだろう。
圧倒的兵力数で、こちらは少ないからと、引退した者や、成人を迎えたばかりの者達も防衛戦に参加している。
ともなれば、特機戦力と言える我が家が参戦しない訳には行くまい。
そう……力がある故に戦場に立たせたんだよ……妻を、妹を、娘すらも――
……気がおかしくなりそうだ。
「――お前が指揮官だな?」
「な――っ!」「どこから!?」「隊長っ!」
「『隔離結晶』」
俺と指揮官以外の兵士を全て結界の外へとはじき出す。
用が有るのは指揮官だけだ。他には興味すらない。
……こいつは有能そうだな。
錬金術で指揮官を拘束し、首に剣を添える。
「――選べ。俺の配下になるか、此処で死ぬか」
「配下……だと……?」
「ああ、お前だってこんな所で死にたくは無いだろう? お前の国はレッドリアと同盟を結んでいたというだけだ。他国の戦争に巻き込まれ、妻子いる身で、戦死はしたくないだろう?」
「なぜそれを――」
「――選べ。無駄話は少なく収めたいんだ、早くしろ」
「………………配下になった後……此処に居る兵士たちはどうなる……殺すのか?」
「興味無いな。こちらも予定が詰まっている。お前の部下に宗教信者は居ないし、うちの奴らには犠牲は最小限にする様伝えてある……死ぬことは無いだろう」
「……………………分かった配下になろう」
「賢い選択だ」
指揮官と奴隷契約を交わす。
自己保身を選んだが、最後まで部下の心配もしていた……部下全滅予定だったら配下にはならなかっただろうな……こういう奴は嫌いじゃない。
「次だ……『サークル』『テレポート』」
次は……従いそうに無いな。
「――お前が指揮官だな『隔離結晶』」
「なっ! ……貴様が怪人か」
「選べ。俺の配下になるか、此処で死ぬか」
「配下だと!? なる訳――」「――そうか、『ダーククラッシャー』」
「………………」
「何ぼーっとしている。次だ『サークル』『テレポート』」
次は……戦闘力も高いのか、確保しておきたいな。
「『隔離結晶』――お前が指揮官だな」
「……お前が噂に聞く怪人か……『トルネード』!」
「『グレイシャー』」
「『フレイムトルネード』!」
「『メイルストローム』」
「『サンダークラッシャー』!」
「『ダインスレイブ』」
指揮官の剣を根元から斬り飛ばした。
完封された指揮官は膝から崩れ落ちた。自信家だったみたいだな。
あれだけ魔法が使え、魔剣術も使えるなら優秀な兵士だろう。
「う、嘘だ…………嫌だ……死にたくない……」
「――選べ。俺の配下になるか、此処で死ぬか」
「あ……あぁ………………配下に……なる……なります……殺さないで下さい…………」
……嘘は言ってないみたいだな。奴隷契約を結んだ。
コイツは実力はあるみたいだが、メンタル面が弱いみたいだな。
俺直々に鍛えてやろう。
「次だ『サークル』『テレポート』」
次は……あまり指揮力の高くない奴だな。
「『結晶隔離』――お前が指揮官だな」
「ひっ! か、怪人!」
「――選べ。俺の配下になるか、此処で死ぬか」
「は、配下になる! なります!」
……こいつ――
「――俺の配下になって……情報を流すのか」
「――っ!? ななな何を……そんな事は決して致しません!」
「そうか……」
強か……蛮勇……いや、無謀だな。
「『ダインスレイブ』」
「な……ん、で……」
「……俺はお前の様な奴が一番嫌いだ」
「ちょっと待ってくれ……そいつは今、従うって――」
「――俺はスキルで相手の心が読める。相手の記憶も読める……嘘、偽りが俺に通用すると思うな……それに此処は戦場だ。お前らは、俺に生かされたに過ぎない。生きるチャンスを与え、不意にされたから殺した……何かおかしいか?」
「……いや、何も」
容赦なく殺し合う戦場で、普通なら殺されている所、生きるチャンスを与えてるんだ。
それだけでも十分だろう。
「……嘘は……言って、ません……!」
「ああ、分かってる。次だ『サークル』『テレポート』」
次は……外れか……粗暴不良が目立つな。
「『隔離結晶』――お前が指揮官だな」
「んだテメェ!」
口が悪いな……錬金術で拘束して置くか。
「ぐっ……テメェ……何しやがる!?」
「――選べ。俺の配下になるか、此処で死ぬか」
「あぁん!? 後ろに付いてんのはテメェに従った指揮官ってわけかよ! ネタは上がってんだ! 死者は全然出てねぇってなぁっ! 本当に殺せんのかこの腰抜け!」
「『アブソリュートゼロ』」
「――――――」
「氷像になった気分はどうだ? 聞こえてないだろうけどな……」
ここにはもう用が無いな……次だ。
「――儂は国に忠義を捧げた身……たとえ死のうとも、貴公には下らぬ」
「……そうか、見上げた忠誠心だ」
「はぁっ……っ!」「…………あんたの主は幸せ者だな」
指揮官はこの爺さんで最後だな……これで実質、敵部隊は機能が止まった。
指揮官は8人ほど確保出来た。十分だな。
後は元から指揮官の存在しないゲリラ兵と……大将格か。
――……うん? おいおい、マジか。
「魔人族領パイシーズ王国、『英雄』グラジオラスだ」
「人間族領ホワイトール帝国、『騎士団長』ミルアグナ……話しには聞いていたが……ラミウム王女、貴女がそちらにいらっしゃると言う事は即ち、ブルーゼムはそちら側に付いたと言う事でよろしいのでしょうか?」
「…………それは」「――良いらしいぞ、ラミウム」「――なんせ俺が来たからなぁ」
「氷河様……マグオート!?」
やりやがったあの親バカ。
娘が戦争に巻き込まれてるって知って、マグオートを援軍に出しやがった。
もう、負けようも無かったんだが、完全にブルーゼムがこっちに付いた事になったな。
「まさか小僧と共闘する事になるとは思わんよなぁ。はっはっはっ!」
「約束通り強くなっておいたぞ、サシで勝負するか?」
「くっくっくっ、怪人と一戦するのもまた一興!」
「貴方達が戦ってどうするのですか!」
「ふははは! その通りよなぁ……小僧との勝負よりも先に――久しぶりよなぁ、ミルアグナ」
「マグオート……! この戦闘狂まで出張って来たともなれば……すぐに終わらせる!」
おう、迷わず俺の所に突っ込んで来るか。まあ、この場のヘッドは俺だからな。
間違っては……穂乃香……
「――!」「氷君に触れるなッ!」
向かって来た敵に転移してきた穂乃香が蹴りを入れ、吹き飛ばした。
別に俺が相手しても良かったのに……お前、俺の事大好き過ぎだろ。
「くっ……っ!」「――キングとクイーン取るにはまだ早いだろ……ジャックと遊ぼうぜ?」
「このっ!」「――では、私も混ざりますかね」
「ロータス……!」
敵にグラジオラスがハルバードを振るい、ロータスが突きを入れる。
何アレ集団リンチ。
……こんなに戦力が密集してても仕方ないな。此処はグラジオラス、ロータス、……一応アイリスを残して置けば大丈夫か。
「マグオート、あんたはラミウムから離れないよう命が下った上で、強い奴と戦いたいんだろ? 南にレッドリアの英雄が居る。ラミウムと……俺の弟子1人ラミウムの護衛に付けるから行って来ていいぞ。神奈、GO」
「私ですか!?」
穂乃香でも良いけど、その場合、君俺と2人よ?
「貰っていいのか?」
「良い。俺はあんたと違って戦闘狂じゃない」
「はっはっはっ! だが、サシはするぞ? 終わった後にでもなぁ」
終わった後は駄目だ。俺は預けた結衣香と煌輝を迎えに行って、抱き締める予定なんだから。
おっさんとの勝負を優先なんてしてられない。
マグオート、ラミウム、神奈の3人が南に向かって行った。
さて……
「行くか、穂乃香」
「うん! えへへ~、デート~」
「こんな血生臭いデートは嫌だろ」
「私は良いよ? 氷君と一緒なら」
「……そうかよ」
時期に日坂が大将格の心を折り尽すだろう。
だから俺と穂乃香は別の所へと向かった。
3万人の兵……確かに多いがそれだけ動かすには金が掛かる。
それは武器費であり食費である。そう、つまり長期戦を見越した場合の食材があるのだ。
兵糧攻め。だが燃やして勿体無い事はしない。空間魔法使いが2人居るのだ。空間収納に入るだけ貰って行く。3万人分の食材は、1万人で行う炊き出しの材料として貰った。
どんなに巧妙な場所に隠していたって、俺の前では無力である。隠した人は知ってるんだから。千里眼に透視もあるし。
賠償金はこれで勘弁してやろう。
レッドリア……次は、地図から消すからな。
A日坂、2リノ、3ほたる、4水奈、5神奈、6アイリス、7フィア、8ラミウム、9ロータス、10フィサリス、Jグラジオラス、Q穂乃香、K氷河、JOKERアマリリス。
トランプだとこうなりますね。




