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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
255/346

遺伝子

 結衣香の誕生から1年。

 村の現状は大きく変わった。

 共存反対派を黙らせた事により、今度は賛成派からの接触が増えたからだ。

 魔族に転生した転生者、魔人に進化した元人間、魔族と人間の夫婦など、今まで肩身の狭い思いをしていた者が住まわせて欲しいと訪ねて来た。

 それ以外にも、給金が高いうちの村人相手に商売をしたいと言う商人や、生活が厳しいから働かせてくれと懇願する貧民など、色々な者がこの村に住まわせて貰えないかと訪ねて来る。

 うち駆け込み寺じゃないんだけど……

 余りにも多いし、労働力が増えるのは悪い事では無いので、俺とラミウムの審査を通った者に限り、一度村の形態を崩して受け入れる事にした。

 形態を崩すに当たって無くなったのは、給金制度と炊き出しだ。

 今まで働いた分は給金となり、サービスを受ける事に関しては無料で行われていた。

 しかしこれからは給金が出るのは幹部だけで、他は自稼ぎ。サービスは有料となる。

 食事も今後有料となる為、元から居た村人からすると、不便になった様に感じるかもしれないがそうでも無い。

 形態を崩すに当たって今回新硬貨を発行した。この村で商売をするにはこの新硬貨でなくては出来ない。

 金属は地下の鉱床にあった物を使っている。

 この新硬貨は人間族領硬貨と、魔人族領硬貨との換金を適正価格で行っている。

 まず、冒険者達や子供達が稼いだ大量の人間族領硬貨、少量の魔人族領硬貨は換金されて俺の物となる。

 換金したので村人達には同額の新硬貨が渡され、それで村内でやり取りをする。

 俺は集まった人間族領硬貨で人間族領で村に足りない物資を買い、その物資を村人達に売る。

 村人達に渡した新硬貨が俺の下に戻って来て、村人たちは物資を得る。

 村で足りない物資を買う量は少ない為、自然と俺の持つ硬貨が増えるが、これは村総資金や換金して幹部の給金となる。幹部たちは給金を貰う代わりにサービスを無料で行う。所謂税金である。

 つまり今まではみんな公務員だったが、今後は幹部のみが公務員、他は民間企業となる訳だ。

 俺による訓練を受けた冒険者達や、俺の監修の下農作物を育てた孤児院の稼ぎは中々に良い。稼ぎが良ければ、今まで無料で受けていた食事、解体、温泉などが有料になったところで、不自由なく使える。サービス利用者が増えれば、サービス提供者は稼ぎが良くなり、他サービスを不自由なく使える。

 冒険者達が人間族領で買い物がしたい場合はもちろん換金する。移り住んだ魔族たちが魔人族領で買い物したい場合は魔人族領硬貨に換金する。だとしても手元に入る他硬貨は増え、新硬貨の発行も増えて行くばかりである。

 新硬貨発行金額=村全体で稼いだお金である為、給金制度の時とさほど変わりない現状となる。影響があるとすれば、給金が少ない割に多くサービスを受けていた者が、受けるサービス数を減らさなければ、いけなくなったぐらいである。

 だが、俺の理念は働かざる者食うべからずだ。サービスを受けたければ働けとしか言えない。適性を見た上で仕事の斡旋と指導はしている。後は本人のやる気次第だ。

 そんな訳で村の形態を大きく変えて、受け入れを続けてきた今日この頃。

 村の総人口数は1000人を超えた。

 

 

 

「はぁ~……」


 ただいま温泉、大浴場に浸かり中。この時間は利用者が少ない為貸し切りの様な状態である。

 村長はもう疲れたの。入村希望者多すぎ。1日3人ぐらいのペースで人増えてるんだけど。

 最近はもう一人一人に指導はしてられないから、鑑定内容と仕事適正だけ教えて、俺が育てた指導者に任せてる。

 俺が直接指導するのは幹部と指導者のみだ。他にもしないといけない事業が多い。

 俺だって結衣香にかまってやりたいのに全然時間取れない。

 結衣香は予想通りというか、水奈とリノ……あとほたるに大変可愛がられている。1歳になって乳児から子供へと変わりそろそろ立ったり、言葉を口にしたりし始める頃だ。

 リノに至っては最近訓練そっちのけで結衣香の相手をしている。まあ、リノはまだ8才だし、鞭振り回してるより俺はそっちの方が良いと思うけど。

 余り顔を見せてやれない駄目なパパにも、笑いかけてくれる結衣香は天使だった。

 うちの子マジ天使。

 

「――お、ボスじゃねぇか。奇遇だな」

「……グラジオラス。見張りはどうした? サボりか?」

「勘弁してくれ。四六時中ずっと一緒なんて気が滅入るだろ」


 狂人の相手ご苦労。

 お前もそりゃ息抜きぐらいしたくなるよな。

 グラジオラスは身体を洗い、簡単に済ませると湯船へと入って来た。

 

「ふぅ~……ボスも随分とお疲れだな」

「そりゃ疲れるだろ。今日だけで受け入れ5人、訪ねてきた人数も含めると8人だ。敵対派のスパイも混じり込もうとして来るから、他に任せる訳にもいかん」


 宗教国家がマジでウザい。

 国で魔族を悪魔として認定してるから、全て滅ぼすべしの思考なんだよ。

 魔人族領でも同じ様に人間は滅ぼすべしの宗教国家がある。

 実は君たち仲良くできるんじゃない? 思考パターンが一緒だよ?

 そんな奴らが自分たちの国に入られた訳でも無いのに、こんな無法地帯であった土地に出来た村に対し、口を出し、時には手まで出してくるのだからいい迷惑である。

 

「……なぁ、ボス。アンタはなんで魔王やその奴隷達を殺したんだ?」

「…………なんだ、唐突に」

「ボスは残忍な所もあるが、理由も無く人を殺す様な奴じゃねぇ。魔族だから殺す訳でもねぇし、人間だから殺さない訳でもねぇ……何か理由があったんだろ?」


 子供達が来る可能性も全く無いとは言えない銭湯の大浴場で、なに物騒な話を始めるつもりなんだこの英雄は。

 周りに客居ないから良いけども。

 ……あまり人に聞かせる様な話じゃないが、こいつになら良いか。

 

「そうだな……話すにはまず、魔族の始まりからだな――」




「――じゃあ魔族も元を辿れば人間、同じ種族で争ってるって事か?」

「そうだ。違いは人間から魔人になる事は出来ても、魔族から人間には成れない事ぐらいだな」


 進化は出来ても、退化は出来ない。

 まあ、進化と退化の定義なんて曖昧だけどな。

 仮に人間にえら呼吸の機能が付いたとして、水中でも活動できるようになった進化と捉えるか、陸上で生きて行くに適さない効率化されていない身体になった退化と捉えるか。

 環境に合わせて体を変えていくと言う意味では退化であるし、利便性が増えると言う意味では進化である。

 尻尾や角、牙や羽が生えて進化と呼ぶか退化と呼ぶかは、捉え方次第である。


「魔王は自分が生き続ける為に、わざと魔族と人間を争わせていたのか?」

「煽っていたのは事実だが、魔王はただ利用しただけで、争い自体は元々あった。魔人になった奴を迫害した人間たちも人間たちだが、それにキレて女を誘拐して孕ませた魔人も魔人だ。その結果誕生した子供が魔族の始まりだって言うんだから、人間と魔族間の争いは魔族の始まりからあったも同然だな」

「魔族と人間の間に生まれる子は、みんな魔族なのか?」

「ああ、優勢遺伝子だからな」


 人間よりも魔族の方が遺伝子が強く、人間と魔族より大精霊の方が更に強い。

 だが、繁殖率で言うと人間が最も多く、魔族、精霊と続く。

 遺伝子が弱いからなのかは知らないが、繁殖本能……即ち性欲が強いんだよ人間は。

 ゴブリンやオークなどのモンスターに襲われて孕まされた場合も、やはりモンスターが生まれる為、人間の遺伝子の弱さがよく分かる。

 

「ガキの頃から、周りの大人達は人間は敵だと口を揃えて言っていた……そう教わった子供が大人になって同じように子供に教えて行く……そんな事をもう3000年も続けてんのか……」

「真実を知る者なんて居なかったし、敵対が常識として世間に知れ渡っているからな。そうして広まり根付いた敵対精神は、そう簡単に消える事は無い」

 

 敵対する事で仲間意識を強くしている節もある。

 味方が居ると言う事は敵が居るという事で、敵が居て初めて味方とは成り立つものだ。

 敵が居なきゃ仲間足り得ないなんて悲しい話だが、それで絆が作られるのだから何とも言えない。

 

「魔王が敵対精神を利用して人間族と戦争を起こそうとしていた……それを止めるためにボスは戦ったのか?」

「大方そんな所だ」

「…………一万人の奴隷を殺す必要はあったのか?」

「じゃ無きゃ魔王を倒せなかったんだよ。今回は運悪く、『奴隷強化』のスキルを持った勇者に憑依されていた。例えば、俺の奴隷であるお前の攻撃力は500越えしてるから、主である俺の攻撃力にその1割の50がプラスされている。魔王はそんな奴隷を一万人保持していたんだ。プラス量が1人当たり10だとしても10万越えのステータスだぞ、勝てる訳無いだろ」

「そりゃエグイな……」


 日坂が今そんな感じで奴隷を増やして、LUK以外のステータスが1000を超えている。

 あいつはマジで魔王にでもなるんかね。

 

「でも考えようによっては、魔族と人間族で戦争してもっと出る筈だった被害を、ボスは一万人で抑えたとも考えられるんじゃねぇか?」

「かもな。でもそんな仮定に意味なんてねぇよ」


 結果として残ったのは、人間と魔族は戦争しなかった。俺は一万人を殺した。それだけだ。

 

「一番の疑問は、それをするのはボスじゃ無きゃいけなかったのか? 勇者は30人近く召喚されたんだろ? なんでボスとフィサリスの姉ちゃんだけだったんだ?」

「…………30人居ても、人を殺せるのは俺と穂乃香だけだった。俺は穂乃香に人を殺させたくなかった。言ってしまえばそれだけだ」

「…………くっ、くっくっくっ! カッコいいなボス!」

「ただの人殺しだぞ」

「いやいや。大切な者の為に一万人背負ったんだろ? 俺より7つ年下の若さでだ……俺よりも英雄やってるんじゃねぇか?」


 それは無い。英雄なんて呼べるような明るいもんじゃない。

 一万人殺しの大量殺人者。フィサリスに片棒まで担がせたただの屑だ。

 正義感で動くコイツみたいなのと同列に扱われるには、余りにもお粗末過ぎる。

 

「――おや、村長。ご無沙汰してますなぁ」

「ああ、爺さんか」


 魔人の爺さんが大浴場にやって来た。

 温泉に似合うな、爺さん。

 

「グラジオラス。この爺さんは、元人間の魔人に至った爺さんで、居合術の達人だ」

「ほっほ、昔の話です。最近は身体が思うように動きませんよ」

「よく言うぜ、爺さん。あんたまだ現役だろ?」


 居場所を無くし、人間族領の離れ小島にひっそりと暮らしていた居合術の達人。

 俺や日坂とそこそこに渡り合える、かなりの実力者だ。


「本当になるんだな……人間が魔族に」

「人間の限界などチャレンジしてみる物ではありませんなぁ。念願のレベル100を迎えたと同時に牙が生えて、国からは追い出されてしまいましたわ。受け入れて下さった村長には感謝しております」

「魔人にはちょっとした縁があったからな」 


 魔人ほど肩身の狭い立場は無い。かつてイオニアがそうであった様に。

 でも、アレだな。魔人の受け入れもしていくと、ドンドンうちの村の戦力って上がって行くな。

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