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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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出産

ブックマーク1000件ありがとうございます!!!

 今まで俺やフィサリスが密かに処理していた、人間撲滅派の魔族の相手をグラジオラスとアマリリスに任せた。

 この村に訪れる全ての魔族が、人間撲滅派という訳では無い。グラジオラスの例がある様に、村の現状を見せれば、『人間は嫌いだが、子供達の笑顔を奪う事は出来ない』と納得する者も少数だがいる。

 だが、そういう奴は正義感が強くて、行動に移せるほんの一部だ。

 例え魔族の子供達が、人間に非道な扱いを受けていると聞いても、ほとんどの奴は『可哀想』と思うだけである。

 ニュアンスの違いはある。興味無さげ、自分には関係ないと言ったニュアンスもあれば、そんな酷い事が、どうにか出来ないだろうか……と言ったニュアンスの『可哀想』もある。

 だが、どちらにしろ動かない事に変わりは無い。大半が『酷い話ね』で終わるのだ。

 騒ぎ立てるのは、人間を特に毛嫌いしている奴らだ。奴らは子供の事を本当に心配している訳では無い。ただ人間を非難したいだけなのだ。

 騒ぎ立てる奴に限って、普段スラム街の子供達に冷たい奴らだったりする。

 そうして騒ぎ立てる奴の内、実際に村に来る奴って言うのは、相当人間を嫌って許さない者達だ。そういう者達の怒りは人間だけでは無く、自ら移り住んだアマリリスとグラジオラスにも向く。そして子供達が人間と仲良くしていたと知れば、子供達にも向く。

 奴らにとって人間を受け入れている事さえ、有ってはならないからだ。酷ければ、『人間』よりも『人間を受け入れた魔族』の方を嫌悪する者も居る。結果として村の住人全てが抹殺対象となるのだ。

 そんな奴らでも括りは魔族、俺とフィサリスが処理し過ぎると、攻撃してくるのはあっちだったとしても『あの村の人間たちは訪れる魔族を殺している。共存とはやはり嘘だったのだ』と非難され、人間と魔族の摩擦が増えてしまう。反対派が増えてしまうのだ。

 だが、グラジオラスとアマリリスに任せれば、人間と魔族の摩擦では無くなる。まあ、『奴らは寝返った裏切り者』とか『人間に洗脳されている』とか根も葉もないは流れるかもしれないが、人間が魔族を殺していると言う事実(・・)を作るよりはマシだ。

 村の中は平和そのものだが、村の外は戦場地帯だ。

 だがそんな事を子供達が知る必要は無い。村の外で起きている争い……汚い仕事など大人のやる事だ。

 グラジオラスとアマリリスが相手した50人は、共存が本当であった場合、グラジオラスに子供達を守る様に立ち回らせる事で、不利にさせるつもりでいた。

 と言っても英雄が相手だ。村まで入れず相手をする可能性も考えて、グラジオラス相手でも勝てるような戦闘力の高い者達を連れて来ていた。

 実際にグラジオラス1人ではなかなか厳しい戦いになっていただろう。それでもあの英雄なら意地でも村へは通さなかっただろうけど。

 だが、結果は苦戦にも成らなかった。相手がアマリリスの力量を計り損ねていたからだ。

 誰も普通思わないだろう。お淑やかそうな公爵家令嬢が、あんな馬鹿げた戦闘力を持っているなんて。

 大した戦力では無いと思われていたアマリリスは警戒されていなかった。それほどにグラジオラスと言う名が有名で戦力が高いと言う事でもある。

 しかしそれは悪手だ。確かに戦闘力ではグラジオラスの方が高い。けれど、警戒をすべきはアマリリスの方である。

 アマリリスは警戒されているのはグラジオラスであると分かっていた。故にわざとグラジオラスに注目が集まる様に誘導した。グラジオラスを光とし、注目を浴びない影と化した奴は、スニ―キングを行って大鎌で1人ずつ刈って行ったのである。

 異変に気付いた時にはもう遅い。的確に死角に移動してくるし、反撃しようにも小さくなって回避されるし、幼女サイズでも攻撃してくるし、遠くに居ても大鎌を持った腕が伸びて攻撃してくる。ろくろ首の様に首を伸ばし、絡みついて動きを封じ、相手の首筋を噛み千切る事もあった。

 あれはおおよそ公爵家令嬢の戦闘スタイルでは無い。ゴム人間かよ。

 アマリリスに警戒したい所ではあっても、グラジオラスという戦力は無視できない……まあ、50人じゃ足りないわな。

 因みに村に入れたら結果は変わっていたかと言うと、より悲惨になっていたと思う。

 村の警備には機動力と攻撃力を兼ね備えるロータスと、精密コントロールで圧倒的な火力の魔法を放つフィサリスが居る。

 この4人を同時に相手すると言うだけで、絶望的である。マグオートさんでもお手上げである。

 その上にだ、我が村のラスボス。瞬間多発爆撃機の如月穂乃香が居る。

 穂乃香は固定大砲としても優秀だ。無詠唱でMPの続く限り魔法を放ち埋め尽くす。

 それだけでは無い。あいつはそんな弾幕を張りながら、自らの四肢に魔法を纏わせて接近戦も可能なのだ。

 バランス型でMPがそこまで多くないため、持続力は無いが、瞬間火力がエグ過ぎる。

 次、あいつと本気でやり合うような事があれば、本気で負けるかもしれん……いや、あの夜の戦闘も、水奈の登場によって出来た隙を付いただけで、実際に勝った訳では無い。

 もし転移に俺と日坂が巻き込まれてなければ、きっと穂乃香が勇者の役目をしてたんだろうな……と思うほどの強さだ。

 俺と日坂のチート級2人を省いた、うちの村の五本指。

 そんな実力者と肩を並べる穂乃香だが、俺としてはやはり対人戦闘……殺しはして欲しくない。

 なので俺は産休と言う名の穂乃香戦闘自粛期間に、やかましい馬鹿どもを全て粛清し黙らせる事にした。出産には万全の状態で挑みたいのだ。外で騒ぐんじゃねぇ。

 余りにもちょっかい掛けて来ようとする人間達には、『これ以上するってんなら領地単位で滅ぼしてやる』と宣告をしてある。

 穂乃香の出産時期に妨害を加えると言うのであれば、更地にしてやる事も辞さないつもりでいる。アマリリスがきっと喜んで手伝ってくれるだろう。

 俺は水奈達が争いに巻き込まれなければそれで良い。村が平和であるなら、その外が最悪世紀末になろうが構わない。うちの村に手を出すって言うんなら、それ相応の覚悟を持って来るんだな。

 そうして宣告をして回りながら、どうにか穂乃香と一緒に居る時間を増やそうと頑張って5日間経った。

 そうして本日、穂乃香に陣痛が来た。

 即ち、これから出産である。

 

「うぅぅぅぅううううっ!!!」

「まだいきむな穂乃香! 子宮口が開き切っていない! 呼吸を整えて」

「ひっ、ひっ、ふー……ひっ、ひっ、ふー……」


 産婦人科……という訳では無いが、分娩室となる建物を作り上げ、そこに穂乃香を連れてきた。

 穂乃香が凄く辛そうにしている……もう少しだ、もう少し頑張ってくれ。

 出産の痛みは尋常では無いらしく、男性にはその痛みを知る事は出来ない。共用する事も出来ない……

 とは言うが、こと俺に関してはそれは不可能では無いな。

 コンマ1秒前の記憶を見て経験する事で、穂乃香の痛みを知る事が出来る――

 

『――氷河落ち着きなさい! それをしたところで、穂乃香の痛みが軽減される訳じゃ無いんだからね!』


 ……全くを持ってその通りである。落ち着けよ俺。

 

『助産師として此処に立つ氷河がそんなんでどうするのっ!』


 フィアの言う通りである。俺が一番冷静でなくてはならない。

 世界には億単位の生命があり、それは即ち、それだけの誕生があったと言う事だ。

 それだけの誕生があったのなら、それだけ誕生に立ち会った人が居ると言う事で、俺はその記憶を受け継いでいる。

 つまりだ――俺ほど出産に立ち会った経験を持つ、助産師はこの世界に存在しない。

 透視、鑑定、並列思考で状態を常に細かく把握できる、出産立ち合いのプロである!

 俺が冷静に見極めなければならない――!

 

「開いた! いきんで!」

「うぅぅぅぅううううううう氷くん氷くん氷くんっ!」


 ぐっ……! 冷静に冷静に……

 

「大丈夫だ穂乃香……俺は此処に居る……いきまないで!」

「穂乃香、ひっ、ひっ、ひっ」

「ひっ、ひっ、ひっ……」


 水奈に立ち合い兼医師として参加して貰い、手を繋いで貰っている。

 他のみんなには部屋から出て貰っている。出産の感覚は排泄に似ているらしく、実際に排泄してしまう事も多い。

 そんな姿を知り合いに見られたくはないだろう。

 俺? 俺はほら、追体験とか、千里眼とか、透視とか、まあ、見慣れたもんだから。

 直接見られるのはまた別かもしれないが、この村の医師は俺なので我慢して貰わないと。

 それから15分後。

 

「んぎゃあ! おぎゃあ!」

「穂乃香! 穂乃香……! 産まれたよ……!」

「穂乃香……よく頑張った……」

「うん……」


 俺と穂乃香の子が無事誕生した。

 後は胎盤を出した後に……本来なら会陰の縫合をする必要がある。妊娠が決まってからマッサージを定期的にしてはいたが、それでも破裂しかけたのでほんの少し切る必要があった。

 本来ならば縫う必要がある。だが、この世界は異世界である。

 

「水奈、穂乃香はこれから胎盤を摘出する。さっきの様な激痛は無いが、さっきとは比べ物にならない程の出血をする。それを見たらあまりの出血量に不安にもなるかもしれないし、胎盤は臓器だからお世辞にも見た目が良いとは言えない……気分が悪くなってしまうかもしれないが、どうにか堪えて、胎盤を出した後に切った穂乃香の会陰を治癒して欲しい」

 

 水奈は元々、流血やグロテスクな物を見るのは苦手であった。

 そんな水奈に与えられた固有スキルは、怪我を治し体力を回復させる『治癒回復』。

 だがそれは、怪我と無縁になるものでは無く、誰よりも怪我と向き合うスキルであった。

 初めこそ穂乃香が少し怪我しただけでも、泣いて怖がっていた水奈だったが、転移して来て1年半経った今は、回復術師としてずっと働いて居た為、耐性は付いて来ている。

 けれど今回は相手は穂乃香で、出血量も多い。

 出産における出血量は、羊水を抜いても500ml未満が一般とされている。

 なんだペットボトル一本じゃん、と思ったそこの貴方。500mlのトマトジュースを床にぶちまけてみよう。なかなかの量である。

 それに水奈は出血が止まり掛け、止まった後の怪我を治療する事が多く、一気に血が噴き出すところを目撃する事は少ない。

 水奈に負担を強いるのは俺としても辛いものがある……だが、俺は例え小さな傷であったとしても、穂乃香の身体に残して置きたくない。

 

「――任せて、お兄ちゃん。……穂乃香の為に頑張るって決めたから、私は最後まで手伝うよ……そのための『治癒回復』なんだから」


 ……強くなったなぁ水奈。

 母親として頑張った穂乃香、産まれてきた俺と穂乃香の子供、成長した水奈。

 もう色々な理由で泣きそうです……でもまだ、まだ終わってない。泣くのはその後だ。

 人間サイズ化したフィアに赤ん坊を渡し、体温が下がらない様に温めて貰う。

 産まれて来る子が女の子であることは、透視で見て分かって居た為、名前ももう決めてある。

 結衣香。香は穂乃香から一文字貰っている。そして結衣だが……袖と袖、衣と衣が結びつく、即ち人との繋がりを表している。

 幼少期に人との関わりに興味を持たなくなってしまった穂乃香は、今も交友関係は広くない。幼少期の俺は、穂乃香を笑顔にしようと奮闘するばかりで、周りとの関わりにまでは意識が向かなかった。むしろ守るべくと遠ざけていたのは俺だったのかもしれない。

 だが今の俺は大人だ。子供の時と比べて出来る事の範囲が違う。俺が娘が人と進んで関わって行けるような環境を作るんだ。たくさんの人と結びつく、俺はそんな希望を込めて結衣香と名付けた。

 その後、20分ほどして胎盤が外へと出て、それから2時間程して、穂乃香の出血は止まった。

 出産が終わったのである。

 穂乃香に結衣香を抱かせて、哺乳をさせたりする。

 疲労困憊状態であるが、これが穂乃香を安心させる。

 これから一週間が特に大事だ。穂乃香には24時間結衣香と一緒に居て貰い、世話をしつつ体力の回復に努めて貰う。

 当然これには俺と水奈も協力する。

 と言っても俺には他にも仕事がある為、ずっと付きっ切りとはいかない。

 それでも、フィサリス、日坂、神奈、ラミウム、ロータス、アイリスに頼んで可能な限り向こうでして貰い、どうしても俺が行かないといけない場合のみ、まとめて行う手筈となっている。

 まあ、何人か産まれた子供を見たくてうずうずしている事は知っている。

 だが、穂乃香の体力が戻るまでは駄目だ。

 穂乃香の数少ない気を許す相手である神奈、月島家であるフィサリスとリノは3日後。

 申し訳ないが、ラミウム、アイリス、ほたるの3人は5日後とさせて貰う。

 日坂やロータス、グラジオラスなんかの男共は早くて1週間後。

 え? アマリリス? 1ヶ月後とかで良いんじゃない? 出来れば近寄らせたくない。

 24時間見ていないといけないため、これからもまだまだ大変ではあるが……ひとまずは穂乃香、よく頑張った。

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