見極め
「グラジオラス、この方がこの村に住む魔族で唯一の大人。ライブラ王国のズベンエル公爵家長女、アマリリス様だ」
「……初めましてグラジオラス様。パイシーズの英雄にお会いできるなんて光栄ですわ」
「は、初めましてアマリリス嬢! ……失礼かもしれませんが、何故公爵家である貴女様がこのような場所に……?」
グラジオラスがあからさまに動揺している。
そりゃそうだよなぁ。他国とは言え、公爵家令嬢……しかも長女だ。ビックネームもいいとこだ。
まあ、ビックネームで言えばラミウムが一番なんだけど。
「……私は魔族と人間……本来交わる事の無いこの2つの種族が共に手を取り合い、笑顔で暮らすこの村をとても尊いモノだと思いました。ですが、それに納得のいかぬ者も多いでしょう……そんな者達から、私は子供達の笑顔を守ろうと思ったのです」
建前はな。現状ニートで目的は院長だけどな。
「つまりグラジオラス、お前と同じだ」
「…………同じ?」
「はい! 私グラジオラスも同じく、この村の在り方に感銘を受け、無くしてはならない……守るべきモノだと思いました!」
こいつはマジの奴だ。根っからのお人好し。
さて掲げる志は同じ、マジもんとパチもん……どういった反応を起こすかな?
「……なるほど、氷河ちゃんはまた僕を嵌めるつもりだったんだね……氷河ちゃんも大概性格悪いと思うなぁ~」
「さて、何の事やら」
「……え……? アマ、リリス嬢……?」
態度を豹変させたアマリリスに英雄が混乱している。
後で説明するが一旦無視。
「つまりこの人この村に住むって事でしょ~? 僕に仮面被らせて大人しくさせようって魂胆だろ?」
「なんだ大人しくない自覚はあったのか」
俺としては仮面付けていて貰った方が良かったけどな。うるさくなくて。
でも代わりに、私生活で常に下手に出ないといけないのが面倒ではある。
「グラジオラス、こいつは転生者……って言っても伝わらないか……見た目は令嬢だが、中身は男だ。魂は別人と言えば分かりやすいか?」
「よろしくねグラジオラスちゃん~……と言っても、僕は君のような正義のヒーローみたいな奴、大っ嫌いだけど」
「――――――――――」
英雄は絶賛混乱中。
アマリリスの見た目が綺麗な清楚系であったが故に、余計ショックを受けている。
「ガタイの良い筋肉質の根っから善人なんて、僕の嫌いに嫌いを重ねた様な人だね! 僕は親を殺した上で、自ら刺されてトラウマを子供に植え付ける、見た目が可愛い女の子の氷河ちゃんがタイプかな!」
「言い方に気を付けろ。後、誰が女の子だ」
別にトラウマを植え付けようとしたわけじゃねぇよ。
「こいつの魂の名は星原明。養子になった子供に、『君のパパとママは、本当のパパとママじゃないんだよ』と告げて泣かせた屑野郎だ」
「なに氷河ちゃん、まだ根に持ってるの? あの件で僕は、朝まで正座放置の罰を受けただろう? いつまでも引きずるなよ女々しいなぁ」
「じゃあお前も、俺と院長の間接キスについて引きずんなよ。たかが間接、且つ間にリノ挟んでんだろ。女々しいぞ」
「僕、女だけど」
「中身、男だろ」
俺の判断基準は肉体では無い、精神だ。
通常は肉体と精神は同じ者であるが、転生者はこれが異なる。
故に俺は肉体13歳であっても院長は19歳として見るし、星原も肉体25歳だが19歳として見る。つっても星原の場合肉体変化が可能だから、アマリリス本来の肉体年齢だけどな。
ややこしい。現アマリリスの肉体は前世の美空奏再現の為、17歳の肉体をしている。
ややこしい。17歳の美空奏は大人びた体格をしていた為、25歳アマリリスとして見ても『若いね』ぐらいで違和感はない。
ほら、もう肉体で考えるの面倒くさくなって来ただろう? 精神で考えよう。
つまり、こいつは男である。
「………………」
「理解は追々で良い。とりあえずこいつが碌でも無い奴だと分かってくれれば、それで十分だ」
「……ああ……それは何となく理解した……アンタもだけどな」
俺はまともだろ。
『………………』
フィアちゃーん、フィアさーん。そこは何か言ってくれないと、俺も傷つくよ?
(しかし……言われてみれば、女顔ではあるな)
なんだ英雄、お前も殴られたいのか? 望めば殴ってやるぞ。
納得いかねぇ……日坂や穂乃香はおろか、水奈と並べられても俺がヒロイン扱いを受ける意味が分からない。転移当初引き籠りを演じてみせたのは俺だけど、妹に守られる兄って何。日坂が居なくなったぐらいでそんな心痛めるかよ。
「アマリリスは村でも素のこの状態で過ごしている。つまりだ……村にいる魔族は子供達ばかりで大人はこいつ1人、こいつ1人なんだよ。俺やフィサリス……俺と一緒にいた黄色いローブの女は魔族の大人を知っているが、他の村人たちはそれを知らない」
「……ちょっと待て」
「そう、『魔族の大人ってみんなこんな奴なのか……?』という風潮が村に流れつつある」
「違ぇ!!!」
「ちょっと、それ僕に対して酷くない?」
でも割と無視できない問題なんだ、コレ。
冒険者達が魔族を受け入れたのは、アイリスが良い子であった事が大きい。
その後の子供達に関しても、冒険者達に合わせるのは最低限の教育を施してからにしていた。
その為、冒険者達は不快に思う事は無かったのだ。
そこに現れた大人アマリリス。
子供達もいずれアマリリスの様な大人になってしまうんじゃないか、と冒険者達が不安になり始めている。
また魔族の大人は碌な奴いないのかも説も出始めている。
人間魔族共存の村として忌々しき事態である。
「そこでだ英雄。うちの冒険者達に魔族の大人にも、まともな奴は居ると教える為には、実際にまともな魔族の大人が必要だ。でなくば疑心の目は子供達へと向き、この村自体が崩壊する」
「――!」
「この村は俺ともう1人の村代表の奴隷達、それと孤児達のみが住んでいる村だ。それ以外の受け入れはして無い……そこで――」
「――俺にアンタの奴隷になれってか? いいぜ」
……やけに素直だな……ちょっと怖い。
「村の様子を見て、アンタの為人は大体分かった。アンタは言ったな、魔族の未来には俺みたいな奴が必要だと……そのアンタが俺を求めるって事は――見せて来るんだろう? アンタの言う未来って奴を…………アンタがして来た事、して行く事が正しいかどうか、俺が見極めてやる」
魔王の奴隷を殺した事を許すわけでは無い……それはきちんと覚えたまま、今後俺がどうしていくのかを近くで見張るって事か。
まあ、俺としては使える手駒が増えるんなら、何でもいいけどな。
こうして俺はグラジオラスと奴隷契約を交わした。




