プレゼント
笑顔ながら嫉妬が見え隠れする穂乃香、フィサリスと、見た目が7歳と13歳相手だったからか、特に嫉妬してない水奈と食わし食わせられをした俺は、主に終始純粋に楽しそうであった天使水奈によって精神が回復した。流石回復筆頭、癒しである。
そんな精神が癒えた俺は、リノの為に用意したプレゼントを渡す事にした。
普通のプレゼントであれば、家に戻ってからするのであるが、リノのプレゼントに関して言えば村のみんなにも認知していてもらわなければならない。
怖がられるだけならまだいい。討伐されるなんて洒落にならない。
近くの森で一日過ごして貰っていたケルベロスの下に転移し、村へと連れて行く。
まず、初っ端ケルベロスに結界術の障壁を張る。
ケルベロスが周りを攻撃しない様に? 違う違う、周りから攻撃されないようにだ。
うちの戦士たちは優秀だから、子供達の前に敵が現れたとなったら真っ先に立ち向かっていく。これから暮らして行くケルベロスにトラウマを与えてはいけない。
「みんな! こいつは敵じゃ無い! 攻撃をしない様に!」
冒険者達に武器を下ろさせ、結界術を解く。
リノをケルベロスの目の前に連れて来る。
「リノ、約束のケルベロスだ。お前を守る番犬となってくれるだろう」
話が違いませんか兄貴っ!? と言わんばかりにケルベロスがこちらを見て来る。
なんだ? 俺の娘に文句があんのか? あぁん?
『氷河……凄むのは止めなさい』
俺は村の一角を指さし、ケルベロスに見せてやる。
そこはリノの召喚獣コーナー。それぞれに合わせた餌を多めに置いている。
そこにはケルベロスの先輩となるフェアリードラゴンのキュア、ユニコーンのメル…………そしてデイノスクスのゴウ。
一匹明らかに大きいワニが居るのだが、驚くのはそこじゃない。
体長15mあるその背に、食事を終えた子供達が群がっている事だ。
諦めろ、お前もこうなる……とゴウの目がケルベロスに語っている。
ケルベロスも体長5mで高さで言えば一番高い。リノの召喚獣達はやがてワイバーンになるであろうキュアを含めて、みんな背に乗る事が出来るからな。
因みにデイノスクスは以前スク水を着て海を楽しんだリノが、水辺に入れるペットが欲しいと希望したために探して一緒に捕まえたものだ。
村で飼うには水陸両用である必要があったため、『亀と鰐どっちが良い?』と聞いたら『ワニ!』と即答であった。誕生日でなくてもプレゼントあげてるとか気にしない。
「ワンちゃん……」
リノはケルベロスの頭に触れてスキル『意思疎通』での会話を始める。
俺はモンスターであれど思考する脳があれば、スキルでそれを見る事が出来る。
しかしモンスターと会話が出来る訳では無い。
モンスターが全て正しくこちらの言葉を理解している訳では無いし、モンスターの意思がこちらに伝わっているとモンスターは知らないからだ。割と身振り手振り目力で理解して貰っている。
結局のところ、このケルベロスがリノの召喚獣になるかどうかは、この意思疎通での話次第だ。俺はそれまでの御膳立てしか出来ない。
でも俺はリノ、優良物件だと思うよ? こいつは絶対将来大物になる。そんな奴の幼少期に召喚獣になって将来的に古株扱いされれば、大きな顔できると思いませんかね? ケルベロスくん。キュア程のパートナー感は出なくても、頼りになる戦力且つ可愛がられるワンちゃんポジションは悪くないと思うんだけどね、ケルベロスくん。その辺どうだい? ケルベロスくん。
『氷河……止めなさい』
フィアに怒られてしまった。
まあ、俺が圧力を掛けなくたって、リノのカリスマ性を持ってすれば問題は無いな。
しばらくしてケルベロスが光輝き始めた。召喚獣としての契約が成立したのだ。
なんでモンスターテイムの時はこんな煌びやかなのに、奴隷契約の時はあんな暗いの? 主の紋が体に刻まれる的なあの感じ。
「リノ、ケルベロスの名前はどうする?」
「………………」
リノはケルベロスをジーっと見ている。
リノがかつて名付けたのは、キュア、メル、ゴウ……う~ん……名づけのセンスは無さそうだな……
「パパ、ケルベロスはどう鳴く?」
「基本的ガオ―だろ。ワンとは鳴かない。グルルルとかくぅーんとも鳴いたな」
そう言えばゴウの時も鳴き声から付けてたな……ワニって雷鳴みたいな声するらしい。
「クー! クーにする!」
なんとくぅーんから来てしまった。ワンと鳴けばワンになってたのかな……
ケルベロスの名前はクーになった。
キュア、メル、ゴウ、クー。誰がワイバーンとユニコーンとデイノスクスとケルベロスだと思うだろうか。ゴウに関してはデカいだけで普通のワニだけどな。
来年は何をねだられるんだろう……触り心地の良いふさふさのグリフォンかな……
リノの合格基準は高いからなぁ……デイノスクスもギリギリだったし。
「パパ! ママ! ありがとう!」
「おう」「どういたしまして」
パパ達はお前の笑顔の為なら来年も頑張るぞ。……ハードルは上がってそうだけど。
こうして今年は、リノの誕生日をフィサリスと一緒に祝ってやれた。
『リノ~私からもプレゼント~』
フィアがリノにいつぞやのチョーカーを付け始めた。
ちょっと待ってフィア、お前どうして猫耳カチューシャを持っている。
穂乃香が水奈に付けさせるために作った初代の奴か!
『リノ! 出来たよ!』
「にゃんっ」
ほたるが倒れた。誰か医者……水奈を呼べ!
俺? 俺はちょっとリノを抱き締めるのに忙しい。
しかし全くフィアは……――最高だ。
ワンちゃんの主は、猫まんま好きの可愛い猫ちゃんだった。




