誕生日
という訳でリノの誕生日。
炊き出しにはリノ好物である豚汁。
猫まんまにして食べるのがリノのお気に入りである。
それとは別に神奈特性はちみつレモンと、俺特性柿のフルーツアートがある。
リノの好物盛り合わせである。
「では――せーの!」
「「「「「「「「「「「「「「「リノちゃんお誕生日おめでとう!」」」」」」」」」」」」」」」
「……ん…………ありがと」
村長である俺の掛け声と共に誕生を祝う。
この村は大体こうである。子供達や冒険者達はノリが良いからな。
「豚汁はお代わりあるからね~」
「「「「「「はーい!」」」」」」
料理の固有スキルを持った女子生徒が、子供達に声を掛けている。
炊き出しは大体こんな風景。誕生日祝いもよくやっている。
「……? リノちゃんどうしたの?」
リノが院長の手を引いて来る。
リノ……それはあまりオススメしないぞ……
リノは院長を椅子に座らせるとその膝の上に座った……リノに話しかける事の出来ないアマリリスに見せつける様に。
「……月島君? これどんな意味があるの?」
「……昨日リノがアマリリスに泣かされたからな。見せつけてるんだろう」
「……僕、リノちゃんと話せないだけで、動けはするんだけど?」
ほら寄って来た。あっち行けしっしっ。
「パパ、あーん」
「……食べさせろってか」
……まあ、誕生日だしな。
ただ穂乃香やらフィサリスやらの視線が刺さって来るんだよ。
穂乃香は食べさせて貰えるリノに嫉妬。リノに嫉妬するなっての。
フィサリスはリノに座られてる院長に嫉妬。構図的には確かに親子っぽい構図だものな。
フィサリスの膝上にリノなら納得だけど、今回はアマリリス攻撃がリノの目的なんだよなぁ……
碌な事にならないから止めておいた方が良いって。
「あーん」
「はいはい」
リノの口に猫まんまを乗せたスプーンを入れてやる。
リノは美味しそうに咀嚼し、満足げにアマリリスを見る。
そいつに喧嘩売るのは止めとけって。
「…………氷河ちゃん、僕も僕も」
「は? する訳無いだろ」
子供の姿になったって駄目なものは駄目だ。こっちくんなしっしっ。
リノ、アマリリスにドヤ顔するの止めなさい。こいつが暴走すると面倒くさいんだから。
「あーん」
「ほれ」
俺に食べさせて貰うリノは大変幸せそうである。
「リノちゃん……私、食べれないけど……」
膝の上に座られた院長は、豚汁にありつくことが出来ていない。
まあ、下手に食べようとしてリノの頭に零す訳にもいかないしな。
「………………」
アマリリスが喋れてないが、若干嬉しそうにリノへ向けて、『早く降りなよ、奏ちゃんが食べれないでしょ?』って顔をしている。
「パパ、あーん」
「ほれ」
「ちがう、アイリス」
…………固まった。 この辺の空気……俺と院長、穂乃香とフィサリス、水奈、そしてアマリリスまでもが固まった。
つまりあれか……? 俺が院長に食わせろってか……?
いや、確かにそれなら院長も食べれるよ? 見た目年齢的にも19歳が13歳に食べさせる絵だからまあ、どうにか頑張ればギリギリ許容も出来るだろう。
でもな……リノ……それは不味いんじゃないか?
アマリリス攻撃には確かに有効だろう。でもそれ以上に他にもダメージが広がるが大丈夫か……?
主に穂乃香とフィサリスの視線がヤバいって。
「パパ、あーん」
「……マジか」
「月島君……? 無理にしなくても……リノちゃんが食べ終わってから私――」
「――あーん!」
リノ……どうしてもアマリリスに仕返したいか……
……分かった…………穂乃香とフィサリスには後で埋め合わせをしよう。
「……院長」
「へ……? むぐっ!?」
院長の口へとスプーンを差し込んだ。
リノの渾身のドヤ顔がアマリリスに向けられる。
「………………」
「星原……同情してやらんでもないが……――リノに何かしようとしたら、タダじゃおかないからな?」
「……氷河ちゃん、親バカ過ぎじゃない?」
元はといえば昨日お前が泣かせたせいだし、リノが挑発したからって、お前が仕返していい理由にはならない。
「精神19の肉体25歳が、7歳相手にマジになるなよ、みっともない」
「パパ、あーん」
「はいはい」
それからリノの指示により、俺はリノとアイリスを交互に食べさせてやった。
顔を真っ赤にしたアイリスが、「私は、もうお腹いっぱいだから大丈夫」と断るまでそう時間は掛からなかった。中身19歳からしたら羞恥プレイもいいとこだもんな。
そんな時、リノは俺のスプーンを掴んで受け取ると、更に爆弾を投下した。
「はいパパ、あーん」
リノちゃん……そりゃあかん。
「パパ……嫌?」
ぐっ……!
「パパ……リノ嫌い?」
「嫌いな訳あるか」
「あーん」
「…………」
…………直前に食べたのはリノだ、院長では無い、リノなのだ!
つまりこれは院長とでは無くリノとの関接……どっちにしろアウトじゃねぇか。
……考えるのは止めよう。間接キス程度でギャーギャー騒ぐのは純情な子供のする事だ。
俺は19歳大人。食器をシェアしたぐらいで騒がない。友達や子供に一口分けるなんてよくある事だ。
……南無三!
「……んぐ」
スプーンを持つリノは幸せそうに微笑んだ。ちくしょう良い笑顔しやがって。
俺がこの短時間でどれだけ精神削れたと思っている。
院長も顔赤くしないで。こっちまで恥ずかしくなって来るでしょ……純情か。
だが、滅多に見る事の出来ないリノの綺麗な笑顔だ……それだけの価値はあった。
今日分かった事……うちの娘はマジで恐ろしい。
この後俺は穂乃香、フィサリス、水奈の3人にも食べさせる事となった。




