お給金
本日は記念すべきリノの誕生日。
昨日アマリリスに泣かされたリノだが、誰が何と言おうと俺はリノのパパでフィサリスはリノのママだと伝えて、俺とフィサリスでリノを間に挟むように抱き締めたら、強く頷いて調子を取り戻した。
強い子だ。リノにはパパが2人いて、ママが2人いる。それは悲しい事じゃない。人一倍愛されているって事なんだ。
リノの実の両親だってリノを守る為に地下に隠し、死んでもなお生霊となった娘の為に、ゴーストとなって傍に居続けたんだ。愛されてなかった訳が無い。
リノはすぐ調子を取り戻したが、水奈はそうとはいかなかった。
自分をいらない子だと思い込んだ水奈は、俺や穂乃香がそんな事無いと告げても、『2人は優しいからそう言ってくれてる……でも、甘えてるんだ私……私がいない方が』とどうしてもマイナスに考えてしまっていた。
言葉ではどうにも分かって貰えそうに無い……ならば分かるまで行動で示してやろうと。
透視と鑑定で水奈が危険日では無い事を確認した俺は、とことん愛し尽した。
穂乃香は臨月の為、激しい動きはしないと約束した上で、大量のキスの雨を水奈に降らせた。
一晩俺と穂乃香に愛を囁かれ続けた水奈は、翌朝疲れていたが、『2人が私を大好き……というかちょっと大好き過ぎるぐらいな事はよく分かったよ』と幸せそうにはにかんだ。
思いはきちんと伝わった。愛の勝利である。
そんな訳で今はリノも水奈も元気である。原因となったアマリリスには、誕生日であるリノと1日間話す事を禁じている。
本当は水奈やラミウムにも近寄る事を禁じたい所ではあるのだが、これはしていない。
理由は色々あって、一つ目はあまり主特権を使いたくないと言うのがある。
俺も日坂も基本、主特権を使いたがらない。これは主従関係ではなく極力対等な関係でありたいからだ。使う事に慣れてしまったら、奴隷と奴隷主での関係でしか居られなくなる。可能な限り仲間でいたいと思う。だから止むを得ない場合にのみ使っている。
今も使っているのは、俺が出したアマリリスがリノと話す事の禁止、日坂の出したキタコレに子供達への手だし禁止のみである。
俺が昨日帰って来たと共に、穂乃香の1m圏内に入るの禁止令は解除してあるし、水奈が朝方元気になったと同時に大人しく反省も解除した。
夜通しで反省させてたのかって? 知らん、あいつが悪い。
フィサリスに出した『リノの下に戻れ』も、穂乃香に出した『人を殺すな』も解除している。
穂乃香のは解除するかどうか迷ったのだが、もし仮に殺さなければ殺されるなんて状況になった際に、命令のせいで殺せなくて死んだ。なんて洒落にならないので渋々解除した。
だがそんな状況や、穂乃香が人を殺さないといけ無くなる様な事に、俺がさせなければいいのだ。
命令をあまり出さない理由の二つ目は、人権の侵害的な面だ。
例えば水奈、穂乃香、リノ、ラミウム、と話せず近寄れずしたとしよう。
住んでいる家の半分の人間と話す事が出来ず、近づけないどころが、通り道に居たら向かいたい場所にさえいけないともなれば、不便極まり無いだろう。それが毎日なんて軟禁も良い所だ。
俺はあんな奴にも最低限の人権は尊重してやろうと思う。ぶっちゃけそうしないと面倒くさいからではあるが。
だから孤児院の立ち入りや、院長との接触までは禁止していない。意図的に遠ざけているに留めている。
今日もリノの誕生日だから、今日だけは話すのを禁止している。明日からは解除されて話す事ができる。
…………あいつはこの短期間に一体何回俺にこれを使わせるんだ。
俺だって極力使いたくねぇんだよ……
そう三つ目は、単純に俺が使って気持ちが良くないからだ。
キタコレに関してだって本当は命令せずとも手を出さないのが一番良い。
だが、ちょっとぐらい良いだろうの気持ちで、過度な接触をしかねないから命令せざる負えない。
本当は可能性を信じたい。でも鑑定と未来視で見えてしまう。
星原が院長を不快にせず純粋に子供達を可愛がるだけなら、孤児院に住ませてやってもいい。星原がリノを不快にさせず純粋に誕生日を祝うだけなら、話させてやってもいい。
でもそれが出来ないから、させてはやれない。
ただ会話の全てが、行動の全てが相手を不快にさせるという訳でも無い、業務的必要会話もあるだろうから、話す事を全ては禁止しないのである。
後はこの村で不自由な暮らしを余儀なくされたなんて、噂を魔人族領に流されても困るなんて理由もある。穂乃香が妊娠してるから、リノが誕生日だから、星原が悪い事したからと、理由があった上でしか命令をしないのは、『理不尽な制限』をし過ぎないためだ。
星原自身が納得できる範囲で制限を行っている。毎日が狂人との駆け引き状態だ、果てしなく面倒くさい。
当初70人程だったこの村も孤児が増えた事により、今は100人を超えている。
それだけいれば誕生日が被る者もいるし、一週間の内で誰かしらは誕生日である。
その為うちの村では、誕生日の奴の好みの食事を俺が炊き出しで作り、そいつが多めに食べれて、皆から祝いの言葉を貰う……程度が村での誕生日となっている。
親しき者達で、それとは別にしっかりとした誕生日パーティーを行っている。
誕生日の者がカラフルローブの者であれば家で。勇者であれば学生寮で。孤児であれば孤児院で。冒険者であれば冒険者の仲間内でプレゼント等は渡している。
年に100個も準備するのはしんどいからな。まあ、管轄主である日坂は冒険者1人1人に準備するし、院長も子供達1人1人に準備するし、律儀な水奈も勇者達分は毎回準備をしている。
さてこのプレゼント、一体どうやって用意しているのか?
そもそもこの村の稼ぎはと言うと、冒険者たちがモンスターを倒しギルドに持って行ったものと、子供達が作った野菜を商人に売っているものだ。
それらは全て一度俺の下に回収され、村全体資金となる。
そこから俺の千里眼と鑑定で見て、それぞれの働き具合、貢献度に応じて月毎に給金が渡されるのである。これは孤児にも同様である。
当然危険な仕事をしている冒険者達の方が高い事は高いが、孤児たちにもそこそこの金額が支給されている事になっている。
なっていると言うのは、院長に子供達の給金を全て渡し、孤児たちの給金は誰にどの金額が与えられたかを、院長に伝えて手帳に記した上で、院長がその中から子供達の年齢と頑張り具合によって、与えるお小遣いの量を決めているからである。
お小遣いとして与えなかった分は、子供達個人の未来貯金となり、大人になった時に全て渡す事となる。
稼ぎ頭である冒険者たちの給金が少ないのかと思うかもしれないが、実はそうでも無い。
この村に住民税は無く、家賃も無く、炊き出しの食費等生活費は村全体資金から出てるので、実質給金の使い道はほぼ全部自分の自由となる。
まあ、給金が一番多いのは俺だけどな。村長だし。ていうか一番働いてるし。
建築費、家賃、医療費、なんかが全て無料なのは俺が村長であるからである。俺が金貰ったって文句なかろう。これで水奈、穂乃香、フィサリス、リノに良い物買ったって文句なかろう。戦闘指南やらスキルアップ、教鞭までとってるんだぞ。文句なかろう。
俺に次いで多いのは管轄持ちの日坂と院長である。管理職は大変なんです。
回復筆頭の水奈も給金は多めである。つまり本人たち同士での商売は行われないが、本人達が本来稼いでたであろう金額ぐらいを村全体資金から与えてるのである。
それで考えると本当は俺はもっと大量に貰っていい筈なのだが、村長の不正横領を疑われぬように、これでも大幅に控えているのである。家一つ建てるのに本来いくら掛かるのやら。
こうして支給されるお給料からそれぞれ欲しいものやプレゼントを買って行くのである。
ではこんな辺境の土地に居ながらどうやって買い物をしているのか。
冒険者達には自分達で人間族領の国へ行き、買って来てる者もいる。
だが、孤児院の子供達はそうはいかない。
村の野菜を買いに来る商人から子供達が買う事もあるが、基本は俺が村に置いている『欲しい物リスト』に書いて貰っている。
この『欲しい物リスト』は子供達だけでは無く、勇者達や冒険者達も書き込んでいる。
このリストを見て、必要雑貨、この村に必要な物だと思えば村全体資金から買っている。
必要雑貨では無い場合……娯楽や酒などは欲しいと希望した者からお金を預かって、空間魔法使いの穂乃香……今は産休の為、専らフィサリスに買いに行って貰っている。
必要雑貨でなくても子供達の欲しい物に限り、少ないお小遣いからお金を徴収するのは可哀想かなと思えば、村長のポケットマネーから買って上げる事もある。
ただし、他の子に上げるプレゼント品に関しては、ちゃんと買おうとしている本人からお金を預かる。他人の為に自分の稼いだお金を使うと言う事に意味があるからな。
勇者が欲したトランプは勇者マネーだが、子供達が欲したトランプは村長マネーだ。
子供達は遊ぶ事も仕事である。
リノのお世話係であるほたるは、村長マネーから給金が出ている。
その他、鍛冶、解体、掃除、炊き出しを手伝ってくれる料理担当達にも村全体資金から給金を出している。みんな働いてるんだよ。
アマリリスを覗いて。あいつは扱いとしては客。働かせれる仕事が無い。頼むから大人しくしてて。
本来働かざる者食うべからずのこの村だが、あいつはむしろ……衣食住は保証してやるから、大人しくしてて? 代わりに給金も無いけどな。
魔族側の対応を任せようとも思ったが、何吹き込むか分かった物じゃ無いから断念。子供達には悪影響な為面倒も見させられない。マジで使えん。
他から不満が上がらない様にの苦肉の策が『客』。公爵家令嬢だから許された事。
リノは村長マネーからお小遣いも出てるし、多めに買い込んで来た冒険者の為のユニコーン送迎で給金も出ている。
リノですら貢献してるのに…………
まあ、そんなこんなで誕生日プレゼントは買われたり準備されたりするのである。




