直感力
貴方達は帰りなさいとアマリリスに命令され、渋々帰って行く護衛達を見送った。
護衛が帰った、つまりアマリリスの皮を被る必要が無くなり、演技を止めて星原が出てくるという事だ。
迷わず俺と日坂は、院長の壁になる様に位置取りをする。
「……流石氷河ちゃん、一筋縄じゃいかないねぇ。……にしても何その位置取り、2人が奏ちゃんのナイトみたいじゃん…………ムカつくなぁ」
「え……? 貴族様……?」
突如口調の変わったアマリリスに子供達が混乱している。
俺らも演技ではあったが、不自然なレベルでは変えてないからな。
「なぁに君たち、僕が普段からあんな固くるっしい話し方してると思ってたの? 護衛達がいたから仕方なくだよ。そっちの王女様だって普段そんな固くないだろう?」
「……私はいつもこのような話し方をしておりますが」
「え? マジもんなの? ラミウムちゃん、もう少し肩の力抜いた方が良いんじゃない?」
マジもんなんだから、パチもんが気安くちゃん付けしてんな。馴れ馴れしい。
「でもこれから一緒に暮らして行くわけだし……それ変化~」
「え!? 小さくなった!」
「からの変化~」
「今度はおばあちゃんに!?」
「どう? 凄いでしょ? これ僕の特技なの」
「「「「すご~い!」」」」
こいつ……子供を味方につける気か……!
「さて……久しぶりだね! 氷河ちゃんに統也ちゃんに奏ちゃん? 統也ちゃんはかなり久しぶりだけど、相変わらずのイケメンだね! 僕の事抱いてみない?」
「……ああ、久しぶりだな星原。あと最後のは遠慮して置く」
「連れないなぁ……まあ、僕もイケメンより可愛い子が良いから、やっぱり氷河ちゃんに抱かれたいな!」
誰が可愛い子だ、あん!?
「あ、そうだよ氷河ちゃん。どうして奏ちゃんは召喚した癖に、僕は召喚してくれなかったのさ! 僕も氷河ちゃんの奴隷だろ?」
「お前、公爵家令嬢だろうが。そんな立場で急に失踪でもしたら大問題だろ」
「奏ちゃんが居なくなった事でも、そこそこ騒ぎにはなったけどね?」
「……えっ……?」
「気にするな院長。騒ぎ起こし、話を大きくしたのはコイツだ」
不必要に院長の罪悪感を刺激しようとするんじゃねぇ。
「それと何? さっきの奏ちゃんが唯一の友達って……」
「友達になったんだよ。俺の初めての友達だ」
「――僕と氷河ちゃんは友達だろ?」
「はぁあ?」
お前といつ友達になったんだよ。どこの世界の話?
「お前が俺の友達って言うなら、世界のほとんどの奴が俺の友達って事になるけど大丈夫か?」
そして院長は親友の枠に即昇進となる。
村に住んでる奴は全員友達で、商業ギルドのおばちゃんや鍛冶屋のじっちゃんも俺の友達になる。やべぇ友達ばっかじゃん。リア充リア充。
いやでもマグオートや国王……リコリスやキタコレも含まれてくるのか……? いや、魔王の奴隷一万人も入るのか? 一万人の友殺しは称号としてヤバすぎるだろ……止めて頂きたい。
「あれ? 氷河ちゃんってもしかして僕の事嫌い? 僕何かしたかな?」
「嫌われてないと思ってた事に驚きだわ」
「いやいや、そんな筈はない。僕は氷河ちゃんにミスリルを上げて、奏ちゃんの保護も頼まれて上げて、氷河ちゃんにとってプラスになる事しかして来てない筈だ。嫌われる筈が無い、だから僕は氷河ちゃんの奴隷になってハーレム入りを果たした訳だろう?」
「いつ俺がお前を貰う事になったんだよ、俺はお前だけは絶対に無いと念を押していた筈だが?」
俺は中身が見えるからな。もし性同一性障害で肉体が違っても、俺は中の性別で扱ってやるんだ…………だから星原、お前は男だ! 俺はホモじゃねぇ!
「でも氷河ちゃん、公爵家令嬢属性だよ?」
「いらん」
欲しかったとしても星原を抱くぐらいなら、俺はロータスに恨まれる覚悟でラミウムを抱く。
「合法ロリが可能だよ?」
「いらん」
欲しかったとしても星原を抱くぐらいなら、俺はフィサリスに軽蔑される覚悟でリノを抱く。
「挿入したまま性器の変形が可能だよ? 名器だよ?」
「いらん」
欲しかったとしても星原を抱くぐらいなら、俺は人間じゃ満足できなくなる覚悟で、性器の最適変形機能と快楽増幅体液を持つ大精霊フィアを抱く。
大精霊は一度体を許したら最後、もう戻れなくなるんだからな。
俺はそんな事求めて無いし、仮に求める事があろうともお前だけは絶対に無い。
何かの星がどういう訳かねじ曲がって、アイリスやほたる、神奈があろうともお前だけは絶対に無い。男を抱けと言われてもお前を選ぶか怪しい。
その時は最悪日坂やロータスを……うげぇ……これ以上考えるのは止めよう……
性同一性障害の中身女を探す……うん、まだこれの方があり得る。
なんでこんな虚しい考えをせねばならんのだ……
「お前の精神が星原である限り、俺がお前を望む事は無い。もし俺がお前を望むような未来があれば、それは俺の精神が何重にも破壊されもはや俺が『月島氷河』とは呼べない別の『ナニカ』になった時だ」
「……僕はこんなに氷河ちゃんが大好きなのに……悲しいなぁ」
この狂人には一度しっかりNO! と言っておく必要がある。
悲しいと言葉では言いつつ、諦めてはいないからな。
「じゃあやっぱり、僕を慰めてくれるのは奏ちゃんかな!」
「――っ!」
星原のターゲットが院長に向く。
だが、俺と日坂が壁となって近づかせはしない。
「あれー? 君たちは僕を抱いてくれない人達でしょう? なんで邪魔するの? 僕は奏ちゃんと同じ家に住みたいんだけど」
「院長が抱いてくれる訳でもないだろ。それにお前の様な危険人物を、孤児院に住まわせられるわけ無いだろ。子供達に悪影響しか与えない」
お前、今までの会話の中で何回下ネタぶっこんで来たんだよ。
近くに子供居るんだぞ!
「もしお前が孤児院に住むと駄々こねる様なら、孤児院の立ち入りをも禁止するぞ」
「ふーん……どうしても奏ちゃんから僕を遠ざけたい訳ね……じゃあ僕はどこに住まわせて貰えるの? 氷河ちゃん家? まさか公爵家令嬢をその辺の一軒家に住まわせたりしないよね?」
「……勇者達の住む学生寮なんてどうだ? 寮長として任命してやるぞ」
「おいおい氷河ちゃん、僕も『譲歩して』、奏ちゃんの住む孤児院を諦めてるんだぜ? 氷河ちゃんは『譲歩する』つもりないの?」
……ちっ……それ以上は言う事聞かなくなるって脅しかよ……
水奈が居るから本当は嫌なんだが……はぁ……仕方ないか……院長に心労で倒れられても困る。
「……分かった、着いて来い」
「…………ただいま」
「氷君、お帰りなさい」「お兄ちゃん! おか――っ!」「お兄さ――え? ちょっと水奈……?」
水奈が勢いよく神奈の後ろに隠れた。
「――あれ? 氷河ちゃん。僕、生前の姿じゃないよね? なんで水奈ちゃんは隠れてるの?」
「俺の妹の直感力は並じゃないからな」
キタコレの胡散臭さを何となくで見抜き、ダリア、サーシスにもどことなく反応を示していた水奈の直感力だ。盾術を行う時にも役立っている。
お前の様な悪意の塊、姿が変わったからと言って反応しない訳無いだろ。
「…………お兄、ちゃん……? ……その人誰…………? なんか……ゾワってする……」
「生前と反応が全く一緒だね! 流石水奈ちゃんだ!」
「あ! えっと……初対面なのに……すみません……月島水奈と申します……」
危険察知はするのに、その先が鈍いのは相変わらずだな。名前で呼んで来るとことか、喋り口調とかで違和感持っても良いだろうに。
だがそこが可愛い。
「水奈、かしこまる事は無い。こいつは魔人族領の公爵家の娘で、立場上は確かに偉いがラミウムよりは下だ。そしてこいつ転生者で、――中身は星原明だ」
「星原……先輩……?」
水奈の顔が青ざめて行く。だからコイツを連れて来たくなかったんだ。
「久しぶりだね、水奈ちゃん!」
「ひっ!」
「相変わらず僕を怖がる反応が可愛いなぁ」
神奈が水奈の壁として立ち塞がり、穂乃香が星原を睨み付けている。
「あれ? 僕、ここでもこんな感じ? というか穂乃香ちゃんのそのお腹って」
「ああ、俺との子供だ。子供が生まれるまではお前穂乃香に近寄るの禁止な」
「……氷河ちゃん、僕ってそんなに信用無い?」
「無い」
赤ん坊を取り上げて、交渉を持ちかけて来そうな性格してるよお前。
「酷いなぁ」
「水奈。残念な事に、今日からこいつもこの家に住むことになった」
「……え」
「残念なって……」
「部屋は水奈の部屋から一番遠い部屋にするが……もしきつそうなら、学生寮に水奈を時折泊めて貰えないか聞いてみるから」
まあ、ぶっちゃけ水奈が一番あそこの寮母に向いてるんだけどな。
俺がそれだと寂しいからさせないだけで。
「パパ、ただいま」「氷河先輩、ただいま戻りました!」
「おう、リノお帰り」
「氷河先輩!? 私はっ!?」
リノ達がレベリングから帰って来た。
ほたるはお世話ご苦労。でも君の家はあっち。
「……だれ?」
「氷河ちゃんをパパと呼ぶ君も誰かな?」
「養子のリノだ。俺の娘」
「氷河ちゃんてもうお父さんやってるんだね……初めましてリノちゃん! アマリリスって言います! リリスって呼んでね!」
「………………」
お、リノが顔を背けた。
いや~うちの子達は勘が良いなぁ。
「何みんなして。僕ってこの家でこういう扱いなの?」
「嫌なら今からでも学生寮に移り住んでも良いぞ」
「――――いや、住むけど」
お前ってそういう奴だよな。
嫌がられて悲しむんじゃ無くて、楽しんでる奴。
「……穂乃香、運動として散歩にでも行かないか?」
俺はもうなんか今日疲れた……
穂乃香の運動がてら子供達と遊んで、炊き出しして……
ああ最低限アマリリスの部屋準備してやらないと駄目か……めんどくせぇ……
してはやるけど、穂乃香の後な。現段階最優先事項は穂乃香だから。
「うん」
「あ、私も行く!」「リノも」
「リノ、穂乃香のお腹に触る時は、ちゃんと許可取ってからにしろよ?」
「うん……さわって良い?」
「……良いよ」
許可する時の顔が完全に母親の顔だな……大人になったな、穂乃香も。
本来17歳……高校二年生の筈だが、子供が出来れば変わるものだな。
「私も行きます!」「待って下さい!」
神奈が気付いて後に続き、ほたるは素で付いて来たな。
そうだ、残ったらアマリリスと一緒になる。
「あ、じゃあ僕も行く」
まあ、結局は付いて来る事になるんだがな……




