表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
240/346

ファミリー

「穂乃香……すまない。今日も用事があって一緒には居てやれない……けど、今日は終わり次第必ずすぐ帰って来るから」

「氷君……仕方ないよ。氷君は村の代表で、村の為に人一倍頑張ってくれてるんだもん……それに、必ず帰って来てくれるから私は大丈夫だよ?」

「穂乃香……」

「氷君……」

「………………………………このやり取り一体何日続ければ気が済むんですかねぇ!!!」


 神奈が大きな声を出してきた。

 一体何だって言うんだ。

 

「お兄さん! 穂乃香が妊娠してから! 更に出産が近づくにつれて、穂乃香に甘くなり過ぎですっ! ただでさえ穂乃香がベタベタのデレデレなんですから、お兄さんまでデレデレになったら、収集の付かないバカップルになるじゃないですか!!!」

「そうは言うがな神奈。穂乃香はまだ17歳、出産適齢が25歳である事を考えると肉体がまだ若い。その上穂乃香は身体が細い、不安にもなるだろう」

「だからって過保護でしょう! 穂乃香が外に出る時は付きっ切りで、食事は栄養バランスを考えた菜の花料理、飲み物は牛乳か果汁100ジュース、お風呂の温度はややぬるめって徹底し過ぎでしょ!」


 それぐらい当然だろう、何を言う。

 

「毎朝そんなやり取りを見せられる、こっちの気持ちにもなって下さい! 水奈からもなんか言ってよ」

「……私も妊娠したら甘やかして貰えるのかな……」

「水奈ぁぁあああ!」


 神奈は元気だなぁ。

 大丈夫だ水奈、水奈が望むならいくらでも甘やかしてやる。

 と、そろそろ時間だな。

 

「それじゃあ行ってくる。水奈、神奈、穂乃香を頼んだぞ」

「いってらっしゃい」「いってらっしゃ~い!」「……いってらっさい……」


 穂乃香の優しい声、水奈の元気な声と神奈の疲れた声に見送られた。

 

 

 

 まったく……一度刺した事があるとは思えない程過保護だなお兄さんは。

 刺されても全く揺るがない穂乃香の愛が強いのか、何なのか。

 

「…………キャー! ……氷君カッコいい……帰って来る……帰って来る……愛されてる。ふふふ、幸せ……」


 ……愛が強いんだろうな。穂乃香が幸せならいいけどさ。

 

「……ねぇ美鈴」

「……どうしたの?」


 水奈が暗い顔をしてる……さっきまであんなに明るかったのに。

 

「今はこうやってみんなで一緒に暮らしてるけど……その内別々になるんだよね……? 美鈴やラミウムさんに子供ができたらやっぱり…………」

「………………」


 この村は最初お兄さんが急遽大人数が住む家を作る事になった為、全ての家がシェアハウスとなっていた。

 それから9ヶ月ほど経って、お兄さんは忙しい中空いてる時間を見つけて、少しずつ冒険者達の一軒家を増やして行った。

 今残っているシェアハウスは、私達の家、学生寮、新しく出来た孤児院の三つだけだ。

 もう村には50件近い家が出来ている。可能な範囲で錬金術が使える美空先輩が手伝ったりもしたが、美空先輩も孤児院で忙しく、何よりちゃんとした建設の知識はお兄さんしか持っていないため、ほぼ全部お兄さんが1人で造り上げた。お兄さんお疲れ様です。

 

「……いつかは私達も、三つの家庭に別れるかもしれない」

「……うん」

「でも、してる事はそう変わらないんじゃないかな。日坂先輩はお兄さんとお互いに嫌いだって言いながら仲良いし、私はラミウムさんと料理の話をして、穂乃香と手合わせをして、水奈とこうしてお話をするんじゃないかな?」

「……そうなのかな…………そうだといいな」


 少なくても水奈がそう別れ惜しんでる内は、お兄さんは私達やラミウムさん達の家を作る気無いと思うけど。

 

 

 

 星原がやって来る。

 言葉にするだけで寒気がする。

 あいつが執着しているのは圧倒的に美空奏に対してなのだが、大きく離れて次点に名が挙がるのがどういう訳か俺だ。

 あいつが言った俺に抱かれたいは全くの嘘では無い……冗談抜きで勘弁して欲しい。

 大きく離れた次点でもこんなに嫌なのだ。一番に選ばれている院長の気苦労はこんなものでは無いだろう。

 ……もっと報われても良いよなぁ……今度子供達と一緒にサプライズでも企画するかな。

 

「日坂、来るぞ!」

「みんな! 話した通り、対応は俺たちがする! 絶対に手は出さないでくれ!」


 村の北側、魔人族領へと続く方面に、俺、日坂、ラミウム、フィサリスの4人が並び立つ。後方にはアイリスが率いる子供達と、その後ろに気になって仕方ない勇者達や冒険者達が居る。

 子供達は、これなぁに? っと言った様子だが、大人達はずっとそわそわしている。

 気持ちは分かるが落ち着けよ、大人達。

 視界にアマリリス一行が見えてきた。護衛は10人。

 前方と後方が2人ずつで8方向囲み、アマリリスは馬に乗っている。

 武将みたいな登場の仕方だな。馬車じゃないのかよ。

 護衛の1人が先だってこちらに話しかけて来ようとするが、それをアマリリスが止めた。

 どうしても話し合いはアマリリス本人が行いたい様だ。

 嫌だ! 護衛来い! 護衛来い! アマリリスじゃ無きゃ誰でも良いぞ。

 だが、残念な事に護衛2人がすぐ後ろに控えた上で、アマリリスが話す事になった様だ。

 諦めるなよ護衛! お前達仕事しろよ。

 

「人間族の皆様、初めまして(・・・・・)。私、魔人族領ライブラ王国のズベンエル公爵長女、アマリリスと申します」

「初めましてアマリリス様。私、人間族領ブルーゼム王国の第一王女、ラミウムと申します」


 初めはラミウムに対応して貰う。

 向こうの護衛達は驚いている。先制攻撃はこちらに分があったな。

 

「……失礼ですが、ラミウム様はなぜこのような辺境の土地に?」

「私は行き場の無い魔族の子供達を助けたいと言う、月島さんの言葉に感銘を受けまして、この村に資金提供をしております。こうしてよく見に来ているのですよ……月島さん、日坂さん」

「はい。私この村の代表を務めております、月島と申します」

「同じく代表を務めております、日坂と申します」


 俺と日坂が頭を下げる。

 星原は理解している、これが茶番でしかなく、実質は俺主体であると。

 だが、アマリリスは(・・・・・・)それを知らない筈なのだ。

 

「アマリリス様はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」

「人間族と魔族が共に暮らす村があると言う噂を聞きつけまして、真相を確かめに来たのですが……本当だったのですね」


 人間族領と魔人族領の境界とは言え、人間側の王女と魔族側の公爵家令嬢が話をするなんて歴史的瞬間だよなぁ。普通、人間族領で魔族を見かけたり、魔人族領で人間を見かけたら即戦闘だからな。害虫を見つけたと言わんばかりに袋叩きにされる。

 俺らは魔族の子供達と一緒に暮らしてるから、魔族を見たって攻撃をしない限り攻撃して来ないだろうという、アマリリスの言葉にきちんと従う護衛もすげぇな。護衛的には人間をあまり良く思ってないだろうに。

 何より、一年経って見た目は少し変わったが、俺とフィサリスは元指名手配されていた魔王奴隷殺しなんだがな。

 まあ、今日はローブ着てないし、俺は片目傷入ってるし、アマリリスが言わない限りバレないだろう。言われたらメンドーダナー。

 

「月島さん? 貴方は人間族であるのに、どうして魔族の子供達を助けようと思ったのですか? 何か、理由があるのですか……?」


 目的があるのかと匂わせるアマリリスの言葉を聞いて、護衛達が俺に疑うように目を向ける。

 ……いいだろう。その理由、耳かっぽじってよく聞くと良い!

 

「――はい。それは我が親愛なる唯一の友、アイリスの望みだからです」

「――は?」


 あ、今、素の星原が出たぞ。

 俺は親愛なる友と言われて、恥ずかしそうにしているアイリスを呼び寄せる。

 照れる事無いだろうに。

 

「恥ずかしながら、私には友と呼べる者がおりませんでした……そんな私に『友達になってあげる』と言ってくれたのがこのアイリスです。そのアイリスが私に協力を求めたので、私は友として行動をしたまでです」


 13歳の敵種族の女の子に友達になって貰う19歳男性を見て、憐れんだ視線を向ける護衛達は無視。

 分かってはいてもハッキリと友では無いと言われると、なんか複雑な心境……となっている日坂も無視。

 俺にとって自身がどういう立ち位置になっているのか疑問に思っているラミウムも……分かった答える! 仲間だよ仲間、一緒の家に住んでんだから家族みたいなもんだろ。マフィア的なファミリーだよ。

 

(家族……ですか……)


 おう、ファミリーだ。

 つまり、俺の友は美空奏だけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ