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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
アフターストーリー ~10年後まで~
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猶予期間

 魔王の奴隷達が月島君によって倒された。

 奴隷の子供達は、親族が裕福であれば貰い手が見つかるが、そうでない子は孤児となってスラムに住む子も少なくない。

 人数が増えれば、当然食材や金貨が運よく手に入る確率が下がる。

 それを嫌ったスラムの大人たちが、口減らしと言う名の子供狩りをしているそうだ。

 そんな事があっていても、国は奴隷が居なくなって空いた役職の穴埋めや、混乱する状勢の安定化に忙しく、スラムにまで目を向ける暇など無いと言った感じのようだ。

 あまりにも扱いの軽い子供たちの命……月島君はこうなる事を考えて、私を保護して預けたんだろうか……

 月島君と再会して約束の3ヶ月……

 

「アイリスさん、お風呂の時間ですよ」


 ……預けられた先も地獄でした。

 いや、むしろこっちの方が私にとって地獄なんじゃないかな?

 確かに命の危機は無いけれど、常に貞操の危機を感じる。

 他の子達に比べれば、保護された私はそれだけでも幸せなのだろう。

 でも、スラムに居た頃の方が精神的に辛くなかったのは何故だろう。

 いや、理由は分かってる。今も私と一緒にお風呂に入ろうとする肉体が女性、精神は男性のこの人のせいだ。

 

「……1人で入れます。リリス様はどうか、私に気にせず入られて下さい」

(どうせまたセクハラしてくるつもりなんでしょ! 絶対に嫌!)

「今更気にする事はありませんよ、アイリスさんは私の可愛い義妹なのですから」

(ふふふ、逃がさないよ奏ちゃん。今日も『女の子同士』、『洗いっこ』をしようね~)


 メイドさんやお手伝いさんが居る手前、あからさまな拒否が出来ず、じわりじわりと追いつめられていく……

 この人は秘部と唇に触れる事は無いものの、ねちっこく必要以上に胸やお尻を触って来る。同性である事と、私の立場上、非難する事も抵抗する事も出来ないと理解した上でだ。

 そして秘部と唇に関しては、私に自らおねだりをさせるつもりでいる。私に折れさせる為、しつこくじらす様にそれ以外の愛撫を繰り返してくる。

 誰が折れてなんてあげるものか! 私は絶対に屈しない!

 私はこんな苦行をもう3ヶ月続けている。3ヶ月耐え抜いてるよ……

 月島君……まだかな……私も頑張って、耐え抜いて見せるから……どうか早めに……迎えに来てください……

 そう強く思った時、突如見えている景色が変わった。

 

「――え?」

「……だいぶ待たせちゃったな……」


 この、声は――!

 

「月し――月島君っ!?」


 彼の姿を見た時、思わず泣きながら抱き着いてしまった。

 私の長かった苦行が終わったから……では無い。

 私が苦行だなんて思ってたものよりも、ずっと酷い、それこそ地獄の様な日々を過ごしていたであろう彼の姿は、左目が開いておらず、右腕が無かった。

 彼は私なんかよりずっと長い間、ずっと耐え抜いて戦って来たのだと思うと、涙が止まらなかった。

 そして怪我している月島君に飛びついてしまった私に、周りから大量の敵意が向けられた。

 

「――待ってくれ、この子は敵じゃ無い」


 そうだ、私は魔族。人間から見たら敵なんだ……

 つ、月島君が、私を守る様に、左腕でギュって……

 

「日坂。この子は転生者、生前は美空 奏だ。敵でないことを冒険者たちに伝えてくれ」

「日坂君っ! 私、天王山高校3年A組、出席番号26番の美空奏です! 女子バスケ部のキャプテンで、日坂君と一緒にクラス委員長やってました!」

「転生者!? いや、俺らも転移してきてるから、そういう事もあるのか……? というか美空は一度死んでるって事なのか……?」

「まあ、色々ありまして……」

「主に、星原が原因だ」

「……なんか納得のできる理由だな……とりあえず伝えて来る」


 日坂君が伝えてくれたおかげで私に向いていた敵意は、一部消えて、一部弱まった。

 前の世界で見た事ある人達はほとんど敵意が無いけど、そうじゃ無い人達はまだ警戒はしてるみたい。

 あと、約2名むしろ敵意が強くなった子がいるなぁ……

 

「奏先輩……? 奏先輩なんですか!?」

「うん、今はこんな成りだけどね」


 月島君の腕から離れ、好意を向けてくれる可愛い後輩に返事を返す。

 

「奏先輩っ!」

「水奈ちゃん、久しぶりだね」

「奏先輩~! 可愛い~っ!」

「……貴女に可愛いと言われるのは複雑かな……」


 そして君に抱き着かれると、当然あの子の嫉妬が増すんだよね。

 

「……水奈も、氷君も、私の……!」


 如月さんは相変わらず月島君達が大好きなんだなぁ……

 そして大好きはこの子も変わらずか。

 

「むむむ……同じ委員長……」


 神奈さんは話せば分かってくれそうだけど、時間は掛かりそうかな。

 生前は単独行動を好んでいた月島君より、日坂君との方が話す機会は多かったからなぁ。

 クラス委員長会議で一緒に会う事の多かった水奈ちゃんは、私と日坂君はそういうのじゃないって分かってくれるだろうけど、私の親しい知り合いはこの場にはいないみたいだからなぁ……

 1年B組って言うと……頑張り屋の弥生が居たと思うけど、あの子の事だし、戦闘員じゃないんだろうな。

 そうして私は月島君達に連れられて、人間領へと渡った。

 

 

 

 人間領へと渡って1週間、広い屋敷内で久しぶりに月島君に出会った。

 

「月島君! 同じ家に住んでるのになんか久しぶりだね」

「委員長……うん、ちょっと色々あったんだよ……」


 月島君は遠い目をしていた。そんな月島君の首筋や、手の平に痣の様なものがあった。

 

「月島君、それどうしたの?」

「あ。あー……………………隠すだけ無駄か」


 服をめくって見せてくれたそれは――――

 

「穂乃香がな、私の物である自覚が足りないって、全身余すとこなく歯形付けたんだ」

「――――――」


 そっか……如月さんと月島君はそういう関係なんだ……まあ、美男美女のお似合いカップルだよね。

 …………こう、なんか、心がチクリとした……ハッ!

 

「………………」

「………………」


 見え、見えて、見えてるんだっけ……違うのっ! これは違うの! どうか忘れて下さいっ!

 

「……外に出られない生活は不便か?」

「え!? う、うーん……どうかな」


 えっと……外に出られない生活……外に出られない生活……うーん。

 

「前の生活と変わりないかな? 預けられてる間も外に出る事はほとんど無かったし……でも前に頑張ってた手伝いが今、この屋敷での仕事として役立ててるし……むしろここには明君が居なくて心置きなく過ごせるから、前より快適かな」


 外には出れなくても、私を慕ってくれる水奈ちゃんや、リノちゃんのお世話をしに来る弥生、本来の年齢が同い年にあたるラミウムさんに、洞窟でお世話になったフィサリスさん、変わらず接してくれる日坂君に、その、月島君もいるし……不自由は無いかな。

 

「………………鳥かごの雛鳥だな……」

「……え?」

 

 ……雛鳥?

 

「………………よし、委員長!」

「は、はい……なんでしょう?」

「――引っ越すぞ」

「……へ?」




 その後、人間族領と魔人族領の境にある無法地帯に移り住むことが決まった。

 私の為にこんな何もない所に、新たに家を建ててまで移り住む事になるなんて凄く申し訳ない。

 外に出る事が出来る様になった私は、狩りの手伝いを申し出た。

 月島君曰く、私は重力魔法と空間魔法に適性があり、それとは別に回復術と錬金術も扱えて、固有スキルの『ステータス操作』と合わせて相当勝手が良いそうだ。

 錬金術で作ったナイフを、重力魔法で手元に浮かせて、投剣術で投げるという技を月島君に指導して貰っている。

 月島君は重力魔法で操る幾つものナイフを、そこで人が振っているかの様に動かして獲物の行動範囲を狭め、左手で放つ投剣で的確に射貫いていた。

 本来は右利きで、片腕の状態なのに凄い……というか。

 

「たまに付けてる義手はしないの?」

「……錬金術で作った張りぼてだから、動かすのにもくっ付けておくにもMP消費し続けるんだよ。自動回復でMPの回復は間に合うけど、魔力使い続けるのも疲れるから必要時以外は付けてないな」


 ハンデありでもこの技量……全快状態の彼はどれだけ凄かったんだろうか。

 錬金術で作るナイフは数に限りが無い代わりに、威力が低いため、空間収納に本物のナイフを入れて置く事をオススメされた。空間収納の仕方も教えてくれた。

 それからしばらくして、同じスラムに居た孤児の子達に何かしてあげたいと言った時は、一緒に魔人族領に行って、孤児たちを集め、移住先に孤児院を作り上げてくれた。

 この孤児院の院長を私に任せてくれたのだが、子供達の相手や、料理もしてくれて、もうそろそろ溜まりに溜まった恩を、どうやって返したらいいのか分からなくなってきている。

 生きているうちに果たして返せるのだろうか……

 

 

 

 

 

「氷河。美空にやたらと優しくしてるのには、なんか理由があるのか?」


 まるで、俺が人に優しくするのは珍しいみたいな言い方だな。

 いや、あるよ理由。

 

「院長は、星原を恨んだ奴に恨まれ、殺されてスラム街生きる子供に転生し、俺のせいで危なくなったからって預けられた先は、同じく転生していた星原の住む屋敷だ」

「うわっ……」

「それで3ヶ月暮らして、ようやく解放された先は敵種族の地で軟禁状態だ。人生ベリーハードモードにも程があるだろ。しかもこれはまだ終わってない」

「まだ何かあるのかよ……」

「例え人間族領に居たとしても、星原は俺の下に……正しくは院長の下に現れる。つまり今はその猶予期間でしかない。束の間の幸せな訳だ……流石に優しくしてあげようと思うだろ?」

「……そうだな」


 その日から、日坂も院長にしてあげられる事をするようになった。

 院長……強く生きろ。

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