5.5ヶ月目
「……アンタが巷で噂になっている人間か? 魔王の奴隷達は俺も気にくわねぇが……同族が殺されるのを、黙って見過ごすわけにもいかねぇよなぁ……」
「……俺は奴隷達以外に用は無いんだが?」
「アンタに無くても俺にはあるって話さ。一般人には手を出してねぇみたいだが、だからって恐怖を与えねぇ訳じゃねぇ。国民が不安を感じている時期に国外に出られると困るって、国王直々に頼まれてこっちとら他国に行けない状態になってんだ。冒険者が冒険できないってどんな皮肉だよ、おい」
「……お前が国民の不安を取り除くってか?」
「ああ、アンタの相手は奴隷共じゃない――この俺だ」
フィサリスには目標の数と位置、見た目の特徴を事細かに説明している。
その上で魔人型ゴーレムを同行させて目標を教えるから大丈夫だろう。
俺は……こいつの相手をしてやるか。放って置くのは難しい戦力だ。
「…………最近悪役しかしてねぇな、俺……」
「あん?」
「何でもねぇよ」
「準備はいいか……? 行くぜ!」
「ご主人様~! こっちは終わったよ~!」
「ああ、見えてるよー」
ここら周辺に居る奴隷を始末し終えたフィサリスが戻って来た。
隣にゴーレムがずっと居たんだから、俺が知ってるって分かるだろうに、律儀に報告して来やがる。
それ喋らないだけで、俺の分身みたいなもんなのよ?
「おい……! テメェ……なんのつもりだ……っ!」
「……あ?」
俺にボロボロにされたあげく、錬金術によって金属壁にガチガチに固定された冒険者が、文句を言っている。
「俺を……捕えて……どうするつもりだ……っ! なぜ殺さねぇ……!」
「最初から言ってんだろ。奴隷以外に用は無い」
「……っ! 戦士と戦士の戦いだっ! アンタは俺を侮辱しようってのか!」
戦士か……暗殺、謀略ばかりして来て、今更戦士だなんて名乗れるほど綺麗なもんじゃないな。
名前を付けるなら……殺人鬼だろう。
「お前みたいな奴が、魔族の未来には必要だ」
「――――――」
「――が、死にたければ勝手に死ね。自殺でもなんでもすると良い」
「…………はっ。魔族殺しの人間に……魔族の未来を心配されるなんてな……」
此処にはもう用は無い……次に行くか。
「おい……! ここで俺を殺さなかった事……いつか後悔するかもしれないぜ……!」
「お前にその気があったら、な。……楽しみにしておいてやるよ」
「……ちっ……! くえねぇ野郎だ………………っておい! この金属外して行けよ! おい! うぉおいっ!」
この国の英雄なんだろ。気付いた人が助けてくれるって、きっと。
「テメェー! 絶対許さねぇからなぁー!」
遠くから山彦が聞こえた様な気がした。
全力で無視した。
睡眠から目覚めた。
目を開いた視界の先に宙に浮き、こちらを見つめるフィアが居た。
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
しばらく見つめ合っていると、フィアが口を開いた。
『氷河……氷河が救われなくていいと思ったとしても、私は氷河を救ってみせるからね』
「フィア…………」
『私はその為に……氷河のパートナーになったんだから』
「…………ごめんなフィア。お前は俺の為に尽力してくれるのに、俺はお前の理想から遠ざかってばかりだ」
『……ホントだよ、無茶ばっかりして…………でも、最後は幸せを掴むんだよね?』
幸せ、か……
『私は、氷河が本当の幸せを掴むまで、氷河のパートナーで居続けるからね!』
「…………なぁ、フィア。俺が幸せになった後はフィアは一緒に居てくれないのか? パートナーじゃ無くなるのか?」
だとしたら俺は、幸せになり続けない方法を探さねばならない。
『そ、それは……う~~~もうっ! 氷河は放って置くと何しでかすか分からないから、私がずっと一緒に居てあげるわよ! 全く世話が焼けるんだからっ!』
そっぽを向くフィアの顔は仄かに赤い。
あぁ……やっぱり俺のパートナー様は世界一最高だ。
フィアの小さな体を両手で優しく包み込み、胸元へ引き寄せる。
「ありがとな……フィア」
『…………うん』
「――――ご主人様とフィアちゃんがラブラブしてる…………精霊状態でもフィアちゃんはラブラブしてるのに、なんで私の時はラブラブした雰囲気にならないのかなぁ……」
『ラ、ラブラブ!?』
フィアが真っ赤になって俺の手から離れてしまった。
ツンデレのフィアが珍しくデレてくれたと言うのに……
「なんだフィサリス、不満か? 飯時の肉は増やしてやっただろう」
「私、別に大食いキャラじゃないよ!? ご主人様は私に対してコミカルに接し過ぎなんだよ~、ほら私、宮廷魔術師の元筆頭だよ?」
「ギャグ要因だろ」
「酷いっ!」
シリアスブレイクしまくっていながら、何を今更。
「ほら、交代の時間だ。さっさと寝ろ」
「わっ……はーい!」
(氷河の投げ渡したローブを毛布に使ってる……私からすれば、二人は毎日イチャイチャしてると思うんだけど……)
別にイチャイチャはしてねぇよ。ローブはもう諦めただけだ。
イオニアのステータスに不備発覚。
ちょっと色々改変してしまいます。お話には影響を出さない様に調整するつもりです。ごめんなさい。




